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第1章 最凶の女王が生まれた日
第43話 嵐の前の穏やかな時間
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イリアが17歳になる頃から、アルベールとの関係性は大きく変化していた。永きにわたりずっと思い続けた男の気持ちに、応える道を選んだイリア。
それからの2人は、恋人同士のような日々を送っている。だがあくまで、健全な関係性である。アルベールはまだ成人していないイリアに、手を出すつもりは無い。
「これは少し、恥ずかしいですわね」
「誰も見ていないさ」
2メートル近い身長があるアルベールからすれば、女性としては背が高めのイリアであってもまだ小柄だ。
自分の膝の上に、横抱きの形で座らせても不格好にはならない。細身に見えてもアルベールは男神であり、生前と同様に筋肉質な体をしている。
17歳になり殆ど成人女性と変わらない体格のイリアでも、平然と抱いていられる。そんな体勢でいるために、イリアとアルベールの距離は近い。
「それはそうなのですが……」
ロッジの表でベンチに2人きり。流石にイリアであっても、気恥ずかしさを感じずには居られなかった。
「その……だいぶ暖かくなりましたわね」
気恥ずかしさをごまかすために、イリアは話の方向性を変える。この頃のイリアは、まだこうした関係に慣れていなかった。
本来なら一番愛情を注いでくれる両親から、見捨てられてしまったから。愛情というものが、とても新鮮だった。
「そうだね。もうそんな季節だ」
「食材の確保も兼ねて、出掛けるのも悪くありませんわね」
厳しい冬が終わり、徐々に春の訪れが感じられつつある。冬眠から目覚めた魔物達がそろそろ活動を始めるため、肉を求めて狩りに行くのも1つの選択肢だ。
そのついでに、花々が綺麗に咲く丘に立ち寄るのもいい。殺伐とした戦いを繰り広げるのもいい。
2人だけの生活は、ただの共生から同棲へと変わっている。何をするにしても、想い合う者同士として行動する事になる。
イリアは愛されなかった娘として、アルベールは想い続けた相手との生活として。それぞれが胸に開いた穴を埋めるが如く、毎日を大切に過ごしていた。
「鍛錬は良いのかい?」
「そっちも当然続けますわよ」
2人で過ごす平穏な日々も、悪くないとイリアは思っている。だがそれは、全てを終わらせてからでも良い。
永遠の時間を手にすれば、ずっとこうしていられる。一切余計な事を考えなくてもいい。だからこそ、己を磨く必要がある。
「ハハ、実に君らしいね」
イリアは掲げた目標のために、強くなる事をやめない。アルベールと似た存在になるためには、ただの人間のままでは不可能だ。
既に現在のイリアでも、十分過ぎるほどに人間の領域を超えている。しかしまだまだアルベールには遠く及ばない。
並ぶほどに強くならなければ、サフィラとは渡り合えないだろう。目標のためには、偉業を成さねばならないのだ。
ただ強いだけの人類では、神には至らない。たとえ悪名であろうとも、歴史に名を残すほどの成果が必要だ。
そのためにイリアが目指すのは、アルベールと同じく大陸の覇権を握る事。その7割を支配した彼と同様に、覇道を進む事を選んだ。
「アルと同じ道を歩む、悪くありませんわ」
大昔からずっと愛情を向けてくれていた、優しくて不器用な男性と同じ事をする。それはとても、楽しそうだとイリアは思っている。
「君のサポートならいくらでもしよう」
「見ていて下さい、必ず成し遂げて見せますわ」
イリアはその未来しか求めていない。その目標のためならば、その手を血で汚す事も厭わない。もうとっくの昔に、生きるか死ぬかの世界を経験している。
今更尻込みして逃げ出すつもりはなかった。その手始めとして、ハーミット家の掌握から始める算段だ。
腐っても公爵家だ、権力はそれなりにあるし、元々正当な後継者でもある。生まれた家の力を使い、自らの実力で国を手に入れる。
