毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十四章 煙草の灰

第300話 事情聴取

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 《ウロボロス》の研究所跡地を可能な限り調査した後、日本感染病棟へ戻る車内にて。
 モーズは改めてニコチンへ礼を述べた。

「昔の事を話してくれてありがとう、ニコチン。嫌な思いをしただろうに」
「別に。『ショール』ってのと、またかち合うかもってんなら、話しといた方が合理的だと思っただけだ」
「それでも、ありがとう」
「……絶対にアセトの耳に入れるんじゃねぇぞ」
「あぁ。約束する」

 アセトアルデヒドは非戦闘員で、日本から帰還すれば人工島アバトンから出る事はない。よってネグラでショールという『動く室長の死体』の話を出す事さえ気を付ければ、アセトアルデヒドはその存在さえ知らないままでいられるはず。
 ネグラでの発言は十分に気を付けなければ、と肝に銘じている内に空陸両用車は日本感染病棟の駐車場に到着。車を車庫へ自動的に戻るよう設定した後、モーズはニコチンを連れ駐車場へと降り、そのまま感染病棟の寮の受付へ向かい、車のレンタルを終えた事を事務員に伝える。
 すると対応してくれた事務員が「モーズ様が戻ったら院長に連絡して欲しい承っております」と言ってきたので、内線電話を借り連絡をしてみると『今そっち行くけん』と受話器越しに言われ、職務で忙しいだろうに柴三郎はわざわざ受付まで出迎えてくれた。

「モーズ、おかえりさん。ぬしにお客しゃん来とるばい」
「客?」

 そしてそのまま、柴三郎の案内で寮の談話室へ連れて行かれる。

「遅い……!!」

 中で待っていた客とは、国連の警察マイクであった。

「昨日は話せる状態ではないからと追い出され、わざわざ出直してやったのに留守にしているとは! 私は後始末に検挙に忙しい身なんだぞ!? ウミヘビも放置して一体どこほっつき歩いていたんだ!」
「す、すまない。少々野暮用があってな。しかし菌床の話ならば青洲さんに訊く事も」
「狸寝入りを決められた……!!」
「あぁ……。そうか……」

 ここで面倒臭がり屋を発揮しないで欲しかった。モーズはマスクの下で遠い目をする。
 マイクは「いいからとっとと座れ」とモーズを自身の向かいのソファに座るよう催促した後、モーズが座ったと同時にローテーブルを手の平でバンッと叩き、鋭い目を向けてきた。

「ペガサス教団の集会所で何があったのか。洗いざらい吐いて貰おうか」
(何だろう。パラスでの取り調べを思い出す)

 人工島アバトンやアメリカで会話を交わした時はもう少し紳士的だったと記憶しているが、ストレスからか疲労からか、大分態度が横柄になっている。
 ちなみにニコチンは、話が長丁場になりそうな事を察してくれた柴三郎が、宿泊している部屋へ連れて行ってくれた。
 よって時間を気にする事なく、モーズは集会所で起きた菌床の騒動をつまびらかに述べたのだった。
 
 *
 *
 *

「銃刀法違反(※日本の場合)に人攫いに器物破損に殺人未遂に《原木》の違法所持。叩けば叩くほど、埃しか出てこない奴らだな」

 モーズの話をタブレット型電子端末に記載しつつ、マイクは呆れたように言った。

「この《原木》の残骸は回収はできた。危険性も記録映像から証明できる。特殊事例だとしても実態解明の為、《原木》の規制が更に強まるだろう。がしかし、他の物的証拠の大半はお前達に木っ端微塵にされたんだが? お陰で調査が難航しているぞ、こっちは」
「誠にすまない。手段を選んでいる場合ではなくなってな」

 菌床と化した集会所、豪邸と呼ぶに相応しい日本家屋は、ヒドラジンの放ったロケット弾によって破壊し尽くされてしまった。
 寧ろそんな中、残骸とはいえ《原木》を回収できた方が奇跡だろう。国連警察の執念を感じる。

「だがこれだけの材料を揃えても教団の解体には届かず、か。忌々しい」
「何? 実質バイオテロ組織から“実質”を剥奪できる程の出来事なのにか?」
「あぁ。ペガサス教団は【教祖】のカリスマ性で作られているような組織なんだが、その肝心の【教祖】の尻尾が未だに掴めていない。捕まえられるのはいつも末端の信徒のみだ。本拠地もどこにあるんだか……」
「ペガサス教団の名の使用や集会を禁じれば、統制が取れなくなるのでは?」
「名の使用や集会を禁じても、名前を変え形式を変え信仰を続ける事だろうよ。今の時代は独自のサーバーを使ったオンライン集会も多くて、実態を掴み難いしな。そもそも上層部は危険分子を炙り出す為、ペガサス教団の名前の使用を禁じる事はしないそうだ。煽るだけ煽って一網打尽に、などと考えているのだろうが……。できていたら20年近く野放しになっていない。現場の苦労を知らぬ方々だ」

 マイクは重い溜め息と共に、ソファへ背中を預ける。

「……すまん。愚痴を吐いた」
「貴方も苦労しているのだな」

 現場を担当する者と現場に直接赴かない上層部との間にギャップが生じる事は往々にしてあるが、国連でもそれは変わらないらしい。
 少人数でオフィウクス・ラボの運営、管理をしているクスシとは異なり、国連は巨大組織である分、その隔絶は大きいと想像できる。

「……。上層部……」

 マイクの口から出た『上層部』とは、国連の上層部。
 不条理な契約をニコチンへ押し付けた者達。
 その上層部とマイクは、コンタクトを取れる。国連管理下とはいえ外部組織に属するモーズよりも、密接な状態で。

「マイクさん。私は国連の組織図をよく知らないのだが、国際連盟秘密警察は軍を指揮下におけるのだろう? 国連軍より立場が上なのか?」
「それは階級による。が、指揮権を与えられるのは確かだ。国連軍より上の立場とも言えるな」
「成る程。それだけの立場が与えられるという事は、国連警察のトップともなれば国連政府との関わりも強いのだろうな」
「まぁ政府から直接命令が来る事もあるしな。『司令官』ともなれば、政治要人と会議を開く事も……。って、何を喋らせているんだ。お前には関係ない事だろうに」

 関係は、ある。
 モーズは意を決して、少し前のめりとなった姿勢で話を続けた。

「マイクさん。貴方の階級は今、どの辺りだろうか?」
「はぁ? 何だいきなり。秘密警察に訊く事か? ラボ程ではないとはいえ、こちらも機密組織なんだぞ」
「私の立場を自覚する為にも、どうか、教えて欲しい」
「はぁー……。有事の際、俺は佐官に相当する階級を与えられる、とでも覚えておけ」
「佐官か。ふむ。そこから司令官になるには……」
「おい? 何をぶつぶつ喋っている?」

 佐官とは大佐、中佐、少佐の総称。その上にある階級は将官のみ。司令官と呼ばれる者は、この将官の地位に着いている者だろう。
 マイクが具体的にどの階級に位置するかは不明なものの、どちらにせよ上から数えた方が早い階級だ。外見年齢的に30歳前後だと予想できる彼がそれだけ高い地位にいる、つまり弛まぬ努力で成り上がった(根回しもあっただろうが人脈も実力の内)事に感心しつつ、モーズはこう思った。
 。と。

「マイクさん。貴方は昇進に、興味ないだろうか?」
「……は?」



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