華麗なる暴君~最凶女王の軌跡~【改稿版】

ナカジマ

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第1章 最凶の女王が生まれた日

第11話 女王様の華麗なるお散歩④

 中央都市ファニスの裏通り、傭兵達や荒くれ者達の集まる酒場がある。『止まり木』というシンプルな店名の隠れ家チックな店舗だ。
 戦いに出た荒くれ者達が、一休みする場と言う意味ではやや可愛らしい店名だろうか。そんな酒場を営む店主は、アーロンと言う40代の体格に優れた強面の男性だ。
 きれいに整えられた口髭が特徴で、荒っぽそうでありながら品の良さも感じられた。彼は以前傭兵をやっていた過去があり、怪我で引退したとはいえ、酔っ払いに絡まれた程度では全く動じない。
 しかしそんな屈強な男性でも、隣国を2日で属国にした女王が相手では、全く頭が上がらない。

「勘弁して下さいよ陛下、せめて先に連絡をくれませんかね」

 強面のアーロンが、困ったような表情を浮かべながら対応する。せめて事前に連絡をもらえれば、貸し切りに出来るからと。

「あら? わたくしがいつ何処に居ても、自由ではなくて?」

「それはそうなんですがね。また馬鹿が出ないとも限らねえんで」

 イリアが利用するようになってから、変わらず来店している常連客は、全員がイリアの正体に気付いている。
 武闘派である傭兵達にとっては、イリアは人気の高い女王だ。彼らは自分達のリーダーに野暮な真似はしない。
 ただ稀に女王様に会える場として、人気のスポットにはなっているが。そんな店であるからには、殆どおかしな事にはならない。
 ただ何も知らずに来た新参の傭兵ならば、勘違いをしてまた馬鹿をやる可能性がそれなりにある。
 大勢の荒くれ者達が、美しい美女2人に誰も声を掛けていない状況に、察しの良い者なら誰でも気付く。
 しかし空気を読めない愚か者は、いつの世も必ず一定数はいるわけで。

「よぉ、ねえちゃん達。俺と一緒に、ってテメェ何しやがる!」

 若い傭兵が、酒に酔った赤らんだ顔で、イリア達に近づこうとした。当然周囲の常連客達が止めに入る。

「うるせぇクソガキがぁ! あねさんに気安く話しかけてんじゃねぇ!」

「な、何だよお前ら! やる気か!?」

 空気が読めない新参の愚か者が、止めに入った常連達と殴り合いの喧嘩を始める。
 新参者の傭兵からすればやや理不尽ではあったが、むしろこの程度で済んだ事に感謝せねばならない。
 カウンターに座るイリアへもう少し近づいていれば、背後に控えているリーシェに男性の象徴を粉砕されていただろう。こうして多少痛い目を見る方が遥かにマシだ。
 イリアに絶対的忠誠を誓っているリーシェは、アルベール以外の男がイリアに近づく事を認めていない。
 どこでも居る様なただの一介の傭兵では、侍女による一撃で撃退されるのがオチだ。

「はぁ、こうなっちまうんですよ」

 アーロンは早速始まった喧嘩を見て、ため息をつきながら指差す。
 
「あら? 良いじゃない、元気があって」

「そういう問題じゃあねぇんですがね」

 魔の森でのサバイバル生活が長かったイリアには、これぐらいの荒っぽい空気の方が居心地は良い。
 王城で玉座に座り支配者をやっている事を嫌ってはいないが、あまり清潔すぎる空間には、どうにも違和感があるのだ。
 殺伐とした世界に慣れすぎた弊害と言えるだろう。とは言え、己の目的の為には功績が必要だ。
 人々を支配し領土を拡大、世界の覇者として君臨し続けねばならない。アルベールと同じ領域、神に至る為にはまだまだ成果が足りない。
 もっと強大な存在にならねば、邪神と同等の存在にはなれないのだから。その為ならイリアは、たとえ悪行であろうとも躊躇うつもりはない。

