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56. 余命4日②
「決めた。当日は私1人で王宮に入る」
突然顔を上げたと思えば、こんなことを口にする侯爵。
この言葉に、使用人達は唖然とした。
「旦那様、正気ですか?」
執事長だけは冷静に言葉を返していたが……。
「ああ、正気だ。1人の方が見つかりにくくもなるからな」
「それはそうですが、いくらなんでも無謀すぎます」
「これは決定事項だ。当日は王宮の近くに回収部隊を用意するように」
……侯爵の考えは変わらないようだった。
「もう勝手にしてください……」
執事長は頭が痛かった。
もしもこの計画が失敗すれば、只事では済まないから。
だが、計画の中身自体は良く出来ており、ミスさえしなければ成功しそうな雰囲気を出していた。
◇ ◇ ◇
「今日もお疲れさまでした」
「「お疲れさまでした」」
今の時刻はお昼過ぎの3時頃。
あれだけ忙しかったのに、どういうわけかすべての仕事が片付いてしまっていた。
いつも通りの挨拶を交わし、部屋を後にする私。
そのまま廊下を歩いていって、ふと窓の外を見た時だった。
「何よ、あれ……」
王都のあちこちで黒い霧のようなものが漂っていて、思わずそんな声を漏らしてしまった。
(あれは悪意の塊よ。簡単に言うと、瘴気ってとこかしら。
あの中にいると、正気を保っていられなくなるわ)
(それって……)
(間違いなく、誰かが作り出したものね。あの霧が出た後は、必ず良くないことが起こるわ)
フレアはそう説明してくれたけど、テラスにいる仲睦まじそうな男女は気付いていないみたい。
こんなに禍々しい雰囲気を放っているのに……。
(あれは限られた人にしか見えないわ。あれを見れる人は瘴気を払うことが出来るわ。
でも、一度でも気が狂ってしまった人は治せないわ)
(そんな……)
これだけでも衝撃的なのに、フレアの言葉はここで終わらなかった。
(瘴気は私にも手出し出来ないわ。払えるのは瘴気を見れる人間だけだから……)
(それって、私のことよね?)
(うん。だから、今回はレティが私を守って)
頭の中に響くフレアの声は震えていた。
フレアが怯えるって……どれだけ恐ろしいことが起ころうとしているの……?
(守るって言われても、払い方なんて知らないわよ)
(光の魔力で打ち消せるわ。だから、瘴気と戦う時のために魔力を貯めておきたいの)
(貯めるって、どうやって?)
(私が預かるわ)
(そんなこと出来るの?)
人には各々に魔力を貯められる限界――魔力容量があって、それを超えて魔力が回復することは出来ないはずなのだけど……。
(精霊の魔力は無尽蔵だから問題ないわ)
(そ、そうなのね。どうやって渡せばいいの?)
(直接触れれば出来るわ。一旦部屋に戻れる?)
(分かったわ)
返事をして、テラスを離れる私。
それから数分で部屋にたどり着いて、扉の鍵をかけた。
するとすぐにフレアが隣に現れて、私の手を握ってきた。
「私の魔力を流してみて」
「こ、こう……?」
フレアの手の中に魔法を起こすイメージで魔力を流してみた。
すると、フレアは焦った様子で飛びのいてしまった。
「ちょっと待って、私の手を爆発させてっどうするの!?」
「ごめん、そんなつもりじゃ……」
慌てて魔力を止める私。
「普通に渡すのをイメージすれば大丈夫よ」
「わ、分かったわ」
もう一度フレアの手を握って、言われた通りに魔力を流してみる。
「そんな感じで大丈夫よ。もう少し量を増やせる?」
「うん。ちょっと疑問に思ったのだけど、契約で渡してる魔力はどうして何もしなくても使えるの?」
「その場で使ってるからよ。貯めるとなると話は別なの」
「そうなのね」
話しながら、渡す魔力を増やしていく。
でも、1分経っても魔力が無くなる気配はなかった。
「もっと多くしても大丈夫かしら?」
「多分……」
「多分なのね……。とりあえず、試してみるわ」
相手はフレアだし、魔力を送りすぎて爆発……なんてことは起きないと思う。
だから、思い切って送る魔力を一気に増やしてみた。
その直後だった。
「うっ……」
「止めてっ!」
突然吐き気が襲ってきた。
慌てて魔力を止めて口を押える私。
同時に立っているのが辛くなってきて、ふらつきながらソファに倒れこんでしまった。
