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72. 復興に向けて
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「お話し中に申し訳ありません。
殿下、この後の予定についてお聞かせください」
私がジグルド殿下とお茶をしている時だった。
今は屋敷の警備をしてくれている親衛隊の方が声をかけてきた。
「まだ決められていない。侯爵が出したという偵察の話を聞いてから決める予定だ」
「分かりました。では、後程」
敬礼をしてから去っていく親衛隊の方。
それに遅れて、上の方から風切り音か聞こえてきた。
見上げてみると、小さな飛空艇が私達のいる中庭に降りてきていた。
一気に風が強くなってきて、スカートを抑える私。
殿下はというと、テーブルとお茶を抑えていた。
「お菓子を出していなくて正解だったな」
「ええ、そうですわね」
飛空艇が地面に接するまで風は続いて、収まった時には私の髪も殿下の髪も乱れてしまっていた。
すると、今まで無言で気配を消していた侍女が殿下に声をかけた。
「殿下、申し訳ありませんが、後ろを向いて頂けないでしょうか? お嬢様の髪を直したいのです」
「分かった」
身体ごと後ろに向いて、髪を整える殿下。
それを見ながら、侍女が髪を直してくれるのを待った。
「お待たせしました。もう大丈夫です」
「分かった」
そう口にして、体勢を戻す殿下。私と目が合うと、こんな言葉をかけられた。
「偵察が戻ってきたから、話を聞きに行ってくる。この後、フレアとルミナも交えて会議をしたいから、一緒に来てほしい」
「分かりましたわ。後片付け、お願いするわね」
「はい、畏まりました」
一通り話し終えて、立ち上がる私と殿下。
殿下から差し出された手をとると、彼はゆっくりと歩き出した。
それから少しして、偵察さんの話を聞き終えた私は、会議室に来ていた。
ここにいるのは、王族の方と私、精霊2人だけ。
人払いされているこの場所で、陛下が立ち上がってから口を開いた。
「これより、瘴気からの王都復興計画についての会議を始めるる。まずはジグルド、今現在の王都の状況について報告しなさい」
「はい。現在、王都は瘴気に包まれたことがある部分は全て焼け野原状態になっています。王宮は半壊、我々が逃げてきた東側は瘴気が薄かったために無事な建物もありますが、火の手が広がるのは時間の問題だと思われます。
また、瘴気の塊は分解し、各地へ広がったと報告されています。以上になります」
「ありがとう。では、これらの情報を元に、瘴気の殲滅と復興のための計画を行う。まずは瘴気の殲滅についてだが、精霊の二人の意見を聞きたい。お願いできるだろうか?」
そう口にして、フレアとルミナさんの方に視線を向ける陛下。
先に口を開いたのは、フレアだった。
「まず初めに、私達精霊には瘴気を消す力が無いことをもう一度伝えておきます。その上で、私からは2つの案を示させていただきますわ。
1つ目は、各地にいる瘴気を消す力を持つ人々に任せる案になります。この案は、素早い殲滅が可能である一方、力が弱いと瘴気に負ける人が出てしまいます。なので、民の犠牲が前提になってしまいます。
2つ目は、ここにいるレティシアが各地に向かって瘴気を打ち消す方法になりますわ。小型の飛空艇なら、魔力が多い人か私がいればほぼ無限に飛ばせるので、早くて半月で殲滅できますわ。ただし、レティシアの魔力が切れてしまったら瘴気に襲われても対処できないので、瘴気を払える人物を同行させる必要があります。
以上ですわ」
そう締めくくって、一礼するフレア。その動きはすごく様になっていて、思わず見惚れてしまうほどだった。
「ありがとう。私としても、考えは似たようなものになっている。
出来る限り民の犠牲は避けたいが、レティシア嬢の負担も軽くしたい。なので、この屋敷にいる者から魔力が強い瘴気に対処できる人物を探し出す。
そのうえで、小さな瘴気は彼らに対処させようと思っている。だが、強力な瘴気はおそらくレティシア嬢にしか太刀打ちできない。だから、レティシア嬢には負担をかけてしまうが、この方法が理想的だと判断する。
異議がある者は?」
申し訳なさそうな視線を私に向けながら、そう口にする陛下。
それを見て、私は「問題ないので、お気になさらないでください」と口だけで伝えようとしてみた。
すると、陛下は頷いて、こう口にした。
「問題ないようだから、この案で決定する。
続いて、王都の復興計画についてだが……こちらは後程大臣を交えて私の方で行う。
皆、ご苦労であった」
こうして、会議は10分くらいで終わった。
その日の夜、久しぶりの家族水入らずの夕食になった。
お姉様もお兄様も、私と久々に食事を出来るからと楽しみにしているのだけど、私は憂鬱で仕方なかった。
未だに私のことを「忌み子」と呼んでいるお母様とも一緒に食事をとると思っていたから。
でも、その予想は外れることになった。
「レティシア、話があるわ」
「お母様……何の用ですの?」
「今までひどい扱いをしてきてごめんなさい。言葉だけで済む話ではないけど、許してもらえると嬉しいわ」
今さら何よ……?
