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因縁かもしれないねぇ……
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しかし、身に余る光栄と言えば流介である。あんな一般庶民丸出しのイカ臭い高校生男子のくせに、橘華蓮の弟とは生意気だ。そういえば、あいつの苗字も『橘』であった。普段、下の名前の『流介』でしか呼んだことがないから、すっかり忘れていた。あいつのフルネームは『橘流介』だ。
だが、橘華蓮と橘流介。同じ『橘』でも、こうして並べてみると全く印象が違って見えるから不思議だ。方や高貴な貴族の家系のような印象を与え、方や地面を這いずり回って獲物を探す肉食爬虫類の子孫のような印象を与えると言えば言い過ぎか? いや、そりゃ言い過ぎなのだが、そう言いたくなるくらいの二人の差ではないか。
聞けば、血の繋がりはないようなのだが、却ってそれがまた憎らしい。血の繋がりがあろうものなら、仕方がない、とまだ納得がいく上、姉に良いところを全て持っていかれた搾りカスと理解することもできる。
しかし、血の繋がりがないということは、言ってみれば元は他人だ。謂わば俺と同じ境遇だったわけである。それをどんな人生の大穴馬券を当てたものか、ある日突然橘華蓮の親族になったのだ。
しかも従兄弟などというケチくさいものではない、姉弟になるという栄光に浴したのである。姉弟ということは一つ屋根の下に暮らす権利があるということだ。
元は同じ一般庶民男子であるのに、この差は何だ。こうして橘華蓮の手を握りしめている今もそこに思いが至ると、虚しく腹立たしい気持ちが溢れ出てオーバーフローだ。今にして思うと氷堂のマンションに行った時、やけに馴れ馴れしく話していたのは義理の姉弟であったからだったのだ。くそう、返す返すも腹立たしい。
しかも、あいつの方が弟というのがまた更に何か癇に障る。一見、その可愛らしさや小柄さから、華蓮の方が妹のように見えるが、橘華蓮は四月生まれ、一方の流介は十月生まれなので、半年ほども華蓮の方が早く生まれたのだ。だから、華蓮が姉、流介が弟という「姉弟」なのである。
それの何がどういけないのか?と問われたならば、明確な答えを提出することはできない。しかし、癇に障るのである。イラつくのである。
それはおそらく、弟とは「年少者」、つまり言ってみれば、どこかしら可愛らしさを連想させる響きがあるからだろう。それが、「橘華蓮の弟」となれば、問答無用で可愛いという響きがどこかある。ところが事実はどうだ。可愛らしくあるべき「橘華蓮の弟」は、あの流介なのである。もやは嫌がらせにしか思えないギャグと言っていいだろう。
それはさておき、流介の父親と橘華蓮の母親(つまり橘カオル)が再婚したのは二人が小学校六年生の時であったらしい。それから三年間、二人は同じ家で暮らしていたが、中学三年の時から橘華蓮は家を出て、合宿と称して氷堂と暮らすようになって今に至るという。
橘華蓮と氷堂がペアを組んだのが中学一年の時で、流介はその時から氷堂とも面識があったという。なるほど、だから氷堂ともあんなに親しげだったのか。
それにしても橘華蓮はいわずもがなの有名人。その母親は著名なバレエダンサーの橘カオル。それに引きかえ、ただの流介。ものすごいサラブレッドの厩舎にとんでもない駄馬が迷い込んだものである。いや、駄馬というより驢馬であろう。
そんな風に流介への罵詈雑言の限りを思いつつ、手には橘華蓮の温もりを感じつつ、群衆を急ぎ足でかき分け続けた。橘華蓮は衣装のままだったが、シンプルなものなので特に目立つことはなかった。
それに、とても小柄なのも幸いした。道行く人々には気付かれずに、特に取り囲まれることもなく歩くことができている。橘華蓮が小さくて、色々と本当に良かった。
さて、そんな風にして大体育館へ行く道すがら、橘華蓮になんで今回の舞台に出演してくれたのか、聞いてみた。華蓮は少し黙った後、経緯を話してくれた。
開口一番、華蓮はこう言った。
「私はここの校長の孫だと思うの」
いきなりのヘヴィパンチを見舞われ、膝に来てしまったが、何とか持ちこたえて話の続きを聞いた。
音弧野高校校長が自分の祖父かもしれないという話は華蓮の母親、橘カオルから聞いたのだという。事の発端は氷堂が音弧野高への進学を決めたことだった。
氷堂が自分に何の相談もなく決めてしまったことを母親に愚痴り倒していたところ(愚痴りそうだ)、ふと母親は「因縁かもしれないねぇ……」と零してしまったらしい。
それについて華蓮はどういうことかと問い詰めた。はじめは、のらりくらりとかわそうとした母親だったが、結局華蓮のしつこさに根負けし(しつこそうだ)、教えてくれたという。
母親は、氷堂が進学することになった音弧野高校の校長は自分の父親かもしれない、と言ったそうだ。華蓮の母・橘カオルもまた彼女の母親、つまり華蓮の祖母に自分の父の存在を教えてもらったという。ただそれは、一枚の写真を見せてもらっただけだった。
華蓮が母から聞いた話は、始めはなんとなくの既視感があった。そして更に聞いていくうち、俺は嫌な予感を覚え、それが最後は確信めいたものに変わった。そして、おそるおそる呟いてみた。
