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249 レオンハルト家⑧

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 ぶち破った壁を飛び降り、ワシは闇夜に身を晒す。
 バニシングクラッシュで吹き飛ばしたオックスは、レオンハルト家の広い庭を通り抜け壁をぶち破り、遥か遠くの家にまで吹っ飛んでいた。
 反動でワシの肩もジンジンと痛む。

 暗がりでよく見えぬが、カラカラと瓦礫が崩れ落ちる音が聞こえてくる。
 あの家から感じる威圧感。
 オックスめ、間違いなくあそこにいるな。

「少し暗いな……明るくするか」

 そう呟くとワシはタイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのはレッドウェーブとホワイトウェーブ。
 ――――二重合成魔導、ノヴァーウェーブ。

 白炎がワシを中心に燃え広がり、周囲に白炎のリングを作る。
 緋と魄の合成魔導により生まれる白炎は物理現象を伴わぬ幻想の炎。
 特に威力の弱く範囲の広いウェーブであれば、明かりには最適だ。

「ゼフぁぁぁあっ!」

 その白炎を割り、叫び声を上げながらオックスが突っ込んでくる。
 先刻は闇夜のため見えなかった黒い刀身による一撃。
 だがこの明るい場所なら容易に認識する事が可能だ。

(オックスの全身を走る黒い魔力線、そして手に持った黒い剣……この感じはもしや、黒い魔物に取り憑かれたのか……?)

 とはいえ確証がないし、ここは一つ詳しい奴に聞いてみるとするか。
 サモンサーバントを念じると、金色の光と共にアインがあらわれる。

「ふぁ~……むぅ、もう夜はあまり呼び出さないでほしいんだけど……」
「いいから目を覚ませ、非常事態なのだ」
「は~いはい、それで何の用なのよおじい」

大あくびをするアインに、オックスの方を見ろと促す。

「あの男の事をどう思う?」
「ふーむ……むむむ……」

 ワシの言葉に考え込むような仕草をするアイン。目を細めじっくりとオックスを観察している。
 だが大人しく待っているはずがないオックスは、歯噛みをしながら剣を構え直し、突撃を仕掛けてきた。

「……また女の子かいっ!」
「ひょわっ!?」
「離れてろ! アイン!」

 空中に飛び、オックスの攻撃を辛くも回避したアインは、そのままワシの頭上に飛び上がる。

「うんっ! おじい、その人の身体の中に黒い魔物がいるよっ! 何か臭うもんっ!」
「やはりか……」

 元々魄系統の魔物、主に霊体系のヤツは人に乗り移り、その身体を操る事もある。
 黒い魔物も同じ魄系統の魔物だしな。ワシの予想通りだったというわけだ。
 そしてワシは当然その対処法を知っている。

「死ねぇぇぇえ!!」

 オックスの斬撃を身体を捻って躱しつつ、腕で自分の目を隠す。
 隠しながら掌をオックスの方へ向け、タイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのはホワイトクラッシュを四回。
 ――――四重合成魔導、ホワイトクラッシュスクエア。

「ごはぁっ!?」

 オックスの身体が眩い光に飲まれ、じゅううと焦げるような音が聞こえてくる。
 これは霊体系の魔物を魄の魔導で焼いた時の音。
 どうやら効いているようだ。
 霊体系の魔物に乗っ取られた時は、魄系統の魔導を全力でぶちかませばいい。
 魄系統の魔導は人体に影響が薄いから死にはしない。
 ……ま、無傷とはいかないだろうがな。

 一歩離れ、光が薄れたのを確認して目を開くと全身から煙を立ち昇らせるオックスが息を切らせて立っていた。
 ホワイトクラッシュスクエアの直撃を受けた黒い剣はひしゃげ、形を取り戻そうとビクビクと蠢いている。
 苦しむオックスの口から漏れるのは、黒い泥のような魔力の塊。
 アレを飲み込んだが為に、おかしくなってしまったのだろう。
 確認するようにアインを見ると、そうだとばかりに頷いてきた。
 ごくり、ともう一度泥を飲み込んだオックスは、ワシを睨み苦しそうに息を吐く。

「ぜ……ふぅぅぅ……」
「効果は抜群と、いったところかな?」
「貴様……ぁ……!」

 おどけたようなワシの言葉に、ビキビキと血管を浮き立たせ歯軋りをするオックス。
 くっくっ、何とも挑発しがいのある奴だな。

(もう一度、至近距離でこいつを叩き込む……!)

