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6. 余命14日⑤
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常識的に考えて、付き合っていない女性を馬車に同乗させることはあり得ない。そして、1日経っても香水の香りがすることもあり得ない。
だから、彼が今日も浮気していたのは間違いない。私はそう確信した。
それなのに……アドルフは平気な顔をして私を心配する素振りを見せている。
「そうだったんだ。それは災難だったね……。無事で良かったよ」
「ええ、明るい時間で良かったですわ」
今すぐにでも問い詰めたくなるのを堪える私。
それからは当然のように会話が続かず、屋敷に着くまで無言で過ごすことになった。
数分後──
「到着致しました」
御者台からそんな声がかけられ、馬車の扉が開けられた。
「足元、お気をつけください」
「ええ、ありがとう」
婚約者などのパートナーがいれば、こう言う場面で手を貸してもらえるのが普通。
でも、アドルフに手を差し出されることは無くて、私はドレスの裾に気をつけて飛び降りた。
でも、家同士の付き合いと私の評判もあるから、お礼を言わない訳にはいかない。
「送って下さりありがとうございました」
「いえいえ、お役に立てたようで何よりです」
だから、仕方なく。サザンバーグ家の御者さんにお礼を言えば、笑顔と共にそんな言葉が返ってきて。
アドルフよりも御者さんの方が紳士だと思ってしまった。
それから屋敷に戻ると、慌てた様子のお兄様と目が合った。
「レティシア……?」
「そうだけど……」
「無事に帰ってこれたんだ。良かった……」
どうやら、お兄様は私がお母様と一緒に帰ってこなかったことに気付いて、慌てて迎えに来ようとしてくれていたらしい。
もし行き違いになっていたら……。そう思うと、少し怖くなった。
大騒ぎになるのは間違いなかったから。
「騒ぎになる前に父上に報告してくるよ」
どうやらお父様も心配しているらしく、お兄様はそう言って階段を駆け上がっていった。
そして、盛大に転んだ。
「フギャッ!?」
変な声が聞こえたけれど、すぐに立ち上がって駆け上がっていったから心配しなくても大丈夫そうね……。
顔は恥ずかしさからか、真っ赤になっていたけれど。
それからすぐにお父様が姿を見せて、こんなことを口にした。
「どれだけ迷惑をかけたら気が済むんだ。今度からすぐに馬車に乗るようにしなさい」
意味が分からなかった。
今回の出来事は私が怒られないといけないの……?
「努力しますわ……」
流石に「分かりました」とは言えなかった。
だって、今日みたいに置いてかれることが無いとは言えないから。
「騒ぎにならなければ、それでいい。とにかく、これ以上迷惑はかけないように」
「はい……」
険しい表情のお父様が怖くて、それしか言えなかった。
でも、お父様は特に気にすることも無く、書斎に戻っていった。
そして、お父様の姿が見えなくなった時、お兄様がこう問いかけてきた。
「レティ、話があるんだけど、今いいかな?
「ええ、大丈夫ですわ」
お兄様は私に嫌がらせをしてきたことはない。だから、安心して話を聞くことが出来る。
「ルミナと喧嘩してしまったんだけど、どうすればいいかな?」
「状況が分からないので、お兄様が考えてください」
私は即答した。
お兄様が言うルミナとは、お兄様の婚約者のシルフェス伯爵家のルミナさん。
お兄様とは幼い頃からの付き合いだったということもあって、仲はすごく良いと聞いていた。
でも、お兄様の深刻そうな表情を見ると放ってはおけなくて……。
こう問いかけてみた。
「どうして喧嘩になってしまいましたの……?」
「ルミナが髪を切ったことに気付かなかったんだ……」
「それだけですの?」
「それだけだよ」
それにしては深刻そうだから、詳しく聞いてみると、こういうことだった。
昨日、お茶をしていたらルミナさんが髪型について何回か問いかけていた。
でも、お兄様は全く気付いていなくて、ルミナさんが拗ねってしまっただけだった。
うん、これはお兄様が悪いわね。
そのことを告げると、お兄様は真剣な口調でこう言った。
「そうか……ありがとう。これから気をつけてみるよ」
