効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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292 外の世界へ⑤

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 ――――そして月日は流れ、本日ついに出航の日である。
 魔導師協会と冒険者ギルドが協力して造った巨大調査船『エイジャス号』を見上げ、皆が感嘆の声を上げた。

「おおっ! すっごいねー!」
「他の船の倍以上はあるんじゃないでしょうか……」
「私たちも手伝ったんだよね~せっちん!」
「ん……まぁな」

 レディアが笑いながら、照れるセルベリエの肩を抱く。
 あの船は各国の技術者が集まって造られており、名のある製造ギルドからにも何人か声がかかったのだ。
 ウチのギルドにも書簡が届き、レディアとセルベリエが造船チームに加わっていたのである。
 首都プロレアでも屈指の技術者であるレディア、特に金属の精製と加工は随一で、他所から依頼を受ける事も多い。
 魔導知識に長けるセルベリエとのコンビは、首都でも有名だ。

「お、あんたらもこの船に乗るのかい?」

 後ろからの声に振り返ると、筋肉質の男がいた。
 やたら薄着で毛深く、筋肉質である。まさに海の男を絵にかいたような感じである。
 どうやら同じようにこの船に乗り込む冒険者のようだな。

「うむ、そうだ」
「ほうほう、実は俺もそうなんだよ。よろしくな」

 握手を求められ、応える。
 男の腕の腕章が、キラリと光った。
 刻まれている紋章は確か、大手ギルドの一つ『水竜の咢』のものである。
 『水竜の咢』は船をいくつも所有しており、独占しやすい孤島のダンジョンを狙って稼ぐ事が多いギルドだ。
 人数も多いし船の扱いにも長けている。孤島でのサバイバル能力も高いだろうし、こういった仕事はお手のものだろう。

 それに対抗するように、ミリィがずいと前に出て、両手を腰にやり胸を張ると、胸のギルド紋章がキラリと光った。

「私らは『蒼穹の狩人』ってギルドだからよろしく」
「ふーむ……? 知らない名前だな。新参か?」
「な、何ですって!?」

 どうやらギルドの名を知らない様子の男に、ミリィがくってかかる。
 おいやめろ馬鹿。面倒事を起こすなよ。全く。

「おやおや、そこにいるのはゼフかの~?」

 ミリィの首根っこを掴んで止めようとすると、後ろから呑気な声が聞こえてくる。
 イエラだ。そういえばイエラも調査に参加するとか言っていたか。

「よう、イエラではないか」
「久しいの~元気しとったか?」
「い、イエラ様っ!?」

 ひょいひょいと軽い足取りであらわれたイエラに、男は後ずさり頭を下げた。
 イエラは気にするなとばかりに、男に手を振って返す。

「あぁよいよい、話の邪魔をしてしまったかな」
「いえっ! そんな事は全く……」

 どうやらイエラにビビっているようだ。
 まぁこんなのでも一応、五天魔だからな。

「まぁわらわも挨拶に来ただけじゃ。もう出港準備に入っておるから、はよう乗込めよ~」
「わかった。準備が終わったらな」
「ではお先にのう! セルベリエも船の皆と仲良くするんじゃぞ」
「余計なお世話だ。とっとと行け!」
「じゃーねーっ! イエラーっ!」

 イエラは手を振りながら船に乗り込んでいった。
 仲よさげにイエラと話すワシらを見て、男はたじろいでいる。

「そ、そういえばあんた……もしかして号奪戦でウロヒメ様に勝っていなかったか? ……確か名は、ゼフ=アインシュタイン!」
「む……まぁな」

 ポリポリと頭を掻きながら答える。
 どうやら先日の号奪戦で、少しは名が知れているらしい。

「そ、それによく見ればあんたらもっ!」

 男は大袈裟な声を上げ、皆の方を向き直る。

「イエラ様の娘、セルベリエ=シューゲル! 大商人にして超技術者、レディア=ランディアっ!」
「……ふん」
「あっはは~」

 セルベリエが退屈そうに目を逸らし、レディアが照れくさそうに笑う。
 この二人も結構名が知れているからな。
 男は更に、クロードとシルシュの方を向き直る。

「そっちのイケメンとシスターも見た事があるぞ。確か3年程前に、ティーンズの雑誌を騒がせた美男美女カップル! 確かクロード=レオンハルトにシルシュ=ランペイジっ!」

 クロードとレディアがずっこける。
 ……こっちは妙な所で名が知れているな。

「あ、あれは勝手に写真に取られて……! 雑誌には載せないというからインタビューを受けましたのに、卑怯ですぅ……」
「そうですよっ! そもそもボクは女ですからっ!」

