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第十一章 キノコの国のアリス編
第226話 烏合之衆
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月明かりも届かない、常緑樹が辺りを覆い尽くす暗い森の中。
その闇に溶け込むように立っていたショールは、カールに刺された背中を腹側から抉り取り、身体の真ん中、ヘソを中心に丸い穴を作っていた。毒が《核》に回らないよう切断したのだ。
ここまでしなければ回避できなかった事態に、ショールは苛立ち拳を樹木の幹に叩き付ける。
拳を叩き付けられた樹木はそこから一気に樹皮を赤く染め上げ、月光を浴びていた緑葉までも赤へと染まり、やがて葉の先から根の先までの水分を全て失い枯れ果ててしまった。
「この僕を傷モノにするだなんて! 同胞擬きといえど、所詮は神を信じぬ獣か! 《人造人間》に組みする背徳者! 殺す、愚か者は殺す……っ!」
枯れ木に付いていた枯れ葉は風に吹かれれば容易に散り、森の奥へ散り散りに舞う。
それにより葉で遮られていた月光がショールの元まで届き、彼の足元に転がる首だけのオニキスをも照らした。
「あぁ、オニキス、オニキス……」
ショールは菌床から無事に回収できたオニキス、正確にはその《核》へ視線を移して――漆黒の瞳を見開く。
「ただの石ころが『アレキサンドライト』を壊そうなどと! 幾らでも代替えが利く能無しが! 身の程を知れ!」
そして衝動のままオニキスの頭を足で踏み抜こうとし、
【よせ】
脳裏に響いた、しわがれた声に止められた。
【それはまだ、再利用ができる。壊すのは、勿体無い】
「そうは言うがフルグライトよ! アレキサンドライトを手中に収められる絶好の機会を逃してしまったうえに、『スピネル』が壊された! 『パライバトルマリン』が奪われた! この怒り、激情、どうしてくれよう!」
【人の感情を真似た、一過性のものだ。時間経過で消える】
「いいや! いいや! 神の威光を示す為にも、僕は黙っていたくない!! 背徳者には天罰を下さねば!!」
【クスシを殺せばよいヨ】
しわがれた声に続き聞こえたのは、カタコトに喋る男の声であった。
そのカタコトに喋る男の声と話した内容に、ショールは更に怒りを募らせる。
「『鶏血』っ!! それができていれば我々は苦労していない!!」
【ひぃっ! いきなり叫ばないでくれヨ! 怖い、怖いヨ!】
カタコトに喋る男の声……『鶏血』は憤るショールに怯え、恐怖を抱いていた。
『珊瑚』の天敵であるウミヘビの絶滅と、そのウミヘビを従えるクスシの抹消はショール達の目指す所だが、並大抵の菌床や感染者では決して敵わない。
《御使い》として力を持つショール自身も、クスシであるカールを【収穫】しようとしたところ返り討ちに合い壊されかけた。
【手はあるネ。ルチルの《植物型》プランが頓挫した時から、代案を考えていたのヨ。それで溜飲を下げておくれ、ショール】
その上で、鶏血は「クスシを殺せる」と言ってきた。
臆病で小心者の鶏血。彼は決して希望的観測で物事を言わない。つまり確実に仕留められる策がある、という事だ。
「それは鶏血が直接、手を下すという事か? 御使いに選ばれていない未成熟子のお前が」
【アタシじゃないヨ。クスシと対峙するなんて怖くて怖くて、想像するだけで心の臓が止まってしまうネ】
「では誰が向かうというのだ。言っておくが未だラリマーは療養中だぞ」
【《御使い》の手を煩わせる事はないネ。教団の信徒にお願いするのヨ。クスシの始末を】
「未成熟子に……!?」
【そうヨ。ラボの奴ら今は『珊瑚』への警戒が強まっている反面、未成熟子の信徒には気を回せていないネ。その油断を狙うのヨ】
「だが未成熟子の連中にクスシを狩れる力があるとはとても言えない! そもそも連中にそんな度胸はない! 一蹴されて終わりだ!」
【度胸なんて要らないネ。集団になれば流されるのが未成熟子。何も問題ないヨ。烏合の衆がどれほど向こうみずな蛮勇を抱くのか……。それはショールの記憶の方が知っていると違うカ?】
そう言われたショールの頭の中に、薔薇の如き鮮やかな赤色の瞳をした――『ニコチン』の顔が、浮かんだ。
そのニコチンに連なるショールの記憶からして、鶏血の言う事は正しいと、知識上判断できてしまう。
【実行役はアタシが手配しておくヨ。アタシはラボの動向も把握しているしネ】
【……鶏血。いい加減、どこで情報を掴んでくるのか、教える気はないのか? 動向なぞ、国連と繋がっている、だけでは辿れない筈だ。国連警察であったネフェリンが知らぬ事も、お前は知っているようだが……】
【嫌ヨ。アタシの情報網をフルグライトに握られたら、アタシの価値がなくなってしまうネ。そしたら用無シ。【誕生日】を迎える前に養分を吸い尽くされて、カラカラにされるに決まっているネ】
「被害妄想が酷いな」
【アタシは弱い弱い未成熟子。力じゃなく情報でしか身を守れない、チキン野郎ヨ】
「だが今回のウミヘビの動きは読めていなかったじゃないか」
そのショールの指摘に対して、鶏血は少しムッと機嫌悪く喋り出した。
【スピネルに『パライバトルマリン』の回収を任せたのは、ショールの案であってアタシじゃないヨ。ウミヘビを警戒して直接姿は現さずに接触、引き込む作戦は、少しでも怪しんだら即決断、即実行、な彼には相性が悪い作戦だったネ】
「僕の失策だとでも!?」
【運が悪かったという事ヨ。過ぎた事はどうでもよろしイ。さっさと次に切り替えて、神饌の用意とヘビ共の抹消を達成しなくてハ。怖くて怖くて仕方がないネ。このままじゃ夜も眠れなイ】
「……ふん。眠りが必要な未成熟子らしい発想だ」
ショールはそこで首だけのオニキスを抱き抱え、月が浮かぶ夜空を見上げる。
「しかし殺せる方法があるのならば実行しない手はない。大自然の異物、ウミヘビ。人の都合で作られた哀れな《人造人間》。その力に溺れるクスシヘビは、速やかに駆除しなくては」
▼△▼
次章より『日本旅行編』、開幕。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。
『キノコの国のアリス編』これにて完結です。感染病棟の解説とペガサス教団及びステージ6の内情の仄めかし、『珊瑚』の生態の開示が主な役割だった本章。少しは設定の開示ができたかな?
