毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

文字の大きさ
449 / 600
第二十一章 ハロウィンの翌日

第434話 リミッター解除

しおりを挟む
「ジョン先生~っ」

 資料室の前で攻防を続けているジョン達の元に、階段を下り真っ先に4階へ駆け付けたフリーデンがやって来る。

「勝手に手術室から出ないでくださいよ~」
「人工知能による検査はしただろうが。俺は資料室に入りたいんだ。フリーデン、こいつらを退けろ」
「部外者なのに無茶苦茶だぁ」

 それから間もなく、階段を上がってやってきたカールとパウルが合流した。

「ジョン先生てんてー~! おっはよーございまぁああすっ!!」
「ちょっ、鼓膜が破れるかってぐらい大声出さないでよ」

 開口一番、カールは大きな声で挨拶をし、隣に立つパウルが鬱陶しそうに、わざとらしく両手で耳を塞いだ。

「解凍したばっかなのに動けるの凄くなくなくない~? 身体重くない~?」
「ジョン! 勝手は困りま……っ! ……っあ」

 失言をした。
 そう認識したパウルは今度は両手で口元を覆い、気まずそうに俯く。
 暫し場が沈黙した。
 その最中、エレベーターに乗ってやってきたユストゥスとフリッツも合流したものの、沈黙は続いたまま。ただならぬ雰囲気を察し、彼らもまた沈黙を守った。
 それを破ったのは、他の誰でもないジョンであった。

「俺は院長ではない。その座はエドワードへ引き継がせた。ここにいるのは何の権限も持たない、何処にも所属していない、一介の医者だ。いや、今は被験体という方が相応しいか」
「そっ、そんな事は」

 パウルはどうにかフォローする言葉を探す。
 ジョンは院長の座を譲り病棟の最前線から離れ、ラボへ被験体としてやってきたものの、彼の英雄として残してきた偉業は未だ多くの人々の記憶に刻まれている。
 そもそも医師免許を返上した訳でも何でもない。彼は己が居た居場所から離れはしたものの、いつでも戻れる。そこに限らず、どこへでも行ける。
 そう励まそうと、パウルが意を決した時、

「つまり俺がここで何を言おうと何をしようと、俺以外の誰にも累が及ばないという事だ!!」

 ジョンの明後日の方向を向いた宣言を聞き、硬直してしまった。
 再び、場が沈黙する。
 数分の静寂の後、我に返ったクスシ達は大いに戸惑った。

「この人、院長辞任をリミッター解除扱いしているんですけど~!?」
「責任者という立場を失ったのを逆手に取ってるぅ⭐︎」
「て言うか自重してたの!? 院長だった頃もよっぽど自由だったのに!?」
「その調子で何かしでかされてたまるものかっ! 誰かこの人をイギリスに返却しろ! 今直ぐ!!」
「あと役職という名の足枷つけた方がいいね、絶対。理事長とかどうかな?」

 ――混乱極まった彼らが冷静になるまで、十分を有する事となる。

 ◇

「お前の顔を、共同研究室ここで見る日が……来るとはな。明日は、隕石でも降るか……?」
「黙れ。おれとて好きでここに来た訳じゃない。がここにしかないのがいけないんだ」

 オフィウクス・ラボの2階。
 共同研究室では青洲せいしゅうが丸椅子に腰を下ろし、フリードリヒがドラフトチャンバーの前で作業をしていた。

「これさえ手に入れれば、こんな所に用など……」

 彼がドラフトチャンバーの中で行っているのは、ステージ6となった『珊瑚』、その培養である。
 ラボでは菌床処分の際に僅かに生き残ったそれを回収、保管しているのだが、危険性が極めて高いと見做されここ共同研究室でしか保管されていない。
 なので個別研究室へ持っていく場合、一度共同研究室を訪れる必要がある上に、シャーレと寒天培地を用いた培養によって必要分を増殖させる作業がいる。
 よってステージ6の『珊瑚』が入り用となったフリードリヒは、数年振りに共同研究室の扉を開くハメになったのだった。
 なかなか求める量まで増殖しない『珊瑚』に、フリードリヒが苛立ちを募らせていると、

