毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

文字の大きさ
333 / 600
第十五章 平和が終わる日

第324話 指輪

しおりを挟む
 ホラーゲームを終えた後は、クララはウィンドウショッピングタイムに入った。
 やっぱ女の子って服屋好きみたいだな。ショッピングモールに入っている服屋のテナント、片端から見始めてる。正直、俺はファッションにあんま興味ないから、眺めてても何がいいのかわかんねぇけど、クララが楽しいなら、それでいいか。

「実物のお店がいっぱいあるのは都会の魅力だね~。試着もし放題じゃん」
「まっ、まぁ楽しいよな。……値段を見なきゃな」
「あっ!」

 次の店舗に向かおうと通路を歩いていたクララが、突然大きな声を出したもんだから、俺はびくりと肩を大きく震わせてしまった。

「どうしたっ、クララ!」
「あれ、あそこ!」

 どこか興奮気味の彼女は、俺の手を引いて早足に歩き始める。目的地は先は宝石店だ。
 そこのショーウィンドウに飾られた宝石に目を奪われて、駆け寄りたくなったみたいだな。

「すっごい綺麗……。画面越しに見るのとじゃ、全然違うんだね……」

 クララはショーウィンドウの中で輝く、彩りどりの宝石を見て、恍惚とした表情を浮かべている。本物の宝石を見たのは今日が初めてだろうから、興奮もするか。
 キラキラした物が好きな所は、やっぱ女の子って感じがするなぁ。偏見かもだけどさ。

「クララは、さ。どんなのが好きだ?」
「どれも好きだなー。あぁでも、これとかいいかも」

 クララが指差したのは飾り棚の中央、赤い敷物の上でも存在感を放つ、透明感のある碧い宝石が埋め込まれた指輪だった。
 ショーウィンドウの真上にかけられたライトにペカッと照らされていてるからか、特に眩しく見える。

「碧い奴か。確かに綺麗……」
「シティボーイくんの目にそっくり」

 ……は?
 クララの言った事が意味わからなくて、いや意味自体はわかる、んだけど、含みがある感じのこと言われて俺の頭の中は真っ白になってしまった。
 なぁその発言って、その、言葉の裏、ある? それともストレートにそのまんまの意味? 俺の深読み? 勘違い?
 ぐるぐると巡る思考の渦の中からどうにか言葉を紡ごうとしている内に、ピピピピとクララの携帯端末が鳴って、その着信に出る為にそっぽ向かれちまった。

「あっ、親父からだ。そろそろ来ると思っていたんだよね~」

 そのままクララは電話越しにおじさんと話を始める。

「うん、うん。わかればよろしい。あたしのパートナーはあたしが決める! 肝に銘じて?」

 ピッ
 短いやり取りであっさり電話を終えたクララは、手に持っていた携帯端末をポシェットにしまうと、俺に向かってニッと勝気な笑みを見せてくれた。

「親父が折れてくれたよ~。時間潰し付き合ってくれてありがとね」
「そ、そうか。駅の場所わかるか? 送っていくよ」
「そうだね。エスコートして貰っちゃおうかな」

 めちゃくちゃ年上の婿を迎える、って話は無事に立ち消えたらしい。
 それはよかった。クララは正真正銘、フリーだ。
 ……ここでもし、俺がクララに指輪送ったら、受け取ってくれるか? 笑って突き返すか? 気不味そうな顔して断ってくるか? そのまま居心地悪くなって疎遠になるか? 嫌な想像力ばっか働く。俺こんなにネガティヴだったっけか?
 マイナス思考が強くなっていく内に駅の改札まで着いちまって、結局最後はロクな会話をする事なくクララとは別れてしまった。
 ともかく「気を付けろよ!」とか「身体冷やすなよ!」とか「婆ちゃん達によろしく!」とか無難な事ばっか伝えたけど、そうじゃない。
 そうじゃないだろ。

 ◇

「馬鹿馬鹿馬鹿! 俺の意気地なしぃいいいっ!!」

 寮の自室に戻って直ぐに、俺はベッドにダイブしてガキみたく手足をばたつかせた。そんで駄々っ子みてぇに大声で叫んだ。
 ドンッ! 薄い壁が叩かれて、隣室からクレームが入る。こんなに騒いでちゃ怒られて当たり前だ。あ~実家の畑のど真ん中なら、幾ら叫んでも誰にも迷惑かねぇのになぁ。広すぎて他人に聞こえねぇもん。
 俺はゴロンと寝返りを打って仰向けになる。上にあるのは星の瞬く夜空じゃなくて、無機質な天井。屋内なのに何か寒々しい。

「……。ちゃんと学校出て、医師免許取って、就職して、金貯めて……」

 『いい男』になったら、受け入れてくれるだろうか?

(いっ、いや! 悠長な事してたら駄目だろ俺! 次に帰省した時にビシッと決めて……!)

 次に帰省する時は冬季休暇。クリスマスシーズンど真ん中。
 告白するにはぴったりの時期だ。

(指輪……)

 脳裏に浮かぶのはショーウィンドウの中で輝いてた、碧い宝石の指輪。告白ついでにクララが気に入ってたその指輪を土産として渡したら、あいつ喜んでくれるか? クリスマスだし、何かプレゼントがあった方がいいよなぁ。
 ん? でも指輪渡すってお付き合い飛び越えて、結婚の申し込みにな……。
 ああああ!! 何考えてんだ俺!?

(考え直せ! いきなり結婚申し込むのは気が早すぎるだろ! お付き合いのオーケーが貰えるのかもわからないってのにっ!)

 俺は再びうつ伏せになって頭を抱える。
 クララの事を考えると変な妄想ばっかしちまう。それもこれも、事前連絡なしにいきなりやって来るから……。
 昔からだ。
 村で同い年のガキは俺だけだからって、学校帰りに川遊び付き合わせたり、近所のキャンプ場まで引き摺られて星見に付き合わせたり、俺の実験場も兼ねてる作業小屋に入り浸って勝手に勉強し始めたり、っな感じで、俺のペース崩すのも、するっと俺のテリトリーに入ってくるのもお手のもの。
 お転婆で奔放、って言葉がぴったりなやつだった。あれでも少しお淑やかにはなってんだよな。
 そんな、一緒に馬鹿するのが楽しくって、話し出すと夜が更けるまで止まらなくって、ずっと隣にいるのが当たり前で……。

 思春期入った頃には、あいつとこの先も側に居たいと思うようになっちまって、ギムナジウム卒業した頃には、それを自覚するようになっちまって、もう、どうしようもない。

(……医者になって、村で小さな診療所開くのも、いいんだよな。そしたら収穫期とかは父さん達やクララの手伝いできるし。金貯めてシミュレーター買ったら、オンライン診察も充実する。足の悪い婆ちゃんや、村の端で暮らしてる人も気軽に診られる。充分、生計立てられる……。いや妄想する前にちゃんと医者になれって話だよな。まずは勉強しろ、勉強……)

 がしかし、今日はどう頑張っても勉強に集中できる気がしない。
 俺は全てを諦め、惰眠を貪る事にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...