毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

文字の大きさ
390 / 600
第十八章 序曲の不協和音

第378話 バトルロワイヤル部屋

しおりを挟む
「ふーんふふーん♪」

 訓練所の二階。シミュレータールームの中を、自称資料室の主ことホルムアルデヒドが鼻歌を歌いながら上機嫌に歩く。

(最近は戦績もあがってポイントも貯まってきたし、俺もやればできるタイプだったみたいだなぁ)

 見るからに上機嫌な理由は、戦闘訓練で白星を取ることが増え、戦績がよくなったことと懐に余裕ができてきたことである。数年間、戦闘訓練を忌避していたにしては上々ではないかと、ホルムアルデヒドは自分で自分を褒めていた。
 絶好調と自負している彼は、そのまま軽やかな足取りで空いている卵型機器カプセルへと入る。次いで戦闘訓練を受ける為に試合申し込み画面を開いた。

「ん? 何だ? バトルロワイヤル部屋でやたらポイント配分の高い試合してる?」

 一対一タイマンで戦闘をするのか、複数人で乱戦をするのか、はたまたチーム戦をするのか。他にも幾つかの試合形式があり、ウミヘビは試合申し込み画面で好きに決めることができる。
 この内の乱戦形式――バトルロワイヤルが開催されている仮想空間が、普段よりも桁が二つも違うポイントの配当が設定してあった。試合に参加しているウミヘビに勝利を重ねれば、その分ポイントが貰え懐が潤う。試合内で死亡判定を受けたとして退室ログアウトするまで何度もリトライができるので、気が済むまで戦えるうえに、相手を倒し続けられたら高配分のポイントを頂戴できる。
 なんとも儲け率が高い試合だ。ホルムアルデヒドは口角をあげた。

(よぅし! この試合もサクッと勝って、ペンタクロロ達と何か美味い飯でも食うか!)

 ホルムアルデヒドは迷うことなく、早速バトルロワイヤル部屋へ入室した。

「きゃうっ!」
「うおあっ!」

 と同時に、前方から飛んできたウミヘビにぶつかってしまい、思い切り尻餅をつく。
 なんだなんだとぶつかってきた相手を確認してみると、その相手は槍型抽射器を片手に目を回すクロロホルムであった。

「クロロホルム!?」
「これちょっと無理無理! 棄権する~っ!」
「えっ、何で!? 何があった!?」

 ホルムアルデヒドの問いかけに答えることなく、慌てた様子で退室ログアウトしてしまうクロロホルム。
 強敵がいるのかと、ホルムアルデヒドは自分の抽射器であるメイスを片手に警戒するものの、辺りに人の気配はない。少し遠くから、銃声や金属音がぶつかり合う音が聞こえはするものの、ホルムアルデヒドへ向けられる殺気は感じない。
 目の前の光景は、高層ビルが立ち並ぶ人はオフィス街、というシンプルなステージが広がっているだけだ。

(別に負けたからってポイントが減る訳じゃない。参加するだけ得な試合なのに……。逆に理由もなく即逃げしちまったら、やる気ないって見なされて所持ポイントが減るのに何で……?)

 ホルムアルデヒドが明確な回答を見出せず、頭を悩ませていると、

「おや」

 後ろから声をかけられた。昼間の日差しを彷彿とさせる、穏やかな声だった。

「こんにちは、ホルムアルデヒドさん」

 しかし幾ら穏やかだろうとも、ホルムアルデヒドからすると学会以降、苦手意識が芽生えている人物。
 灰色の髪に黒い瞳を持ち、中性的な美貌をしたウミヘビ、セレン。

「そしてさようなら」

 ホルムアルデヒドの予想通り振り返った先にいた彼は、丁寧に挨拶をするや否や、チャクラムを構え、投げてきた――!

 *
 *
 *

「ぎゃああああっ!!」

 電子で作られたオフィス街に、ホルムアルデヒドの情けない大声が響く。
 歩道を全速力で走る彼の後ろでは、ひゅんひゅんと風を切って飛び回るチャクラムがある。

「おやおや。攻めなければ勝てませんよ?」
「飛び道具使う奴に正面から戦えるかぁっ!」
「だからと無防備に背中を晒すのは、輪切りにしてくださいとおっしゃっているように見えますが」

 カッ
 歩道に設置された街灯を容赦なく両断する、殺傷力の高いチャクラムを操るセレンは、穏やかな口調はそのままに着実にホルムアルデヒドを追い込んでいく。
 このままでは彼の宣言通り、ホルムアルデヒドは輪切りにされ……

(いや! そんな事はない!)

 そうな所を、ホルムアルデヒドは頭の中で否定をした。

(障害物を切る音、風を切る音である程度の軌道は予測できる! 銃弾並みのスピードもないんだ、躱せる! だからこのまま走って、他の参加者の乱闘に混ざれば逃げ切れ……、……?)

 そこで、ホルムアルデヒドは気付く。
 ひゅん。ひゅん。ひゅん。ひゅん。
 何だか風を切る音が、やけに多いことを。
 首をひねり、恐る恐る後ろを確認してみると――

「4つ同時とか無法だろぉっ!?」

 2つ飛んでいたチャクラムは、いつの間にか4つに数を増やし、街灯やビルのガラスを破壊しながら縦横無尽に飛んでいる。
 2つだけならまだ回避の余地があったものの、4つは対処できない。ホルムアルデヒドに絶望が襲った。
 セレンのチャクラムを手に持って、投げる、という行程が必要で、対象の障害を斬ったら手元に戻して再び投げなければ操作できない。と、ホルムアルデヒドは思っていたのだが……。
 今のセレンは手を一切使わず、投げたままのチャクラムを意のままに操り、周囲を細切れにしにかかっていた。

 まるでシュレッダーである。
 逃げ切るビジョンが思い浮かばず、いっそ一回死亡判定を受けて離脱した方が早いだろうかと、ホルムアルデヒドは目尻に涙を滲ませていると、
 ドンッ! ドンッ! ドンッ!
 優雅に走るセレンに向け、銃弾を発砲する者が現れた。
 しかし確かにセレンの死角から放たれたそれは、セレンに届く前に浮遊していたチャクラムによって斬り落とされる。どうやら銃声から位置を特定、防御へ回したようだ。

「おおっ! 漁夫を狙ったんだがねぇ! 外れちまったか!」

 奇襲に失敗してしまったその人。白い髪に、赤と黄色の異なる色をした瞳を持つ燐は、ビルの5階、割れた窓から身を乗り出し、楽しそうに笑っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...