ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき

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公開収録

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「今月末にドラマの公開収録があるんだ。良かったら見に来ない?」
「え? いいんですか?」

 優斗ゆうとはパッと顔を輝かせた。あまりに即答され、直柾なおまさは目を瞬かせる。

「もしかして優くん、芸能界に興味あるの?」
「え? ないですよ?」

 芸能界に入りたい、働きたい、とは全く思っていない。

「お仕事中の兄さんを見てみたくて」
「優くんはまた、可愛いことを……」

 無邪気に笑う優斗をギュウッと抱き締めた。

「許可証、二枚用意するね。隆晴りゅうせい君とおいで」
「いいんですか?」

 まさか彼まで誘ってくれるとは。すると直柾はにっこりと笑って。

「優くんのボディーガードとしてね?」

 そう言い放った。
 最近、優斗の前でも隆晴への対抗心を隠さなくなった。最初こそ戸惑ったが、こんな彼も良いなと思……、いや、新たな一面を知れて嬉しいと思うようになった。
 “穏やかで完璧な王子様”ではない姿を見られる事が、嬉しいのだ。

 チラリと背後を振り返ると、直柾は愛しげに優斗を見つめる。
 ……これは、自分だけが見られる顔かもしれない。その顔を、独り占め。

 ――何だろう……嬉しいというか、むず痒いというか……。

 胸の内に生まれた感情に首を傾げながらも、やはり悪い顔よりもこの顔が一番いいな、と思うのだった。









 そして、当日。
 ドラマの収録場所は、一流ホテルの大広間と、そこへと続く廊下だった。
 パーティーシーンでは大勢の俳優が集まる為、複数の事務所のマネージャーやスタッフも訪れているようだ。

 指定された入口から収録場所へと向かう優斗と隆晴だったが……。


「君、どこかの事務所に所属してるかな? もし良かったら、うちのモデル事務所に……」
「すみません。そういうの興味なくて」
「え? そうなの? 勿体ないな」

 本気で勿体ないという顔で引き止めようとする男性に隆晴は軽く会釈し、優斗の手を引きその場を離れる。
 廊下の角を曲がるとまた声を掛けられた。

「五回目ですね」
「勘弁してくれ……」

 クスクスと笑う優斗に、隆晴はわざと大きく溜め息をついた。
 モデル事務所からの誘いが三回、俳優方面の誘いが二回。角を曲がる度に声を掛けられ、さすがに辟易してきた。

「先輩は立ってるだけでも目を惹きますから」
「好きな奴の目だけは惹けないけどな」
「は、……あ、すみません……」
「謝んな。ってか、マジで惹けてないのか……」
「惹け、てはいるかと……」
「なんで他人目線なんだよ」

 本気で惹けていなかったとは何気にショックだ。
 思わず溜め息をつくと、優斗はそっと視線を伏せた。

「俺が見てるとすぐ先輩がこっちを見るので、落ち着かないというか、それで、ずっとは見ていられないというか」

 惹き付けられては、いる。
 ただ、見られると見つめ返せないだけで。

「あれ? 目を惹くってそういうことじゃないです?」

 あれ? と首を傾げる。
 母親が再婚した事で心配事がなくなり気が抜けたのか、優斗は時々天然さを発揮するようになった。自分が無意識に爆弾を落としている事にも気付いていない。

 今すぐそこの角に引きずり込みてぇ……。
 機材が積まれた場所へと視線を向けてしまい、隆晴はそっと溜め息をついた。大丈夫だ。理性はまだ生きている。
 今はただの先輩でいよう、と己に言い聞かせ、優斗の頭をわしゃわしゃと撫でた。

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