そんな都合良く許してもらえると思ってるの?
「そうですわね。今までされたことは絶対に許せませんわ。だから、これからは普通の家族みたいに接してください」
「ありがとう、許してくれるなら何でもするわ」
「私、許すなんて一言も言っていませんわよ?」
「そう……分かったわ。許してもらえないかもしれないけど、普通の家族のように接する。これは約束するわ」
「分かってもらえて何よりですわ」
お母様に酷い扱いをされたことは許せない。
でも、そのまま関係を直そうとしなかったらお互いに良い気持になるはずがない。
だから、これから普通の生活が出来るようにしようと思った。
お母様も納得してくれたみたいだし、ひとまず一歩前進ね。
まだ問題は山積みだけど、生き延びられたのだから時間はたくさんある。
これからは後悔しないように過ごせたらいいわね。
そんな風に思った。
殿下、この後の予定についてお聞かせください」
私がジグルド殿下とお茶をしている時だった。
今は屋敷の警備をしてくれている親衛隊の方が声をかけてきた。
「まだ決められていない。侯爵が出したという偵察の話を聞いてから決める予定だ」
「分かりました。では、後程」
敬礼をしてから去っていく親衛隊の方。
それに遅れて、上の方から風切り音か聞こえてきた。
見上げてみると、小さな飛空艇が私達のいる中庭に降りてきていた。
一気に風が強くなってきて、スカートを抑える私。
殿下はというと、テーブルとお茶を抑えていた。
「お菓子を出していなくて正解だったな」
「ええ、そうですわね」
飛空艇が地面に接するまで風は続いて、収まった時には私の髪も殿下の髪も乱れてしまっていた。
すると、今まで無言で気配を消していた侍女が殿下に声をかけた。
「殿下、申し訳ありませんが、後ろを向いて頂けないでしょうか? お嬢様の髪を直したいのです」
「分かった」
身体ごと後ろに向いて、髪を整える殿下。
それを見ながら、侍女が髪を直してくれるのを待った。
「お待たせしました。もう大丈夫です」
「分かった」
そう口にして、体勢を戻す殿下。私と目が合うと、こんな言葉をかけられた。
「偵察が戻ってきたから、話を聞きに行ってくる。この後、フレアとルミナも交えて会議をしたいから、一緒に来てほしい」
「分かりましたわ。後片付け、お願いするわね」
「はい、畏まりました」
一通り話し終えて、立ち上がる私と殿下。
殿下から差し出された手をとると、彼はゆっくりと歩き出した。
それから少しして、偵察さんの話を聞き終えた私は、会議室に来ていた。
ここにいるのは、王族の方と私、精霊2人だけ。
人払いされているこの場所で、陛下が立ち上がってから口を開いた。
「これより、瘴気からの王都復興計画についての会議を始めるる。まずはジグルド、今現在の王都の状況について報告しなさい」
「はい。現在、王都は瘴気に包まれたことがある部分は全て焼け野原状態になっています。王宮は半壊、我々が逃げてきた東側は瘴気が薄かったために無事な建物もありますが、火の手が広がるのは時間の問題だと思われます。
また、瘴気の塊は分解し、各地へ広がったと報告されています。以上になります」
「ありがとう。では、これらの情報を元に、瘴気の殲滅と復興のための計画を行う。まずは瘴気の殲滅についてだが、精霊の二人の意見を聞きたい。お願いできるだろうか?」
そう口にして、フレアとルミナさんの方に視線を向ける陛下。
