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引きこもり、新スキルを試す③
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ヴァットが移動したのは先刻までいた砂漠マップのすぐ右、荒野マップである。
入り組んでおり少々移動しにくいが、砂漠トカゲの卵に加えそれの強化版である砂漠竜の卵がいる。
強化版だけあって基本的な行動は同じで、攻撃を受けると詠唱を始め、孵化するというものだ。
だが卵のHPは10倍以上、詠唱速度も倍早く、孵化した砂漠竜の強さは砂漠トカゲとは比べ物にならない。
よって、詠唱完了までに確実に仕留めねばならないのだ。
「お、早速いたな」
やや離れた岩壁の下に、巨大な卵が鎮座していた。
その大きさは砂漠トカゲのものとは比べものにならず、その外観は白をベースに薄い緑のまだら模様が点々とある。
「砂漠竜の卵のHPは約12000、DEFが高めなのを考慮すると……こいつの出番か」
ヴァットが鞄から取り出したのは、ポーションバレット・アシッド。
これは相手のDEFが高い程与えるダメージが大きくなるという硫酸ポーションとの合成弾。
イメージとしては、外殻を溶かし内部を破壊するというものだ。
その合成弾、これはヴァットが現在試したものの中でも特に威力が大きい。
ヴァットは照準を合わせると、砂漠竜の卵を狙い撃つ。
着弾の後、ばしゃあ!と水のかかるエフェクトが広がり砂漠竜の卵を包み溶かしていく。
ダメージは13521、一撃で砂漠竜の卵は消滅してしまった。
ヴァットは少し目を丸くして、口笛を吹いた。
「ヒュウ、いいダメージだ」
ヴァットは気をよくしながら、砂漠竜の消滅した場所へ行くとドロップアイテムである分厚い殻を拾う。
「しかし二発必要かと思ったが、嬉しい誤算だな。思ったよりDEFが高い相手を狙うのもアリかもしれん」
そう呟いて、ヴァットは新たな獲物候補を思案しながら索敵を始めるのだった。
■■■
「……あの野郎、ふざけやがって……!」
そして弓使いの二人組もこのマップに来ていた。
とはいえヴァットを追って来たわけではなく、砂漠トカゲに追われ、命からがら逃げた先がこのマップだった、というだけの偶然なのだが。
「砂漠トカゲをぶつけて追い払おうと思ったが、どこかに行ったみたいだな」
「ミスって死んだのかもしれねぇぜ。何せガンナー(笑)だしな」
「違いねぇ。あいつ、AGIも振ってないのか移動速度も遅かったしな。俺らみたいに華麗に躱しながら仕切り直す、なんてテクニックは使えないだろうよ」
「全くだ!ははは!……ん?なんだありゃ」
弓使いの一人が見つけたのは、砂漠竜の卵である。
「どうやらここも卵マップのようだな。ちょっとでっかいが、まぁトカゲ卵と似たようなもんだろうな」
「じゃあちょっと狩ってみるか。二人がかりなら余裕だろう」
「SPにも余裕がある。よし、行くぜ!ストライプアロー!」
弓使いの一人が矢をつがえ、砂漠竜の卵に向けて放つ。
ストライプアロー。倍率も高くSP消費も少ない、弓使いを強ジョブとしているスキルの1つだ。
鋭い風切り音の後、パパン!と命中音が鳴り、砂漠竜の卵にダメージが入る。
表示されたダメージは800、HPバーの1割にも満たなかった。
「な……か、かてぇ!」
砂漠トカゲの卵相手であれば3000は出る一撃。
想定をはるかに下回るダメージに二人は目を丸くする。
「おい、詠唱が始まったぞ!」
「撃て!撃ちまくれ!」
弓使いたちはストライプアローを連射する。
射撃音が連続して鳴り響く中、砂漠竜の卵のHPバーが減っていく。
減ってはいくが――――それよりも詠唱が終わる方が早い。
卵に亀裂が入り、割れた。
「やったか!?」
弓使いの男が声を上げる。
が、卵が割れ消滅した後に残ったのは、砂色をした巨大な竜だった。
赤褐色の目玉がぐりんと廻り、弓使い二人を捉えた。