「……なんだかどこかで聞いたことのある話だなぁ」
「今日の劇の台本そのままだよ」
「と言うと?」
「あの台本、私のお母さんが昔書いた小説が元になってるの」
「ほう、小説ねぇ……」
今、一瞬にして全てが繋がった。
だが、橘華蓮と橘流介。同じ『橘』でも、こうして並べてみると全く印象が違って見えるから不思議だ。方や高貴な貴族の家系のような印象を与え、方や地面を這いずり回って獲物を探す肉食爬虫類の子孫のような印象を与えると言えば言い過ぎか? いや、そりゃ言い過ぎなのだが、そう言いたくなるくらいの二人の差ではないか。
聞けば、血の繋がりはないようなのだが、却ってそれがまた憎らしい。血の繋がりがあろうものなら、仕方がない、とまだ納得がいく上、姉に良いところを全て持っていかれた搾りカスと理解することもできる。
しかし、血の繋がりがないということは、言ってみれば元は他人だ。謂わば俺と同じ境遇だったわけである。それをどんな人生の大穴馬券を当てたものか、ある日突然橘華蓮の親族になったのだ。
しかも従兄弟などというケチくさいものではない、姉弟になるという栄光に浴したのである。姉弟ということは一つ屋根の下に暮らす権利があるということだ。
元は同じ一般庶民男子であるのに、この差は何だ。こうして橘華蓮の手を握りしめている今もそこに思いが至ると、虚しく腹立たしい気持ちが溢れ出てオーバーフローだ。今にして思うと氷堂のマンションに行った時、やけに馴れ馴れしく話していたのは義理の姉弟であったからだったのだ。くそう、返す返すも腹立たしい。
しかも、あいつの方が弟というのがまた更に何か癇に障る。一見、その可愛らしさや小柄さから、華蓮の方が妹のように見えるが、橘華蓮は四月生まれ、一方の流介は十月生まれなので、半年ほども華蓮の方が早く生まれたのだ。だから、華蓮が姉、流介が弟という「姉弟」なのである。
それの何がどういけないのか?と問われたならば、明確な答えを提出することはできない。しかし、癇に障るのである。イラつくのである。
それはおそらく、弟とは「年少者」、つまり言ってみれば、どこかしら可愛らしさを連想させる響きがあるからだろう。それが、「橘華蓮の弟」となれば、問答無用で可愛いという響きがどこかある。ところが事実はどうだ。可愛らしくあるべき「橘華蓮の弟」は、あの流介なのである。もやは嫌がらせにしか思えないギャグと言っていいだろう。
それはさておき、流介の父親と橘華蓮の母親(つまり橘カオル)が再婚したのは二人が小学校六年生の時であったらしい。それから三年間、二人は同じ家で暮らしていたが、中学三年の時から橘華蓮は家を出て、合宿と称して氷堂と暮らすようになって今に至るという。
橘華蓮と氷堂がペアを組んだのが中学一年の時で、流介はその時から氷堂とも面識があったという。なるほど、だから氷堂ともあんなに親しげだったのか。
それにしても橘華蓮はいわずもがなの有名人。その母親は著名なバレエダンサーの橘カオル。それに引きかえ、ただの流介。ものすごいサラブレッドの厩舎にとんでもない駄馬が迷い込んだものである。いや、駄馬というより驢馬であろう。
そんな風に流介への罵詈雑言の限りを思いつつ、手には橘華蓮の温もりを感じつつ、群衆を急ぎ足でかき分け続けた。橘華蓮は衣装のままだったが、シンプルなものなので特に目立つことはなかった。
それに、とても小柄なのも幸いした。道行く人々には気付かれずに、特に取り囲まれることもなく歩くことができている。橘華蓮が小さくて、色々と本当に良かった。
さて、そんな風にして大体育館へ行く道すがら、橘華蓮になんで今回の舞台に出演してくれたのか、聞いてみた。華蓮は少し黙った後、経緯を話してくれた。
開口一番、華蓮はこう言った。
「私はここの校長の孫だと思うの」
いきなりのヘヴィパンチを見舞われ、膝に来てしまったが、何とか持ちこたえて話の続きを聞いた。
音弧野高校校長が自分の祖父かもしれないという話は華蓮の母親、橘カオルから聞いたのだという。事の発端は氷堂が音弧野高への進学を決めたことだった。
氷堂が自分に何の相談もなく決めてしまったことを母親に愚痴り倒していたところ(愚痴りそうだ)、ふと母親は「因縁かもしれないねぇ……」と零してしまったらしい。
それについて華蓮はどういうことかと問い詰めた。はじめは、のらりくらりとかわそうとした母親だったが、結局華蓮のしつこさに根負けし(しつこそうだ)、教えてくれたという。
母親は、氷堂が進学することになった音弧野高校の校長は自分の父親かもしれない、と言ったそうだ。華蓮の母・橘カオルもまた彼女の母親、つまり華蓮の祖母に自分の父の存在を教えてもらったという。ただそれは、一枚の写真を見せてもらっただけだった。
華蓮が母から聞いた話は、始めはなんとなくの既視感があった。そして更に聞いていくうち、俺は嫌な予感を覚え、それが最後は確信めいたものに変わった。そして、おそるおそる呟いてみた。
「……なんだかどこかで聞いたことのある話だなぁ」
「今日の劇の台本そのままだよ」
「と言うと?」
「あの台本、私のお母さんが昔書いた小説が元になってるの」
「ほう、小説ねぇ……」
今、一瞬にして全てが繋がった。
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