座学が優秀で期待されているお兄様でも、こんな風に恋では失敗してしまうのね……。
でも、それよりも。幸せの中にいるお兄様が少しだけ羨ましかった。
だから、彼が今日も浮気していたのは間違いない。私はそう確信した。
それなのに……アドルフは平気な顔をして私を心配する素振りを見せている。
「そうだったんだ。それは災難だったね……。無事で良かったよ」
「ええ、明るい時間で良かったですわ」
今すぐにでも問い詰めたくなるのを堪える私。
それからは当然のように会話が続かず、屋敷に着くまで無言で過ごすことになった。
数分後──
「到着致しました」
御者台からそんな声がかけられ、馬車の扉が開けられた。
「足元、お気をつけください」
「ええ、ありがとう」
婚約者などのパートナーがいれば、こう言う場面で手を貸してもらえるのが普通。
でも、アドルフに手を差し出されることは無くて、私はドレスの裾に気をつけて飛び降りた。
でも、家同士の付き合いと私の評判もあるから、お礼を言わない訳にはいかない。
「送って下さりありがとうございました」
「いえいえ、お役に立てたようで何よりです」
だから、仕方なく。サザンバーグ家の御者さんにお礼を言えば、笑顔と共にそんな言葉が返ってきて。
アドルフよりも御者さんの方が紳士だと思ってしまった。
それから屋敷に戻ると、慌てた様子のお兄様と目が合った。
「レティシア……?」
「そうだけど……」
「無事に帰ってこれたんだ。良かった……」
どうやら、お兄様は私がお母様と一緒に帰ってこなかったことに気付いて、慌てて迎えに来ようとしてくれていたらしい。
もし行き違いになっていたら……。そう思うと、少し怖くなった。
大騒ぎになるのは間違いなかったから。
「騒ぎになる前に父上に報告してくるよ」
どうやらお父様も心配しているらしく、お兄様はそう言って階段を駆け上がっていった。
そして、盛大に転んだ。
「フギャッ!?」
変な声が聞こえたけれど、すぐに立ち上がって駆け上がっていったから心配しなくても大丈夫そうね……。
顔は恥ずかしさからか、真っ赤になっていたけれど。
それからすぐにお父様が姿を見せて、こんなことを口にした。
「どれだけ迷惑をかけたら気が済むんだ。今度からすぐに馬車に乗るようにしなさい」
意味が分からなかった。
今回の出来事は私が怒られないといけないの……?
「努力しますわ……」
流石に「分かりました」とは言えなかった。
だって、今日みたいに置いてかれることが無いとは言えないから。
「騒ぎにならなければ、それでいい。とにかく、これ以上迷惑はかけないように」
「はい……」
険しい表情のお父様が怖くて、それしか言えなかった。
でも、お父様は特に気にすることも無く、書斎に戻っていった。
そして、お父様の姿が見えなくなった時、お兄様がこう問いかけてきた。
「レティ、話があるんだけど、今いいかな?
「ええ、大丈夫ですわ」
お兄様は私に嫌がらせをしてきたことはない。だから、安心して話を聞くことが出来る。
「ルミナと喧嘩してしまったんだけど、どうすればいいかな?」
「状況が分からないので、お兄様が考えてください」
私は即答した。
お兄様が言うルミナとは、お兄様の婚約者のシルフェス伯爵家のルミナさん。
お兄様とは幼い頃からの付き合いだったということもあって、仲はすごく良いと聞いていた。
でも、お兄様の深刻そうな表情を見ると放ってはおけなくて……。
こう問いかけてみた。
「どうして喧嘩になってしまいましたの……?」
「ルミナが髪を切ったことに気付かなかったんだ……」
「それだけですの?」
「それだけだよ」
それにしては深刻そうだから、詳しく聞いてみると、こういうことだった。
昨日、お茶をしていたらルミナさんが髪型について何回か問いかけていた。
でも、お兄様は全く気付いていなくて、ルミナさんが拗ねってしまっただけだった。
うん、これはお兄様が悪いわね。
そのことを告げると、お兄様は真剣な口調でこう言った。
「そうか……ありがとう。これから気をつけてみるよ」
座学が優秀で期待されているお兄様でも、こんな風に恋では失敗してしまうのね……。
でも、それよりも。幸せの中にいるお兄様が少しだけ羨ましかった。
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