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連載
324 精霊の森へ⑤
しおりを挟む「ふい~♪ 粗方片付きましたわねぇ」
ワシらの猛攻撃によってオーガ共は消滅し、辺りにはタイタニアと魔導による破壊の跡だけが残っている。
何体かは逃げたようだが、まぁさして気にする事もあるまい。
「あいつらには私たちも困っていたのですよぉ。これに懲りて、街に来なければいいのですがぁ」
「恐らく問題ないだろう」
人型の魔物はそれなりには知能があるものも多い。あれだけの目に合えば、今後はワシらを警戒して襲ってくる事も減るだろう。
まぁ連中の持つ経験値はそれなりに多かったので、そこらへんは残念だが……魔物はこれからいくらでも倒す事は可能だ。
くっくっ、折角緋系統の魔導限界値が99まで上がったのだ。魔物の狩り甲斐もあるというものである。
限界値が低かった頃は無駄を省くために、緋系統の魔導を使うのは戸惑っていたからな。
「ねぇメア、そろそろ休みましょうよ」
「私はまだ大丈夫ですがぁ」
「先も長いのだろう? 無理をすることはない。今日はもう休もう」
そろそろ日も暮れてきたしな。
メアはまだまだ元気そうだが、渋々といった様子でうなづいた。
「わかりましたわぁ。では……」
ずうん、と音を立てタイタニアが身体を屈ませる。
ワシはひょいと飛び降りると、大きく伸びをした。
うーん、久しぶりの地面だ。
乗っているだけでも案外疲れるものである。ケツも痛い。
降りてきた皆も、同様に尻を押さえていた。
「では食事を作りましょうか」
「私も手伝いますわぁ」
「メアはずっと動いていたから、疲れているでしょう? 私たちに任せて任せて♪」
腕まくりをするミリィを、メアはジト目で見ている。
「それはそれはありがたいのですがぁ……作れますの?」
「し、失礼ねっ! すっごく美味しいの作ってあげるから、覚悟しなさいよっ!」
こらこら覚悟させてどうする。殺人料理でも食わせるつもりかミリィ。
なお、出来上がった料理はメアを驚かせるほどに美味であった。
「まぁ、本当に美味しいですわぁ!」
「ふふーん♪ そうでしょー!」
クロードも一緒に作ってたからな。とは言わないでおく。
ミリィ一人だと、食べられないこともないがまだまだだ。
「誰しも取り柄はあるものですねぇ」
「ひ、一言余計よ……!」
また喧嘩が始まりそうな二人の間にクロードが割って入る。
「まぁまぁ二人共……ところでメアさん、精霊の森というのはどういう場所なのですか?」
「そうですわねぇ。一言で言いますとぉ、常識の通じないところですわぁ」
「メアも十分常識が通用しないと思うが……」
「あらやだゼフさまったら、私にしてもゼフさまたちは十分に常識外れですわよぉ」
言われてみれば確かにそうかもしれない。
そんな中、敢えて言うという事は余程なのだろう。
「精霊の森はもっと奇妙な……そうですね、鳥が泳ぎ、魚が空を飛ぶような、そういった空間が広がっているのです」
「へぇ~何だか面白そうね」
「その変幻自在さから、私たちは迷いの森と呼んでおりますわぁ」
「ミリィは迷子にならぬよう、特に気をつけなければな」
「ま、迷子になんてならないもん!」
絶対なるくせに……これは絶対に目を離す訳にはいかないな。
首輪の一つも付けておいたほうがいいかもしれない。
それにしても精霊の森か……そういえば使い魔の本体がいるなら、アインもいるのかもしれない。
ちょっと呼び出してみるか。
「こい、アイン」
サモンサーバントを念じ、アインを呼び出そうとするが反応がない。
「む……出てこないな、アインの奴……」
「にひひ♪ もう遅いしきっと寝ちゃってるんでしょ? アインはおこちゃまだからね。私のウルクなら……あれ?」
ミリィも同じようにサモンサーバントを念じるが、ウルクは出てこなかった。
セルベリエに視線を送るが、首を振る。
「実は私も、少し前から使い魔をだせなくなっていたのだ。精霊の森が近いことが関係しているのかもしれない」
どうやらセルベリエも同様らしい。
テレポートやポータルなど、移動系の魔導はあまりに近すぎると発動しない事がある。
サモンサーバントで呼び出す際に、ある程度の距離が必要なのかもしれないな。
「へぇ、そうなんですね」
「あぁ、ここから先は使い魔には頼れない。注意して戦った方がいいな」
「でもさ! 私たちの魔力で具現化してない、本当のアインやウルクに会えるって事だよね。それはそれで楽しみかも!」
「あいつらはアクが強いからな……」
楽しみ半分怖さ半分と言ったところか。
セルベリエもどこか嬉しそうな顔をしている。
クロはセルベリエの数少ない心を許せる存在だからな。
「ふぁ……食べたら少し、眠くなってきましたわぁ。もしかして睡眠薬でも混ぜましたのぉ?」
「んなわけないでしょ! メアってば、ほんと一言多いんだから……」
「うふふ、ミリィさまはからかうと面白いのですわぁ」
クスクスと笑うメアだが、言葉の通り少し眠そうだ。
今日は一日中、タイタニアを動かしていたからな。
なんだかんだで疲れたのだろう。
「今日はもう休もう。明日も早いしな」
「そうですね。あまり疲れを出してはいけませんから」
クロードが火を消すと、荷車にて皆で休む事にした。
ちなみにメアがまた夜這いをかけてくるかと思い警戒したが、その心配はなかった。
この人数を相手取るのは流石に無理だと思ったのか、それとも改心したのか。
後者であることを祈りつつ、ワシは眠りにつく。
――――そして空に赤みが差してきた頃、ワシはパチリと目を開ける。
朝……というには少し早いか。まだ夜明け前だが目が覚めてしまった。
大きく伸びをして周りを見渡すと、皆、仲良く眠っている。
「……折角だ、久しぶりの早朝狩りをしようか」
緋の魔導限界値も上がった事だし、久しぶりにレベル上げの気分である。
皆の戦力が上がってきたのは喜ばしい事だが、戦闘力過剰でワシが戦う暇がない。
ここは一人でこっそりと……そう思い抜け出そうとすると、後ろでごそりと物音が聞こえた。
「ん……ゼフ君、どこ行くんです?」
「く、クロードか。早いではないか」
「あはは、ゼフ君の方が先に起きてるじゃないですか……あふ……」
クロードはあくびをかみ殺すと、音を立てぬようこちらに近づいてくる。
ワシの耳元に手を当て、小さな声で話しかけてきた。
「狩りに行くんでしょう? ボクも連れてってくださいよ」
「一人で行こうとしていたのだが……」
「足手まといにはなりません。それにボクを連れて行かないと、皆が起きたとき告げ口しちゃうかもしれませんよ?」
悪戯っぽく笑いながら、人差し指を唇に当てるクロード。
やれやれ、悪知恵の回る事だな。
「わかったよ。だがそんな回りくどい言い方をしなくても、別に断りはしないぞ?」
「ミリィさんみたいに、真っ直ぐそう言えればいいんですけれどね」
クロードがミリィのようにか。
ミリィのようにワシの手を掴み、行こう行こうと騒ぐクロードを想像する。……うーむ、それはそれで変な感じだ。
「……やはりクロードは今のままでいいかもしれんな」
「ふふ、皆が起きる前に早く行きましょうか」
そう言うと、クロードは荷馬車を降りていくのだった。
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