効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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5巻

5-1

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 ワシ――ゼフ=アインシュタインは、魔導を極めるべく少年時代へとタイムリープした魔導師だ。
 港町イズで新たな仲間、獣人のシスターであるシルシュ=オンスロートを迎えたワシらは、首都プロレアに辿り着いた。
 プロレアではまず、仲間のミリィが立ち上げたギルド『蒼穹そうきゅう狩人かりゅうど』を正式なギルドとして認可してもらうために、クレスタ大雪山の洞窟に棲む高レベルの魔物、岩石竜を倒し、牙を渡すという依頼を受けることになった。
 一度ギルド登録所に申請したものの、ギルドマスターであるミリィをはじめ、メンバーが女子供ばかりだという理由から許可が下りなかったのだ。そこへ、やり手の商人アードライが現れ、彼の依頼である岩石竜討伐を達成すればギルド登録を認めるよう、登録所の受付係に話をつけてくれたのである。
 依頼は順調に終わったものの、その最中、ワシの前世での師匠であるセルベリエがクレスタ大雪山でそうなんしてしまった。ワシはギルドの仲間とともに首都に帰還していたのだが、セルベリエの異常を念話で察知し、急遽きゅうきょ雪山に戻ったのである。
 そして鼻の利くシルシュのおかげでセルベリエを見つけ出し、無事救出に成功したのだ。
 ついでにワシの円環の水晶の欠片かけらを彼女に無理矢理渡しておいた。これで今後は、こちらからもセルベリエに念話をかけることができる。
 現在、ワシはシルシュと、ギルドの仲間であるクロードとともにクレスタ大雪山にいた。

「一時はどうなるかと思ったがな」
「えぇ、無事で何よりです」

 ワシの言葉に、シルシュがニコニコしながらうなずく。

「お手柄だったぞ。シルシュ」
「はい♪」

 シルシュの頭をでると、嬉しそうに尻尾をぶんぶんと振り回す。
 セルベリエの救助が終わった今、ここに留まる理由はない。
 あまり遅くなってミリィたちを心配させるといけないので、二人を連れてテレポートで首都へと戻ることにした。
 セルベリエはワシと別れた後、首都から少し離れたガルネクパークという小さな農村に向かったらしい。彼女の隠れ家の一つがそこにあるそうだ。またひまなときでも会いに行ってみるとしよう。

「それにしてもせっかくゼフ君が助けに来たのに、感謝の言葉も言わずに立ち去るなんて……礼儀知らずな人ですね」

 帰り際、話をしているとクロードが怒りをあらわにした。
 どうやらセルベリエの非礼に、腹を立てているようだ。
 幼い頃から騎士として教育を受けてきたクロードには我慢ならないのだろう。

