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第二十六章 交差する思惑
第547話 寄宿先
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アダマスが会議室を退室し、滞在部屋の準備が整うまでの待機を命じられた後。
再び居心地悪そうに着席したクララは、やはり居心地悪そうに両手の指を絡ませていた。
「ええと、わたくしとジョン先生は本日付けで会長になって、ウミヘビという特殊な殿方と行動を共にする……。で、よろしいのですよね?」
「然り」
「チッ、面倒な。折角、院長の辞任が叶ったというのに会長など……」
到着から間を置かずに役職を押し付けられたジョンは、だらしなく椅子に座り、テーブルへ思い切り頬杖えを付いている。
「それから監視とか利用価値とか、物騒な言葉も聞こえましたが、その意味を訊ねてもよろしいですかね?」
「俺達の身体は『珊瑚』が進化するに必要な材料に適しているんだろう。だから下手に接触しないよう管理し、時に利用する。それだけだ」
「し、進化とか材料だとか……。突然おっしゃられっても、何が何やら……」
情報の整理が追い付かず、クララは俯く。
ウミヘビという特殊な人間がいる事も、国連本部へ移動する最中に知ったばかり。その内容も身体能力が高く、身体が頑丈で病にも罹らず、そして毒を操る。特殊な兵士として使役されている。という大雑把なもの。
そこに加えてウミヘビの管理という名の世話やら、『珊瑚』への今までにない警戒やらが重なってしまっては、キャパオーバーになってしまうのも無理はない。
「此度の特殊学会、入場には事前の身体検査を必須としていた。そこから得た情報にて、汝は適正を見出されたのだろう。擬似餌は、多い方がいい」
「擬似餌なんて、嫌な表現ですわね……。わたくしもアメリカ感染病棟院長として『珊瑚』の撲滅を掲げています。あっ、今は会長でしたか? ええっと、どちらにせよ医師として、出来る事は全力で尽くそうと考えいますが……。訳もわからず命を捧げるのは、違うと思うのです」
「ならばウミヘビをよく知り、信頼を重ね、命を預けるに相応しい関係を築くといい。『珊瑚』から生き抜くにはそれが最適解であろうて」
ウミヘビを頼れ。
不安に苛まれているクララへ、ミシェルは己の見解を述べた。
「初対面の方を、ですか。そ、そうですわね! 共同関係になるのでしょうし、親しくしなった方が……!」
「……訳もわからず命を捧げる、か」
ぼそりと、独り言のように呟くジョン。
「ジョン先生? 如何しましたか?」
「別に。ウミヘビは最初からそうだと、思っただけだ」
「最初から……」
ウミヘビは必要ならば利用し、不必要ならば命を奪う。その程度の存在。
それは先程の討論で、クララもそれとなく感じ取れた。
ウミヘビの意思が全く反映されていない、当人達さえいない。にも関わらず、使い道を決められていく無情さ。
仔細を知らなくとも、彼らが理不尽に晒されている事がありありと伝わって、自身も息苦しくなったクララは膝の上で手の平をギュッと握り締めた。
少しの間、会議室に沈黙が流れる。
「クララ会長、ご移動をお願いします」
「は、はいっ!」
しかしそれは外からやってきた警備兵の声によって破られ、クララは慌てて席から立ち上がった。
作業的に指示を出してくる警備兵に従い、廊下に出てエレベーターに乗せられる。移動先は地下のとある階。特殊なボタン操作をしなければ向かえないらしい場所で、階層の表記もない。
ただ此処からはどう足掻いても、太陽の光は届かない事だけは、エレベーターの扉が開いた先、窓一つない薄暗い廊下を見て感じた。
「あっ、クロロメタンさん!」
しかし廊下の先、クララに割り当てられた部屋の扉の前には、クロロメタンが先に立っていて、クララは見知った顔が見られて心底、安堵した。
「よかったですわ、またお顔が見られて!」
思わず小走りで駆け寄り、クロロメタンへ笑いかけるクララ。
だが近くまで歩み寄った事で気付く。クロロメタンが青白い顔をしている事に。
