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第十八章 序曲の不協和音
第384話 印象操作
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よく晴れた青空の下。フランスの郊外に聳え立つ宮殿、その敷地内、庶民に開放された庭園。
赤や橙、桃色、紫色といった多彩で美しいダリアの花に囲まれた、まるで古い絵画から抜け出したような風景の中に、彼はいた。
「アレキサンドライト様!」
真っ白いワンピースを見に纏った少女が、庭園に広がる花畑を駆け、弾けるような笑顔を浮かべながらその彼へ抱き付く。少女に続き、未就学だろう幼い子供達がわぁっと群がり、無邪気に笑い、小さな手で花冠を編んだり、花束を作ったりしている。子供達に囲まれる彼の眼差しは、父のように優しく、どこまでも穏やかだった。
意志の強さを感じさせる緑色の左目に、鉱石を嵌め込んだような赤い右目。右頬を中心に、薄らと赤く変色した肌。
アレキサンドライトと子供達に親し気に呼ばれる彼は、パラス国の英雄として世間に知られるモーズその人で。他の取材で宮殿を訪れ彼の姿を見たメディア関係者が、カメラを引っ提げて声をかけるまで、さほど時間はかからなかった。
突然の取材だったが、モーズは快く引き受けてくれた為、キャスターは早速カメラとマイクを彼へ向ける。
「モーズ医師。貴方はオフィウクス・ラボの所属、でしたよね? ここへはお仕事で?」
「いいえ、オフィウクス・ラボは辞職しました。今は司祭を勤めております」
「えぇっ!?」
「あそこは……口に言うのも憚られる、人を人と思っていない方々が集う場所でしたから」
そう言いながら、モーズは悲しげに目を伏せた。
「モーズ医師。ペガサス教団はバイオテロ組織として悪名が広がっていますが、どうして入団を決めたのでしょうか……?」
「バイオテロ組織というのは誤解です。私達はあくまで病の不安を和らげる活動をしているだけ」
真剣な口調で答える彼の隣では、花を編んでいた少女が無邪気に微笑みを浮かべ、彼の手に花冠を乗せた。
モーズはそれをそっと少女の頭へ返してやる。
「『珊瑚』によって見た目が変わり、病原体として差別され、毎夜のように死の恐怖に怯える。そんな方々に手を差し伸べる事が、私達の仕事です」
彼は胸元に手を当て、話を続ける。
「ご覧の通り。私自身、珊瑚症を患っております。しかし未来を悲観する事はありません。神はいつでも、見守ってくださるのですから」
「成る程……。その、モーズ医師。先程『口にするのも憚れる』と言っておりましたが、あの神秘のベールに包まれたオフィウクス・ラボについて、インタビューをしても?」
「えぇ。ご随意にどうぞ」
そのままモーズはオフィウクス・ラボについて有る事無い事……いや、オフィウクス・ラボの関係者が見ると結構心当たりがあるネガティブな情報を含め、赤裸々に語り始めたのだった。
◇
「って、言う訳なんだけどぉ~」
早朝。オフィウクス・ラボの共同研究室にて。
カールの召集の元、モーズとフリードリヒを除き集められたクスシ達は、壁に大きく映された世界ニュース映像を見て唖然としていた。
「めーっちゃ爽やかなキャラやってんなぁ。てかアレキサンドライトって洗礼名、全面に出すとか……。モーズの奴、すっかりペガサス教団に染まっちまって……」
「当の本人はウミヘビ達と絶賛、和やかな時間を過ごしているんだけどねぇ」
マスク越しに目元に手を当て、悲しみに暮れる……というポーズを取るフリーデン。
彼の隣ではフリッツがホログラム画像を展開し、ネグラの食堂でウミヘビ達と談笑をしているモーズを眺めている。
そう。子供達に愛想を振り撒き、キャスターのインタビューに応えているモーズ――便宜上アレキサンドライトとクスシ間で呼ぶ事とした彼は、真っ赤な偽物である。
「いやその前に! 国連警察は何やってんだよ!! あんな意味不明な偽物、さっさとひっ捕えろっての!! ラボに悪い印象が付いて予算下げられたら、どう責任取ってくれるんだ~っ!!」
「モーズの名誉より予算優先な所、流石はパウル先輩だぁ」
「だがラボの信用を落とされるのは、確かに深刻な問題だ。ステージ4の臨床試験は目前。ここで世論の介入により許可を取り下げられでもすれば、振り出しに戻ってしまう!」
ダンッ!