「まぁあまり気にするなよ。セルベリエはあぁいう人なのだ」

 セルベリエをかばうと、クロードがこちらをじろりとにらんできた。

「……ゼフ君って、妙にセルベリエさんの肩を持ちますよね」
「そ、そうか?」
「そうですよっ!」

 つかみかからんばかりの勢いで詰め寄ってくるクロード。
 うーむ、言われてみればそうかもしれない。

「あ、あのっ! ケンカはよくないと思いますっ!」

 ワシとクロードの間に、シルシュが割り入ってくる。

「ケンカなどしていないよ。な? クロード」
「……はい。心配かけてすみません。シルシュさん」
「いえいえ!」

 渋々といった様子で引き下がるクロードを見て、あんの息を吐くシルシュ。
 ふぅ、何とか助かったな。

「ではみなさん、首都へ戻りましょう!」

 シルシュが重苦しい雰囲気を吹き飛ばすように、声を上げた。


 帰還の準備をしていると、クロードが小声で話しかけてきた。

「ゼフ君て、レディアさんもそうですけど……強い人がいいんですか?」
「うーむ、そりゃまぁ強いに越したことはないと思うぞ」
「……ボク、頑張りますから」

 長い沈黙の後、クロードはそうつぶやく。
 その瞳には、強い決意の炎が見えた。

「お二人とも気をつけてくださいっ! 魔物のニオイです!」

 突然シルシュが叫んだ。

「わかりました! シルシュさんもゼフ君も、下がっていてください!」

 そう言うとクロードは、一人切り込んでいった。

「てやぁぁぁぁあああっ!」

 きょとんとした顔のシルシュとワシだけが残される。

「な、なんでしょう……クロードさんすごく張り切っていますけど……」
「うむ……」

 ワシらの援護など必要ないとばかりに、クロードはあらわれた魔物と切り結び始めた。
 まさに鬼気迫る勢いというやつで、手を出しにくい。シルシュなどはその迫力にされている。
 もしかしてクロードは、セルベリエに対抗しているのだろうか。
 ……まぁやる気があるのはいいことだし、ここは気の済むようにやらせておくか。
 その後も、道中であらわれた魔物はほとんどクロードが一人で相手をした。
 張り切るのはいいが、若干気負いすぎているのが気にかかる……クロードは器用な性格ではないし、無理をし過ぎぬよう気遣ってやらねばな。


     ◆ ◆ ◆


 ――そしてようやく首都へと帰ってきたのは、前回この街を出発してから三日も経った朝であった。
 帰還したワシら三人を、ミリィとレディアが宿の前で出迎える。レディアは商人で、ギルドの仲間でもある。

「も~、三人ともどこ行ってたのよっ! 私とレディアに面倒な仕事押し付けてさぁーっ!」

 ワシらがクレスタ大雪山に行っている間に、ギルドの正式登録とやらは無事終わったようである。
 その手続きが余程面倒だったらしく、ミリィは不満げだ。ねぎらってやろうと頭を撫でると、少しは不満がやわらいだのか表情が緩んだ。

「すまんな。こちらも色々あったのだ」
「あっはは。ゼフっちが色々あるのは、いつものことだよねぇ~」
「いつものことかぁ~……確かに、ゼフにはいつものことね」

 レディアの言葉にミリィが同意し、ため息を吐きながらやれやれといったポーズをする。
 レディアはともかく、ミリィにそんな態度を取られると何か腹が立つぞ。
 撫でていた手でチョップを繰り出す。

「いたっ! もー、何すんのよ!」
「それでレディア。正式ギルドの認証は何も問題なかったか?」
「ん、実力があるなら問題なし、だってさ」
「ちょっと、無視しないでよーっ!」

 誰が無視したというのだ、人聞きの悪い。お前が調子に乗るのが悪いんだぞ、ミリィ。
 ともあれ正式なギルド認証を受けたことで、やっとギルドハウスの購入が可能となった。
 しかしもちろん、金がなければ買うことはできない。

「岩石竜のきばはいくらになった?」
「ちょいと待ってね……こんなもんかな」

 レディアが袋から取り出したのは、岩石竜の牙三本分、千七百万ルピ。
 本来一本で五百万ルピの仕事のはずだったのだが、二百万ほど多い。

「交渉して少し高く買い取ってもらったよー♪」
「助かる」

 こういうときのレディアは非常に頼りになる。流石さすが商人だ。
 岩石竜はちゃんとした構成のパーティであればそこまで苦労せず狩れる魔物である。その牙は用途が少なく、本来の売値は百万ルピ前後であるが、急募であったためか、アードライがかなり割高で買い取ってくれたらしい。
 というかミリィのおかげで、おまけをしてもらったのかもしれない。
 あのロリコン野郎に借りを作ったようで、気分は複雑だがな。
 ともあれ資金の元手としては十分、か。

「この金を十倍に増やすつもりだ。今日からは金銭狩りをメインに行っていこうと思う……買うぞ、ギルドハウス」
「何か考えがあるのですか?」
「もちろんだとも」

 期待に満ちた目を向けてくるクロードに、ワシはにやりと笑って答える。

「今日からクジ引きがあることを知っているか?」
「はい。アイテムクジですよね。……実は先月首都に着いてすぐ、引きました」
「クロード……相変わらずそういうの好きね……」