そこからイリアの歩む道は、開かれて行く事になる。最悪ミアとは対立するかもしれないが、そうなったらそれはそれで、結構楽しそうだとイリアは考えている。
ミアはこの世界で、唯一対等な人間だ。最近になって徐々にミアに対しても、心を開き始めたイリアにとって、彼女は特別だった。
ミアとなら仲良くしようが敵対しようが、どちらに転んでもイリアは心から楽しめる。
「あの子がどう出て来るか、楽しみですわ」
「聖女かい? あの娘は中立を保ちそうだ」
「それならそれで、構いません」
未来に向けて動き出したイリアは、以前よりも貪欲に力を求めている。アルベールによる鍛錬は、何も戦闘や魔法だけではない。
支配者としての教育も、座学として行っている。王としてのブランクはあっても、支配する者とされる者の本質に大きな差はない。
様々な教育を邪神に施されながら、イリアは成長を続けていく。元々優秀な才能を持っていただけに、その成長は目覚ましい。
世界を手中へと収めるために、日々の努力は惜しまない。ただそればかりではなく、2人だけの時間もちゃんと過ごしながら。
「どうしましたの急に?」
「いいや、君はいつも美しいなと思っただけさ」
アルベールの掌が、優しくイリアの頬を撫でる。ずっと想い続けた女性との時間。その温かさを噛み締めるように、アルベールはイリアを愛していた。
アルベールによってイリアは救われたが、アルベールもまたイリアに救われていた。2人でお互いを支え合い、想い合って日々を過ごしている。
いつかはこんな時間を持てなくなる。いずれ必ずサフィラが2人の前に立ちはだかる。その未来はどうしても避けられない。
自分達の幸せだけのために、他の全てを切り捨てる生き方だ。到底サフィラの思想とは相いれない。
そんな日が来るまでの間は、こうして互いの気持ちを確かめ合う時間を大事にしたい。それはイリアとアルベールに共通した考え。
わざわざ口にしなくても、お互いに理解していた。イリアが18歳になり、成人すれば事態は大きく動き出す。
それまでの残り僅かな時間を、イリアとアルベールはとても大切に過ごしていた。
それからの2人は、恋人同士のような日々を送っている。だがあくまで、健全な関係性である。アルベールはまだ成人していないイリアに、手を出すつもりは無い。
「これは少し、恥ずかしいですわね」
「誰も見ていないさ」
2メートル近い身長があるアルベールからすれば、女性としては背が高めのイリアであってもまだ小柄だ。
自分の膝の上に、横抱きの形で座らせても不格好にはならない。細身に見えてもアルベールは男神であり、生前と同様に筋肉質な体をしている。
17歳になり殆ど成人女性と変わらない体格のイリアでも、平然と抱いていられる。そんな体勢でいるために、イリアとアルベールの距離は近い。
「それはそうなのですが……」
ロッジの表でベンチに2人きり。流石にイリアであっても、気恥ずかしさを感じずには居られなかった。
「その……だいぶ暖かくなりましたわね」
気恥ずかしさをごまかすために、イリアは話の方向性を変える。この頃のイリアは、まだこうした関係に慣れていなかった。
本来なら一番愛情を注いでくれる両親から、見捨てられてしまったから。愛情というものが、とても新鮮だった。
「そうだね。もうそんな季節だ」
「食材の確保も兼ねて、出掛けるのも悪くありませんわね」
厳しい冬が終わり、徐々に春の訪れが感じられつつある。冬眠から目覚めた魔物達がそろそろ活動を始めるため、肉を求めて狩りに行くのも1つの選択肢だ。
そのついでに、花々が綺麗に咲く丘に立ち寄るのもいい。殺伐とした戦いを繰り広げるのもいい。
2人だけの生活は、ただの共生から同棲へと変わっている。何をするにしても、想い合う者同士として行動する事になる。
イリアは愛されなかった娘として、アルベールは想い続けた相手との生活として。それぞれが胸に開いた穴を埋めるが如く、毎日を大切に過ごしていた。
