毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

文字の大きさ
540 / 600
第二十五章 里帰り編

第523話 誕生石

しおりを挟む
「では、行き先を決めようか。ええと、美術館だったな。だがパリの美術館の数は膨大だ。どこに行けばよいのやら……」
「定番のルーヴル美術館もよいですがね。ところでモーズ先生、パリに来たご経験は?」
「2、3回だな。『国連災害管理資格』の試験を受けに来たのが最初だったか……。いずれも学生の頃の話で、観光もせずに帰宅した。パリに関しては、ここで暮らすルチル医師の方がよほど詳しいだろうな」
「成る程、わかりました」

 それでは、とルチルは一度言葉を区切ってから、モーズへ一つ提案をする。

「ワタクシ個人としては、『装飾芸術美術館』がおすすめですね。ルーブル美術館の直ぐ近くにあるのですが、名の通り装飾品を中心に展示がされている美術館でして、千を超える宝飾品も見られるのですよ」
「千を超える? それは圧巻だな。元より貴方に任せるつもりだったが、是非行ってみたい」
「よかった。テオさんも、そこでよろしいでしょうか」
「オレは何処でも! あくまでモーズ先生の付き添いなんで、気にしなくていいでーすっ!」

 確認をしてきたルチルに対し、テオはひらひらと軽い調子で手を振ると、存在感を薄める為かモーズの陰に隠れてしまった。
 尤も彼は口を開かずとも纏う空気が明るいので、多少隠れようとも気配を強く感じてしまうが。
 ちなみにモーズはテオが引っ付く度に、非常に居心地悪そうしている。

「では、参りましょう」
「あ、あぁ。よろしく頼む」

 そうして3人はルーブル美術館の一角にある、装飾芸術美術館へ向かった。
 装飾芸術美術館の外観は、煉瓦造りの建物だ。その内部、エントランスを入って直ぐの吹き抜けギャラリーは、白亜の壁と円柱、天井に重なるアーチと、まるで宮殿のような優雅な空間が広がっている。
 展示物は宝飾品に限らず、レリーフやタペストリー、家具や陶器、服飾や香水瓶、オブジェなど多岐に渡る。しかも一部の展示部屋は特定の時代のものだけで作られ、当時の空気を感じられるようこだわり抜かれている。

 美術館へ入り幾らか展示物を眺めた後、モーズはガラスケースに収められた宝石へ視線を向けた。

「ルチル医師は宝石について詳しいのだったか」

 スポットライトを浴び、多面的に光を反射する緑色の宝石。
 それがエメラルドなのか翡翠ジェードなのか、解説を読まなければモーズには判別がつかない。

「多少は。ワタクシの名は宝石から付けられていますから、親近感が湧くのですよ」

 モーズの隣に立つルチルは一目で「これはデマントイドガーネットですね」と、モーズの知らない宝石名を言い当てる。

「ガーネット? ガーネットは赤い宝石ではなかったか?」
「一般的には赤い方が知られていますが、グリーンガーネットという緑色のもあるのですよ。ちなみにサファイアも青色のイメージが付いておりますが、黄色や白色など、様々な色がありますね」
「そ、そうなのか」

 今まで透明な宝石はダイヤモンド、赤い宝石はルビーかガーネット、と大雑把にしか認識していなかったモーズにとって、宝石の持つ色は一つとは限らない事実はなかなかに衝撃であった。

「本当だ。イエローダイヤモンド、パープルサファイアなど、色ごとに名付けられているな……。ガラスと区別がつけられるかも怪しいというのに、これだけ細分化されてしまわれては、覚えられる気がしないな」
「宝石鑑定士ではないのですから、無理に覚える必要はないですよ。しかし話のタネには持ってこいでしょうね。例えば『誕生石』。一月から十二月まで、月毎に象徴する宝石を定め、自身が誕生した月と絡める」
「あぁ、誕生石の話は薄っすら聞いた事がある。聖書に記述された『12種類の宝石』が元になっているとか、どうとか」
「そういった説もありますね。現在、一般的に伝わっているのはアメリカの宝石業界が定めたものですが。ちなみにモーズ先生の誕生月はいつでしょうか?」
「わからない。わからない、が、誕生日はいつも、12月に祝って貰っていた」

 孤児院で祝われた時も、フランチェスコと18歳という節目を迎える事を祝った時も、12月だった。
 今後、何かの奇跡、例えば医学の進歩で本当の誕生日を知る事になったとしても、モーズの中では12月が誕生月である事は揺らがないだろう。

「12月ですか。誕生石は国によって若干の差が出たり、複数ある事もあります。しかし12月の誕生石は、大抵の国が共通している宝石が一つありまして」

 コツコツと靴を鳴らし、ルチルは展示室を移動する。
 そしてとあるガラスケースの前で足を止めた。
 中にあるのは、青と緑の中間に位置する、独特な色合いをした鮮やかな宝石。

「ターコイズ。別名、トルコ石ですね」
「トルコ石……」
「はい。トルコでは採れませんが」
「えっ」
「トルコの商人がここフランスへ持ち帰ったので『ピエール・テュルクワーズ(※フランス語でトルコ石)』と名付けられたとか。実際の産出地はペルシャです」
「なんと」

 とはいえ、トルコ石として世間に認識されているのは事実。
 つい昨日、トルコの地に足を踏み入れていた事を考えると、モーズはターコイズに奇妙な縁を感じてしまう。

「ターコイズは紀元前から知られている、歴史のある宝石です。昔は魔除けのお守りとして扱われる事もあれば、天空の神の宝石として神事に使われたりと、神秘を見出していたようですね。現在でも『安全』や『成功』、『健康』や『繁栄』と、ポジティブな石言葉が込められています」
「お守りか。実は先日、トルコでナザール・ボンジュウを購入してな。あれも青色のお守りで、ターコイズを見ているとふと思い浮かぶな」
「トルコに行ったのですか?」
「あぁ、用事があってな。滞在時間は僅かではあったが、フランスこことは空気からして違って、異国情緒を楽しめたよ」
「良いですねぇ。ワタクシもいつか訪れてみたいものです。ワタクシ、ヨーロッパの外に出た事がないので」
「私もクスシになるまで、ヨーロッパから出た事はなかったな」

 雑談を穏やかに交わしながら、2人は展示室を歩く。少し遅れてテオも後に続く。
 そして次にモーズの目に止まったのは、オニキスがふんだんにあしらわれた、真っ黒いネックレスであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

処理中です...