効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

文字の大きさ
196 / 208
連載

337 誰がために鐘は鳴る②

しおりを挟む
「……んで、私に用事って何よ」

 ぶらぶらと歩きながら、ベルが尋ねる。

「うむ、色々と聞きたいことがあってな」
「なにそれ? ナンパ?」
「……そんな訳がなかろうが」
「じょーだんだって」

 ケタケタと楽しげに笑うベル。
 やはりこいつ、アインそっくりだ。こいつのペースに巻き込まれると、話があちこち飛んで全く進まん。
 気を取り直して話を続ける。

「……昔、城に住んでいたそうではないか。アインベルから生み出された存在だとか」
「ふーん、そんなことまで知ってるんだ……あんたもしかして、アイツの使いじゃないでしょうね。私を連れ戻しに来たとか」

 ベルは疑うような目でワシを睨みつけてくる。
 だがそれは勘ぐりすぎというものだ。

「そんなつもりはないさ。確かにアインベルはそれを望んでいたが、ワシにはどうでもいい事だ」

 そもそも言うことを聞いてやる義理はないしな。
 どちらにしろこの性格なら、たとえ捕まえてもまたすぐ逃げられそうだ。

「……ふーん、なら別にいいけどね」
「本題に戻るぞ。ワシが聞きたいのはアインベルについてだ。お前から見た印象でいいので、教えてほしい」

 アインベル本人は自身を二つに分けてベルを生み出したと言っていた。
 それは一つの真実なのだろうが、ベルから見ればまた違う真実が見えてくるかもしれない。
 少し考え込んで、ベルはまぁいいかといった具合に頷いた。

「アイツは……そうね、一言でいうとおせっかいな母親かな?」
「母親、か」
「すっごい過保護なのよ。アイツ」

 ベルはうんざりした顔で、そう呟く。

「あんたがさっき言った通り、私はアイツから生み出された存在よ。私はそれを教えられ、部屋の中に閉じ込められた。……私の姿を事情を知らない人に見られると、混乱を招くからってね」
「別れ出た、という奴か。当時の事は覚えているか?」
「んー……別れた当時はよくわからなかったけど、徐々にはっきりして言った感じかな。自我が生まれたのは、一年くらい経ってからだって後から聞かされた」

 ベルはつまらなそうに、ポリポリと頭をかく。
 成程、分裂というのは自分と同じ因子を持つ別の存在……わかりやすく言えば赤ん坊を生むような行為なのだろう。

 別れ出た存在は成長と共に自我も生まれる。
 だから外見は似ていても、中身は全くの別物なのだ。

「……確かにアイツは何不自由の無い生活をさせてくれたわよ。欲しいものは全部用意してくれたし、食べ物だって美味しいものばかり食べさせてくれた。でもね、あーんな小さな部屋の中じゃ私の心は全然満たされなかったんだ。だってそうじゃない? 小さな部屋で一生過ごすなんて、私は絶対に嫌よ!」
「だから逃げ出した、か」

 その通り、といわんばかりに頷くベル。
 これに関してはベルの言うこともよく分かる。
 いくらなんでも部屋に閉じ込めてたら息も詰まってしまうだろう。
 特にこいつは奔放な性格だ。

「城の外は不便だし危険もいっぱいだよ。でも、なんていうのかな。月並みだけど生きてるって感じがしたんだ。私は今、幸せだよ……それに」
「あ! ベルねーちゃんがかえってきたよ!」
「ベルねーちゃん!」

 ベルの家が見えてきたのとほぼ同時に、子供たちが駆けつけてきた。
 あっという間に囲まれ、困った様子で子供たちの頭を撫でるベル。
 確かに本人の言う通り、幸せそうな顔である。

「……見ての通りだからさ、私はアイツのところへは帰れないんだ。悪いね」
「だから連れて帰りに来たのではないというに……」
「そうだったっけね。じゃあ私は急いでるんで、話はこのくらいで構わない?」
「その草を煎じて薬を作らないといけないから、か?」

 先刻採取し抱えていた草を指差すと、ベルは悪戯がバレた子供のよう赤い舌を出して笑う。

「あちゃー……へへへ、ばれてたか」
「まぁな。その草を知り合いが病の治療に使っているのを見たことがあってな」

『水竜の咢』のギルドマスターであるダインは、手にした動植物の成分を理解出来る固有魔導を持つ。
 それにより毒の有無のみならず、味の良し悪しや薬としての効能までも分析が可能なのだ。
 島に着いたダインが付近の動植物を集めさせ、色々調べた中にこの草があったのだ。
 確か、解熱剤の効果があった気がする。

「さしずめ病気の子供にその草が必要で採りに行きたかったが、魔物がいるので危ない……そこにワシらが出てきた、といったところか」
「いやはは、ご名答~」

 悪びれる様子もなく、あっけらかんとした顔で言い放つベル。
 やはりアインそっくりだな。やれやれとため息を吐いて、ワシはベルに背を向ける。

「あれ? ほんとにもういいの?」
「あぁ、ただの確認みたいなものだったからな。アインベルは嘘を言ってない様だし、ベルにももう用はないさ」
「アイツは嘘はつかないよ。いい子ちゃんだからね」
「そのようだ……ま、元気でな。行くぞクロード」
「わかりました」

 クロードを連れ、ワシはベルたちに別れを告げる。
 そして先日、ヴィルクに連れられてきた町はずれへとたどり着いたワシは上空へ向けタイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのはレッドスフィアとブルースフィア。

 ――――ごおん、と今日も上空で大爆発が巻起こる。
 ミリィたちへの合図を兼ねた、魔物をおびき寄せる為の、バーストスフィア。
 重低音が響き渡り、森の木々を揺らした。
 耳を押さえていたクロードが、話しかけてくる。

「あのゼフ君、ベルちゃんとの話はあれで良かったんですか?」
「ん? あぁ、結局のところ、アインベルが言っていたことの成否を確かめたかっただけだったからな。ベル自体に用はないさ。これで後方の憂いなく、黒い魔物と……」

 ワシが言いかけた瞬間である。
 遠くの方で、何やら地響きが聞こえてきた。
 音の方を振り返ると、そこにいたのは長い尻尾を振り回し、大きな体を持つ竜の影。
 ワシの隣でクロードがごくりと息を飲む。

「黒い……竜……!」
「どうやら本命の獲物が食いついたようだな」

 バーストスフィアの音に釣られたか。
 それにしてもいきなり本体が釣れるとは思わなかったが。

「ぜ、ゼフ君、あの場所は……」
「あぁ、少々ヤバいことになったな」

 そう、黒い竜があらわれたのは、ワシらが先刻までいた貧民街だったのである。
 一歩、黒い竜が足を踏み出すと土煙と共にボロボロの家の破片が舞うのであった。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。