臨床試験が頓挫する瀬戸際かもしれない現状に、ユストゥスは憤りのまま実験台の黒板を拳で叩いた。
「解決方法としては、モーズちゃんを偽物と会わせて白黒付けさせるのが手っ取り早いんだけどぉ。モーズちゃん謹慎中で島外に出られないから、それは無理っしょ~?」
「それどころか、ビデオとかに映すのも駄目だね。副所長が禁じた電子機器に接触させる事になってしまう」
「俺としては本物偽物対決ちょっと見てみたいけど、駄目ですよね!」
「うん! 俺ちゃんなんてちょっと所かめちゃくちゃ見たいけど! 成りすましで訴えて裁判所とかでドンパチしてるのめちゃくちゃ見たいけどっ!! 駄目なんだわ!!」
「貴様はもっと真面目に話せ」
好き勝手な事を言い始めたカールを前に、呆れるユストゥス。
「この事、モーズくんに知らせなくていいのかい? 彼の問題なのに」
「それねぇ~。知らせた所でモーズちゃんに出来る事ないのに、伝えちゃうとストレス溜まっちゃうかなって!」
「う~ん、あ~……。それも、そうかな?」
「だからこの問題は、俺ちゃん達がちゃっちゃと解決してなかった事にしまぁすっ!」
カールは右手を挙げ、高らかに宣言をした。
だが彼の思考速度について行けてないクスシ達は、再び唖然とする。
「か、解決って、本人いないのに出来るのかい? あっ、国連警察と連携を取るとか?」
「それだと吹聴された風評被害を吹っ飛ばす、までにはいかないっしょ~? いや、ちゃんと国連警察にしょっぴいて貰うつもりではあるけどさ」
「風評被害を吹っ飛ばす? どう言う事だよ、カール」
「世論を変えるには世論ってコ・ト! 偽物モーズちゃんことアレキサンドライトがラボの注目を集めたんならさ、いっそ利用した方が有意義かな~って!」
「何なんだ。何をする気だ、貴様」
「英雄には英雄をぶつけんだよ!」
そこでカールは右手を下げたかと思うと、唐突にユストゥスを指差す。
「ステージ4の臨床試験を全面公開! そんでモーズちゃんと同じく、英雄の肩書きを持つジョン先生を起こします! 主担当はユストゥス! 君に決めた!!」
赤や橙、桃色、紫色といった多彩で美しいダリアの花に囲まれた、まるで古い絵画から抜け出したような風景の中に、彼はいた。
「アレキサンドライト様!」
真っ白いワンピースを見に纏った少女が、庭園に広がる花畑を駆け、弾けるような笑顔を浮かべながらその彼へ抱き付く。少女に続き、未就学だろう幼い子供達がわぁっと群がり、無邪気に笑い、小さな手で花冠を編んだり、花束を作ったりしている。子供達に囲まれる彼の眼差しは、父のように優しく、どこまでも穏やかだった。
意志の強さを感じさせる緑色の左目に、鉱石を嵌め込んだような赤い右目。右頬を中心に、薄らと赤く変色した肌。
アレキサンドライトと子供達に親し気に呼ばれる彼は、パラス国の英雄として世間に知られるモーズその人で。他の取材で宮殿を訪れ彼の姿を見たメディア関係者が、カメラを引っ提げて声をかけるまで、さほど時間はかからなかった。
突然の取材だったが、モーズは快く引き受けてくれた為、キャスターは早速カメラとマイクを彼へ向ける。
「モーズ医師。貴方はオフィウクス・ラボの所属、でしたよね? ここへはお仕事で?」
「いいえ、オフィウクス・ラボは辞職しました。今は司祭を勤めております」
「えぇっ!?」
「あそこは……口に言うのも憚られる、人を人と思っていない方々が集う場所でしたから」
そう言いながら、モーズは悲しげに目を伏せた。
「モーズ医師。ペガサス教団はバイオテロ組織として悪名が広がっていますが、どうして入団を決めたのでしょうか……?」
「バイオテロ組織というのは誤解です。私達はあくまで病の不安を和らげる活動をしているだけ」
真剣な口調で答える彼の隣では、花を編んでいた少女が無邪気に微笑みを浮かべ、彼の手に花冠を乗せた。
モーズはそれをそっと少女の頭へ返してやる。
「『珊瑚』によって見た目が変わり、病原体として差別され、毎夜のように死の恐怖に怯える。そんな方々に手を差し伸べる事が、私達の仕事です」
