9ライブズナイフ

犬宰要

文字の大きさ
4 / 82

4

しおりを挟む
 今の状況と手品のように水のペットボトルを召喚できる事を考えながら、歩いているとマナチが砂利に足を捕らわれて盛大に転んだ。
 
「ふぎゃっ」
 
 僕はすかさず、彼女に駆け寄ってそっと寄り手を差し伸べた。正直、砂利の上というのは、ちくちくして立ち上がる時も手のひらがあまり心地よくない。
 
「あ、ありがと」
「どういたしまして」
 
 よく見ると膝が擦りむけていて、血が滲んでいた。僕はシャツの左袖を引きちぎり、水が入ったペットボトルを召喚し、少し湿らせて拭いてあげた。
 
「あとはこうして、こう、っと」
 
 引きちぎった袖を軽く巻き付けて縛ってあげた。
 
「これでよし、大丈夫?」
「う、うん。ありがと」
 
 僕としてはポイント稼げたと思ったりしたが、本当だったら転ぶ前に支えてあげた方がベストだよなぁとぼんやりと思った。そっちの方がかっこいいからだ。
 
「ね、ねぇ……転ばないように手をつないでもいい?」
 
 と言いながらすでに僕の手を握ってきてるあたり、キュンポイント高いなと思った。
 
「あ、ああ。いいよ」
 
 声が上ずった。
 
 僕は恥ずかしさを隠すように、彼女の手を握り返し、一緒に歩くことにした。先を歩いている三人を見ると、ハルミンがタッツーの腕に巻きついて歩いていた。ムッツーはタッツーと話しながら、ハルミンが相槌を打ったりしてるのがわかった。
 
「ヨーちゃん、やさしいよね。へへっ、ありがとう」
 
 マナチの言葉で手が汗ばむような感じになりつつあり、手汗をどうしようかと頭がいっぱいになった。
 
「そ、そうか」
 
 こんな時、気が利いた返しが出来るように妄想していたが、咄嗟に出てこない自分はかっこ悪いなと思った。
 
「普通、咄嗟に袖引きちぎって巻いてくれたりしないよ。すごいよ」
 
 僕はマナチの方を見ることが出来なかった。こういうシチュエーションはそもそも今までなく、どうしたらいいのかわからなかった。いやそもそもよくわからない場所で空はどんより雲模様、遠くには謎の淡い光り、あたりは砂利ばかり、ムードなんてない。
 
「あっ、ちょっと……その、ムッツーに相談したい事があるから、先に行くね」
 
 いきなり繋いでいた手を離された。
 砂利に足を捕らわれることなく、さささーとマナチはムッツーの横に行き、何か話をしていた。もじもじとしながら、さながら恋する乙女みたいな感じだった。
 
 これはあれか、僕の手汗がひどかったせいなのかと思い、さっきまで握っていた手を見つめた。
 
 手汗はかいてなかった。
 
 肩をすくめ、前を向くとムッツーとマナチの二人の会話が終わったのか、ムッツーがこちらの方に振り向いた。僕と目が合ったような気がし、もしかして不快だったからと自重しろとか言われるのだろうとか少し恐れた。
 
 あの人ちょっとやさしくしたら勘違いしてきて、そんなつもりじゃなかった的な流れで悪者扱いされるやつだ。
 
「ちょっといったん止まってくれ、トイレ休憩にしよう。あの丘の裏側で行く人はついてきてくれ」
 
 どうやらトイレ休憩したくて話しかけにいったのだった。僕は一安心した。
 
「ほかにいないか?」
「あ、あの・・・」
 後ろを見るとおずおずとツバサが手を上げていた。
 
「じゃあ、行こうか」
 ムッツーは丘の裏側へ先導するように歩いていった。それにつられてマナチも歩いていき、ツバサは挙動不審になりながらムッツーの後を追うのであった。
 
 三人が砂利の丘の向こう側に隠れ、見えなくなって数秒も立たない内に大きな声がした。
 
「なんだそれは!?」
「ひぃ!」
 
 ムッツーの叫び声とツバサの悲鳴が聞こえ、タッツーは急いで丘の裏側へ向かう途中で立ち止まり、彼女も驚いていた。
 
「えっ!?」
 
 そして、何かを指さし、何か話し込んでいた。気になって見に行きたいが、さすがに覗き込む勇気はなかった。いや勇気というか変態だよなと思った。
 事の成り行きを見ていると、何か見つけて驚き、タッツーが何か怒っているようだった。何に怒っているのかわからないが、怒ってる相手は多分ムッツーだろうなぁと思った。あのタッツーに尻を叱られるムッツーが妙にしっくり想像できたからだ。
 