 あきれるミリィに、あははと困り顔で笑い返すクロード。
 クジ引きとは魔導師協会と冒険者ギルドが共催する、イベントの一つである。
 十枚で一万ルピと結構な値段だが、大当たりの景品は、防御力アップをはじめとした様々な効果のあるボスカードや超レア装備など、非常に豪華。
 ……これは裏話だが、実はこのイベント、魔導師協会の作ったマジックアイテムの失敗作を処分する場なのだ。レアアイテムをエサにした、処分市というワケである。

「クロちゃん、何かいいの出た~?」
「いえ、全然でした……」
「ダメですよクロードさん。楽をしてもうけようなどとしても、そう上手くはいかないものなのですから」
「う……はい……」

 シルシュに説教されるクロード。
 クジの中身は九割がハズレなのだが、それでも一発逆転をかけて挑戦する者はいる。
 そして次こそは……次こそは……と泥沼にはまり、金がなくなると手に入れたアイテムを売ってまたクジを引くのである。
 しゃこうしんあおった、何ともえげつないイベントだ。ワシの知り合いにもこれにハマって破産しかけた者が何人もいる。
 だがこれは金儲けのチャンスでもあり、上手くやれば、いっかくせんきんも夢ではない。

「露店広場へ行くぞ」
「あ……また何か悪いこと考えてる……」

 ミリィめ、人聞きの悪いことを言うなというのに。
 こうしてワシは皆を連れて、露店広場へと足を運ぶのであった。


 ――露店広場。
 人ごみの中、皆を引き連れて歩みを進める。
 迷子にならないようにミリィの手を引いているが、それでもミリィは店々に引き寄せられるようにあちこちへとフラフラしている。
 まったく、危なっかしい奴め。だからいつまで経っても子供扱いなのだぞ。

「今日は特に露店の数が多いみたいねぇ~」
「クジ引きのある日は、大体こんな感じだ」
「景品を売ったお金でまたクジを、というわけですか……あぁ、人というのは何故こんなにも愚かなのでしょう……」
「……」

 冷たい目をするシルシュに、クロードは耳が痛いといった顔をしている。
 あの様子では結構引いたようだな……クロードのギャンブル好きにも困ったものだ。
 広場に所狭しと並んでいる露店の店先には、珍しいアイテムが多数うかがえる。あれがクジ引き限定のレアアイテムだ。
 値段も下は百ルピから上は三百万ルピと、結構なバラけ具合である。
 珍しいものがあふれる露店広場を見て回っていると、大体の傾向がつかめてきた。
 ガルガントリング――身体能力の向上と引き換えに、体力がじわじわと削られていくアクセサリー。効果は高いが常にヒーリングなどで回復する必要があり、つけっぱなしにしていると死ぬこともあり得る。露店に出回っている中では一番出物が少ないようだ。値段も高い。
 マントオブアクアロード――そう系統に属するダメージをカットするマントである。代わりに系統のダメージが増えてしまうのが欠点だが、使い方を間違えなければ強力だ。
 ちなみに岩石竜戦で使ったマントオブフレイムロードは同じシリーズである。先月のクジで引き当てられて市場に出回ったものを、運良く安価で仕入れられたのだ。それなりの値段で出る物も多いらしく、軽く露店を見ただけでも百点以上は出ている。
 フラワーボム――魔導による使いきりの爆弾で、投げつけると数秒後に爆発する。攻撃手段として開発されたものだそうだが、火力が低すぎて使い物にならなかったようだ。ゴミ扱いで、百ルピで捨て売りされているものが多い。
 今回のクジ引きでは、この三つのアイテムが新しく市場に出てきたようである。
 レディアはワシの狙いがわかったのか、あごに指を当てて目をキラリと光らせる。