突然顔を上げたと思えば、こんなことを口にする侯爵。
この言葉に、使用人達は唖然とした。
「旦那様、正気ですか?」
執事長だけは冷静に言葉を返していたが……。
「ああ、正気だ。1人の方が見つかりにくくもなるからな」
「それはそうですが、いくらなんでも無謀すぎます」
「これは決定事項だ。当日は王宮の近くに回収部隊を用意するように」
……侯爵の考えは変わらないようだった。
「もう勝手にしてください……」
執事長は頭が痛かった。
もしもこの計画が失敗すれば、只事では済まないから。
だが、計画の中身自体は良く出来ており、ミスさえしなければ成功しそうな雰囲気を出していた。
◇ ◇ ◇
「今日もお疲れさまでした」
「「お疲れさまでした」」
今の時刻はお昼過ぎの3時頃。
あれだけ忙しかったのに、どういうわけかすべての仕事が片付いてしまっていた。
いつも通りの挨拶を交わし、部屋を後にする私。
そのまま廊下を歩いていって、ふと窓の外を見た時だった。
「何よ、あれ……」
王都のあちこちで黒い霧のようなものが漂っていて、思わずそんな声を漏らしてしまった。
(あれは悪意の塊よ。簡単に言うと、瘴気ってとこかしら。
あの中にいると、正気を保っていられなくなるわ)
(それって……)
(間違いなく、誰かが作り出したものね。あの霧が出た後は、必ず良くないことが起こるわ)
フレアはそう説明してくれたけど、テラスにいる仲睦まじそうな男女は気付いていないみたい。
こんなに禍々しい雰囲気を放っているのに……。
(あれは限られた人にしか見えないわ。あれを見れる人は瘴気を払うことが出来るわ。
でも、一度でも気が狂ってしまった人は治せないわ)
(そんな……)
これだけでも衝撃的なのに、フレアの言葉はここで終わらなかった。
(瘴気は私にも手出し出来ないわ。払えるのは瘴気を見れる人間だけだから……)
(それって、私のことよね?)
(うん。だから、今回はレティが私を守って)
頭の中に響くフレアの声は震えていた。
フレアが怯えるって……どれだけ恐ろしいことが起ころうとしているの……?
(守るって言われても、払い方なんて知らないわよ)
(光の魔力で打ち消せるわ。だから、瘴気と戦う時のために魔力を貯めておきたいの)
(貯めるって、どうやって?)
(私が預かるわ)
(そんなこと出来るの?)
人には各々に魔力を貯められる限界――魔力容量があって、それを超えて魔力が回復することは出来ないはずなのだけど……。
(精霊の魔力は無尽蔵だから問題ないわ)
(そ、そうなのね。どうやって渡せばいいの?)
(直接触れれば出来るわ。一旦部屋に戻れる?)
(分かったわ)
返事をして、テラスを離れる私。
それから数分で部屋にたどり着いて、扉の鍵をかけた。
するとすぐにフレアが隣に現れて、私の手を握ってきた。
「私の魔力を流してみて」
「こ、こう……?」
フレアの手の中に魔法を起こすイメージで魔力を流してみた。
すると、フレアは焦った様子で飛びのいてしまった。
「ちょっと待って、私の手を爆発させてっどうするの!?」
「ごめん、そんなつもりじゃ……」
慌てて魔力を止める私。
「普通に渡すのをイメージすれば大丈夫よ」
「わ、分かったわ」
もう一度フレアの手を握って、言われた通りに魔力を流してみる。
「そんな感じで大丈夫よ。もう少し量を増やせる?」
「うん。ちょっと疑問に思ったのだけど、契約で渡してる魔力はどうして何もしなくても使えるの?」
「その場で使ってるからよ。貯めるとなると話は別なの」
「そうなのね」
話しながら、渡す魔力を増やしていく。
でも、1分経っても魔力が無くなる気配はなかった。
「もっと多くしても大丈夫かしら?」
「多分……」
「多分なのね……。とりあえず、試してみるわ」
相手はフレアだし、魔力を送りすぎて爆発……なんてことは起きないと思う。
だから、思い切って送る魔力を一気に増やしてみた。
その直後だった。
「うっ……」
「止めてっ!」
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同時に立っているのが辛くなってきて、ふらつきながらソファに倒れこんでしまった。
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