「鍛錬は良いのかい?」
「そっちも当然続けますわよ」
2人で過ごす平穏な日々も、悪くないとイリアは思っている。だがそれは、全てを終わらせてからでも良い。
永遠の時間を手にすれば、ずっとこうしていられる。一切余計な事を考えなくてもいい。だからこそ、己を磨く必要がある。
「ハハ、実に君らしいね」
イリアは掲げた目標のために、強くなる事をやめない。アルベールと似た存在になるためには、ただの人間のままでは不可能だ。
既に現在のイリアでも、十分過ぎるほどに人間の領域を超えている。しかしまだまだアルベールには遠く及ばない。
並ぶほどに強くならなければ、サフィラとは渡り合えないだろう。目標のためには、偉業を成さねばならないのだ。
ただ強いだけの人類では、神には至らない。たとえ悪名であろうとも、歴史に名を残すほどの成果が必要だ。
そのためにイリアが目指すのは、アルベールと同じく大陸の覇権を握る事。その7割を支配した彼と同様に、覇道を進む事を選んだ。
「アルと同じ道を歩む、悪くありませんわ」
大昔からずっと愛情を向けてくれていた、優しくて不器用な男性と同じ事をする。それはとても、楽しそうだとイリアは思っている。
「君のサポートならいくらでもしよう」
「見ていて下さい、必ず成し遂げて見せますわ」
イリアはその未来しか求めていない。その目標のためならば、その手を血で汚す事も厭わない。もうとっくの昔に、生きるか死ぬかの世界を経験している。
今更尻込みして逃げ出すつもりはなかった。その手始めとして、ハーミット家の掌握から始める算段だ。
腐っても公爵家だ、権力はそれなりにあるし、元々正当な後継者でもある。生まれた家の力を使い、自らの実力で国を手に入れる。
そこからイリアの歩む道は、開かれて行く事になる。最悪ミアとは対立するかもしれないが、そうなったらそれはそれで、結構楽しそうだとイリアは考えている。
ミアはこの世界で、唯一対等な人間だ。最近になって徐々にミアに対しても、心を開き始めたイリアにとって、彼女は特別だった。
ミアとなら仲良くしようが敵対しようが、どちらに転んでもイリアは心から楽しめる。
「あの子がどう出て来るか、楽しみですわ」
「聖女かい? あの娘は中立を保ちそうだ」
「それならそれで、構いません」
未来に向けて動き出したイリアは、以前よりも貪欲に力を求めている。アルベールによる鍛錬は、何も戦闘や魔法だけではない。
支配者としての教育も、座学として行っている。王としてのブランクはあっても、支配する者とされる者の本質に大きな差はない。
様々な教育を邪神に施されながら、イリアは成長を続けていく。元々優秀な才能を持っていただけに、その成長は目覚ましい。
世界を手中へと収めるために、日々の努力は惜しまない。ただそればかりではなく、2人だけの時間もちゃんと過ごしながら。
「どうしましたの急に?」
「いいや、君はいつも美しいなと思っただけさ」
アルベールの掌が、優しくイリアの頬を撫でる。ずっと想い続けた女性との時間。その温かさを噛み締めるように、アルベールはイリアを愛していた。
アルベールによってイリアは救われたが、アルベールもまたイリアに救われていた。2人でお互いを支え合い、想い合って日々を過ごしている。
いつかはこんな時間を持てなくなる。いずれ必ずサフィラが2人の前に立ちはだかる。その未来はどうしても避けられない。
自分達の幸せだけのために、他の全てを切り捨てる生き方だ。到底サフィラの思想とは相いれない。
そんな日が来るまでの間は、こうして互いの気持ちを確かめ合う時間を大事にしたい。それはイリアとアルベールに共通した考え。
わざわざ口にしなくても、お互いに理解していた。イリアが18歳になり、成人すれば事態は大きく動き出す。
それまでの残り僅かな時間を、イリアとアルベールはとても大切に過ごしていた。
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