死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第2章

第99話 神話生物の体内

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 レヴィアタンの体内に侵入したアイナの前に広がっていたのは、異様に広い空間であった。
 確かに巨大な肉体を持つ生物ではあるが、それにしても広すぎるのではないかとアイナは訝しんだ。
 外見から推測するに全長は40から50メートルで、現存する最も大きい鯨であるシロナガスクジラの倍近い体躯を持つ。
 当然そうなれば、食道や胃袋もその分大きくなる。だがそれでも、体育館を超える広さを持つ筈がない。

「どうなっているの? やけに広いじゃない」

 単なる鯨ではなく、神話生物なのだから普通の生き物とは違うと言われればそうだろう。
 だが普通に呼吸が可能なレベルで酸素があるのは明らかにおかしい。まるでこの中で生き物が生活出来る様に作られたのかと思わせる空間だ。
 それにレヴィアタンの体内には濃い魔術的な要素を感じせている。まるでここも異界の中であるかの様な、違和感をアイナは覚えた。
 最初からその様な生物としてデザインされたのではないか。そんな予測が浮かんでも不思議ではないだけの現実が広がっている。

「これじゃ童話の世界じゃない」

 鯨の体内に人が過ごせる空間があるなんて、おとぎ話の世界だ。確かに鯨に飲みこまれたダイバーが生還した話もあるにはある。
 だがそれはこんな状況からの生還ではなく、もっと過酷な状況だ。真嶋まじまを連れ戻す為に飛び込んだとは言え、これでは流石にアイナも困惑してしまう。
 自分が飛び込んだのは本当にレヴィアタンの体内なのか? 自分が今見ているのは夢や幻の類かと、思わずそんな事を考えさせる。
 だがそんな彼女の前に真嶋が姿を現すと、即座にアイナは戦闘態勢を取る。驚くべき状況に置かれても、執行者としての意識は消えていない。

「ひひっ……ここまで追い掛けて来ますか」

「これはどういう事かしら? アナタが何かしたの?」

「いひっ! 素晴らしいでしょう!? これこそがレヴィアタンの真実! 世界最強の箱舟!」

 銃を向けられていようとも、真嶋は一向に気にしていない。それよりも自分が辿り着いた真相を語る方が、遥かに大事だと言わんばかりに捲し立てる。
 レヴィアタンの研究を続けていた真嶋が見つけ出した答え。それは大きな環境の変化や生命が滅ぶ危機が起きた時、一部の生命を守護する箱舟として作られたという事実。
 ノアの箱舟と似た存在であったのだと真嶋は語り続ける。同じ様な話は複数の宗教や神話に残っているので、レヴィアタンもそうであったとしても不思議ではない。
 強靭な肉体と異界へと移動する能力があるのだから、目的と性能は非常にマッチしている。

「とんでもない話ね。それで、貴方はこの子で何をする気かしら?」

「こ、この力さえあれば私の邪魔は誰も出来ない! ひひっ! 好きなだけ研究が出来る」

「あんな邪悪な研究を続けるって? 認める訳にはいかないわね」

 距離を詰めようとしたアイナの前に、レヴィアタンの物と思われる触手が出現する。
 どうやって胃の中にまで出現させたのか不明ではあるが、既にこの場所自体が非常識の塊だ。
 アイナは銃撃するか一瞬迷い、後方へと飛び退いた。まだレヴィアタンに危害を加えて良いのか、決め切れていなかったのだ。
 和解が可能なら平和的に解決する方が良いのはアイナも清志と同じ。それにこんな箱舟としての機能を持つなら、尚更軽率に手出しする事は出来ない。
 特にアイナの持つ魔力は、様々な魔術を阻害し破壊する。ここで使うのは非常に不味いと判断した。

「随分と仲良しじゃない? 躾でもしたのかしら? 何か芸とか出来るの?」

「ひひっ! もうレヴィアタンは私の思い通りだ! 誰も私を止められない!」

「……へぇ」

 真嶋が手に持ったタブレットを操作した瞬間を、アイナは見逃さなかった。真嶋が操作したと同時に触手による攻撃が始まった。
 これまでの発言と行動から、何らかの方法でレヴィアタンを操っているとアイナは判断する。
 そうであるならば、レヴィアタンもまた被害者でしかない。真嶋を確保する為とは言っても、大きな怪我を負わせられない。
 普段通りの戦闘方法を止め、足技を中心に対処を開始する。二丁の銃は一旦収納し、投擲にも使える大振りなナイフを手に迫り来る触手を退ける。

「もう逃げ場なんて無いのだから、諦めたらどうかしら?」

「ひ、ひひっ! お前をここから叩き出せば良いだけだ!」

「私はそう簡単に負けないわよ?」

 神話生物レヴィアタンの体内で、真嶋とアイナの攻防が始まった。
 まるで無限であるかの様に出現する触手達を操る真嶋と、その鍛え抜かれた肉体を武器に戦うアイナ。
 強烈な蹴りが触手に命中すると、痛覚はあるのか触手達は怯む。大怪我をさせない範囲で反撃し、真嶋を捕えるの非常に困難だ。

 しかし突破する為のヒントは既に得ている。どうにかして隙を突いて、真嶋が持つタブレットを破壊する。
 そうすれば多少なりとも好転するだろう。射線が通ったその瞬間に、手にしたナイフを投擲する。
 その時が来るまで、今は耐え忍ぶ時。焦らず急がず、チャンスの到来を見逃さぬ様にアイナは鋭い視線を向け続けた。
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