次章は今回は影薄めだったウミヘビによる、ウミヘビの為の旅行編がいよいよ開幕!
ニコチンとアセトアルデヒドの掘り下げも着手していく予定です! お楽しみにっ!
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枯れ木に付いていた枯れ葉は風に吹かれれば容易に散り、森の奥へ散り散りに舞う。
それにより葉で遮られていた月光がショールの元まで届き、彼の足元に転がる首だけのオニキスをも照らした。
「あぁ、オニキス、オニキス……」
ショールは菌床から無事に回収できたオニキス、正確にはその《核》へ視線を移して――漆黒の瞳を見開く。
「ただの石ころが『アレキサンドライト』を壊そうなどと! 幾らでも代替えが利く能無しが! 身の程を知れ!」
そして衝動のままオニキスの頭を足で踏み抜こうとし、
【よせ】
脳裏に響いた、しわがれた声に止められた。
【それはまだ、再利用ができる。壊すのは、勿体無い】
「そうは言うがフルグライトよ! アレキサンドライトを手中に収められる絶好の機会を逃してしまったうえに、『スピネル』が壊された! 『パライバトルマリン』が奪われた! この怒り、激情、どうしてくれよう!」
【人の感情を真似た、一過性のものだ。時間経過で消える】
「いいや! いいや! 神の威光を示す為にも、僕は黙っていたくない!! 背徳者には天罰を下さねば!!」
【クスシを殺せばよいヨ】
しわがれた声に続き聞こえたのは、カタコトに喋る男の声であった。
そのカタコトに喋る男の声と話した内容に、ショールは更に怒りを募らせる。
「『鶏血』っ!! それができていれば我々は苦労していない!!」
【ひぃっ! いきなり叫ばないでくれヨ! 怖い、怖いヨ!】
カタコトに喋る男の声……『鶏血』は憤るショールに怯え、恐怖を抱いていた。
『珊瑚』の天敵であるウミヘビの絶滅と、そのウミヘビを従えるクスシの抹消はショール達の目指す所だが、並大抵の菌床や感染者では決して敵わない。
《御使い》として力を持つショール自身も、クスシであるカールを【収穫】しようとしたところ返り討ちに合い壊されかけた。
【手はあるネ。ルチルの《植物型》プランが頓挫した時から、代案を考えていたのヨ。それで溜飲を下げておくれ、ショール】
その上で、鶏血は「クスシを殺せる」と言ってきた。
臆病で小心者の鶏血。彼は決して希望的観測で物事を言わない。つまり確実に仕留められる策がある、という事だ。
「それは鶏血が直接、手を下すという事か? 御使いに選ばれていない未成熟子のお前が」
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【《御使い》の手を煩わせる事はないネ。教団の信徒にお願いするのヨ。クスシの始末を】
「未成熟子に……!?」
【そうヨ。ラボの奴ら今は『珊瑚』への警戒が強まっている反面、未成熟子の信徒には気を回せていないネ。その油断を狙うのヨ】
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そのニコチンに連なるショールの記憶からして、鶏血の言う事は正しいと、知識上判断できてしまう。
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【嫌ヨ。アタシの情報網をフルグライトに握られたら、アタシの価値がなくなってしまうネ。そしたら用無シ。【誕生日】を迎える前に養分を吸い尽くされて、カラカラにされるに決まっているネ】
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【アタシは弱い弱い未成熟子。力じゃなく情報でしか身を守れない、チキン野郎ヨ】
「だが今回のウミヘビの動きは読めていなかったじゃないか」
そのショールの指摘に対して、鶏血は少しムッと機嫌悪く喋り出した。
【スピネルに『パライバトルマリン』の回収を任せたのは、ショールの案であってアタシじゃないヨ。ウミヘビを警戒して直接姿は現さずに接触、引き込む作戦は、少しでも怪しんだら即決断、即実行、な彼には相性が悪い作戦だったネ】
「僕の失策だとでも!?」
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ショールはそこで首だけのオニキスを抱き抱え、月が浮かぶ夜空を見上げる。
「しかし殺せる方法があるのならば実行しない手はない。大自然の異物、ウミヘビ。人の都合で作られた哀れな《人造人間》。その力に溺れるクスシヘビは、速やかに駆除しなくては」
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殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。
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