先に口を開いたのは、フレアだった。
「まず初めに、私達精霊には瘴気を消す力が無いことをもう一度伝えておきます。その上で、私からは2つの案を示させていただきますわ。
1つ目は、各地にいる瘴気を消す力を持つ人々に任せる案になります。この案は、素早い殲滅が可能である一方、力が弱いと瘴気に負ける人が出てしまいます。なので、民の犠牲が前提になってしまいます。
2つ目は、ここにいるレティシアが各地に向かって瘴気を打ち消す方法になりますわ。小型の飛空艇なら、魔力が多い人か私がいればほぼ無限に飛ばせるので、早くて半月で殲滅できますわ。ただし、レティシアの魔力が切れてしまったら瘴気に襲われても対処できないので、瘴気を払える人物を同行させる必要があります。
以上ですわ」
そう締めくくって、一礼するフレア。その動きはすごく様になっていて、思わず見惚れてしまうほどだった。
「ありがとう。私としても、考えは似たようなものになっている。
出来る限り民の犠牲は避けたいが、レティシア嬢の負担も軽くしたい。なので、この屋敷にいる者から魔力が強い瘴気に対処できる人物を探し出す。
そのうえで、小さな瘴気は彼らに対処させようと思っている。だが、強力な瘴気はおそらくレティシア嬢にしか太刀打ちできない。だから、レティシア嬢には負担をかけてしまうが、この方法が理想的だと判断する。
異議がある者は?」
申し訳なさそうな視線を私に向けながら、そう口にする陛下。
それを見て、私は「問題ないので、お気になさらないでください」と口だけで伝えようとしてみた。
すると、陛下は頷いて、こう口にした。
「問題ないようだから、この案で決定する。
続いて、王都の復興計画についてだが……こちらは後程大臣を交えて私の方で行う。
皆、ご苦労であった」
こうして、会議は10分くらいで終わった。
その日の夜、久しぶりの家族水入らずの夕食になった。
お姉様もお兄様も、私と久々に食事を出来るからと楽しみにしているのだけど、私は憂鬱で仕方なかった。
未だに私のことを「忌み子」と呼んでいるお母様とも一緒に食事をとると思っていたから。
でも、その予想は外れることになった。
「レティシア、話があるわ」
「お母様……何の用ですの?」
「今までひどい扱いをしてきてごめんなさい。言葉だけで済む話ではないけど、許してもらえると嬉しいわ」
今さら何よ……?
そんな都合良く許してもらえると思ってるの?
「そうですわね。今までされたことは絶対に許せませんわ。だから、これからは普通の家族みたいに接してください」
「ありがとう、許してくれるなら何でもするわ」
「私、許すなんて一言も言っていませんわよ?」
「そう……分かったわ。許してもらえないかもしれないけど、普通の家族のように接する。これは約束するわ」
「分かってもらえて何よりですわ」
お母様に酷い扱いをされたことは許せない。
でも、そのまま関係を直そうとしなかったらお互いに良い気持になるはずがない。
だから、これから普通の生活が出来るようにしようと思った。
お母様も納得してくれたみたいだし、ひとまず一歩前進ね。
まだ問題は山積みだけど、生き延びられたのだから時間はたくさんある。
これからは後悔しないように過ごせたらいいわね。
そんな風に思った。
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