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第1章 最凶の女王が生まれた日
第45話 サフィラの忠告
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イリアが18歳になる少し前に、イリアとアルベールはサフィラに呼び出された。呼び出されたというよりも、強制招集とでもいうべき形だ。
アルベールには見慣れた空間だが、イリアにとっては初めて訪れた場所。神と選ばれし者しか入れない特別な空間。
どこまでも続く無の境地。何もない次元の狭間で、サフィラはイリアに話しかける。
「強引な方法でごめんなさい、イリア」
「その姿……まさか」
アルベールの持つ禍々しい雰囲気とは違い、神々しい神聖な空気を自然に纏っている女性がイリアの目の前に立っている。
「はい。貴女達の住む世界の神、サフィラです」
「サフィラ、イリアをどうするつもりだ?」
アルベールは警戒心を隠す事なく、光の女神サフィラと対峙する。イリアを背へ庇うように、彼女の前に立つ。
アルベールの鋭い眼光を受けても、サフィラの態度が揺らぐ事はない。その美しい浅葱色の髪が、サフィラの動きに合わせて左右に揺れる。
睨むアルベールに向けて、サフィラが持つ紺碧の瞳が合わせられた。敵対的な意思があっての行動ではないと、その眼が訴えていた。
穏やかな視線を受けたアルベールは、一旦警戒を解く。完全に信用したわけではないが、無意味な嘘をつく存在ではないと知っているからだ。
「ただ話をしたかっただけです」
サフィラはどこまでも穏やかな態度を崩さず、優しい声を掛け続けている。光の女神という呼称に偽りはないようだ。
「私と話、ですか?」
「ええ。貴女とは一度、話す必要があると思いましたから」
イリアとアルベールは、2人揃って首を傾げる。今更になって話を、というのもよく分からない。神である以上は、イリアの人生など把握しているだろう。
大体、話をしたところで、今からイリアの考えが変わるわけでもない。そんな事はミアから聞いて、サフィラも知っているはずなのだから。
それでもなお会話がしたいと、今更望む意図が2人には分からなかった。明らかに意味の無い行動だ。
今のうちにアルベールとイリアを封印すると言うのであれば、まだ理解出来る話なのだが。
「人は必ず争う生き物です。遥か昔から、その事実は変わりません」
「だから、何だと言うのです?」
イリアにはサフィラが何を言いたいのか理解出来ない。人が常に争い合うなんて事は、歴史が証明している事だ。
そんな当たり前の話をされても、今更過ぎてイリアには何も響かない。だからこそ、サフィラの狙いが掴めない。
「同時に、平和に生きて来た人々も居ます」
サフィラが話したい内容というのは、この世界の人類についてだった。人類は昔から争いが絶えない生き物だ。
しかしそれは、動物や魔物とて同じ事が言える。基本的に弱肉強食である事は変わらない。食物連鎖の中で、特別扱いの生命などない。
そのサイクルから逃れられる存在などいない。だがそれは、生きるために仕方のない事であり、人類が起こす戦争は性質が違う。
人類の縄張り争いとも言えるが、動物や魔物は無意味な虐殺まではしない。そこが根本的に違うのだ。
「だから加減しろという話ですの?」
「そうですね。一言で表現するならば」
争うなとまでは、サフィラも求めていない。競争が産む未来だって、この世にはあると知っているからだ。
だが何事も、やり過ぎてはいけない。限度というものがあるのだと、サフィラは忠告したいようだ。
「言われずとも、弱者を虐める悪趣味な事はしませんわ」
イリアがこれから歩む道は、決して褒められたものではない。世界の全てを手に入れようとする生き方だ。
当然それは争いを生むし、多くの血が流れる事もあるだろう。そしてその分、恨みや怒りを買う事にも繋がるだろう。
しかしそんな事は、今更イリアが気にする事ではない。立ち塞がるなら全てを打ち倒すのみ。
だが最初から恭順を示す者まで、無駄に殺めるつもりなどない。それは支配者ではなく、ただの殺戮者だ。
誰もいない国を治めたとて、イリアの目標には届かない。必要なのは功績であり、無意味な虐殺ではないのだから。
「貴女がやり過ぎない限りは止めません。あくまで人類の行いで留まる限りは」
