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先ほどのお喋りなメイドがお茶の御代わりを持ってやってきた。
「失礼いたします。お嬢様のお世話を仰せつかりました。何かございましたら何でも言ってくださいね」
ニコッと微笑んだメイドが、手際よくポットからお茶を注いでくれる。
「ありがとうございます。でも自分のことは自分で出来ますから、お構いなく……」
庶民であるエリスティアは家でもメイドを雇わずに暮らしているので、専用のメイドは必要なかった。
「何を仰いますやら! 遠慮なさらなくてもいいんですよ! これからはこの城でお暮しになるんですものメイドは必要ですよー。私髪を結うのは得意なんです! これからはお嬢様の髪も綺麗に結って差し上げますからね! それに今はコルセット着けてらっしゃらないみたいですけど、ここではしっかり着けなきゃいけませんよー。その方がスタイルも良く見えますもの。早くお城での暮らしにも慣れてもらえるように、私も頑張りますねー」
このメイドの中ではエリスティアがこの城に、この先もずっと滞在する体で話が進んでいるようだった。
「いえ、泊まるのは今晩だけで……」
勘違いをしているようなのでメイドに訂正しようと試みるも、そんなことはお構いなしに喋りまくるので入る隙がない。
「私、お世話担当させてもらうの初めてなんですよー。至らないところも多いかとは思うんですけどー。あっ! お嬢様と私って歳も近いですよねー? おいくつなんですかー?」
「え、あ、先日16になりました……」
メイドの勢いに押されてエリスティアは答えていた。話の内容がコロコロと変わるのでついていくのに精一杯だ。
「そうなんですねー。私も今年19になったんですよー。お茶は飲みますよね? さっきと同じくミルクと砂糖2つでいいですかー?」
メイドはエリスティアが答える前にもうカップのお茶にミルクと砂糖を注いでいた。
正確には先にミルクを注いでからお茶を入れるが正解だ。そのほうが味がより美味しい気がして好きなのだ。だがせっかく入れてくれたので細かいことは言わなかった。
「お嬢様――」
またも一方的な会話が再会されようとしたので、すかさずエリスティアは声を上げる。
「あの、どうか名前で呼んでください。お嬢様だなんて柄じゃなくって……」
よく喋るメイドに気後れを感じながらも初対面の相手と、こうも屈託なく喋ることが出来るメイドにエリスティアは多少なりと好感をもっていた。
「まぁ。では私のことはミレディとお呼びくださいませ。エリスティア様」
「様も要らな……」
「では、お夕食の準備が出来ましたら呼びに参りますねー」
そうしてメイドは喋り倒して出て行ってしまった。
エリスティアがカップのお茶を飲み終わる頃、先ほどのメイドとは別の年輩の女性が夕食の用意が出来たことを告げにきた。
夕食は一人部屋で取るものと思っていたが、通されたのは立派な食堂だった。
「あの、服もこんなですし、髪もおろしたままですけど、いいんですか? こんな格好で……」
自分の格好を身振りで示し、間違いではないのかと促す。
こういう席ではそれなりの服装や、それなりの髪型が必須であることは、エリスティアだって知っていた。
「わたくしは、こちらにご案内するよう仰せつかっておりますので。どうぞお入りください」
案内されたのは長テーブルの先頭から、すぐ横の席だった。
大人しく着席すると、エリスティアが入ってきたのと同じ扉から、アレクシスが颯爽と入ってくる。
「ご苦労、下がっていいぞ」
どことなくご満悦な顔だ。
アレクシスは長テーブルの先端、エリスティアの斜め前に着席しようとする。
まさかアレクシスと一緒に食事をするとは思わなかったので、エリスティアは座ったばかりの椅子から慌てて立ち上がろうとした。
「何をしている、そのまま座っていろ」
またも眉間にシワを寄せ脅すような口調で言うアレクシスにエリスティアは怯えた。
「で、でも……」
「俺が座っていろと言ったんだ。聞こえなかったのか?」
王子らしい傲慢な態度だ。
「はい……」
不承不承、大人しく座るエリスティア。つい顔も下を向いてしまう。
不機嫌そうなアレクシスに、二人の間には沈黙が流れる。
非常に気まずい。
アレクシスの顔色を窺いつつ、エリスティアは声をかけた。
「あの……」か細い声で問う。
「なんだ、まだ何か文句でもあるのか」
睨むようにこちらを見るアレクシス。
怖い! エリスティアなんとか声を出した。
「私、こんな恰好なんですけど、いいんですか? よければお部屋で頂きたいのですけど……」
嫌われている相手と一緒に食事なんてしたくはなかった。いくら雲の上の王子様との食事が滅多にない事だとしても。
「俺がいいと言ってるんだ。いいに決まってるだろ。それに食事は一人より二人で食べた方が美味しいものだ」
(それが嫌いな相手とでもですか……?)
