毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十七章 迷子の子供達編

第366話 無差別銃撃

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 海中に生息するハナガサクラゲは、『待つ』狩りもするタイプのクラゲである。
 海藻に絡まりじっと動かず、近付いてきた小魚に刺胞を刺し毒を注ぎ、傘の下に入れ食する肉食。それもただ一撃で獲物の動きを止められる、強い毒を用いる。
 それと近しい生態を持つハナガサクラゲ型アイギスもまた、床に根を張っているかの如く動かず、隔離部屋内に作られた菌床のあちらこちらにへばり付くだけで宿主たるフリードリヒを守ろうという素振りを見せない。
 フルグライトが特殊学会参加時に遭遇した、積極的に空中を泳ぎ、剛力を持って芽胞状態の菌糸を壊しにきたパウルのタコクラゲ型アイギスとは大違いである。

「君はアイギスの扱いが下手だね、フリードリヒ。確か、パウルだったか。彼の方がよほど上手い」
「それが何だ」

 挑発的な物言いをされたと言うのに、アイギスの操作性というクスシとして重要な筈の技能は、フリードリヒにとってはどうでも良い事のようで、さらりと流してしまう。

「そもそもアイギスを戦闘に組み込もうなどと、非効率もいい所だ。アイギスこいつがすべき事は守りであって攻めではない。罪人の断罪をするならば」

 話しながら、フリードリヒは白衣を翻し蛇の鱗柄をした裏地を曝け出すと――そこに武装していた機関銃を手にし引き金を引いた。

「こっちの方がよほど手っ取り早い」

 ダダダダダッ!
 菌床からイソギンチャクのように生えた菌糸を撃ち抜く機関銃の弾は、毒弾だ。ウミヘビの銃撃と異なり弾数に限りがあるにも関わらず、一切の出し惜しみなく放たれる毒弾。その標的は、無差別。
 フルグライトはすかさず自身とモーズの前に菌糸の壁を生成し、防壁を作る。その防壁にも毒弾の嵐が注がれ、着実に削っていく。

「ここまで野蛮だとは……! アレキサンドライトが割れてしまったら、どう責任を取るつもりだい?」
「知らん。餓鬼もアッフェではあるが一応クスシだ。この程度、守れんでどうする」

 モーズを連れ帰りに来た筈なのに攻撃を仕掛けるという、支離滅裂な行動をしているフリードリヒ。
 先が読めない行動を繰り返す彼に危機感を覚えたフルグライトは、フリードリヒを片すのではなく退く事を決めた。

「オニキス、撤退しよう。アレキサンドライトを運んでおくれ。……オニキス?」

 防壁を展開する方に手を取られている中、フルグライトはモーズの前でしゃがみ込んだままだったオニキスに声をかけるが、反応はない。
 それどころかオニキスは防壁を作ろうともせず、銃弾の嵐を直に浴び、その身を赤黒く変色させていった。
 自死を選んだのだ。
 フルグライトの目が冷ややかなものに変わる。

「君はもっと輝けると思ったのだけれど、ガッカリだ。折角、再利用リサイクルしてあげたというのに……」

 間もなくヒビが入り砕けていくオニキスの身体。前回と異なり頭部にも毒が蝕んでいき、側面から崩れていく。
 だが今までずっと無表情だったオニキスの口元は緩く弧を描いていて、どこか満足そうな様子で、砕け散っていった。

「……トール。いや」

 オニキスが赤黒く染まった石灰のような粒子となったと同時に、もぞりと動き出す人影、モーズ。

「フルグライト……!」

 彼は緑色の左目でフルグライトを睨み付けながら、片膝を立て起き上がった。
 右手首からはアパタイトを殺めた猛毒を宿すアイギスの触手が生え、蠢いている。これではフルグライトは近付けない。

「まさか、起きるとは」

 再びをモーズに施し失神を狙うとしても、先程のように激痛で暴れてしまえば、フリードリヒの銃撃を被弾する懸念が出てしまう。
 とは言え、これだけ絶え間なく撃ち続ければそろそろ弾切れになる筈。とフルグライトがフリードリヒの方へ注意を向けたその時、ポトリと、足元に何かが落ちてきた。
 ピンが抜かれた、手榴弾である。

「……っ!」

 ドカンッ!
 間髪入れずに手榴弾は爆発。フルグライトの近くにいたアイギスも爆風に巻き込まれ壁まで吹き飛んだが、お構いなしである。
 爆発する直前にモーズとフルグライトの周囲に菌糸の繭を作り、爆発のダメージは防いだものの、フルグライトの方も養分に限りがある。自分の身だけならば、幾らでも守りようがあるが――
 このままでは、モーズを守りきれない。

『ここまで、ここまで来て、手放す事になるとは……。とても悲しいよ、アレキサンドライト。だが必ずまた、迎えに来よう』

 ドカァンッ!
 もう一度投げられたと同時に爆発した手榴弾は、フルグライトを包んでいた繭を破壊した。だがその中は空洞で、彼の姿はどこにもなかった。
 〈根〉の役割を担っていただろうフルグライトが消失した事により、菌床は瓦解。片端から死滅していき、モーズを包んでいた菌糸の繭も朽ちすんなりと出る事ができた。

「う……っ」

 しかし繭から出られたはいいものの、失神する程の激痛を味わったモーズの四肢は本調子ではなく、立ちあがろうとしたのに床の上に崩れ落ちてしまう。
 何とか立とうと腕に力を込めても身体を起こせず、足も痺れて言う事を効かなかった。

「帰るぞ」

 その時、モーズの身体がふわりと浮き上がり、フリードリヒの頭上に固定される。フリードリヒの頭上で傘のように浮かんでいるアイギスが、触手でモーズを持ち上げの上に乗せたのだ。
 そのままフリードリヒはフェイスマスクを付け直しつつ、出口に向け歩き始める。彼の動きに合わせ、モーズも一緒に移動する形となった。

「その、フリードリヒさん。助けに来てくださって、ありがとうございます」
「セレンとタリウムの頼みだ。礼なら彼等に言え」
「っ! セレンは無事なのですか!? よかった……っ」
「何もよくないわ! この馬鹿ドゥムがっ!!」

 唐突に怒り出し、モーズを怒鳴り付けるフリードリヒ。

「セレンは中毒になっていたんだぞ!?」
「え……っ!?」
「おれが来ていなければどうなっていたのか……! フリーデンといい、どいつもこいつもウミヘビの管理を放棄しおって! クスシならばウミヘビにかしづけ!! その為に存在しているんだろうが! えぇ!?」
「そ、そんな、セレン……。……。……? あの、フリードリヒさん? クスシは珊瑚症の研究の為にいるのでは?」
「寄生菌の対処など、ユストゥスに押し付ければいいだろう。その為におれは奴に推薦を出したのだからな」
「ええ……」

 全てにおいてウミヘビを優先する、フリードリヒの徹底振りにモーズは困惑する。だが彼が居てくれたお陰でセレンの中毒を対処できたと思うと、何より嫌々といった風だが救出してくれた事実を鑑みると(※モーズはフルグライト諸共銃撃を受けていた事を把握していない)、あまり責められない。
 研究所の出口に辿り着く頃には、モーズは何とか身体を動かせるようになっていたので、アイギスから降ろして貰い自分の足で歩き始める。
 そして近場に駐車していた車の側に辿り着き、そこでタリウムとセレンの2人と合流を果たした。

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