63 / 74
63. 余命2日③
唯一存在している栄養がある豆が家畜用。
普通の貴族なら、これを食すことはプライドが許さない。
だが、状況が状況なだけに、侯爵はなんでも活用しようとしていた。
家畜用とは言え、食料は食料なのだ。
問題は味だが……。
「旦那様、試作してみましたがいかがでしょうか?」
侯爵家お抱えの料理人が持ってきた豆料理を口に含む侯爵。
「これなら問題ない。可能なら、もう少し種類を増やして欲しい。
毎日これだと飽きるからな」
「承知しました」
とりあえず、侯爵邸は危険な状態ではなかった。
しかし……
「レティシアは無事だろうか……」
……侯爵の不安はまだ無くなりそうになかった。
◇ ◇ ◇
「もうお昼ですわね」
ふと、そんな声が聞こえた。
「ええ。お昼はどうしますの?」
「材料を頂いたので、みんなで作ろうと思いますわ」
えっ……?
私、料理なんて出来ないのだけど……。
「私、料理をしたことが無いのですけど、大丈夫でしょうか?」
不安を感じて、恐る恐る手を上げる。
きっと私以外にも、私と同じように料理をしたことが無い方がいると思って、見回してみたのだけど……。
「それでも大丈夫ですわ! この際、レティシアさんも料理出来るようになりましょう!」
そう口にするメリアさんと、頷く他の方々。
料理が出来ないのが私だけという現実に、涙目になりかけていた。
普通、貴族の令嬢は料理をしないものだから、料理が出来ないのは当たり前なのだけど、ここでは違うみたいね……。
「まずは包丁の使い方から教えますわ」
そんな言葉と共に、私の前にまな板と包丁が置かれる。
そして……
「包丁はこんな風に持ちますの。食材はこの形の手で抑えないと、指を切ってしまいますわ」
「急がなくて大丈夫ですわ。落ち着いてください」
……などなど、たっぷり1時間近くかけて、食材の切り方から味付け、さらには温める方法まで教えてもらえた。
私の方が圧倒的に切るのは遅かったのだけど、誰も文句ひとつ言わずに待っていてくれたし、必要なところでは手を貸してくれたりもした。
だから、疲れたけど楽しめていた。
「時間も予定通りですわね」
「ええ」
美味しそうな香りが漂う中、手分けして準備を進める私達。
それからすぐに昼食会を始めることができて、明るい話題を楽しむことになった。
昼食を終えても誰かが訪ねてくることはなくて、後片付けを終えてから雑談をしている間にすっかり夜になっていた。
「そろそろ解散にしましょう。お疲れ様でした」
「「お疲れ様でした」」
挨拶を交わして、食堂に向かう。
その途中、ジグルド殿下が誰かと話しているのが目に入って、思わず足を止めてしまった。
殿下と話をしているのは、鎧に身を包んだ女性。
多分、騎士団の方なのだけど……少し気になってしまった。
「レティシア嬢、何かあったかい?」
「いえ、何もありませんわ」
私が見ていたからか、話を終えて声をかけてくる殿下。
「そうか。良かったら、今夜も一緒に夕食をとらないか?」
「ええ、分かりましたわ」
そう返事をすると、殿下は「ありがとう」と言って、私の手を引きながら歩き始めた。
少しだけ小走りになって、横に並ぶ私。
どうしてか分からないけど、この位置が一番安心出来ていた。
でも……。
突然、身体中から血の気が引いていってしまって、意識が遠のいてしまった。
「レティシアっ!」
そんな声が聞こえたと思ったら、私の視界は真っ暗になってしまった。
……。
…………。
衝撃は来なかった。でも、何も見えない。
今のは一体何?
「汝よ、伝えることがあります。
たった今、この瞬間。運命の時までちょうど1日になりました」
最初の天啓と同じ神様の声。でも、何かを口にしようと思っても、声にはならなかった。
「貴女が後悔しているのかは分かりません。運命が変わったかどうかも分かりません。
今、貴女の未来は定まっていません。良い方向に向かうよう、努力しなさい」
どういうことなの……?
