引きこもり錬金術師がポーションマスターと呼ばれるまで

謙虚なサークル

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引きこもり、タイポイへ行く③

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 地方都市《ローカルシティ》タイポイ。
 街の至る所に竹が生え、壁には奇妙な彫刻が刻まれている。
 中華風の建物とNPCたちが二人を迎えた。

「はえー、なんか雰囲気違うねー」
「だよな。西洋風マップから少し移動しただけで中華風マップだもんな。まぁこの統一感のなさがRROの魅力だと俺は思っているが……折角だし、少し見て回るか?」
「いいっすねー」

 二人はそう言って、タイポイの中を歩き回る。
 向かい合った巨大獅子の間を抜けると、無数の灯篭に照らされた長く細い階段が見えた。

「上がってみようよ」

 エイスはそう言うとサッサと階段を昇っていく。
 幻想的な景色に魅了されながらも二人が頂上に辿り着くと、そこには「茶処」と書かれた店があった。

「ねぇ、あそこにお茶屋さんがあるよ。入ってみよー」
「そうだな。喉が渇いたし」

 二人は暖簾を躱し、店の中へと足を踏み入れた。
 中にはテーブルが幾つかあり、その中央には鉄製のヤカンが置かれていた。

「イラシャイ! お茶にする? お菓子にする?」

 中ではチャイナドレスを着たNPCが、カタコトで二人を迎える。

「両方で! 二人前で!」

 エイスは早速席に着くと、二つずつ注文した。

「わかたネー」

 NPCはにっこり笑うと、スタスタ奥へと歩いていった。

「楽しみねぇ。どんな料理が出て来るのかしらー」
「そうだな。食事の楽しみはVRMMOならではだ」

 VRMMOは脳に直接電気信号を送ることで、味覚も忠実に再現する事が可能である。
 スタッフが食事を食べた感覚をPC内にプログラムしているのだ。
 完璧に自分が感じた味ともいえないし、腹が膨れるわけでもないが、仮想的に世界各国の美味いものを味わう事ができるのだ。
 出てくるまでに時間がかかるのは調理している「てい」ではあるが、膨大なプログラムの読み込みをしているとかいないとか。

「おまちどーサマ」

 しばらくするとNPCが茶と菓子を持って戻ってきた。
 茶は湯気が立ち昇っており、皿には小さなクッキーのようなものが置かれていた。

「美人茶とパイナップルケーキだヨ。おいしーヨ」
「ありがとー! いただきまーす!」
「いただきます」

 二人は手を合わせ、お茶を一口飲む。

「あ、おいしー。烏龍茶を薄めたような味ね」
「うん、飲みやすいな。慣れ親しんだ味だ。こっちもいただいてみるか」

 今度はパイナップルケーキを口に入れる。
 しっとりとしたクッキー生地の中には、煮詰めたジャムのようなものが入っていた。

「あっっっま! 濃厚なジャムって感じだねー」
「脳が溶けそうなワザとらしい甘さが『らしい』な。でも意外と美味い」
「お茶とよく合うねー」

 もしゃもしゃと食べかながら、お茶で流し込む。
 エイスの回復しきってなかったSPが回復した。

「そういえば、このゲームだと料理で回復するんだよね。ポーションに味をつけられないの?」
「確かに、オレンジジュースとかは味のついたポーションだもんな。そういうのも出来るかも……また今度試してみよう」
「美味しいのをよろしくー」

 食事を終えた二人は、街に降りて散策を再開する。

「やはりローカルシティだとロクな道具を売ってないな」
「武器防具もだねー。皮装備ばっかり。軽いのはいいけどさ」
「人《プレイヤー》も全然いないしな。攻略組くらいはいるかと思ったが……」

 街中にはNPCしかおらず、プレイヤーの姿は見えなかった。
 タイポイはプロレシアからも離れており、ヘルズゲートへの道からも外れている。
 プレイヤーとしてはあまり魅力のない場所なのだ。

「ていうかそろそろ散策も飽きたし、本題にいきましょうよ! 笹の葉狩りにさ!」
「いや、今日はやめておこう。ポーション作りたいからな」
「えー、そうなの?」
「うむ、道中色々拾ったからな。試したいんだ」
「ふーん、じゃあ私はもうちょっと見て回って来るよ」
「あぁ、一人で外に出ちゃダメだぞ」
「子供扱いかーーーっ!」

 エイスはあっかんべーをしながら、走り去っていった。
 一人残されたヴァットは街の中央に移動すると、メイド姿のNPCに話しかける。

「いらっしゃいませ、倉庫を使われますか?」
「あぁ、頼む」
「かしこまりました」

 メイドNPCはお辞儀をすると、巨大なコンソールを出現させた。
 中にはヴァットが所持しているアイテムがずらりと並んでいる。
 ヴァットはその中からぽちぽちと選び、決定ボタンを押した。
 直後、ヴァットは自分の背中がずっしりと重くなる感じを受けた。
 倉庫の中のアイテムが鞄の中に入ったのだ。
 ヴァットは最後に閉じるボタンを押した。

「ご利用ありがとうございました」

 もう一度ぺこりとお辞儀をすると、メイドNPCは直立不動の姿勢に戻る。
 ヴァットはその横に座り込むと、鞄の中から様々なアイテムを取り出す。

「さてと、まずは使ったアイテムを補充するか」

 コンソールを出現させ、そこへ鞄に詰めたアイテムをドラッグ&ドロップする。
 レッドハーブと空ポーションで、レッドポーション。
 先刻の戦闘でかなり使ってしまい、残りは半分ほどとなっていた。
 まともに狩りをするならもっと必要になるだろう。
 ヴァットはスキルを連続して使用し、レッドポーションを幾つか生成する。

 次に魚鱗とブルーハーブ、そして空ポーションを組み合わせてスキル発動。
 レジストアクアポーションが生成された。
 使用した分を含め、帰りの分も作っておく。

「さて、あとはこいつだな」

 ヴァットが次に取り出したのは毒の牙だ。
 それを二つと空ポーションを組み合わせてスキルを発動させると、毒々しい色のポーションが生成された。
 ベナムポーションと表示されていた。

「よし、こいつを使えば何とかなりそうだ……とはいえ一度、試してみるか」

 ヴァットは生成したポーションを鞄に仕舞い込むと、街の外へ向かうのだった。
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