「なるほど~、このお金を元手にアイテムを転売するってわけね」
「その通り」

 クジにより新しく市場に出たアイテムはまだ価値が定まっておらず、この数日の売り買いにより相場が決まるのだ。
 そこで安く売られているものを大量に買い込み、後々品薄になってから高く売ることで、時間はかかるが低リスクで金を稼ぐことが可能となる。
 いわゆるサヤ抜きである。
 レディアは以前、ベルタの街で転売商人として露店広場を駆け回っていたしな。こういうのはお得意だろう。

「任せていいか? レディア」
「もっちろん! おねーさんに任しときなさい♪」
「やり方は任せるよ。資金は渡しておくから頑張って増やしてくれよ」
「ふっふっふ、ゼフっちに頼られちゃあ、張り切るしかないねぇ」

 楽しそうに笑うレディア。頼もしすぎるぞ。
 レディアは渡した金を袋に詰める。

「そんじゃミリィちゃん借りるね~」

 そう言うと、レディアはミリィを抱きかかえて走り去った。

「な、なんで私が!? ちょ……助けてゼフーっ!?」

 袋の容量は持ち主の魔力量に依存するため、魔力の低いレディアではあまり袋にアイテムを入れられない。
 魔力量が膨大なミリィは荷物持ちとしては最適だ。だから連れて行かれたのであろう。

「あはは……行っちゃいましたね」
「うむ」

 レディアたちを見送っていると、冒険者にでももらったのか、フラワーボムを爆破して遊んでいる子供の姿が見えた。
 露店広場の様子も、どこか普段より騒がしい。
 そういえばそろそろアレの時期だったか。
 転売で地道にいこうと思っていたが、もしかしたら一気に稼げるかもしれないな。
 特にフラワーボム。こいつは使えるかもしれない……

「それで、ボクらはどうするんです?」

 クロードが聞いてきた。

「ワシらもやることがあるぞ。……ついて来い」

 クロードとシルシュを引き連れて、露店街の端、欲しいアイテムの買い取りを希望する者たちが集まる、買取広場へと足を運んだ。
 そこへ看板を立て、ワシはすらすらと一文をしたためた。
 シルシュが、掲げられたそれを読み上げる。

「フラワーボム買い取り、一個100ルピ、大量可! ……ですか」
「あぁ、まずはフラワーボムをありったけ買い集める。それを二人に任せたい」
「そのくらいお安い御用です」
「わ、私も大丈夫ですっ! 昔はよく教会の資金繰りのために露店をやっていましたから!」

 クロードもシルシュもやる気十分といった感じで、準備をし始めた。
 特にシルシュ。そういえばどこの教会も、時折格安のバザーをやっていたっけか。
 前世では魔物けの聖水を、寄付代わりにいくつか買った記憶がある。
 しかし……ふむ。
 鎧を着こんだ剣士風の格好のクロードと、神官服のシルシュ。
 ……シルシュはともかく、クロードの服装は問題だな。

「クロード、少し後ろを向いてくれ」
「へ? 構わないですけど……ひゃっ!? 何するんですかっ! ゼフ君っ!?」
「そんな格好では人を集められないだろう。女連れのイケメン買い取り屋などに誰が来るというのだ。せめて鎧を脱げ」
「誰がイケメンですかぁーっ!?」

 叫ぶクロードの背をつかまえて鎧を外すと、服の上からでもわかるほど大きな胸が揺れた。
 クロードが赤面しつつ胸を押さえて座り込む。だが全く隠しきれておらず、腕の隙間からはみ出している胸に、男性冒険者たちの目が釘付けになった。効果は抜群のようだ。
 少々地味な服装ではあるが、シスター服のシルシュと一緒ならこれくらいが丁度いいだろう。

「それでは二人に買い取りを任せて構わないか?」
「うぅ……いいですけどぉ……」
「ゼフさんはどこかへ行くのですか?」
「言っただろう? 女連れのイケメン買い取り屋に誰が売りに来るというのだ。ワシは邪魔なんだよ」
「えーと……あはは」