「ギョォォォエェェェェェェェ!!」
大きな口を開け吠える竜の頭上に表示された文字は砂漠竜《サンドドラゴン》。
4本足を素早く交互に動かしながら、すさまじい速度で弓使いに迫る。
勢いのままに鎌首を持ち上げて――――噛み砕いた。
840、弓使いの頭上にダメージが表示された。
HPバーは真っ黒になっていた。
「ひ――――!?」
悲鳴を上げようとした直後、再度振り下ろされる砂漠竜の顎。
HPバーは回復の暇もなく削り取られ、弓使いの一人は倒れた。
「あ、あ……」
それを見て後ずさりする弓使いの一人に、続いて襲い掛かる砂漠竜。
すぐに振り返り逃げようとした弓使いの背中に、がぶり、がぶりと二噛み。
残った弓使いのHPも容赦なく削り取った。
倒れた弓使いたちはゆっくりと消滅していく。
ゲーム内での死は現実での死、弓使いたちは、そのプレイヤーの命は、そこで終わりを告げた。
「グルルルル……」
二人の弓使いを殺し終えた後、砂漠竜は長い首を左右に動かし新たな獲物を探し始める。
そして見つけた。
砂漠竜の視線の先にて、卵《どうぞく》を倒し終え、その遺品《ドロップアイテム》を拾う錬金術師《ヴァット》の姿を。
赤褐色の目玉の、その瞳孔がゆっくりと閉じていく。
砂漠竜は両腕両脚に力を込め、跳ねる。
よだれで濡れた無数の牙は、目の前の錬金術師へと向けられていた。
「ギョォォォォォォォォォォ!!」
砂漠竜は咆哮を上げながら、ヴァット目掛けて真っ直ぐに駆ける。
小川を飛び越え、大岩を避け、凄まじい速度で真っ直ぐに。
「砂漠竜……!?な、なんで孵ってんだ!?」
咄嗟にクローキングポーションを取り出そうとするヴァットだったが、すぐにその選択肢を捨てる。
砂漠竜はボス属性、これを持つモンスターはあらゆる状態異常に対する耐性を持ち、ハイド状態にあるプレイヤーすらも視認するのだ。
ならばと鞄から取り出したのは、スパイダーポーション、砂漠竜の足元目掛け投げつけると、瓶が割れ液体が蜘蛛糸状に飛び散る。
蜘蛛糸状の地面設置型オブジェクト、それに突っ込んだ途端、砂漠竜の動きが止まった。
地面設置型オブジェクトによる移動停止は状態異常の範疇外。
ボス属性相手にも効果があるのだ。
とはいえボス属性相手には極端な補正がかかり、効果は本来の30%。
スパイダーポーション自体の捕縛時間も短い為、止められる時間は1秒以下である。
だが、それで十分だった。
ヴァットは砂漠竜の進行方向に向かって、順々にスパイダーポーションを投げていく。
「ギョォォォ!」
蜘蛛糸オブジェクトが消滅し、動こうとした瞬間に砂漠竜は次の蜘蛛糸に引っかかる。
これを抜けても次の蜘蛛糸に引っかかるであろう。
次も、その次も、目の前に獲物《ヴァット》がいる限り。
「蜘蛛糸ハメってところかな」
ヴァットは一息吐くと、悔しげに睨み付ける砂漠竜を一瞥し、言った。
取り出した合成弾を銃に込めると、砂漠竜へ銃口を向け、放つのはポーションバレット・スタンピィ。
射撃の合間に蜘蛛糸ポーションを挟み、隙も与えない。
ががん!ががん!と断続的な射撃音がしばらく響き……
「ギョォォォォォォォォォォ……」
断末魔の雄叫びを上げ、砂漠竜は倒れ伏した。
消滅した後には、竜の牙が残されていた。
「ふぅ、危なかったな」
鞄の中を見やると、蜘蛛糸ポーションの残量は残り4つまで減っていた。
これは短時間しか止められない為、消費が激しいのだ。
「弓使いのトラバサミなら、値段も安いし拘束時間も長いから、この手のモンスター相手も楽できるんだが……そういえばあの二人組、砂漠トカゲに追われていたがどうなったのかね」
ふと、ヴァットは先刻の弓使いたちを思い出す。
トラバサミは弓使いの必須スキル、取得していない筈はない。
どんな型の弓使いでも取っておき、常備していくものなのだ。
あんな風に逃げ惑う必要はないのだが……
「恐らく焦ってたんだろうな。地面設置型スキルは咄嗟の判断が必要だ。ま、ワープポータルが近くにあったし逃げ切れない事はないだろう」