彼は胸元に手を当て、話を続ける。
「ご覧の通り。私自身、珊瑚症を患っております。しかし未来を悲観する事はありません。神はいつでも、見守ってくださるのですから」
「成る程……。その、モーズ医師。先程『口にするのも憚れる』と言っておりましたが、あの神秘のベールに包まれたオフィウクス・ラボについて、インタビューをしても?」
「えぇ。ご随意にどうぞ」
そのままモーズはオフィウクス・ラボについて有る事無い事……いや、オフィウクス・ラボの関係者が見ると結構心当たりがあるネガティブな情報を含め、赤裸々に語り始めたのだった。
◇
「って、言う訳なんだけどぉ~」
早朝。オフィウクス・ラボの共同研究室にて。
カールの召集の元、モーズとフリードリヒを除き集められたクスシ達は、壁に大きく映された世界ニュース映像を見て唖然としていた。
「めーっちゃ爽やかなキャラやってんなぁ。てかアレキサンドライトって洗礼名、全面に出すとか……。モーズの奴、すっかりペガサス教団に染まっちまって……」
「当の本人はウミヘビ達と絶賛、和やかな時間を過ごしているんだけどねぇ」
マスク越しに目元に手を当て、悲しみに暮れる……というポーズを取るフリーデン。
彼の隣ではフリッツがホログラム画像を展開し、ネグラの食堂でウミヘビ達と談笑をしているモーズを眺めている。
そう。子供達に愛想を振り撒き、キャスターのインタビューに応えているモーズ――便宜上アレキサンドライトとクスシ間で呼ぶ事とした彼は、真っ赤な偽物である。
「いやその前に! 国連警察は何やってんだよ!! あんな意味不明な偽物、さっさとひっ捕えろっての!! ラボに悪い印象が付いて予算下げられたら、どう責任取ってくれるんだ~っ!!」
「モーズの名誉より予算優先な所、流石はパウル先輩だぁ」
「だがラボの信用を落とされるのは、確かに深刻な問題だ。ステージ4の臨床試験は目前。ここで世論の介入により許可を取り下げられでもすれば、振り出しに戻ってしまう!」
ダンッ!
臨床試験が頓挫する瀬戸際かもしれない現状に、ユストゥスは憤りのまま実験台の黒板を拳で叩いた。
「解決方法としては、モーズちゃんを偽物と会わせて白黒付けさせるのが手っ取り早いんだけどぉ。モーズちゃん謹慎中で島外に出られないから、それは無理っしょ~?」
「それどころか、ビデオとかに映すのも駄目だね。副所長が禁じた電子機器に接触させる事になってしまう」
「俺としては本物偽物対決ちょっと見てみたいけど、駄目ですよね!」
「うん! 俺ちゃんなんてちょっと所かめちゃくちゃ見たいけど! 成りすましで訴えて裁判所とかでドンパチしてるのめちゃくちゃ見たいけどっ!! 駄目なんだわ!!」
「貴様はもっと真面目に話せ」
好き勝手な事を言い始めたカールを前に、呆れるユストゥス。
「この事、モーズくんに知らせなくていいのかい? 彼の問題なのに」
「それねぇ~。知らせた所でモーズちゃんに出来る事ないのに、伝えちゃうとストレス溜まっちゃうかなって!」
「う~ん、あ~……。それも、そうかな?」
「だからこの問題は、俺ちゃん達がちゃっちゃと解決してなかった事にしまぁすっ!」
カールは右手を挙げ、高らかに宣言をした。
だが彼の思考速度について行けてないクスシ達は、再び唖然とする。
「か、解決って、本人いないのに出来るのかい? あっ、国連警察と連携を取るとか?」
「それだと吹聴された風評被害を吹っ飛ばす、までにはいかないっしょ~? いや、ちゃんと国連警察にしょっぴいて貰うつもりではあるけどさ」
「風評被害を吹っ飛ばす? どう言う事だよ、カール」
「世論を変えるには世論ってコ・ト! 偽物モーズちゃんことアレキサンドライトがラボの注目を集めたんならさ、いっそ利用した方が有意義かな~って!」
「何なんだ。何をする気だ、貴様」
「英雄には英雄をぶつけんだよ!」
そこでカールは右手を下げたかと思うと、唐突にユストゥスを指差す。
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