「ところで少し、聞きたい事があるのよ」

「……今回はどういう話で?」

 殺伐とした男達の喧嘩と怒号を受け流し、イリアとアーロンは会話を続ける。
 
「最近増えているネズミの話よ」

 アーロンは怪我で傭兵を引退したものの、後方支援までは辞めていない。主に情報戦における活動を続けていた。つまりは情報屋こそが、彼の本当の仕事だ。
 止まり木という店名には2つの意味がある。1つは戦い疲れた者達の休息の場、もう1つは大事な情報を持った伝書鳩が止まる木だ。
 今は魔族と休戦しているが、本来アニス王国は激戦区。対魔族の最前線で情報を扱う事が、アーロン本来の役割だった。
 彼はフリーの情報屋として、国内外の様々な情報を取り扱っている。当然国内の怪しい動きについても、彼の情報網に引っ掛かる。

「陛下なら全て把握されているんじゃ?」

 自分に聞かなくても、わかっているのでしょうとアーロンは思う。だが、聞きたいのはそういう話じゃないとイリアは否定する。

「貴方の意見が聞きたいのよ、アーロン?」

「…………ありゃあモーランの人間でしょう。肉の食べ方が、モーラン特有の食べ方でした」

 アーロンは朝から昼にかけて、街に出て情報収集をする。そして夕方からはこうして、止まり木の営業をしている。
 明るい間は街や仲間から情報を仕入れ、夕方から深夜にかけては酒場に舞い込む情報を得る。
 そんな生活の中で、怪しい人間を見掛けた時は必ず詳しく観察するのがアーロンの癖だ。ただ単なる不審者か、そうでは無い何者なのか。
 はたまた他国の諜報員か。傭兵生活で培った勘と目を頼りに、アーロンはこれまで様々な情報を集めてきた。
 そして今回の件についても、アーロンの知識と勘が最近街で見かけた怪しい男は、モーラン共和国の諜報員ではないかと疑っている。

「そう……やはりモーランですか」

「陛下、ありゃあもしかして」

「ええ。間違いなくあの件と関係があるのでしょうね」

 今年の収穫期が不作だった為に、モーラン共和国は食糧危機に陥っていた。国内では小麦の価格が跳ね上がり、貧しい者は十分な量の食事が確保出来ない。
 それが原因で病に倒れる事もあれば、日々の仕事が普段通り出来ずに余計収穫が減るなんて事も珍しくない。
 負のスパイラルに国民が陥っていると言うのに、評議会の動きは鈍く自分達の保身に走るばかり。
 厳しい環境に置かれたモーラン共和国で暮らす国民達の不満は爆発し、あちこちで小さな暴動が起きている。

 そんな状況の国と隣接するアニス王国の南側で、農作物の大規模な盗難が発生しているのだ。
 最初は盗賊の類が疑われた。しかし証拠は一切見つからず、被害だけが増えて行く。では大規模な盗賊団かと思いきや、それらしい存在は一切見つからない。
 だがもし、それが軍隊の様な魔法と行軍のプロが犯人であるなら。幾ら盗賊団を探しても見付からない事に説明がつく。
 何より騎士団の目すらくぐり抜けられるだけの技術があるなら、わざわざ盗賊団になど入る必要がない。もっと稼げる仕事なんていくらでもあるのだから。

「ネズミの行動範囲と住処は分かるかしら?」

「今用意しますよ。映像も必要ですかい?」

 アーロンは自前で用意した映像を記録する魔導具で、問題の男の姿を記録していた。それなりに高価な魔導具だが、アーロンの稼ぎなら購入は容易い。

「用意が良いわね。仕事の出来る人は好きよ」

 この手の魔導具は、同系統の魔導具に映像を転送出来るのが売りだ。アーロンはリーシェの持つ魔導具へ映像を転送した。
 これでイリアが必要としている材料は揃った。あとはネズミと直接会いに行くだけだ。イリアはリーシェに命じて、アーロンに今回の報酬が入った革袋を渡した。

「ちょっ!? こんなに貰えませんよ!?」

「安心なさい。貴方が収入を偽っても罪に問われないわ」

 既に席を立ったイリアは、背中を向けて入り口へと向かう。ヒラヒラとアーロンへ手を振りながら、イリアはリーシェを連れて歩いて行く。

「だから、そう言う問題じゃねぇんですよ!」

 イリアとリーシェが酒場を出て行くと、たっぷりと金貨が入った革袋に常連達の視線が集まる。その視線の意味は言うまでもない。
 今日はお前の奢りだよな? という視線が、全てのテーブルからアーロンに向かって突き刺さる。大きな溜息を吐きながら、アーロンは奢りだとやけくそ気味に宣言した。
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