ついそう言ってしまいそうになったが、『ここで食べろ』と脅すように言われてはエリスティアも従うしかない。
『一人より二人で』ということは、私とアレクシスの二人きりの食事ということか。なんて気まずい……。
それからは、お互いに無言の時間が流れた。
しばらくして気まずい空気を消すように、美味しそうな料理がやってきた。
ちゃんとした席でのテーブルマナーなんて知らないエリスティアだったが、そのことをアレクシスが咎めることはなかった。
それなりにお腹が満たされた頃、アレクシスが声をかけてきた。
「さっきは乱暴な真似をしてすまなかった」
かたくなにアレクシスを見ないようにしていたエリスティアだったが、突然の謝罪にびっくりして振り向いた。
アレクシスはじっとエリスティアの顔を見つめていた。
睨むでも不機嫌そうでもなく真摯に見つめられていた事にハッとした。
お互いの目がしっかりと合わさる。
改めて見るアレクシスは、食堂の暖かな蝋燭の明かりに照らされて、初めに感じた冷たさが和らいで見えた。
そのせいか丹精な顔が、よりはっきりと目に焼き付き、その紳士な態度にエリスティアの心臓が跳ねる。
――胸が変な感じだ。
「いえ、もういいんです。失礼な態度をとってしまったのはお互い様ですもの。こちらこそ、すみませんでした」
エリスティアは深くお辞儀をした。怒っていないと分かって安心する。
「それはよかった」
ほっとしたように微笑むアレクシスに、エリスティアは顔が熱くなってきた。
(ワインを飲みすぎたのかしら?)
顔が熱いし、心臓がバクバクいっている。
アレクシスの微笑みに反応する自分の体の不調が気になって、慌てて顔を下げた。
「……ところで、さっきもうすぐ結婚すると言っていたね」
話題を変えたアレクシスが会話を再開する。
「はい」
「いつ結婚するんだい?」
何気ない調子で聞いてくる。
「来月に、幼馴染と結婚する予定なんです」知らず笑みが漏れる。
「へぇ」
「ですから、アレクシス様は安心なさってください」
「……なぜ?」
見ると不思議そうな顔をしている。
「ですから、私は来月、結婚するので、アレクシス様は結婚しなくて大丈夫れすのれ」
ろれつが怪しくなってきた。頭もぼんやりとしてきたエリスティアは、疑問にも思わずアレクシスの言葉に耳を傾ける。
「……相手の男を愛しているの?」
「へ……? あいしれ……」
「愛してるの?」
「わらしは……――」
急に意識が遠のいたエリスティアが、椅子から転げ落ちそうになっているのをアレクシスが抱きとめた。
「安心、ね」
伸びているエリスティアを抱えながら、先ほどとは違った不適な笑みを浮かべつつ、アレクシスは独り言ちた。
「失礼いたします。お嬢様のお世話を仰せつかりました。何かございましたら何でも言ってくださいね」
ニコッと微笑んだメイドが、手際よくポットからお茶を注いでくれる。
「ありがとうございます。でも自分のことは自分で出来ますから、お構いなく……」
庶民であるエリスティアは家でもメイドを雇わずに暮らしているので、専用のメイドは必要なかった。
「何を仰いますやら! 遠慮なさらなくてもいいんですよ! これからはこの城でお暮しになるんですものメイドは必要ですよー。私髪を結うのは得意なんです! これからはお嬢様の髪も綺麗に結って差し上げますからね! それに今はコルセット着けてらっしゃらないみたいですけど、ここではしっかり着けなきゃいけませんよー。その方がスタイルも良く見えますもの。早くお城での暮らしにも慣れてもらえるように、私も頑張りますねー」
このメイドの中ではエリスティアがこの城に、この先もずっと滞在する体で話が進んでいるようだった。
「いえ、泊まるのは今晩だけで……」
勘違いをしているようなのでメイドに訂正しようと試みるも、そんなことはお構いなしに喋りまくるので入る隙がない。
「私、お世話担当させてもらうの初めてなんですよー。至らないところも多いかとは思うんですけどー。あっ! お嬢様と私って歳も近いですよねー? おいくつなんですかー?」
「え、あ、先日16になりました……」
メイドの勢いに押されてエリスティアは答えていた。話の内容がコロコロと変わるのでついていくのに精一杯だ。
「そうなんですねー。私も今年19になったんですよー。お茶は飲みますよね? さっきと同じくミルクと砂糖2つでいいですかー?」
メイドはエリスティアが答える前にもうカップのお茶にミルクと砂糖を注いでいた。
正確には先にミルクを注いでからお茶を入れるが正解だ。そのほうが味がより美味しい気がして好きなのだ。だがせっかく入れてくれたので細かいことは言わなかった。
「お嬢様――」
またも一方的な会話が再会されようとしたので、すかさずエリスティアは声を上げる。
「あの、どうか名前で呼んでください。お嬢様だなんて柄じゃなくって……」
よく喋るメイドに気後れを感じながらも初対面の相手と、こうも屈託なく喋ることが出来るメイドにエリスティアは多少なりと好感をもっていた。
