毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十二章 日本旅行編

第247話 人工島アバトン

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 ◇

「ちょっ、ちょっ、カール先輩。話飛ばしてません?」

 人工島アバトン、オフィウクス・ラボの共同研究室にて。
 カールが語ってくれた《ウロボロス》の所業とウミヘビの製造経緯。ウミヘビの回収に尽力するためラボを留守にしている所長。その話を大人しく聞いていたフリーデンだったが、あえて話を止め、ずっと抱いていた疑問をぶつける。

「『珊瑚』の話が全く出てこないんですけど……? オフィウクス・ラボは珊瑚症研究に特化した組織で、実際、俺達は珊瑚症の事でてんやわんやしているじゃないですか。ここまで話に出てこないっておかしくないですか?」
「まぁね⭐︎ けど混ぜて話すとややこしぃ~くなるから、分けて話そうと思ってねぇ~。んっとね~。『珊瑚』が発見されたのが20年前でぇ~。生物災害バイオハザードが起きたでしょ~? その時、ウミヘビが『珊瑚』に有効って判明してねぇ~」

 それはクスシならば常識として知っている。
 ウミヘビは生身でも戦闘能力が非常に高く、それでいて感染の心配もない。菌床処分含めた災害対処に打って付けの存在だ。

「不老不死研究の傍らで造られたのが本当の所なんだけど、俺ちゃん自身ウミヘビが《人造人間ホムンクルス》って知った時は災害用に作られた生物兵器なのかと思っちゃったよねぇ~。シアンとか素で好戦的な性格してたし」

 カールでさえ勘違いしてしまった程、ウミヘビは『珊瑚』に対してあまりにも、相性が良すぎる。
 そうなると平和と安全の維持を役目とする国連が黙っている筈もなく。

「ウミヘビの存在を知る国連も目を付けて、所有権争いが勃発したらしいのよ」

 一体誰が、ウミヘビを扱う権利を持つか。
 産みの親であり災害発生以前からウミヘビの管理をしていた所長は当然その所有権を主張し、《ウロボロス》解体時に関係を絶っていた国連に委ねる義理はないと突っぱねた。
 しかし世界規模で同時多発的に巻き起こっている生物災害バイオハザードの危機の中、国連も「はいそうですか」と頷く事はできない。
 所長が自らの手で製造した5人のウミヘビ以外の所有権は持ち得ないのでは、などと主張し、各々が独自に災害対処をこなす裏では泥沼の権利争いが展開していたらしい、とカールは語る。

「副所長曰くねぇ、国連上層部と争ってたそん時の所長、世界滅ぼしかねない勢いだったとか何とか言ってたんだけど、ほんと~かな~?」
「滅ぼ……。え、オフィウクス・ラボって実は悪の組織だったりするんです?」
「う~ん、あ~……。ウミヘビの力を使えばできなくはないかも、と思えちゃうから否定し難いね……」

 世界を滅ぼしかねないと聞いて、フリッツはアメリカ遠征の際に連れて行ったシアンの姿を思い浮かべてしまう。
 元より国を滅ぼせる力を持つ、という評価がついている事は知っていたが、人間を高所まで軽々と投げる腕力、毒耐性が高まったステージ6でも速殺できる毒の強さ、超長距離だろうと撃ち抜く射撃術と、シアン一人でも街一つ破壊できる力が備わっている。
 しかも所長に懐いているのはウミヘビの中で最高齢であり、最強格である水銀。質量攻撃もできる汎用性の高い液体金属を操る彼ならば、どんな人間でも容易に屠れる。総じて、世界を相手取る武力は十分すぎる程に持っている。

「まぁ災害時に争っていてもお互い消耗するだけだからぁ、最終的に所長は国連の上層部に取り引きを持ち掛けたんだって。ウミヘビを管理する名目で人工島を作れ、って」

 どの国にも属さない人工島『アバトン』を。

「大西洋に人工島を作ってそこにウミヘビを住まわせる。災害が起きた時は貸し出す。『珊瑚』に関する研究もしつつウミヘビを管理する。数々の対珊瑚症の薬を製薬した功績も盾にして、所長はこの交渉で見事、人工島アバトン、そして《オフィウクス・ラボ》創立に成功してねぇ~。15年前に爆誕! したらしいんだよねぇ」