「……少し、顔色が悪いようですが」
「何、少々血を失っただけよ。直に回復する」
何てことのないように微笑むクロロメタン。
「貧血という事ですか? でしたら直ぐに身体を横にして……」
「クララ会長、こちらをお待ちください」
そこでクララとクロロメタンの間に警備兵が割って入り、クララへ銀色の端末を握らされる。
クララの手の認証によってロックが解除されるそれは、通信機能が搭載されている他、部屋に入る為のパスキーとなっているのだという。
「此処で過ごすのに重要な物ですから、紛失や破損にご注意ください」
「わ、わかりましたわ。……あら? これ、側面にボタンがついていますね。電源やカメラのスイッチでしょうか?」
「ウミヘビの制御装置です。赤いボタンを押せば高圧電流が流れ、黒いボタンを押せば頭部が爆発します」
「えっ! 爆発……!?」
「近場で使用すれば巻き込まれる危険性がありますので、ご使用の際は充分に距離を取ってからにしてください。緊急事態、例えば菌床に閉じ込められた時に使用するのも手段の一つです。ご随意にどうぞ」
伝えるだけ伝えて、警備兵は「では失礼します」と一礼するとその場を立ち去ってしまった。必要と判断した事を機械的にこなすアンドロイドのような対応に、クララは困惑しながらも手の中の端末をじっと見詰める。
端末のボタンは触れた感触的に強く押す必要があるだろう。またクララの手にしか反応しない仕様な為、誤爆という最悪な事態はまず起きない。と思いたい。
そう判断したクララは恐る恐るクロロメタンへ顔を向けてみると、彼の首に付けられたチョーカーが目に飛び込んできた。端末と同じ銀色をしていて、厚みがある。装甲車両以前は付けていなかった物。あれが恐らく爆弾だろう。
「こ、こんな……。こんな、酷い道具……」
「星の乙女。此処は冷える、話は中で如何だろうか?」
クララが衝撃を受けている事を察してか、クロロメタンは入室を促した。
ちなみにこの階層に、クララの部屋以外は存在しない。いや、もしかしたらあるのかもしれないが、クララ及びクロロメタンからは他の施設に繋がる扉は見えない。
ここはクララとクロロメタンを収納する為だけに用意された、檻のようだった。
再び居心地悪そうに着席したクララは、やはり居心地悪そうに両手の指を絡ませていた。
「ええと、わたくしとジョン先生は本日付けで会長になって、ウミヘビという特殊な殿方と行動を共にする……。で、よろしいのですよね?」
「然り」
「チッ、面倒な。折角、院長の辞任が叶ったというのに会長など……」
到着から間を置かずに役職を押し付けられたジョンは、だらしなく椅子に座り、テーブルへ思い切り頬杖えを付いている。
「それから監視とか利用価値とか、物騒な言葉も聞こえましたが、その意味を訊ねてもよろしいですかね?」
「俺達の身体は『珊瑚』が進化するに必要な材料に適しているんだろう。だから下手に接触しないよう管理し、時に利用する。それだけだ」
「し、進化とか材料だとか……。突然おっしゃられっても、何が何やら……」
情報の整理が追い付かず、クララは俯く。
ウミヘビという特殊な人間がいる事も、国連本部へ移動する最中に知ったばかり。その内容も身体能力が高く、身体が頑丈で病にも罹らず、そして毒を操る。特殊な兵士として使役されている。という大雑把なもの。
そこに加えてウミヘビの管理という名の世話やら、『珊瑚』への今までにない警戒やらが重なってしまっては、キャパオーバーになってしまうのも無理はない。
「此度の特殊学会、入場には事前の身体検査を必須としていた。そこから得た情報にて、汝は適正を見出されたのだろう。擬似餌は、多い方がいい」
「擬似餌なんて、嫌な表現ですわね……。わたくしもアメリカ感染病棟院長として『珊瑚』の撲滅を掲げています。あっ、今は会長でしたか? ええっと、どちらにせよ医師として、出来る事は全力で尽くそうと考えいますが……。訳もわからず命を捧げるのは、違うと思うのです」
「ならばウミヘビをよく知り、信頼を重ね、命を預けるに相応しい関係を築くといい。『珊瑚』から生き抜くにはそれが最適解であろうて」
ウミヘビを頼れ。