 あたふたと言い訳をするシルシュとクロード。
 二人の釈明を聞くと、どうやら二人で散歩していたのを写真に取られ、雑誌に載せられたようである。
 確かにパッと見、美男美女のお似合いカップルに見えるかもしれないな。
 ……そう言えば当時、二人を連れ歩いている時に見知らぬ女共がキャーキャー言いながら二人の事を見ていた気がする。
 ワシのイケメンぶりに騒いでいるのかと思っていたが、二人の事だったのか……何となく屈辱だ。
 驚く男に、ミリィが勝ち誇ったように鼻を鳴らす。

「ふふーん、ようやく私たちの凄さが分かったようね」
「お、おう……大したもんだよ。お嬢ちゃんもこんな連中に囲まれて大変だろうなぁ……」

 そう言って慰めるように、男はミリィの肩に手を載せた。
 おい、同情されてるぞミリィ。

「……なんで哀れむような視線を向けてくるわけ?」
「いや、何でもねぇ……強く生きろよ」

 ジト目で男を睨むミリィ。
 どうやらギルドマスター本人は、全く知られていないようである。
 多分下っ端Aくらいに思われていたのだろう。
 哀れミリィ。

「いや、さっきは本当に失礼をした。お詫びと言っちゃあ何だが、船に乗り込む他の有名人を教えてやるぜ」

 男は甲板の上に立つ、白い鎧とマントを纏った連中を指差す。
 兜には鷹のエンブレムが刻まれている。白装束に鷹のエンブレム、気取った格好である。

「あれは『白鷹の旅団』。名のある騎士ギルドで、人数が多く統率力も高い。礼儀だ作法だと鬱陶しいが、実力は確かだ。中央にいる全身鎧野郎が、ギルドマスターのセシルだな」

 全身に白い甲冑を纏った美形の騎士だ。
 金色の装飾が所々に刻まれており、金のかかりようが見て取れる。
 ……だがあいつ、どこかで見た事があるような気がするな。

「んで、あっちが俺ら『水竜の咢』だ」

 男は船尾から船首の方、薄着の筋肉質の男たちへと視線を移した。
 彼らは海賊のような恰好をしており、船員に何やら指示を出している。

「中央にいる逆毛の男が、我らがギルドマスターのダインさんだ」

 薄着の男の中でもさらに薄着の、というか上半身裸の男がダインというらしい。
 だがイエラはそれに気付いたのか、ダインに近づき何やら言っている。
 イエラが立ち去った後、しぶしぶ部下に持たせていたコートを着直すダイン。
 どうやら半裸を注意されたようである。

「み、見苦しいところを見せちまったが……まぁこの二つが今一番勢いのあるギルドって言われてるんだ。いやーしかし俺たちと行動を共にできるなんて、運がいいぜお前ら。この旅の安全は保障されたようなもんだ! はっはっはー」

 男は誤魔化すように大笑いしている。
 『水竜の咢』に『白鷹の旅団』か。
 そういえば確か当時は知られた名だったような気がする。
 スカウトスコープでざっくり見ておいたが、メンバーのレベルは70前後、リーダーは90近い。
 装備も悪くないし、足手まといにはならなさそうだな。

「おっと、そろそろ行かねえと。じゃあな、『曇天の狩人』さんたち」
「『蒼穹の狩人』よっ!」

 ワシらに手を振り、男は船へと乗り込んでいった。
 船が煙突から蒸気を断続的にふかしている。
 出発の合図だ。

「ワシらも乗り込むとするか」
「うんっ!」

 船にかかる桟橋を登っていると、首都プロレアが見渡せる。
 船高があるからか、角度が急だ。
 ミリィが足を踏み外しそうになるのをレディアが支える。
 真ん中を歩け真ん中を。危なっかしいではないか。

「ん……?」

 ふと、眼下にある建物の陰にエリスの姿が見えた。
 見送りに来てくれたのか。ワシと目が合うと、しばらくじっと睨みつけた後、小さく手を振ってきた。
 そして少しわかりにくく、口を動かす。

 ――――早く帰ってきなさい。
 その言葉にワシが頷いて応えると、エリスは顔を真っ赤にして走り去っていくのであった。
 どうやら先日の答えは最悪ではなかったようだな。
 思わず呆れ笑いが漏れる。

「どうしたの? ゼフ」
「何でもないさ……とにかく無事に帰ってこなくてはな」

 そう言ってワシは、走り去っていくエリスの背中を見送るのであった。
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