 国連と所長の間で譲歩と妥協と擦り合わせを重ねた結果、人工島アバトンが完成し、現在のオフィウクス・ラボが創られた。

「あと俺ちゃん小耳に挟んだんだけど、人工島が完成したら認識阻害装置を駆使して雲隠れする案もあったみたいだぁよ」
「うええっ!?」
「嘘だろう……!?」
「な、何だと!?」
「ちょっと、それ僕も初耳なんだけど!?」
「あくまで噂だけどねぇ、噂」

 『珊瑚』に苦しむ人々を放ってウミヘビと島に篭もる案。
 いくら噂といえど『珊瑚』撲滅の為に死力を尽くすフリーデンらは狼狽してしまう。

「ともかくぅっ。そんなこんなでウミヘビの為の楽園ができたってコ・ト♡ あ、でも勘違いしないで欲しいんだけど、所長は珊瑚症の研究にも本気で取り組んでいるよ? じゃなきゃそもそも製薬とかしてないって。寧ろ誰よりも『珊瑚』の撲滅に尽力しているのは、きっと所長だよ」

 カールは困惑するクスシ達を落ち着かせるように、淡々とした声音で話を続ける。

「だってウミヘビは『珊瑚』に有効だけど、『珊瑚』の為に産まれて来たんじゃないからねぇ。菌床処分っていう危地に縛り付ける役目から一刻も早く解放する為に、所長は身を粉にしてる」

 所長の最終面接を受けた者は皆、覚悟を問われる。
 ラボに何を求めるのか。『珊瑚』に何を求めるのか。
 それは所長が自身と志を同じにする者を選出したいからに他ならない。
 所長は自分と同じように命を投げ打ってでも『珊瑚』を屠る意思と力を持つ者を、求めているのだから。

「そんで《ウロボロス》の話に戻るんだけどねぇ。もうほっとんど始末し尽くしたと思っていたんだけどぉ。ここに来て死体が、『珊瑚』に利用されている可能性がでてきた」

 カールはそこでホログラム画像に一人の男の姿を映し出す。
 洞窟の中でイコンを抱えて佇む黒髪黒目の男、『ショール』の姿を。

「死体だろうと、元研究員に寄生してその頭脳を利用されたらちょー厄介! 不老不死なんて御伽話の実現をガチで目指していただけあって、どいつもこいつも頭よしよしちゃんばっかで困っちゃう! ……ま、実際には大分知能下がってたけど」

 ぼそりと、小さく悪態をつくカール。
 だが知能が多少落ちていても、ステージ6の脅威と合わさるとその危険性は格段に上がってしまう。

「ペガサス教団の動きがここ数ヶ月やけに活発だし、ステージ6が現れるし、前例にない菌床やら【大型】やらが発生した挙句、11年も前に死んだ筈の人間が今になって姿を現した理由とかぜーんぜんわかんないけど……ヤバイことになってきたよ。こりゃ」

 ◇

「叶うならばパラチオンは『珊瑚』を撲滅するまでネグラで過ごして頂きたかったのですが、ステージ6へと変貌した《ウロボロス》の出現により、そうも言っていられない状況となってしまった」

 廃墟の中で、アトロピンはパラチオンを【檻】から出した経緯を語る。

「パラチオンの毒素であれば、毒耐性の強いステージ6にも有効だとモーズ殿が証明済み。よって貴方も今後、前線に出て頂く事になります」

 そう話すアトロピンの表情は酷く悲しげで、今にも涙をこぼしそうな程に見えた。
 その表情が面白くないパラチオンの眉間にシワが寄る。

「何故、悲しげな顔をしているんだ。アトロピン」
「実際、悲しいですからね。幼い貴方に、頼らなくてはならないのですから」
「俺様は子供ではないっ!」

 実年齢的に幼いのは事実だろうに、それを指摘されると怒る所がまた子供っぽいのだが、パラチオンはわかっていないようだ。

「憂いる事などないではないか。ステージが何だろうと俺様が完膚なきまで『珊瑚』を死滅させる。それだけだ。何と単純でわかりやすい」
「……訓練と実戦は異なります。追々学んでいきましょう、パラチオン」

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