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第1章 最凶の女王が生まれた日
第44話 未来へと向かって
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イリアは来る日のために、鍛錬を続けている。まずはアニス王国で行われる成人を祝うパーティーの場を掌握する。
彼女が18歳を迎えてから、3ヶ月ほどあとに行われるそのパーティーで、彼女は行動を起こす。
そこで過去の清算をし、最初の足掛かりを手に入れる。アニス王国の支配から、イリアの道は始まる。
だが鍛錬や勉強ばかりでない時間もある。この日はアルベールと共に、魔の森にあるとある丘へ来ていた。
ここにしか咲かない綺麗な花々の丘で、イリアとアルベールは背中合わせで座っていた。
特に何をするわけでもない。ただ大地の上で、お互いの存在を感じているだけ。
「この森も、案外悪くありませんわね」
「そうだね。本来なら封印されていた場所なのに、君といれば嫌な気はしない」
イリアにとっては本来、両親に捨てられた場所。アルベールにとっては、500年前に敗北し封印された地。
普通なら忌まわしき場所と思うはずだが、2人とも今は気に入っている。2人で過ごす大切な思い出の場所として。
「ふふ、そうですね」
イリアがこの地に来た時は、最下層に属する最弱の生命だった。だが今では、この森で最高位に位置する存在となっている。
だからこんな風に、無防備な姿を曝していても問題はない。この森でイリアとアルベールに手を出す生物は居ない。
相手の力量を見抜けないような間抜けな生物は、この森では生きていけないのだから。
「案外、人間のいない場所の方が綺麗なのかもしれません」
こうしていると、イリアは穏やかな心を維持する事が出来る。余計な雑念が湧いて来る事もない。
「確かにそうだ」
「人の心よりも、自然の方が遥かに美しい」
生と死の狭間で、復讐だけを目指して生きて来た時間。この魔の森に篭もって、己を鍛え続けた日々。
過酷な生き方をしていたイリアが、少しずつ手に入れ始めた幸せ。穏やかで優しい、アルベールと2人だけの生活。
2人で過ごす時間の中で見つけた、新しい世界の色。イリアがこれまで見てきた、何よりも美しい自然に満ちた風景。
世界の全てを憎んでいたときには、目に入らなかったもの。最近はそういった数々の発見があった。
ミアとの関係も同様だろう。イリアという孤独だった少女に、彩りを与えてくれた様々なもの。
「貴方といるからでしょうね」
「そう思ってくれるのかい?」
どちらからでもなく、自然と伸ばされた手。背中合わせのまま、イリアの右手とアルベールの左手が丘の上で結ばれる。
「ええ、心からそう思いますわ」
お互いの温もりを感じながら、ただ風に吹かれていた。人間と神では、結ばれる事はない。それでもこんな些細な時間を、積み重ねる事は出来る。
イリアがアルベールと同格の存在になれば、この記憶は失われない。共に永遠を生きるようになれば、いつまでも残る思い出となる。
イリアにはその未来を諦めるつもりはない。だからこうして、普通の恋人同士のような時間を紡いでいる。
永遠に続く愛情を、イリアは知ったから。ずっと思い続けた男性を知っているから。
「かつては呪った世界も、君となら楽しめるよ」
怒りと憎しみからサフィラと対立し、この世界の命運を賭けて戦ったアルベール。500年前の敗北をアルベールはもう恨んではいない。
「これからは私達の世界ですわよ」
「ああ、そうだね」
過去の敗北があったからこそ、今の時間があるのだから。もしイリアがいなければ、アルベールは永遠に孤独だった。
世界が続いていたからこそ、この出会いがあった。1万年以上思い続けた人と、共に過ごす時間は今があればこそ。
その真摯な想いの報われた日が、こうして訪れたのだ。そしてこれからは2人で、永遠の時を求める。
身勝手な願いであろうとも、それでどんな犠牲が出ようとも。イリアとアルベールは、人間に裏切られた者同士だ。今更そこで躊躇する理由などない。
「始まりの日まで、あと半年ほどですわね」
「そこから私達が始まる」
アニス王国を支配下に置き、イリアは覇道を歩み始める。その日は確実に近づいている。
「共に行きましょう、未来の為に」
イリアが18歳になるまで、あと3ヶ月ほどだ。そこから先は、殺伐とした日々が続くだろう。争いや計略、支配者としての毎日が待っている。
2人を相手にどうこう出来る存在は限られても、忙しくなるのは間違いない。今のような時間は、確実に減ってしまうだろう。
しかしそんな日々もまた、2人の思い出になる。共に歩み、共に過ごすのだから。いつまでも穏やかではいられないが、それだけが幸せでもない。
2人で自分達の未来を掴み取る事だって、立派な共同作業なのだから。
「……後悔はないかい?」
「この道を選ぶ事がですか?」
アルベールは少しだけ不安でもあった。いつかのように、イリアの魂が消えてしまったら。もう二度と、あんな光景は見たくない。
自分がイリアを守れば良いと分かっているが、どうしてもあの記憶だけは消えてくれない。
「今なら引き返せるよ?」
「後悔なんてありません。むしろ諦める方が、後悔するでしょう」
今ここを逃せば、きっと後悔する事になる。イリアにはその直感があった。ただの人として、このまま魔の森で密かに暮らす道も確かにある。
イリアが人として最後を迎えるまで、ひっそりと生きていく。それも選択肢としてはある。だけどそれでは、イリアは満足出来ない。
欲しいものを諦めるのはもうやめた。自分の幸せは、自分で掴み取らないといけないと学んだ。
