38 / 47
第1章 最凶の女王が生まれた日
第38話 女王様の掌の上①
しおりを挟む
イリアの暗殺を依頼された4人の暗殺者達は、アニス王国に入るまでの間は一緒に行動していた。しかし到着後の行動までは、共にしていない。
各々が勝手に下調べを行い、自分が得意とする方法での暗殺を実行する。彼ら4人共が、自分に絶対の自信を持っていた。
これまで依頼に失敗した事がなかったからだ。今回は特に、破格の依頼料を積まれて浮かれていた。
もちろんプロとして、素人のようなミスはしていない。しかし気づいていなかった。とっくに暗殺計画は把握されており、適度に泳がされていた事に。
アニス王国の軍事力が、大幅にアップしている事を彼らは知らない。多少は警備がよくなった程度に、錯覚してしまった。
普段と違い、意図的に穴のある警備になっていた事を4人は見抜けなかった。それだけアニス王国が変化したのだが、遠く離れた異国人ゆえに情報が不足していた。
多少変わったとしても、現地で集めればいいと彼らは思っていた。彼らは知らなかったのだ。アニス王国で裏社会を生きる者達が、今ではイリアの信奉者であるという事を。
「ヒヒヒッ! 悪いねぇ」
「なに、気にするな。情報を売るのが俺の仕事さ」
快楽殺人者のイーヴェルは、とあるバーの店主から情報を買い取った。この国で一番の情報屋となると、この店の店主だというのは有名な話だ。
「じゃあな大将、ヒヒッ」
「あぁ。毎度あり」
そして裏社会に生きる者の中では、口外が禁止されているもう1つの話がある。それは女王であるイリアが、懇意にしている店だという事だ。
この話は知っている者達だけで守られている秘密だ。他国の者などには絶対に話さない。もし何か不都合があって、同じ空間で酒を飲めなくなったら困るからだ。
傭兵団に所属する荒くれ者やアウトローな男達が、本来イリアと同じ空間に居られる事などまずないのだから。
そんな暗黙の了解が成立している場で、イリアが不利になる情報を売るわけがない。だが嘘も教えていない。
例えば、イリアが戦っているところを見た事がある国民はごく少数だ。ここ中央都市ファニスに住む騎士達と、エルロード辺境伯、そして辺境に勤める騎士達だけ。
殆どの国民は、その戦闘力を直接目にした事はない。それは嘘や偽りではなく、ただの事実だ。
つまりイリアの実力を疑う者にとっては、疑惑をさらに深める結果にも繋がる。だがそんな事まで教えてくれとは、店主も頼まれては居ない。
「ヒヒヒッ、一番乗りは頂きだ」
イーヴェルが手に入れた城の警備についても、店主は嘘を教えてはいない。今現在の警備体制をそのまま売っただけだ。
ただそれがイリアの専属侍女や王国の宰相、そして騎士団長によって考えられたものであると言うだけで。
彼はアニス王国の情報屋として、何一つ嘘は売っていない。その結果イーヴェルがどうなろうと、店主には関係のない話だ。
城に忍び込もうなどという、不埒な考えを持たない限り何の損害も受けない。ただとあるバーの店主が、他国の者から収入を得たと言うだけの話だ。
アニス王国の法律にも、何ら違反していない。他国の者に売ってもいいと言われた情報を売っただけ。
「情報、くれ」
「……まずは酒を頼むのがマナーじゃねえか?」
こんな調子で、続々と暗殺者達がこのバーを訪れる。次にやって来たのは、剛腕の異名を持つドリー。
「分かった、酒、飲む」
酒の注文と共に、店主は情報を売る。王城や女王の情報となれば、当然金額は跳ね上がる。
彼が売る情報の中でも、最上級の値段となる。更に城内の地図なども追加となれば、情報の値段は上がっていく。
とてもではないが、その辺にいるチンピラ風情では手が出ない金額だ。適当に盗みを働いたぐらいではまず買えない。
ハルワート大陸の中で考えれば、かなり裕福な部類に入るファニスで暮らす人々の月収すら、簡単に超えてしまう。当然そうなれば、暗殺者達も一度はいぶかしむ。
