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7. 余命13日①

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 お兄様の相談に乗った後、私は大人しく部屋に篭って過ごした。
 そのお陰か、夕食の時間──夜の6時の少し前になるまで誰にも声をかけられなかった。

 気にかけられていないと言えばそうなのかもしれない。でも、嫌がらせをされるよりは良かった。

「お嬢様、夕食の用意が出来ました」

 いつも通り、5分前に呼びに来てくれる侍女。
 私は微笑みを浮かべて、こう返した。

「いつもありがとう。すぐに行くわ」
「お礼だなんてそんな……私は仕事をしているだけですので」

 侍女はそう言って謙遜しているけど、その表情は明るくて。笑顔とお礼は大切だなと思った。

 それから食堂に行けば、既にお父様とお母様が楽しそうに会話をしていた。
 娘を置いて先に帰ったというのに、何も感じていないのね……。

 私はその楽しそうな空気を壊さないように、黙って席に着いた。
 お父様もお母様も、気に留める素振りすら見せなかった。

 この後、すぐにお兄様とお姉様がやってきて、私も参加して兄妹3人で雑談が始まった。
 すると、お母様がアピールするかのように、さっきまでよりも大きな声でこんなことを口にした。

「そうそう、聞いてくださいまし。今日、教会に行っていたらお茶会の時間に間に合わなくなりそうで、レティを急かしましたの。
 それなのに、レティはお祈りをやめませんでしたの。だから、先に帰ってきたのに、アレクがずっと睨んできますの」

 私も、お兄様も、お姉様も。揃って嫌そうな顔を浮かべた。

「そうか。お茶会は間に合ったのか?」
「ギリギリ間に合いましたわぁ」

 お父様の怒鳴り声が響いたのは、その時だった。

「ふざけるな! 護衛も残さずに娘一人置いて帰る親がどこにいる!?
 いや、目の前にいるが……。頭でも狂ったか!?」

 正直、お父様はお母様に同調するものだと思っていたから、この展開には驚いた。

「明日から1週間、レティを連れ出すことは許さない」
「分かりましたわ……」

 素直に頷くお母様。でも、私を睨みつけていることは分かった。

「こほん、すまなかった。食事を続けてくれ」

 お父様の咳払いで、慌てて手を動かし始める私達。
 今日の夕食は、誰も言葉を発することはなくて、久しぶりに暗い空気に覆われていた。



 それから、私室に戻った私は途中まで読んでいた本を手にとった。

 物語の主人公も、私と同じで恵まれていない。
 でも、私と違うところがあった。

 それは、どんなに辛くても自分から行動を起こしていること。

 この主人公は私よりも酷い目にあっているのに、努力することをやめていない。

 でも、私は?

 礼儀作法を必死に練習しても褒められることはなくて、学院の勉強を必死に頑張っても当たり前だと言われる。
 何一つとして報われていない。

 それなのに、少し不器用なお姉様は愛想が良くて、いつも褒められている。
 お兄様は愛想がいいわけではないけど、お父様に褒められている。

 それなのに、私は褒められない。
 もう、努力する気力すら湧いてこなかった。

 それでも。この主人公のように最後に報われるとしたら──?

「また頑張ってみようかしら……?」

 少しだけ、そんな風に思えた。



 本を閉じ、時計を見てみると、もう夜の8時を指していて。私は慌てて湯浴みの準備に走った。

 他所の家では使用人に身体を洗わせたりしていることもあるのだけど、うちは基本的に一人で湯浴みを済ませることになっている。
 だから、侍女を呼ぶことなく、部屋から直接行けるバスルームにそのまま入った。

 着替えはもう用意されていて、お風呂も沸いている。

 身体を洗ってから湯船に入ると、程よい温かさだった。
 きっと、侍女が私の読書が終わるタイミングを見計らって沸かしてくれたのね。

 それから少しだけ温まって、お風呂から出る私。
 部屋に戻ると、既に侍女が待機していて、こう口にした。

「お髪を乾かしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、お願いするわ」
「畏まりました」

 そう言って、髪を乾かすための魔導具を手にする侍女。
 直後、温かい風が私を包んだ。

 その風が気持ち良くて、つい目を閉じると、一気に眠気が襲ってきて。

「お嬢様、まだ眠らないでください」

 カクン、と前に倒れそうになった時。そんな風に注意されてしまった。
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