 スカウトスコープで確認したが、オックスの魔力値は既に半分以下になっている。
 霊体型の魔物が人を操るのは結構負担が大きいのだ。
 いくら魔力値の高い黒い魔物とはいえ、ずっと操っていられるわけでもない。
 ヤツにトドメを刺すべくワシは、ゆっくりと間合いを詰めていく。
 不意に頭上で何かの気配を感じる。

「こんのーっよくもやったわねーっ!」
「ぬっ!?」

 そこにいたのは空中でオックスに両手を向ける、アイン。
 見上げるオックスに、眩い光が炸裂する。
 ――――ホワイトスフィア、である。
 あいつ、いつの間に魔導を使えるようになっていたのだ。
 
(にしても、タイミングが悪すぎるだろ……!)

 眩い光球を放つ魔導、ホワイトスフィア。
 咄嗟に目を瞑って回避したが、強力な目くらましの効果もあるのだぞっ!
 こんな至近距離で使ったらワシまで目が見えなくなってしまうだろうが……そう文句を言おうとした瞬間、何かがワシの頭の上に乗っている事に気付く。

 ふわりと頭の上に柔らかいものが乗り、首に生暖かいモノが巻き付いている感触。
 ひらひらとした布のようなものが視界を遮り、前が見えない。
 これは……アインのスカートの中か。
 尻をワシの頭の上に乗せ、細い足で首に巻き付いている。

「ふふん♪ これぞ砲台モード! おじいが相手の攻撃を躱しつつ、私が魔導で攻撃するのよっ!」
「……降りろ馬鹿者。重いんだよ」
「重っ……!?」

 ワシの言葉に絶句するアインは足に込めた力を緩める。
 その隙にアインを肩から引きずりを下した。
 やれやれ、やっと首が軽くなったか。
 ゴキゴキと首を鳴らしていると、アインが真っ赤な顔で抗議の声を上げてくる。

「お、重くないもん……」
「ふん、最近ジェムストーンの減りが早かったのは知っているぞ? 呼び出す事も少なかったハズなのに、くっちゃ寝していたのではないか?」
「はうっ!」

 アインは自分の服に手を突っ込み、その下でぷにぷにと腹を触っている。
 顔が引きつっている……やはり少し太ったようだ。
 わざわざ再確認して傷を広げる事もあるまいに。自分でも薄々気づいていたのではないのかよ。

「まぁ少々気にするな。そんな事よりアイン、お前魔導を使えるようになったのか?」
「……うん……まぁ……」

 返事に覇気がない。
 相当気落ちしているようである。

「ならばワシに合わせろ。合成魔導で一気に倒す」
「……うぅ、太らない体質だと思ってたのに……」

 余程ショックなのか、まだ塞ぎ込んでいるようだ。
 ったくそんなにショックならたらふく食べなければいいものを。 

「魔導を使うと痩せるという話を聞いた事があるぞ」
「……ホント?」
「あぁ魔導は大量のエネルギーを消費するからな。魔導師にはあまり太った奴はいないだろう?」
「……確かにそうかも! わかったよ、おじいっ!」

 いきなり元気になるアイン。
 全く、世話が焼ける事だ。
 嘘だがな。

「ゼフぅあああ!!」

 少し離れた場所から、吠える様な声が聞こえてくる。
 血を吐きながらの咆哮。
 ふむ、やはりまだ戦意は萎えぬといったところか。

「さて、やるぞアイン」
「おっけーっ!」

 アインの手を取り、タイミングを合わせてタイムスクエアを念じる。
 ワシの使い魔であるアイン。その魔力の流れは主であるワシには完全に把握出来る為、魔導を合わせるのはたやすい。
 アインのホワイトスフィアと同時に念じるのはホワイトスフィアを四回。
 ――――五重合成魔導、ホワイトスフィアサークル。

「ぐあぁぁぁあ!?」

 巨大な光球がレオンハルト家の庭を包み、オックスの悲鳴がその中心から聞こえてくる。
 何も見えぬ程の光の奔流の中、どさりとオックスの崩れ落ちる音が聞こえてくるのであった。



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中間結果発表
1位、クロード
2位、セルベリエ
3位、アイン

意外とアインが人気あって驚いています
というかミ(背景に溶け込んでいてこれ以上読めない)ェ……
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