「少々吹っ掛け過ぎではありませんか?」
「要らねぇなら好きにしな」
あくまでも適正価格だと、店主は言い張る。支払いたくないのなら、酒だけ飲んで帰れと突きつける。
正確な情報もなしに、彼らは暗殺を行うほどの考えなしではない。前金は貰っているのだから、払えない額ではなかった。
「…………まあ良いでしょう。払いますよ」
こうして4人の暗殺者達は、情報を手に入れて行く。有名な情報屋達は、どこも似た情報しか売っていない。それ故に4人は信じてしまう。
なにせライバル関係にある情報屋同士でも、ほぼ同じ内容を話すのだから。すでに手遅れだと知らない4人は、高値で情報を買い集める。
イリアを暗殺したいベイルが払った前金から、アニス王国へとお金が流れて行った。何とも皮肉な話であるが、そんな事をベイルが知るよしもない。
そして情報屋達はホクホクだった。割高な料金で情報を売っても、申告の必要が無い収入を得たのだから。
この件については、宰相直々にお達しが出されている。自国の重要な情報を流すような真似は普通しないので、そんな方法で収入を得るなんてある筈がないと。
つまり全ては、無かった事にするぞと言う話だ。茶番と言えば茶番だが、そんな建前だけで成立する事は幾らでもある。
「なぁ、アーロン。俺達、親友だよな?」
「…………何が言いたい」
屈強な男達が、止まり木の店主アーロンを見ている。嘘は言っていないが、本当の事も教えてはいない。
そんな商売で金を得た事実を、見なかったことにして欲しかったら分かっているよな? と男達の目が訴えていた。
「今回も、奢りなんだよな?」
いつかのようにアーロンが奢りだと宣言し、常連客達は大いに盛り上がるのだった。愚かな4人の暗殺者達の事など、すぐに彼らの記憶からは消えていった。
各々が勝手に下調べを行い、自分が得意とする方法での暗殺を実行する。彼ら4人共が、自分に絶対の自信を持っていた。
これまで依頼に失敗した事がなかったからだ。今回は特に、破格の依頼料を積まれて浮かれていた。
もちろんプロとして、素人のようなミスはしていない。しかし気づいていなかった。とっくに暗殺計画は把握されており、適度に泳がされていた事に。
アニス王国の軍事力が、大幅にアップしている事を彼らは知らない。多少は警備がよくなった程度に、錯覚してしまった。
普段と違い、意図的に穴のある警備になっていた事を4人は見抜けなかった。それだけアニス王国が変化したのだが、遠く離れた異国人ゆえに情報が不足していた。
多少変わったとしても、現地で集めればいいと彼らは思っていた。彼らは知らなかったのだ。アニス王国で裏社会を生きる者達が、今ではイリアの信奉者であるという事を。
「ヒヒヒッ! 悪いねぇ」
「なに、気にするな。情報を売るのが俺の仕事さ」
快楽殺人者のイーヴェルは、とあるバーの店主から情報を買い取った。この国で一番の情報屋となると、この店の店主だというのは有名な話だ。
「じゃあな大将、ヒヒッ」
「あぁ。毎度あり」
そして裏社会に生きる者の中では、口外が禁止されているもう1つの話がある。それは女王であるイリアが、懇意にしている店だという事だ。
この話は知っている者達だけで守られている秘密だ。他国の者などには絶対に話さない。もし何か不都合があって、同じ空間で酒を飲めなくなったら困るからだ。
傭兵団に所属する荒くれ者やアウトローな男達が、本来イリアと同じ空間に居られる事などまずないのだから。
そんな暗黙の了解が成立している場で、イリアが不利になる情報を売るわけがない。だが嘘も教えていない。
例えば、イリアが戦っているところを見た事がある国民はごく少数だ。ここ中央都市ファニスに住む騎士達と、エルロード辺境伯、そして辺境に勤める騎士達だけ。
殆どの国民は、その戦闘力を直接目にした事はない。それは嘘や偽りではなく、ただの事実だ。
つまりイリアの実力を疑う者にとっては、疑惑をさらに深める結果にも繋がる。だがそんな事まで教えてくれとは、店主も頼まれては居ない。