「まぁ。では私のことはミレディとお呼びくださいませ。エリスティア様」
「様も要らな……」
「では、お夕食の準備が出来ましたら呼びに参りますねー」
そうしてメイドは喋り倒して出て行ってしまった。
エリスティアがカップのお茶を飲み終わる頃、先ほどのメイドとは別の年輩の女性が夕食の用意が出来たことを告げにきた。
夕食は一人部屋で取るものと思っていたが、通されたのは立派な食堂だった。
「あの、服もこんなですし、髪もおろしたままですけど、いいんですか? こんな格好で……」
自分の格好を身振りで示し、間違いではないのかと促す。
こういう席ではそれなりの服装や、それなりの髪型が必須であることは、エリスティアだって知っていた。
「わたくしは、こちらにご案内するよう仰せつかっておりますので。どうぞお入りください」
案内されたのは長テーブルの先頭から、すぐ横の席だった。
大人しく着席すると、エリスティアが入ってきたのと同じ扉から、アレクシスが颯爽と入ってくる。
「ご苦労、下がっていいぞ」
どことなくご満悦な顔だ。
アレクシスは長テーブルの先端、エリスティアの斜め前に着席しようとする。
まさかアレクシスと一緒に食事をするとは思わなかったので、エリスティアは座ったばかりの椅子から慌てて立ち上がろうとした。
「何をしている、そのまま座っていろ」
またも眉間にシワを寄せ脅すような口調で言うアレクシスにエリスティアは怯えた。
「で、でも……」
「俺が座っていろと言ったんだ。聞こえなかったのか?」
王子らしい傲慢な態度だ。
「はい……」
不承不承、大人しく座るエリスティア。つい顔も下を向いてしまう。
不機嫌そうなアレクシスに、二人の間には沈黙が流れる。
非常に気まずい。
アレクシスの顔色を窺いつつ、エリスティアは声をかけた。
「あの……」か細い声で問う。
「なんだ、まだ何か文句でもあるのか」
睨むようにこちらを見るアレクシス。
怖い! エリスティアなんとか声を出した。
「私、こんな恰好なんですけど、いいんですか? よければお部屋で頂きたいのですけど……」
嫌われている相手と一緒に食事なんてしたくはなかった。いくら雲の上の王子様との食事が滅多にない事だとしても。
「俺がいいと言ってるんだ。いいに決まってるだろ。それに食事は一人より二人で食べた方が美味しいものだ」
(それが嫌いな相手とでもですか……?)
ついそう言ってしまいそうになったが、『ここで食べろ』と脅すように言われてはエリスティアも従うしかない。
『一人より二人で』ということは、私とアレクシスの二人きりの食事ということか。なんて気まずい……。
それからは、お互いに無言の時間が流れた。
しばらくして気まずい空気を消すように、美味しそうな料理がやってきた。
ちゃんとした席でのテーブルマナーなんて知らないエリスティアだったが、そのことをアレクシスが咎めることはなかった。
それなりにお腹が満たされた頃、アレクシスが声をかけてきた。
「さっきは乱暴な真似をしてすまなかった」
かたくなにアレクシスを見ないようにしていたエリスティアだったが、突然の謝罪にびっくりして振り向いた。
アレクシスはじっとエリスティアの顔を見つめていた。
睨むでも不機嫌そうでもなく真摯に見つめられていた事にハッとした。
お互いの目がしっかりと合わさる。
改めて見るアレクシスは、食堂の暖かな蝋燭の明かりに照らされて、初めに感じた冷たさが和らいで見えた。
そのせいか丹精な顔が、よりはっきりと目に焼き付き、その紳士な態度にエリスティアの心臓が跳ねる。
――胸が変な感じだ。
「いえ、もういいんです。失礼な態度をとってしまったのはお互い様ですもの。こちらこそ、すみませんでした」
エリスティアは深くお辞儀をした。怒っていないと分かって安心する。
「それはよかった」
ほっとしたように微笑むアレクシスに、エリスティアは顔が熱くなってきた。
(ワインを飲みすぎたのかしら?)
顔が熱いし、心臓がバクバクいっている。
アレクシスの微笑みに反応する自分の体の不調が気になって、慌てて顔を下げた。
「……ところで、さっきもうすぐ結婚すると言っていたね」
話題を変えたアレクシスが会話を再開する。
「はい」
「いつ結婚するんだい?」
何気ない調子で聞いてくる。
「来月に、幼馴染と結婚する予定なんです」知らず笑みが漏れる。
「へぇ」
「ですから、アレクシス様は安心なさってください」
「……なぜ?」
見ると不思議そうな顔をしている。
「ですから、私は来月、結婚するので、アレクシス様は結婚しなくて大丈夫れすのれ」
ろれつが怪しくなってきた。頭もぼんやりとしてきたエリスティアは、疑問にも思わずアレクシスの言葉に耳を傾ける。
「……相手の男を愛しているの?」
「へ……? あいしれ……」
「愛してるの?」
「わらしは……――」
急に意識が遠のいたエリスティアが、椅子から転げ落ちそうになっているのをアレクシスが抱きとめた。
「安心、ね」
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