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297 境界①
しおりを挟むどぷん、と音がして視界が青に染まり、ひんやりとした空気がスーツ内に満ちていく。
ガラスの外に広がるのは果てしなく続く、青い世界。
見た事のない魚が群れをなし泳ぐその姿に、ミリィは見惚れているようだ。
《わぁ……すごいねぇ》
《いいから早く仕事にかかるぞ》
《あん、もう待ってよーっ》
《ふふ、先に行きますね》
シルシュは器用に足をばたつかせ、スクリューがある方向へと泳いでいく。
ワシらもそれについて行くが……こ、これは結構泳ぎにくいな。
この状態で襲われたらヤバそうだ。
《ゼフさん、見て下さい》
《む》
シルシュの指差す先には、エイジャス号のスクリューが見える。
どうやら海藻のようなモノが絡まっているようだ。
レディアにそれを伝えるべく、念話を繋ぐ。
《レディア、やはり海藻が絡まっていたぞ》
《うえ、やっぱかぁ~どう? 取れそう?》
《やってみよう》
ぐいぐいと引っ張ってみるが、深く絡みついているようでビクともしない。
《うーむ、動かんな》
《私に任せてよ! ブルー……》
《馬鹿者、スクリューごと壊すつもりか》
魔導を放とうとしたミリィを慌てて止める。
そんなことしたらスクリューが壊れてしまうだろうが。
《私にやらせて貰えますか?》
シルシュが袋から棒を取り出し、前に出る。
――――聖樹の杖。
祝福を受けた長寿の大木を削りだし、何重にも魔力を編み込んだ杖だ。
非常に軽く、折れにくいため後衛の者が身を守るのによく使われるのである。
外の世界へ行く為に、シルシュが新調した武器だ。
《これで……何とか……っ!》
杖の先をスクリューに押し付け、海藻を排除すべく力を込めていく。
だがそれでも海藻は剥がれそうにない。
うーむ……外海の海藻は余程丈夫なのだろうか。
《ねーゼフ、何で魔導で焼き払っちゃダメなの?》
《あのスクリューは見た目以上に繊細でな、職人が何十日もかけてやすりで磨き上げたものなのだ。下手に熱や衝撃を与えると曲がって航海に支障をきたすかもしれない》
《へぇーそうなんだ》
《ワシも手伝う、ミリィは見張っていてくれ》
《おっけー》
シルシュの反対側に回り込み、袋からナイフを取り出し突き立てる。
んが……これは確かに硬い!
針金でも入っているかのようである。
少しずつ切除していくしかないか。
《……ふぅ、大分剥がれましたね》
《そうだな》
何とか二人がかりで海藻を千切り、大まかには排除する事が出来た。
やれやれと一息ついていると、ミリィが何かに気づいたようだ。
《ゼフっ! 何か近づいてくるよっ!》
ミリィの向く方に意識を集中させるが、海の中は暗く魔力の気配も探りにくい。
だが、確かに何かが近づいてきている。
ゴボゴボと響く水の音が徐々に近づいてくるのが聞こえてきた。
《な、何アレ……?》
戸惑うようなミリィの声とほぼ同時にあらわれたのは、まるで人の姿をした生物。
耳には魚のようなヒレがあり、特徴的なのは二本の足の代わりに生えた長い尾ひれである。
見た目は東の大陸周辺の海にあらわれる半魚人……だがどこか人間の姿に近い。
半魚人の目は血走り、耳まで裂けた口の中には何本もの牙が見える。
《敵意剥き出し……といった顔ですね》
《うむ、こちらに攻撃を仕掛けて来るつもりだ。迎撃するぞ》
《おっけー!》
半魚人たちは手に持った槍を構え、ワシらに向かって来る。
ミリィが手をかざし、魔力を集中させる。
《ブルーゲイルっ!》
ミリィの放った水竜巻は、巨大な水流を生み出し半魚人たちを飲み込んでいく。
蒼系統の魔導は水中で発動させると本来より高い効果を発揮するのだ。
魔導は地形による補正も強く受ける。ミリィをここに連れてきた理由はこれだ。
……だが半魚人は大渦に飲まれてなお、怯まずこちらに向かってくる。
《うそっ!?》
そして槍をミリィへと突き立てるべく、振りかぶる。
……させるかよ。
義手を後ろにかざし、タイムスクエアを念じる。
時間停止中に念じるのはレッドクラッシュとブルークラッシュ。
――――二重合成魔導、バーストクラッシュ。
ごうん、と低い音を立てて水が爆発し、重い水の抵抗を押しのけ一気に前進していく。
ワシに気付いたようだが、遅い。
勢いそのままに、義手を半魚人の顔面に叩き込んだ。
その瞬間、更にタイムスクエアを念じる。
時間停止中に念じるのはブルークラッシュとブラッククラッシュ。
――――二重合成魔導、スパイラルクラッシュ。
めきり、と半魚人の首があらぬ方向へとへし曲がる。
次の瞬間、殴りつけた場所を中心に何十回も回転した半魚人を彼方へと殴り飛ばした。
半魚人は肉も骨も裂け折れ、ボロ雑巾のように飛んでいく。
蒼と黒の合成魔導は強力な回転を生み出し、近距離の相手を無理矢理『廻す』事が出来る。
地上では力が拡散してしまってせいぜい目を回すくらいしかできないが、水中では高荷重の中無理矢理回転させる為、凄まじい威力を発揮する事が、可能。
《ひゃっ! つめたっ!?》
悲鳴を上げるミリィ。
見れば空気を送る管が切断されている。
先刻の攻撃でやられたか。
ミリィの潜水スーツの中に、どんどん水が入っていっている。
《水上に上がれ! ミリィ!》
《う、うんっ!》
バタバタともがきながら水上を目指すミリィ。
シルシュの方を見やると、二体の半魚人と戦っていた。
しかし防戦一方、相手の攻撃を防ぐだけで精一杯なようである。
半魚人たちの槍を何とか捌きながら、杖で反撃するシルシュ。
――――だがそれで問題はない。
シルシュの持つ聖樹の杖には攻撃の際に低確率で暗闇を付与するキバアントカード、同じように混乱を付与するモンクロガカードを挿してある。
攻撃を受けるたび、半魚人たちの視界は乱れまともに戦うことは出来なくなるのだ。
案の定半魚人たちは逃げるように泳ぎ去っていく。
《よし、ナイスだシルシュ》
《……ふぅ、何とかなりましたね……ミリィさんは?》
《先に上がらせている。さっきの奴に潜水スーツをやられてしまったからな。ともあれ海藻も排除できたしそろそろ戻るとするか……クロード、引き上げてくれ》
《わかりました》
言うが早いか、命綱が引っ張られぐんぐん水上へと巻き上げられていく。
シルシュと共に甲板へと引き揚げられたワシは、重苦しい潜水スーツを脱ぎ捨てる。
ふう、結構汗をかいてしまったな。
海中での戦闘は結構しんどい。
シルシュも同じようで、パタパタと尻尾を動かし自分の背中を扇いでいる
「た、大変ですゼフ君っ!」
「どうしたクロード」
慌ただしい声を上げるクロードが手に持っているのは、ぷつりと切断された命綱――――ミリィのものだ。
「ミリィさんが……っ! いないんですっ!」
************************************************
効率厨魔導師がコミカライズされました!
よければこちらもご覧ください。
http://www.alphapolis.co.jp/manga/viewOpening/69000123/
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