「ヒヒヒッ、一番乗りは頂きだ」
イーヴェルが手に入れた城の警備についても、店主は嘘を教えてはいない。今現在の警備体制をそのまま売っただけだ。
ただそれがイリアの専属侍女や王国の宰相、そして騎士団長によって考えられたものであると言うだけで。
彼はアニス王国の情報屋として、何一つ嘘は売っていない。その結果イーヴェルがどうなろうと、店主には関係のない話だ。
城に忍び込もうなどという、不埒な考えを持たない限り何の損害も受けない。ただとあるバーの店主が、他国の者から収入を得たと言うだけの話だ。
アニス王国の法律にも、何ら違反していない。他国の者に売ってもいいと言われた情報を売っただけ。
「情報、くれ」
「……まずは酒を頼むのがマナーじゃねえか?」
こんな調子で、続々と暗殺者達がこのバーを訪れる。次にやって来たのは、剛腕の異名を持つドリー。
「分かった、酒、飲む」
酒の注文と共に、店主は情報を売る。王城や女王の情報となれば、当然金額は跳ね上がる。
彼が売る情報の中でも、最上級の値段となる。更に城内の地図なども追加となれば、情報の値段は上がっていく。
とてもではないが、その辺にいるチンピラ風情では手が出ない金額だ。適当に盗みを働いたぐらいではまず買えない。
ハルワート大陸の中で考えれば、かなり裕福な部類に入るファニスで暮らす人々の月収すら、簡単に超えてしまう。当然そうなれば、暗殺者達も一度はいぶかしむ。
「少々吹っ掛け過ぎではありませんか?」
「要らねぇなら好きにしな」
あくまでも適正価格だと、店主は言い張る。支払いたくないのなら、酒だけ飲んで帰れと突きつける。
正確な情報もなしに、彼らは暗殺を行うほどの考えなしではない。前金は貰っているのだから、払えない額ではなかった。
「…………まあ良いでしょう。払いますよ」
こうして4人の暗殺者達は、情報を手に入れて行く。有名な情報屋達は、どこも似た情報しか売っていない。それ故に4人は信じてしまう。
なにせライバル関係にある情報屋同士でも、ほぼ同じ内容を話すのだから。すでに手遅れだと知らない4人は、高値で情報を買い集める。
イリアを暗殺したいベイルが払った前金から、アニス王国へとお金が流れて行った。何とも皮肉な話であるが、そんな事をベイルが知るよしもない。
そして情報屋達はホクホクだった。割高な料金で情報を売っても、申告の必要が無い収入を得たのだから。
この件については、宰相直々にお達しが出されている。自国の重要な情報を流すような真似は普通しないので、そんな方法で収入を得るなんてある筈がないと。
つまり全ては、無かった事にするぞと言う話だ。茶番と言えば茶番だが、そんな建前だけで成立する事は幾らでもある。
「なぁ、アーロン。俺達、親友だよな?」
「…………何が言いたい」
屈強な男達が、止まり木の店主アーロンを見ている。嘘は言っていないが、本当の事も教えてはいない。
そんな商売で金を得た事実を、見なかったことにして欲しかったら分かっているよな? と男達の目が訴えていた。
「今回も、奢りなんだよな?」
いつかのようにアーロンが奢りだと宣言し、常連客達は大いに盛り上がるのだった。愚かな4人の暗殺者達の事など、すぐに彼らの記憶からは消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
女性が少ない世界でVTuberやります!
dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉
なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。
※忘れてなければ毎週火曜・金曜日の夜に投稿予定。作者ブル
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる