半月後に死ぬと告げられたので、今まで苦しんだ分残りの人生は幸せになります!

八代奏多

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8. 余命13日②

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「だって気持ち良かったもの」

 そう口にしながら、重い瞼を必死に持ち上げる私。
 すると、こんな言葉が返ってきた。

「では、氷をお持ちしましょうか?」
「耐えるから大丈夫よ」
「はい」

 それから数分で髪を乾かし終え、私はベッドに入った。

「おやすみなさいませ」

 そんな言葉と共に、そっと部屋の扉が閉められる。
 暗闇の中、私が眠りに落ちるのはあっという間だった。


 ……。


 気がつくと、辺り一面が空色の場所にいた。

 目の前には私がいて、知らない女性の声が聞こえてきた。

「貴女はこのままの人生でいいの?」

 この言葉が、目の前にいる私と同じ姿をした少女のものだと分かるのに時間はかからなかった。

「どういう意味……?」

 私が聞き返すと、こんな言葉が返ってきた。

「このまま、浮気男と一緒に過ごすことになりたいの?」
「それは絶対に嫌……」
「なら、浮気男とは縁を切りなさい。そうすれば、少しは幸せになれるわ」

 そんな言葉が聞こえてきたと思ったら、スッと少女の姿と空色の景色は消えていて。

「絶対、幸せになってね」

 それから、声が聞こえることはなかった。


 ……。


「私は幸せになりたかったのね……」

 目を覚ましてから少し考えて、そんなことを思った。

 私のことを快く思っていない両親に、私のことを顧みない浮気中の婚約者。そして2週間後に死ぬという天啓。
 もう幸せになることは出来ないと思っていた。

 でも、希望はまだあるから、諦めないで努力しなくちゃ。

 そう決意を改める私だった。


 それから、いつも通り本を開いたのだけど……

「おはようございます、お嬢様」

 ……ちょうどいいタイミングで侍女がやってきた。

「ええ、おはよう」

 挨拶を返しながら立ち上がり、衣装部屋に向かう。
 そこで今日の学院に着ていくドレスを選んで、侍女の手を借りつつ着替えを済ませ、髪を整えたりする。

 ここまで大体10分で終え、いつもと変わらない時間に食堂に向かうことが出来た。

「おはようございます、お母様」

 先に来ていたお母様に挨拶をしたのだけど、返事はなかった。

 その代わり、お兄様とお姉様が入ってきて、こう口にした。

「レティ、おはよう」
「おはよう」

 お兄様の言葉に少し遅れて、お姉様の言葉が重なった。

「おはようございます。お兄様、お姉様」

 私が笑顔で挨拶を返したときだった。

「どうして私には挨拶しないのよ?」

 お母様が苛立ちのこもった声で、そんなことを口にした。
 するとお兄様が不愉快そうに口を開いた。

「挨拶を無視したのは誰ですか? これくらい当然の報いです」
「なっ……!? 私に歯向かうつもり!?」
「さあ、どうでしょうね。……父上、おはようございます」

 お父様が姿を見せると同時に挨拶をするお兄様。
 私達もそれに続けば、お父様も挨拶を返してくれた。

 今日はお父様に睨まれることもなくて、少し不思議だった。
 でも、この後の朝食中はずっとお母様の機嫌が悪くて、会話も控えめにしか交わされなかった。

 そのせいで、お母様の「これも忌み子のレティのせいだわ」と言う声は、ハッキリと聞こえてしまった。
 それでも、私は気に留めないで朝食に集中した。

 そのお陰で早めに朝食を終えることが出来て、早めに食堂を後にすることが出来た。
 それでも、同じ屋敷にいるのは嫌で。お母様から逃げたくて、少し早めに馬車に乗った。

 でも、学院にはお姉様と一緒に行っているから、お姉様が来るまでは待たないといけない。
 そう思っていたのに……

「あら、もう乗ってたのね」

 ……お姉様が来るのは、私が乗ってから10秒くらいしか経っていなかった。

「こんなに早く来るなんて、珍しいわね?」
「早く準備が出来てしまったので……」

 お姉様に理由を聞かれ、そう答える私。

「本当はお母様が理由でしょ?」

 無難そうな理由を出してみたつもりだったのだけど、嘘は見抜かれていたらしい。

「気付かれてましたのね……」
「それくらい分かるわよ。私だって、お母様から離れたくて早めに来たのよ?」

 ため息混じりに、お姉様はそんなことを口にする。
 それと同時に馬車が動き出して、学院に着くまでの間はお母様についての愚痴で盛り上がった。



 学院に着いてからは、お姉様は婚約者様と一緒に教室に向かったから、私は一人寂しく教室に向かおうとしたのだけど……。

「レティシア、話があるから来て欲しい」

 3ヶ月ぶりに、学院でアドルフから声をかけられた。
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