引きこもり錬金術師がポーションマスターと呼ばれるまで

謙虚なサークル

文字の大きさ
20 / 29

引きこもり、新スキルを試す②

しおりを挟む
「……くそ!逃げやがったなあの野郎!」

 弓使いの一人が悔しそうに声を上げる。
 ヴァットにしつこくダイレクトメッセージを送っていた弓使いの手元のコンソールには、「メッセージが拒否されています」と表示されていた。

「こっちもだ。どうやらブロックされたらしい」
「ふん、反論出来なくなったらこれだ。厨房のやりそうな事だぜ」

 弓使いたちは憤慨しながら、未だに文句を言っていた。

「……しかしどうするよ。あいつがいたら砂漠トカゲが孵って、マップに徘徊するようになっちまうぜ」
「そうなったらヤバいな。いくら俺たちでも、いきなり砂漠トカゲに突っ込んで来られたら、死んでしまうかもしれねぇ。早くどうにかして追い出さないと……」

 考え込む弓使いたち。
 しばし考えた後、一人が顔を上げた。

「……そうだ!いい事を考えたぜ」

 男はニヤリと笑うと、砂漠トカゲの卵を見やるのだった。

■■■

 歩き回る事しばし、ヴァットは画面端に映る楕円状の球体に気づく。
 砂漠の保護色となって分かりにくいが、砂漠トカゲの卵だ。

「よし、早速試し撃ちといくか」

 銃を構えたヴァットが鞄から取り出したのは合成弾、ポーションバレット・インベナムである。
 合成弾をケミカルガンに装填すると、ヴァットの手元にスキルウインドウが開いた。

「インベナムショット……なるほど、専用スキルが使えるわけだな」

 RROでは特殊な武器やアクセサリーを装備する事で、それ専用のスキルを使用可能である。
 インベナムショットのSP消費は0、恐らくただ弾丸を飛ばし、毒を付与するだけのスキルだと思われた。

「悪くはないが、こいつ相手に使うのは微妙だな」

 すぐに孵化する砂漠トカゲの卵に、半端な攻撃は危険である。
 それにこのスキル、ディレイや詠唱の有無すらわからない。
 手間取っていると孵化されて仕舞う危険がある。
 如何にヴァットと言えど砂漠トカゲには負けないが、結構ダメージを受けてしまうので出来れば戦いたくはなかった。

「別のを試すか」

 ヴァットは銃から合成弾を取り出すと、新しいものを込める。
 ポーションバレット・スタンピィ。
 これはダメージを与えつつ相手を数秒間怯ませる効果を持つスタンプポーションと、通常弾であるアイアンバレットとの合成弾。

 新たに開いたスキルウインドウには、スタンピィシュートと表示されていた。
 その詳細を見たヴァットは驚いた。

「消費SP……50だと!?」

 ヴァットの最大SPの3割近い消費量である。
 これだけ消費して、ただ怯ませるだけとも思えなかった。

「こいつは期待出来そうだぜ」

 ヴァットは狙いを定め、引き金を引く。
 すると詠唱バーが一瞬出現し、それが終わると凄まじい破裂音と共に衝撃波エフェクトが砂漠トカゲの卵を貫いた。
 頭上に表示されるダメージ値は7586、砂漠トカゲの卵のHPを二回削り切って有り余る程のダメージであった。
 あまりのダメージに、ヴァットは目を丸くする。

「……なんちゅう威力だよ」

 ヴァットの通常攻撃は700から800程度、つまり10倍を超えるダメージを叩き出した事になる。
 他のジョブのスキル倍率は1.5倍から4.8倍。
 アイテムを消費するとはいえ、この威力はまさしく破格であった。

「詠唱時間は0.5秒、倍率は10倍……ってところか。ディレイはかなり長いな。恐らく5秒くらいだな。ともあれ、かなり強力なスキルだな。これは試し甲斐があるってもんだ。……よし、次はこれを試してみよう」

 ヴァットは新たな合成弾を取り出し、また獲物を探す。

「お、フレイムポーションとの合成弾も結構ダメージ出るんだな」

 それからヴァットは合成弾を試しまくっていた。
 何となく見つけた法則としては、状態異常を付与するポーションの合成弾は詠唱もディレイもないが、ダメージも通常攻撃と変わらない。
 単純に射程が長く、同時に通常攻撃程のダメージを与えるくらいだ。

 しかしダメージを与えるタイプのポーションとの合成弾は、かなり強力なダメージを与える傾向にある。

「ダメージポーションは何に使うのかと思っていたが……合成弾として使えっていう事か」

 所謂ダメージポーションと言うものは、ダメージを与えるのと同時に微妙な状態異常をもたらすというものだ。
 ダメージはそこそこあるものの、やや長めの詠唱時間とディレイ、加えて射程の狭さから、ヴァットは使いにくさを感じていた。
 だが合成弾にすれば、長距離からの圧倒的攻撃力は非常に優秀。

「これならもっと強いモンスター相手でも、一確狩りで使えそうだな」

 そう思ったヴァットは、ここでの試し撃ちを終える事にした。
 経験値の少ない砂漠トカゲの卵より、もっと美味い狩場が近くにあるのだ。

 移動しようとしたヴァットの進行方向から、砂を踏む音が聞こえてくる。
 遠かったその音はだんだん近づき、ヴァットがそちらを見ると土煙が上がっていた。
 土煙の先頭にいるのは、砂漠トカゲを引き連れた弓使いたちだった。

「……なにやってんだ?あいつら」

 どうやら二人は追われているように見えた。
 一瞬、助けようとしたヴァットだったが、銃を担いでいただけであれだけ文句を言ってきた二人だ。
 ここで倒せば横殴りだのなんだのと文句をつけてくるのは想像に難くない。
 ヴァットは少し考え込んだ後、鞄からポーションを一本取り出し飲み干した。
 するとヴァットの姿がゆっくり透明になっていく。

 これはクローキングポーション。
 使用すると一定時間姿を消し、モンスターの視認を阻害する事が出来る。
 攻撃を受けたり攻撃をしたら解除されてしまうので一方的に有利な状況を作れるわけではない。
 しかも隠れるのに多少の時間がかかる為、緊急避難に使うにはやや難ありだ。
 だがこれだけ距離が離れていれば、余裕で隠れることは可能。

「お、おい!あいつどこ行きやがった!?」
「しらねぇよ!さっきまでここにいたのに!」
「くそっ!や、やべぇ!兎に角こいつらから逃げないと!」

 弓使いたちはヴァットが隠れているのに気づくこともなく、砂漠トカゲに追われて逃げて行った。
 二人が立ち去ったのを確認したヴァットは、透明化を解除する。

「……なんだかわからんが、大変そうだな」

 そう独りごちながら、ヴァットは砂漠マップを去るのだった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...