「それはどうも、ありがたいお話ですわね」
「ですが限度を超えた時は、分かっていますね?」
イリアの紅い瞳と、サフィラの紺碧の瞳が交差する。イリアに諦めるつもりはないし、サフィラとて譲れないラインがある。
神とはあくまでも、導き見守るだけの存在だ。直接裁くほどの事は、よほどの事情がない限り行わない。
それこそアルベールのように、本気で世界を破壊しようとしない限りは。そもそも500年前だって、サフィラは直接裁いてはいない。
その件については同情の余地もあったし、悲しいすれ違いでもあったからだ。それはイリアとて同じで、サフィラはイリアにも同情はしている。
だから人類として、大きく逸脱しない限り咎めるつもりはない。そもそも悪だからと、いちいち介入していればそれはもうサフィラの独裁だ。
サフィラの決めた事に従わない者は排除する。そんな世界はサフィラによるサフィラの為の世界になってしまう。それならもう、人類に自由意思など必要がなくなる。
「それにイリア、貴女の願いは叶いません」
穏やかに微笑みながら、しかしサフィラはイリアに対して釘を刺す。また新たな邪神が生まれるなど、認めないとハッキリ表明した。
「……言い切りますのね?」
「そのやり方を変えないのなら、いつか必ず私の敵になりますから」
善性から来る世界の統一ならば、サフィラとは敵対しない。しかしイリアの目的は、そんな優しいものではない。
邪魔する者は全て黙らせるというあり方だ。サフィラの導きとは真逆の方針であり、彼女からすればそんな神を増やすわけにはいかない。
人類が神に至るシステムは、創造主が決めたルールでサフィラには変えられない。だからこそ、新たな邪神になろうとするならサフィラは全力で抵抗する。
決して認めるわけにはいかなくなる。だからこその、サフィラなりの忠告であり優しさだった。やり過ぎないなら見逃すと、そう言っているのだ。
「ご忠告、痛み入りますわ」
その意思は一旦受け止めましょう。イリアは礼儀として、最低限の感謝だけは伝えておく。
「分かっていますね?」
「ええ、もちろんですわ」
サフィラの言葉に笑顔で返すイリア。もちろん黙って従うつもりなどない。イリアはすでに、いかにしてサフィラを出し抜くかを考えていた。
今の自分とアルベールでは、サフィラには敵わない。だからこそ、どうやって対等な勝負に持ち込むかが、鍵となる事は良く理解していた。
アルベールには見慣れた空間だが、イリアにとっては初めて訪れた場所。神と選ばれし者しか入れない特別な空間。
どこまでも続く無の境地。何もない次元の狭間で、サフィラはイリアに話しかける。
「強引な方法でごめんなさい、イリア」
「その姿……まさか」
アルベールの持つ禍々しい雰囲気とは違い、神々しい神聖な空気を自然に纏っている女性がイリアの目の前に立っている。
「はい。貴女達の住む世界の神、サフィラです」
「サフィラ、イリアをどうするつもりだ?」
アルベールは警戒心を隠す事なく、光の女神サフィラと対峙する。イリアを背へ庇うように、彼女の前に立つ。
アルベールの鋭い眼光を受けても、サフィラの態度が揺らぐ事はない。その美しい浅葱色の髪が、サフィラの動きに合わせて左右に揺れる。
睨むアルベールに向けて、サフィラが持つ紺碧の瞳が合わせられた。敵対的な意思があっての行動ではないと、その眼が訴えていた。
穏やかな視線を受けたアルベールは、一旦警戒を解く。完全に信用したわけではないが、無意味な嘘をつく存在ではないと知っているからだ。
「ただ話をしたかっただけです」
サフィラはどこまでも穏やかな態度を崩さず、優しい声を掛け続けている。光の女神という呼称に偽りはないようだ。
「私と話、ですか?」
「ええ。貴女とは一度、話す必要があると思いましたから」
イリアとアルベールは、2人揃って首を傾げる。今更になって話を、というのもよく分からない。神である以上は、イリアの人生など把握しているだろう。
大体、話をしたところで、今からイリアの考えが変わるわけでもない。そんな事はミアから聞いて、サフィラも知っているはずなのだから。
それでもなお会話がしたいと、今更望む意図が2人には分からなかった。明らかに意味の無い行動だ。
今のうちにアルベールとイリアを封印すると言うのであれば、まだ理解出来る話なのだが。