「ここで待機していればいいんだな? 約束を違えるなよ?」
「わかってますって。だからフェイスマスクと白衣用意するまで我慢してください」

 共同研究室の扉がガチャリと開き、フリーデンとジョンが入室してきた。

「どぅわぁああああ!?」

 瞬間、驚愕と混乱がないまぜになった悲鳴が共同研究室に響き渡る。
 そのまま悲鳴の主、フリードリヒは足を滑らせそうになる程の勢いで仰け反り、ドラフトチャンバーのガラスに背中をドンッと強かにぶつけてしまった。

「ジョ、ジョ、ジョン!? お前なぜここにいる!?」

 だが背中の痛みに意識を向ける余裕がないらしい彼は、寄りかかったまま震える指先でジョンを指差す。
 見た事ない程に狼狽している。フリーデンは唖然とした。

「今更クスシになったなどと言う気か!? あり得ん! お前は入所落ちしただろうがっ!!」
「……臨床試験諸々の件、何のチェックも……してないのか」
「フリードリヒだもんねぇ~。ウミヘビに関係ない事は眼中にないよねぇ~」

 ジョン達に続き入室してきたカールが言う。
 ラボの情報共有を放棄しているフリードリヒにとって、部外者であるジョンがこの場にいるのは想定外以外の何ものでもなく、まさに青天の霹靂なのである。
 なお渦中の人であるジョン本人はというと、フリードリヒの動揺も悲鳴もどこ吹く風で、ただ淡々とフリードリヒの芥子の花がデザインされたマスクを眺めていた。

「そのマスク、フリードリヒか。ここ数年姿を見せなかったから、死んだのかと思っていたが。生きてたんだな」
「おれは何故お前がここにいるのかを訊いているんだ! 答えろ!!」
「ここにいればウミヘビをくれると言われた」
「ちょっ!? ジョン先生、端折り過ぎ……! てか大いに語弊がある言い回し……っ!」
「はぁあああ!?」

 困惑と怒りが混じった声が、フリードリヒの腹の底から発せられる。
 気持ちはわかる。フリーデンが内心で呟く。ジョンの説明が端的すぎるのだ。「今後の為にウミヘビの護衛(と言う名の監視)を付ける」と伝えた内容を、こうも誤解を招く言い回しにできるとは。

「巫山戯るなぁっ! お前の事だ、手にしたウミヘビは切り刻む気だろう!? 絶対に許さんぞ! 例えウミヘビ本人が許してもだ!!」
「何だ、許してくれるウミヘビがいるのか?」
「そんな訳あるか! 例えと言っているだろう!?」
「ならば切開や縫合が試せるな」
「だから例えだと、」
「以前から気になっていた所だ。ウミヘビが集うアバトンに滞在できるまたとない機会、今の内に【自主規制ピーーー】や【自主規制ピーーー】や【自主規制ピーーー】をだな」
「人の話を聞けぇえええっ!!」

 それフリードリヒが言うんだ。
 人の話を聞かない筆頭であるフリードリヒ叫びに、クスシ達は心の中でそう思ったのだった。(なおカールも大概、人の話を聞かないが)


※第9章、155話でジョンが発言している「10年前に1人だけ会った事がある」というウミヘビが面接相手でした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

 神典日月神示 真実の物語

蔵屋
歴史・時代
 私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。 この方たちのお名前は 大本開祖•出口なお(でぐちなお)、 神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。  この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。  昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。 その書物を纏めた書類です。  この書類は神国日本の未来の預言書なのだ。 私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。  日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。 殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。 本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。 日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。 そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。 なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。 縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。 日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。 この小説は真実の物語です。 「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」 どうぞ、お楽しみ下さい。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...