 立ち去るワシの背から、クロードの乾いた笑い声が聞こえる。
 ついでにシルシュの小声も。

「ゼフさんて、もしかしてものすごい自信家なのですか……?」
「そこがいいところでもあり、悪いところでもあるんですよねぇ……」

 おい、せめて陰口はワシに聞こえぬようにしろ。
 振り返ってじろりと睨み付けると、二人はワシから視線をらすのだった。


 ――各々おのおのの活動は夜まで続いた。宿に戻り、各自疲れを風呂で洗い流した後、ワシの部屋に集まって成果を報告し合うことにした。
 ミリィとレディアは、所持金の約半分を使ってマントオブアクアロードを五点、ガルガントリング一点、あとは相場より大幅に安い、投げ売りされていた何点かのアイテムを購入したらしい。
 クロードとシルシュのほうも上手くいったようで、数千個ものフラワーボムを手に入れることができたという。

「な? 上手くいっただろう、クロード」
「そ、そうですけど……」
「何の話?」
「ワシとクロードがイケメンだということだよ」
「?」

 くっくっと笑うワシとむすっとした顔のクロード、そして何の話かよくわかっていないミリィ。
 ちなみにワシも、やるべきことを皆に押し付けて一人遊んでいたわけではない。
 ワシはワシで、色々とやることがあったのである。
 金策はいくら打っておいてもいい。

「もちろん狩りも金銭中心で行う予定だ。明日からは稼ぎまくるぞ」
「うんっ!」

 ミリィの返事と共に、他の三人も頷くのであった。


 その後、魔力線の強化を行うために、ワシはクロードとシルシュの部屋を訪ねた。
 魔力線とは体内に巡らされた魔力の通る線のことで、これを刺激することで魔導の力を向上させることができるのだ。
 ベッドへとワシを招いたクロードが、何やら真剣な顔を向けてくる。

「今日からは、もっと強くしてもらえませんか? ……その、前やったみたいに……」

 首都へ来る前に、イズの町でやった魔力線超強化のことを言っているのだろう。
 レディアすらも一日寝込み、クロードにいたっては何日かまともに動くことができなかった。

「しかしあれは身体に負担がかかりすぎるからなぁ……」
「大丈夫です。痛いのには慣れていますから」

 真剣な目でそう言うクロードだが、正直あまり気は進まない。
 強くなりたいといっても、過剰な負荷をかけて休む期間が増えてしまっては結局効率が落ちてしまう。
 渋っていると、クロードがさらに詰め寄ってきた。

「ボクは、もっともっと強くなりたいんです。ゼフ君に頼られるくらい、もっと!」
「クロード……」

 そういえば先日、「もっと強くなる」とか言っていたな。
 そこまで言うのならば、クロードの頼みをにするわけにもいくまい。
 ならば今日からは、できるだけ強めにしてやるとするか。

「わかったよ。横になれ、クロード」
「ありがとうございます!」

 ワシの言葉に笑顔で返すクロードは、後ろを向いて服を脱ぎ、ベッドにうつ伏せになった。

「ん……お願いします」
「わかった」
「あ、あの~、私は……?」

 クロードの横に座ろうとするワシのそでを、シルシュが遠慮気味に引っ張ってくる。
 そういえばシルシュのことを忘れていたな。
 しかしシルシュに魔力線の強化はまだ早い。獣人のシルシュは怒りや興奮などによって獣性が刺激されると、理性を失い暴走してしまう。魔力線の操作をしているときのワシは完全に無防備だし、いきなり暴走されると、とっさに対処できないのだ。
 以前、シルシュはクロードとの行為を見ていただけで真っ赤になって暴れそうになったしな。
 ……ならせめて、慣れさせていかねば。

「わかった。ではシルシュはこいつで……な」
「こ、これは……?」

 困惑気味のシルシュに、ワシは手にしたロープを巻きつけていくのだった。
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