 トイレが終わり、砂利の丘の向こう側から出てきた時にマナチの服装だけが違っていた。
 
 僕は一瞬で察し、ムッツーがマナチに何かしてけしからん事になったとわかった。さっきまで着ていた服ではなく、下半身だけズボンとがっちりとした靴を履いていた。どこからその服があったのか、というよりも何があったのか、いや何したんだという事が僕の中で頭がいっぱいだった。
 
「今日はこれ以上進まないでここでキャンプし、ツバサが知った事をみんなで共有し、明日に備えようと思う」
「いいんじゃないかしら」
 タッツーはマナチの近くに行き、背中をさすってあげながら賛成していた。
 
 僕はその賛成の前に何があったのか知りたいんだけども、ていうか、キャンプ言うても何もないからペットボトルを大量に出してその上で寝るくらいしか想像できなかった。
 
「私は賛成・・・」
 
 マナチは目がまた少し腫れており、泣いた事が一目瞭然だった。
 
 くっ、あの一瞬でいったい何をどうしたんだ。僕は知りたいという思いと不埒な妄想がさっきから頭の中で渦巻いていた。
 
「ところでツバサ、他にどんな事が可能なんだ? 説明してくれると助かる」
 
 ムッツーがツバサに話しかけ、何か説明を求めていた。いや、お前が何をしたのか説明してください。
 
「服とか出せるようになったってこと!?」
 ハルミンがマナチのズボンを指さしてツバサに聞いた。
 
「え、あ、はい……」
「……」
「……」
 
 二人の会話が続かず、ハルミンは気まずくなり、ツバサももじもじし始めたのだった。僕は水が入ったペットボトル以外に服を召喚できたから、マナチに新しく服を着せたのかと思った。その服でマナチが泣いているのは、その見た目がしっかりした服だけど、いかがわしい服なのかと考えた。
 
「マナチがペットボトルを出したように、何か発見したということかしら?」
 タッツーがツバサに気を使い、ハルミンとの会話を取り持っていた。どうして冷静でいられるのだろうか、ムッツーがマナチに何かしたはずなのに、どういうことだ?
 タッツーは空気を読み、答えやすい質問をするのが上手かった。そして、包容力をかもしだしていたのもあり、相手に安心感を与えるのに充分なのだろう。もしかして無限の包容力はなんでも許しちゃうのか?
 
「は、はひ・・・あの『これ』がいろいろ教えてくれて、野営に必要な道具とか、食べ物とか、服とか、あるのがわかりました」
 
 何かアレな道具でも取り出したのかと思ったらアーミーナイフだった。
 僕は冷静になった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.
ファンタジー
「記録係なんてお荷物はいらない」 勇者パーティを支えてきた青年・ライトは、ダンジョンの最深部に置き去りにされる。 彼のスキル《記録》は、一度通った道を覚えるだけの地味スキル。 戦闘では役立たず、勇者たちからは“足手まとい”扱いだった。 だが死の淵で、スキルは進化する。 《超記録》――受けた魔法や技を記録し、自分も使える力。 そして努力の果てに得たスキル《成長》《進化》が、 《記録》を究極の力《アカシックレコード》へと昇華させる。 仲間を守り、街を救い、ドラゴンと共に飛翔する。 努力の記録が奇跡を生み、やがて―― 勇者も、魔王も凌駕する“最強”へ。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

アルファポリスであなたの良作を1000人に読んでもらうための25の技

MJ
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスは書いた小説を簡単に投稿でき、世間に公開できる素晴らしいサイトです。しかしながら、アルファポリスに小説を公開すれば必ずしも沢山の人に読んでいただけるとは限りません。 私はアルファポリスで公開されている小説を読んでいて気づいたのが、面白いのに埋もれている小説が沢山あるということです。 すごく丁寧に真面目にいい文章で、面白い作品を書かれているのに評価が低くて心折れてしまっている方が沢山いらっしゃいます。 そんな方に言いたいです。 アルファポリスで評価低いからと言って心折れちゃいけません。 あなたが良い作品をちゃんと書き続けていればきっとこの世界を潤す良いものが出来上がるでしょう。 アルファポリスは本とは違う媒体ですから、みんなに読んでもらうためには普通の本とは違った戦略があります。 書いたまま放ったらかしではいけません。 自分が良いものを書いている自信のある方はぜひここに書いてあることを試してみてください。

処理中です...