ヴァットはそう結論付けると、その場を後にするのだった。
入り組んでおり少々移動しにくいが、砂漠トカゲの卵に加えそれの強化版である砂漠竜の卵がいる。
強化版だけあって基本的な行動は同じで、攻撃を受けると詠唱を始め、孵化するというものだ。
だが卵のHPは10倍以上、詠唱速度も倍早く、孵化した砂漠竜の強さは砂漠トカゲとは比べ物にならない。
よって、詠唱完了までに確実に仕留めねばならないのだ。
「お、早速いたな」
やや離れた岩壁の下に、巨大な卵が鎮座していた。
その大きさは砂漠トカゲのものとは比べものにならず、その外観は白をベースに薄い緑のまだら模様が点々とある。
「砂漠竜の卵のHPは約12000、DEFが高めなのを考慮すると……こいつの出番か」
ヴァットが鞄から取り出したのは、ポーションバレット・アシッド。
これは相手のDEFが高い程与えるダメージが大きくなるという硫酸ポーションとの合成弾。
イメージとしては、外殻を溶かし内部を破壊するというものだ。
その合成弾、これはヴァットが現在試したものの中でも特に威力が大きい。
ヴァットは照準を合わせると、砂漠竜の卵を狙い撃つ。
着弾の後、ばしゃあ!と水のかかるエフェクトが広がり砂漠竜の卵を包み溶かしていく。
ダメージは13521、一撃で砂漠竜の卵は消滅してしまった。
ヴァットは少し目を丸くして、口笛を吹いた。
「ヒュウ、いいダメージだ」
ヴァットは気をよくしながら、砂漠竜の消滅した場所へ行くとドロップアイテムである分厚い殻を拾う。
「しかし二発必要かと思ったが、嬉しい誤算だな。思ったよりDEFが高い相手を狙うのもアリかもしれん」
そう呟いて、ヴァットは新たな獲物候補を思案しながら索敵を始めるのだった。
■■■
「……あの野郎、ふざけやがって……!」
そして弓使いの二人組もこのマップに来ていた。
とはいえヴァットを追って来たわけではなく、砂漠トカゲに追われ、命からがら逃げた先がこのマップだった、というだけの偶然なのだが。
「砂漠トカゲをぶつけて追い払おうと思ったが、どこかに行ったみたいだな」
「ミスって死んだのかもしれねぇぜ。何せガンナー(笑)だしな」
「違いねぇ。あいつ、AGIも振ってないのか移動速度も遅かったしな。俺らみたいに華麗に躱しながら仕切り直す、なんてテクニックは使えないだろうよ」
「全くだ!ははは!……ん?なんだありゃ」
弓使いの一人が見つけたのは、砂漠竜の卵である。
「どうやらここも卵マップのようだな。ちょっとでっかいが、まぁトカゲ卵と似たようなもんだろうな」
「じゃあちょっと狩ってみるか。二人がかりなら余裕だろう」
「SPにも余裕がある。よし、行くぜ!ストライプアロー!」
弓使いの一人が矢をつがえ、砂漠竜の卵に向けて放つ。
ストライプアロー。倍率も高くSP消費も少ない、弓使いを強ジョブとしているスキルの1つだ。
鋭い風切り音の後、パパン!と命中音が鳴り、砂漠竜の卵にダメージが入る。
表示されたダメージは800、HPバーの1割にも満たなかった。
「な……か、かてぇ!」
砂漠トカゲの卵相手であれば3000は出る一撃。
想定をはるかに下回るダメージに二人は目を丸くする。
「おい、詠唱が始まったぞ!」
「撃て!撃ちまくれ!」
弓使いたちはストライプアローを連射する。
射撃音が連続して鳴り響く中、砂漠竜の卵のHPバーが減っていく。
減ってはいくが――――それよりも詠唱が終わる方が早い。
卵に亀裂が入り、割れた。
「やったか!?」
弓使いの男が声を上げる。
が、卵が割れ消滅した後に残ったのは、砂色をした巨大な竜だった。
赤褐色の目玉がぐりんと廻り、弓使い二人を捉えた。
「ギョォォォエェェェェェェェ!!」
大きな口を開け吠える竜の頭上に表示された文字は砂漠竜《サンドドラゴン》。
4本足を素早く交互に動かしながら、すさまじい速度で弓使いに迫る。
勢いのままに鎌首を持ち上げて――――噛み砕いた。