やっぱり、声は出ない。
「汝に祝福あれ」
……。
…………。
「……シアっ! レティシア!」
目を開けると、焦った様子の殿下のお顔が目の前にあった。
驚いて、慌てて後ろに下がろうとする私。
直後、ゴツンという音が響いた。
普通の貴族なら、これを食すことはプライドが許さない。
だが、状況が状況なだけに、侯爵はなんでも活用しようとしていた。
家畜用とは言え、食料は食料なのだ。
問題は味だが……。
「旦那様、試作してみましたがいかがでしょうか?」
侯爵家お抱えの料理人が持ってきた豆料理を口に含む侯爵。
「これなら問題ない。可能なら、もう少し種類を増やして欲しい。
毎日これだと飽きるからな」
「承知しました」
とりあえず、侯爵邸は危険な状態ではなかった。
しかし……
「レティシアは無事だろうか……」
……侯爵の不安はまだ無くなりそうになかった。
◇ ◇ ◇
「もうお昼ですわね」
ふと、そんな声が聞こえた。
「ええ。お昼はどうしますの?」
「材料を頂いたので、みんなで作ろうと思いますわ」
えっ……?
私、料理なんて出来ないのだけど……。
「私、料理をしたことが無いのですけど、大丈夫でしょうか?」
不安を感じて、恐る恐る手を上げる。
きっと私以外にも、私と同じように料理をしたことが無い方がいると思って、見回してみたのだけど……。
「それでも大丈夫ですわ! この際、レティシアさんも料理出来るようになりましょう!」
そう口にするメリアさんと、頷く他の方々。
料理が出来ないのが私だけという現実に、涙目になりかけていた。
普通、貴族の令嬢は料理をしないものだから、料理が出来ないのは当たり前なのだけど、ここでは違うみたいね……。
「まずは包丁の使い方から教えますわ」
そんな言葉と共に、私の前にまな板と包丁が置かれる。
そして……
「包丁はこんな風に持ちますの。食材はこの形の手で抑えないと、指を切ってしまいますわ」
「急がなくて大丈夫ですわ。落ち着いてください」
……などなど、たっぷり1時間近くかけて、食材の切り方から味付け、さらには温める方法まで教えてもらえた。
私の方が圧倒的に切るのは遅かったのだけど、誰も文句ひとつ言わずに待っていてくれたし、必要なところでは手を貸してくれたりもした。
だから、疲れたけど楽しめていた。
「時間も予定通りですわね」
「ええ」
美味しそうな香りが漂う中、手分けして準備を進める私達。
それからすぐに昼食会を始めることができて、明るい話題を楽しむことになった。
昼食を終えても誰かが訪ねてくることはなくて、後片付けを終えてから雑談をしている間にすっかり夜になっていた。
「そろそろ解散にしましょう。お疲れ様でした」
「「お疲れ様でした」」
挨拶を交わして、食堂に向かう。
その途中、ジグルド殿下が誰かと話しているのが目に入って、思わず足を止めてしまった。
殿下と話をしているのは、鎧に身を包んだ女性。
多分、騎士団の方なのだけど……少し気になってしまった。
「レティシア嬢、何かあったかい?」
「いえ、何もありませんわ」
私が見ていたからか、話を終えて声をかけてくる殿下。
「そうか。良かったら、今夜も一緒に夕食をとらないか?」
「ええ、分かりましたわ」
そう返事をすると、殿下は「ありがとう」と言って、私の手を引きながら歩き始めた。
少しだけ小走りになって、横に並ぶ私。
どうしてか分からないけど、この位置が一番安心出来ていた。
でも……。
突然、身体中から血の気が引いていってしまって、意識が遠のいてしまった。
「レティシアっ!」
そんな声が聞こえたと思ったら、私の視界は真っ暗になってしまった。
……。
…………。
衝撃は来なかった。でも、何も見えない。
今のは一体何?
「汝よ、伝えることがあります。
たった今、この瞬間。運命の時までちょうど1日になりました」
最初の天啓と同じ神様の声。でも、何かを口にしようと思っても、声にはならなかった。
「貴女が後悔しているのかは分かりません。運命が変わったかどうかも分かりません。
今、貴女の未来は定まっていません。良い方向に向かうよう、努力しなさい」
どういうことなの……?