「人は必ず争う生き物です。遥か昔から、その事実は変わりません」
「だから、何だと言うのです?」
イリアにはサフィラが何を言いたいのか理解出来ない。人が常に争い合うなんて事は、歴史が証明している事だ。
そんな当たり前の話をされても、今更過ぎてイリアには何も響かない。だからこそ、サフィラの狙いが掴めない。
「同時に、平和に生きて来た人々も居ます」
サフィラが話したい内容というのは、この世界の人類についてだった。人類は昔から争いが絶えない生き物だ。
しかしそれは、動物や魔物とて同じ事が言える。基本的に弱肉強食である事は変わらない。食物連鎖の中で、特別扱いの生命などない。
そのサイクルから逃れられる存在などいない。だがそれは、生きるために仕方のない事であり、人類が起こす戦争は性質が違う。
人類の縄張り争いとも言えるが、動物や魔物は無意味な虐殺まではしない。そこが根本的に違うのだ。
「だから加減しろという話ですの?」
「そうですね。一言で表現するならば」
争うなとまでは、サフィラも求めていない。競争が産む未来だって、この世にはあると知っているからだ。
だが何事も、やり過ぎてはいけない。限度というものがあるのだと、サフィラは忠告したいようだ。
「言われずとも、弱者を虐める悪趣味な事はしませんわ」
イリアがこれから歩む道は、決して褒められたものではない。世界の全てを手に入れようとする生き方だ。
当然それは争いを生むし、多くの血が流れる事もあるだろう。そしてその分、恨みや怒りを買う事にも繋がるだろう。
しかしそんな事は、今更イリアが気にする事ではない。立ち塞がるなら全てを打ち倒すのみ。
だが最初から恭順を示す者まで、無駄に殺めるつもりなどない。それは支配者ではなく、ただの殺戮者だ。
誰もいない国を治めたとて、イリアの目標には届かない。必要なのは功績であり、無意味な虐殺ではないのだから。
「貴女がやり過ぎない限りは止めません。あくまで人類の行いで留まる限りは」
「それはどうも、ありがたいお話ですわね」
「ですが限度を超えた時は、分かっていますね?」
イリアの紅い瞳と、サフィラの紺碧の瞳が交差する。イリアに諦めるつもりはないし、サフィラとて譲れないラインがある。
神とはあくまでも、導き見守るだけの存在だ。直接裁くほどの事は、よほどの事情がない限り行わない。
それこそアルベールのように、本気で世界を破壊しようとしない限りは。そもそも500年前だって、サフィラは直接裁いてはいない。
その件については同情の余地もあったし、悲しいすれ違いでもあったからだ。それはイリアとて同じで、サフィラはイリアにも同情はしている。
だから人類として、大きく逸脱しない限り咎めるつもりはない。そもそも悪だからと、いちいち介入していればそれはもうサフィラの独裁だ。
サフィラの決めた事に従わない者は排除する。そんな世界はサフィラによるサフィラの為の世界になってしまう。それならもう、人類に自由意思など必要がなくなる。
「それにイリア、貴女の願いは叶いません」
穏やかに微笑みながら、しかしサフィラはイリアに対して釘を刺す。また新たな邪神が生まれるなど、認めないとハッキリ表明した。
「……言い切りますのね?」
「そのやり方を変えないのなら、いつか必ず私の敵になりますから」
善性から来る世界の統一ならば、サフィラとは敵対しない。しかしイリアの目的は、そんな優しいものではない。
邪魔する者は全て黙らせるというあり方だ。サフィラの導きとは真逆の方針であり、彼女からすればそんな神を増やすわけにはいかない。
人類が神に至るシステムは、創造主が決めたルールでサフィラには変えられない。だからこそ、新たな邪神になろうとするならサフィラは全力で抵抗する。
決して認めるわけにはいかなくなる。だからこその、サフィラなりの忠告であり優しさだった。やり過ぎないなら見逃すと、そう言っているのだ。
「ご忠告、痛み入りますわ」
その意思は一旦受け止めましょう。イリアは礼儀として、最低限の感謝だけは伝えておく。
「分かっていますね?」
「ええ、もちろんですわ」
サフィラの言葉に笑顔で返すイリア。もちろん黙って従うつもりなどない。イリアはすでに、いかにしてサフィラを出し抜くかを考えていた。
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