その時をただ待っているだけでは、不幸にしかなれないと知っているから。幸福なんて、簡単に奪われてしまう。
だからイリアは目を背けない。たとえ世界を敵に回そうとも、絶対に引かないと心に決めているから。
彼女が18歳を迎えてから、3ヶ月ほどあとに行われるそのパーティーで、彼女は行動を起こす。
そこで過去の清算をし、最初の足掛かりを手に入れる。アニス王国の支配から、イリアの道は始まる。
だが鍛錬や勉強ばかりでない時間もある。この日はアルベールと共に、魔の森にあるとある丘へ来ていた。
ここにしか咲かない綺麗な花々の丘で、イリアとアルベールは背中合わせで座っていた。
特に何をするわけでもない。ただ大地の上で、お互いの存在を感じているだけ。
「この森も、案外悪くありませんわね」
「そうだね。本来なら封印されていた場所なのに、君といれば嫌な気はしない」
イリアにとっては本来、両親に捨てられた場所。アルベールにとっては、500年前に敗北し封印された地。
普通なら忌まわしき場所と思うはずだが、2人とも今は気に入っている。2人で過ごす大切な思い出の場所として。
「ふふ、そうですね」
イリアがこの地に来た時は、最下層に属する最弱の生命だった。だが今では、この森で最高位に位置する存在となっている。
だからこんな風に、無防備な姿を曝していても問題はない。この森でイリアとアルベールに手を出す生物は居ない。
相手の力量を見抜けないような間抜けな生物は、この森では生きていけないのだから。
「案外、人間のいない場所の方が綺麗なのかもしれません」
こうしていると、イリアは穏やかな心を維持する事が出来る。余計な雑念が湧いて来る事もない。
「確かにそうだ」
「人の心よりも、自然の方が遥かに美しい」
生と死の狭間で、復讐だけを目指して生きて来た時間。この魔の森に篭もって、己を鍛え続けた日々。
過酷な生き方をしていたイリアが、少しずつ手に入れ始めた幸せ。穏やかで優しい、アルベールと2人だけの生活。
2人で過ごす時間の中で見つけた、新しい世界の色。イリアがこれまで見てきた、何よりも美しい自然に満ちた風景。
世界の全てを憎んでいたときには、目に入らなかったもの。最近はそういった数々の発見があった。
ミアとの関係も同様だろう。イリアという孤独だった少女に、彩りを与えてくれた様々なもの。
「貴方といるからでしょうね」
「そう思ってくれるのかい?」
どちらからでもなく、自然と伸ばされた手。背中合わせのまま、イリアの右手とアルベールの左手が丘の上で結ばれる。
「ええ、心からそう思いますわ」
お互いの温もりを感じながら、ただ風に吹かれていた。人間と神では、結ばれる事はない。それでもこんな些細な時間を、積み重ねる事は出来る。
イリアがアルベールと同格の存在になれば、この記憶は失われない。共に永遠を生きるようになれば、いつまでも残る思い出となる。
イリアにはその未来を諦めるつもりはない。だからこうして、普通の恋人同士のような時間を紡いでいる。
永遠に続く愛情を、イリアは知ったから。ずっと思い続けた男性を知っているから。
「かつては呪った世界も、君となら楽しめるよ」
怒りと憎しみからサフィラと対立し、この世界の命運を賭けて戦ったアルベール。500年前の敗北をアルベールはもう恨んではいない。
「これからは私達の世界ですわよ」
「ああ、そうだね」
過去の敗北があったからこそ、今の時間があるのだから。もしイリアがいなければ、アルベールは永遠に孤独だった。
世界が続いていたからこそ、この出会いがあった。1万年以上思い続けた人と、共に過ごす時間は今があればこそ。
その真摯な想いの報われた日が、こうして訪れたのだ。そしてこれからは2人で、永遠の時を求める。
身勝手な願いであろうとも、それでどんな犠牲が出ようとも。イリアとアルベールは、人間に裏切られた者同士だ。今更そこで躊躇する理由などない。
「始まりの日まで、あと半年ほどですわね」
「そこから私達が始まる」
アニス王国を支配下に置き、イリアは覇道を歩み始める。その日は確実に近づいている。
「共に行きましょう、未来の為に」
イリアが18歳になるまで、あと3ヶ月ほどだ。そこから先は、殺伐とした日々が続くだろう。争いや計略、支配者としての毎日が待っている。
2人を相手にどうこう出来る存在は限られても、忙しくなるのは間違いない。今のような時間は、確実に減ってしまうだろう。
しかしそんな日々もまた、2人の思い出になる。共に歩み、共に過ごすのだから。いつまでも穏やかではいられないが、それだけが幸せでもない。
2人で自分達の未来を掴み取る事だって、立派な共同作業なのだから。
「……後悔はないかい?」
「この道を選ぶ事がですか?」
アルベールは少しだけ不安でもあった。いつかのように、イリアの魂が消えてしまったら。もう二度と、あんな光景は見たくない。
自分がイリアを守れば良いと分かっているが、どうしてもあの記憶だけは消えてくれない。
「今なら引き返せるよ?」
「後悔なんてありません。むしろ諦める方が、後悔するでしょう」
今ここを逃せば、きっと後悔する事になる。イリアにはその直感があった。ただの人として、このまま魔の森で密かに暮らす道も確かにある。
イリアが人として最後を迎えるまで、ひっそりと生きていく。それも選択肢としてはある。だけどそれでは、イリアは満足出来ない。
欲しいものを諦めるのはもうやめた。自分の幸せは、自分で掴み取らないといけないと学んだ。
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