840、弓使いの頭上にダメージが表示された。
HPバーは真っ黒になっていた。
「ひ――――!?」
悲鳴を上げようとした直後、再度振り下ろされる砂漠竜の顎。
HPバーは回復の暇もなく削り取られ、弓使いの一人は倒れた。
「あ、あ……」
それを見て後ずさりする弓使いの一人に、続いて襲い掛かる砂漠竜。
すぐに振り返り逃げようとした弓使いの背中に、がぶり、がぶりと二噛み。
残った弓使いのHPも容赦なく削り取った。
倒れた弓使いたちはゆっくりと消滅していく。
ゲーム内での死は現実での死、弓使いたちは、そのプレイヤーの命は、そこで終わりを告げた。
「グルルルル……」
二人の弓使いを殺し終えた後、砂漠竜は長い首を左右に動かし新たな獲物を探し始める。
そして見つけた。
砂漠竜の視線の先にて、卵《どうぞく》を倒し終え、その遺品《ドロップアイテム》を拾う錬金術師《ヴァット》の姿を。
赤褐色の目玉の、その瞳孔がゆっくりと閉じていく。
砂漠竜は両腕両脚に力を込め、跳ねる。
よだれで濡れた無数の牙は、目の前の錬金術師へと向けられていた。
「ギョォォォォォォォォォォ!!」
砂漠竜は咆哮を上げながら、ヴァット目掛けて真っ直ぐに駆ける。
小川を飛び越え、大岩を避け、凄まじい速度で真っ直ぐに。
「砂漠竜……!?な、なんで孵ってんだ!?」
咄嗟にクローキングポーションを取り出そうとするヴァットだったが、すぐにその選択肢を捨てる。
砂漠竜はボス属性、これを持つモンスターはあらゆる状態異常に対する耐性を持ち、ハイド状態にあるプレイヤーすらも視認するのだ。
ならばと鞄から取り出したのは、スパイダーポーション、砂漠竜の足元目掛け投げつけると、瓶が割れ液体が蜘蛛糸状に飛び散る。
蜘蛛糸状の地面設置型オブジェクト、それに突っ込んだ途端、砂漠竜の動きが止まった。
地面設置型オブジェクトによる移動停止は状態異常の範疇外。
ボス属性相手にも効果があるのだ。
とはいえボス属性相手には極端な補正がかかり、効果は本来の30%。
スパイダーポーション自体の捕縛時間も短い為、止められる時間は1秒以下である。
だが、それで十分だった。
ヴァットは砂漠竜の進行方向に向かって、順々にスパイダーポーションを投げていく。
「ギョォォォ!」
蜘蛛糸オブジェクトが消滅し、動こうとした瞬間に砂漠竜は次の蜘蛛糸に引っかかる。
これを抜けても次の蜘蛛糸に引っかかるであろう。
次も、その次も、目の前に獲物《ヴァット》がいる限り。
「蜘蛛糸ハメってところかな」
ヴァットは一息吐くと、悔しげに睨み付ける砂漠竜を一瞥し、言った。
取り出した合成弾を銃に込めると、砂漠竜へ銃口を向け、放つのはポーションバレット・スタンピィ。
射撃の合間に蜘蛛糸ポーションを挟み、隙も与えない。
ががん!ががん!と断続的な射撃音がしばらく響き……
「ギョォォォォォォォォォォ……」
断末魔の雄叫びを上げ、砂漠竜は倒れ伏した。
消滅した後には、竜の牙が残されていた。
「ふぅ、危なかったな」
鞄の中を見やると、蜘蛛糸ポーションの残量は残り4つまで減っていた。
これは短時間しか止められない為、消費が激しいのだ。
「弓使いのトラバサミなら、値段も安いし拘束時間も長いから、この手のモンスター相手も楽できるんだが……そういえばあの二人組、砂漠トカゲに追われていたがどうなったのかね」
ふと、ヴァットは先刻の弓使いたちを思い出す。
トラバサミは弓使いの必須スキル、取得していない筈はない。
どんな型の弓使いでも取っておき、常備していくものなのだ。
あんな風に逃げ惑う必要はないのだが……
「恐らく焦ってたんだろうな。地面設置型スキルは咄嗟の判断が必要だ。ま、ワープポータルが近くにあったし逃げ切れない事はないだろう」
ヴァットはそう結論付けると、その場を後にするのだった。
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