後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

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異世界


 吹き抜ける風が、髪を揺らした。

 木々のざわめく音。
 湿った土と、青い草の匂い。

「っ……、……ここ、は……?」

 暖人はるとは体を起こし、周囲を見渡した。
 視界に入るのは緑ばかり。空の青すら覆うほどの、深い森の中だ。
 確か、崖から身を投げて海に落ちたはず。
 それなのに、どうして森に?

涼佑りょうすけ……」

 いや、ここがどこかなど、どうでも良い。
 あの崖の先がここなら、涼佑も近くにいるかもしれない。

 だがどこを見ても同じ、鬱蒼と茂る森。
 側の少しだけ拓けた場所に出ると、細い一本道があった。
 右か、左か。どちらも先は見えない。
 それならと、左を選んだ。涼佑は迷った時はいつも左を選んでいたから。

 真っ直ぐなのか、曲がりくねっているのか。それすらも分からなくなる道を歩いても歩いても、同じ景色。

 ケタケタと笑うような声。頭上で鳥の羽音がして、ギィギィと別の声が重なった。
 聞いたことのない鳴き声。もしこれが映画なら、人を喰う鳥や獣が現れる場面だ。
 思わずブルリと身を震わせる。それでも、例え獣が現れても、涼佑を見つけるまでは喰われる訳にはいかなかった。


 突然、ガサリと大きな音がした。
 弾かれたように振り向けば、背高く生い茂る草が大きく揺れる。
 咄嗟に後退り、背後の木の陰に身を隠した。獣なら、隠れても匂いで分かってしまう。せめて木に登れば……。

「っ……!」

 一番低い枝に手を伸ばした瞬間、何かに腕を掴まれた。

「あ? なんだぁ? こんなとこにガキがいるとは」

 現れたのは、四人の男だった。

(良かっ……た、人間だ……)

 思わず胸を撫で下ろす。
 汚れた服にボサボサの髪と髭。見るからにガラの悪い男たちだったが、獣に喰われるよりは良かった。それに、この森に人間が存在していた事に安堵したのだ。

「あの……」

 腕は掴まれたまま。頭ひとつ分高い位置へと声を掛けると、男は暖人の顎に手を掛けた。

「コイツ、可愛い顔してんじゃねぇか」
「こりゃ高く売れるぜ」

 男たちが下卑た笑みをみせる。
 思わず首を傾げた。

「あの、臓器を売る人、ですか?」
「はぁ? なんだそりゃ」

 ケラケラと笑われて、安堵する。どうやら殺されはしないらしい。

 人身売買でも何でも、彼らについて行けばきっと街に出られる。逃げられるかは……分からないが。それでも、ここで逃げても逃げ切れる自信はない。それこそ殺されてしまうかもしれない。
 生きてさえいれば、きっとチャンスはある。涼佑を見つけるまでは、絶対に死ねないのだから。

 怯えも慌てもしない暖人に男たちは不思議そうにしながらも、ただ状況が理解出来ていないと思ったのだろう。変わらず厭な笑みを浮かべたまま暖人の肩に腕を回した。

「ちょっとくらい味見してもいいよなぁ?」
「っ!」

 そのまま地面に引き倒され、さすがに慌てた。
 男たちに腕や脚を押さえられ、いきなりベルトに手を掛けられれば、男の自分でも何をされるかくらいは分かる。

「俺は売り物なんだろっ」
「はっ、綺麗に洗って着飾らせりゃ分かんねぇよ」
「っ……俺が言えば、値が下がるに決まってるっ」

 男が一瞬怯む。暖人は男を睨み続けた。怖くないとは言わない。それでも、弱味を見せたら負けだと思った。
 だが。

「威勢のいい奴は好きだぜ?」

 男はニヤリと下卑た笑みを浮かべた。

「その黒い髪と目が残ってりゃ、珍しモン好きの貴族がこぞって高値を付けるだろうよ」

 力づくでベルトを外され、スラックスを脱がされる。別の男が脚を持ち上げ大きく開かされて、秘めた場所が男の前に晒された。

「やめろっ……!」

 暴れても、毛むくじゃらで丸太のように太い男たちの腕はビクともしない。
 男の熱い息が脚の間に触れ、ゾワリと鳥肌が立った。

(やだっ、涼佑っ……)

 涼佑以外の人になんてっ……。
 きつく目を閉じた、瞬間。

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