やっぱり、声は出ない。
「汝に祝福あれ」
……。
…………。
「……シアっ! レティシア!」
目を開けると、焦った様子の殿下のお顔が目の前にあった。
驚いて、慌てて後ろに下がろうとする私。
直後、ゴツンという音が響いた。
あなたにおすすめの小説
【完結】ありのままのわたしを愛して
彩華(あやはな)
恋愛
私、ノエルは左目に傷があった。
そのため学園では悪意に晒されている。婚約者であるマルス様は庇ってくれないので、図書館に逃げていた。そんな時、外交官である兄が国外視察から帰ってきたことで、王立大図書館に行けることに。そこで、一人の青年に会うー。
私は好きなことをしてはいけないの?傷があってはいけないの?
自分が自分らしくあるために私は動き出すー。ありのままでいいよね?
【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
【完結】フェリシアの誤算
伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。
正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?
ハートリオ
恋愛
茶髪茶目のポッチャリ令嬢ロサ。
イケメン達を翻弄するも無自覚。
ロサには人に言えない、言いたくない秘密があってイケメンどころではないのだ。
そんなロサ、長年の婚約者が婚約を解消しようとしているらしいと聞かされ…
剣、馬車、ドレスのヨーロッパ風異世界です。
御脱字、申し訳ございません。
1話が長めだと思われるかもしれませんが会話が多いので読みやすいのではないかと思います。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。
実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。
それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。
ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。
目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。
すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。
抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……?
傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに
たっぷり愛され甘やかされるお話。
このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。
修正をしながら順次更新していきます。
また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。
もし御覧頂けた際にはご注意ください。
※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。
伯爵令嬢の前途多難な婚活──王太子殿下を突き飛ばしたら、なぜか仲良くなりました
森島菫
恋愛
シャーロット・フォード伯爵令嬢。
社交界に滅多に姿を見せず、性格も趣味も交遊関係も謎に包まれた人物──と言えばミステリアスな女性に聞こえるが、そんな彼女が社交界に出ない理由はただ一つ。
男性恐怖症である。
「そのままだと、何かと困るでしょう?」
「それはそうなんだけどおおおお」
伯爵家で今日も繰り返される、母と娘の掛け合い。いつもなら適当な理由をつけて参席を断るのだが、今回ばかりはそうもいかない。なぜなら「未婚の男女は全員出席必須」のパーティーがあるからだ。
両親は、愛娘シャーロットの結婚を非常に心配していた。そんな中で届いたこのパーティーの招待状。伯爵家の存続の危機を救ってもらうべく、彼らは気乗りしない娘を何とか説得してパーティーに向かわせた。
しかし当日、シャーロットはとんでもない事態を引き起こすことになる。
「王太子殿下を、突き飛ばしてしまったのよ」
「「はぁっ!?」」
男性恐怖症のシャーロットが限界になると発動する行動──相手を突き飛ばしてしまうこと──が、よりにもよってこの国の王太子に降りかかったのである。
不敬罪必死のこの事態に、誰もが覚悟を決めた。
ところが、事態は思わぬ方向へ転がっていき──。
これは、社交を避けてきた伯爵令嬢が腹を括り、結婚を目指して試行錯誤する話。
恋愛あり、改革あり、試練あり!内容盛りだくさんな伯爵令嬢の婚活を、お楽しみあれ。
【番外編の内容】
アンジェリアは、由緒正しいフォード伯爵家の次女として生まれた。
姉シャーロットと弟ウィルフレッドは貴族社会の一員として暮らしているが、アンジェリアは別の道を選びたかった。
「私、商人になりたい」
いつからか抱いたその夢を口にしてから、彼女の人生は大きく変化することとなる。
シャーロットが王太子ギルバートと関わりを深める裏で繰り広げられていた、次女アンジェリアの旅路。
衣食住に困ることのなかった令嬢生活を捨て、成功する保証の無い商人として暮らすことを決めた彼女を待ち受けている景色とは?
※完結した本編との絡みもありつつ物語が進んでいきます!こちらもぜひ、お楽しみいただければ嬉しいです。