不安に苛まれているクララへ、ミシェルは己の見解を述べた。
「初対面の方を、ですか。そ、そうですわね! 共同関係になるのでしょうし、親しくしなった方が……!」
「……訳もわからず命を捧げる、か」
ぼそりと、独り言のように呟くジョン。
「ジョン先生? 如何しましたか?」
「別に。ウミヘビは最初からそうだと、思っただけだ」
「最初から……」
ウミヘビは必要ならば利用し、不必要ならば命を奪う。その程度の存在。
それは先程の討論で、クララもそれとなく感じ取れた。
ウミヘビの意思が全く反映されていない、当人達さえいない。にも関わらず、使い道を決められていく無情さ。
仔細を知らなくとも、彼らが理不尽に晒されている事がありありと伝わって、自身も息苦しくなったクララは膝の上で手の平をギュッと握り締めた。
少しの間、会議室に沈黙が流れる。
「クララ会長、ご移動をお願いします」
「は、はいっ!」
しかしそれは外からやってきた警備兵の声によって破られ、クララは慌てて席から立ち上がった。
作業的に指示を出してくる警備兵に従い、廊下に出てエレベーターに乗せられる。移動先は地下のとある階。特殊なボタン操作をしなければ向かえないらしい場所で、階層の表記もない。
ただ此処からはどう足掻いても、太陽の光は届かない事だけは、エレベーターの扉が開いた先、窓一つない薄暗い廊下を見て感じた。
「あっ、クロロメタンさん!」
しかし廊下の先、クララに割り当てられた部屋の扉の前には、クロロメタンが先に立っていて、クララは見知った顔が見られて心底、安堵した。
「よかったですわ、またお顔が見られて!」
思わず小走りで駆け寄り、クロロメタンへ笑いかけるクララ。
だが近くまで歩み寄った事で気付く。クロロメタンが青白い顔をしている事に。
「……少し、顔色が悪いようですが」
「何、少々血を失っただけよ。直に回復する」
何てことのないように微笑むクロロメタン。
「貧血という事ですか? でしたら直ぐに身体を横にして……」
「クララ会長、こちらをお待ちください」
そこでクララとクロロメタンの間に警備兵が割って入り、クララへ銀色の端末を握らされる。
クララの手の認証によってロックが解除されるそれは、通信機能が搭載されている他、部屋に入る為のパスキーとなっているのだという。
「此処で過ごすのに重要な物ですから、紛失や破損にご注意ください」
「わ、わかりましたわ。……あら? これ、側面にボタンがついていますね。電源やカメラのスイッチでしょうか?」
「ウミヘビの制御装置です。赤いボタンを押せば高圧電流が流れ、黒いボタンを押せば頭部が爆発します」
「えっ! 爆発……!?」
「近場で使用すれば巻き込まれる危険性がありますので、ご使用の際は充分に距離を取ってからにしてください。緊急事態、例えば菌床に閉じ込められた時に使用するのも手段の一つです。ご随意にどうぞ」
伝えるだけ伝えて、警備兵は「では失礼します」と一礼するとその場を立ち去ってしまった。必要と判断した事を機械的にこなすアンドロイドのような対応に、クララは困惑しながらも手の中の端末をじっと見詰める。
端末のボタンは触れた感触的に強く押す必要があるだろう。またクララの手にしか反応しない仕様な為、誤爆という最悪な事態はまず起きない。と思いたい。
そう判断したクララは恐る恐るクロロメタンへ顔を向けてみると、彼の首に付けられたチョーカーが目に飛び込んできた。端末と同じ銀色をしていて、厚みがある。装甲車両以前は付けていなかった物。あれが恐らく爆弾だろう。
「こ、こんな……。こんな、酷い道具……」
「星の乙女。此処は冷える、話は中で如何だろうか?」
クララが衝撃を受けている事を察してか、クロロメタンは入室を促した。
ちなみにこの階層に、クララの部屋以外は存在しない。いや、もしかしたらあるのかもしれないが、クララ及びクロロメタンからは他の施設に繋がる扉は見えない。
ここはクララとクロロメタンを収納する為だけに用意された、檻のようだった。
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