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冤罪で聖女様が断罪されてから
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タカラジェンヌの苺いちえは、意識を取り戻したものの、今までの記憶の一切合切を失ってしまったことに、舞台関係者はショックを受けている。
楊貴妃かクレオパトラの再来かと思われる美貌の持ち主で、芸能界入り間違いなしと思われていただけに、頭を抱える芸能関係者も多数いるが、その中で
「記憶を失くしたって、また新しい記憶を上書きすればいいだけでは?」
大手プロダクション社長の田中は、平然と言ってのける。
そして、退団させてから、自分のプロダクションに入れ、女優、タレントとして活動させることをもくろみ、すでに苺いちえのところにオファーを出しているのだが、どうも苺いちえは感覚がズレていて、話が進まない。
「ウチの事務所に入ってくだされば、契約金として、1億円。毎月、仕事がなくても5000万円のギャラは支払いますよ。だから宝山など、さっさと辞めてしまって、ウチに来てくださいよ。」
前世聖女のビクトリアこと苺いちえは、まだ入院している。
「1億円というのは、金貨で何枚でございますか?」
異世界の学園を首席で卒業したビクトリアは、スカウトマンの言っていることの半分も理解できない。
「さて?金貨と言うのは、スイス金貨のことを指しておられるのですか?ちょっと不勉強でよくわかりませんが、今、金の相場は値上がりしていまして、……。」
そのうち、面会時間が過ぎ、帰らざるを得ない。
次の日も来るが、
「わたくし、オペラ座に出るのでございますか?」
「いやいや、ニッポンには、オペラ座がございませんから、まずは舞台、そして映画、テレビなどの出演、それにコマーシャルなどを考えております。」
こまぁしゃる?はて?なんぞや?
と言った調子で話がかみ合わない。
いくら記憶を失くしているとしても、ひどすぎる。スカウトマンは、そう感じながらも、100万人に一人の逸材であるとも思う。もし田中社長に睨まれでもしたら、もうこの世界では生きていけない。だから、どうあっても、この世間知らずのお嬢様女優を獲得しなければならない。
本人相手のオファーが難しいようであるので、両親を説得する方向へ転換しよう。
その両親、とりわけ父親が大変な頑固親父で
「許さん!断じて、芸能界入りなど許さん!だいたい、宝山へ行くことも反対だったのだ。宝山は、歌やダンスの稽古の合間に行儀作法を教えると言うから、入学を許可したのに、いつまで経っても、嫁にも行かず、人前で足をあげて踊るなど、けしからん!」
「はぁ、ですが娘さんは100万人に一人の逸材でございます。お父様の言われる通りにして、娘さんの将来の目を摘み取ってしまっても、大丈夫でしょうか?娘さんの歌声やダンス、お芝居などは、他人に感動を与え、魅了する芸術性があります。世界に誇れるニッポン芸術の損失です。」
スカウトマンは、わかったようなわからない理屈をこねて説得している。
そしてさらに、苺いちえの父親の勤務先にまで圧力をかけ、芸能界入りするように勧めたのである。
頑固親父も勤務先社長から言われたら、仕方なく娘の芸能界入りを承諾したのである。
宝山歌劇団夢組トップ娘役の苺いちえは、それでもなおキョトンとしていて、一向に芸能界入りが決まらない。
仕方なく、田中社長は、宝山のグループ系列の西宝グループの映画に主演させることにして、宝山に財団中に芸能界デビューを果たすことになる。
当然、マネジメントは宝山がおさえ、田中社長は出る幕がないが、いずれ退団するときが来たら、その時に再度話し合えば、確実に取れると踏んでいるのだ。
日本人なら、世話になった相手からの依頼は断れない。まして、尽力されてしまったら、なおさらのことである。
その根拠は、尽力したから、と言うものだけで、異世界からやってきたビクトリアにその根拠が通じるかどうかなんて、わからないも同然と言うことに気づいていない。
映画主演の役どころは、タイミングよく「聖女様役」だったので、役作りはいらない。台本を渡される苺いちえ。
学園の文化祭での催し物みたいで楽しい。前世は、病弱で学園祭には参加していなかったのだが、クラスメイトは演劇を行ったと聞いていたのだ。
クランクインになり、最初のシーンは、聖女様に覚醒すると言う所から、始まる。セットの大聖堂と修道院のあいの子みたいなところに入り、祭壇で拝むと突然、祭壇から聖女様を任命され光が聖女様に向けて放たれると言う仕掛け。
祭壇には、照明が据え付けてあり、聖女様を照らすということで、覚醒を表わす。
リハーサルが何度も行われ、うんざりしていると
「本番5秒前!」
いちえは、祭壇の前に跪き、心の中で{女神様、ありがとうございます。}とつぶやいたところ、祭壇上からの照明を照らす前に、いちえのカラダが突如、金色に光り輝きだし、その光は監督やスタッフ、他の出演者にまで届き、薄毛に悩んでいた監督さんの毛を生やした。
そして、どこからともなく大量の花びらが舞い降りて、小道具さんも「?」なぜか、幸せな気分になる。
その場にいた皆は、茫然としながらもカメラは回り続ける。まさに現代の聖女様誕生の瞬間をカメラは捉えたのだ。
いつまでも「カット!」の声がかからないので、いちえは不安に思うが、その姿勢を維持したまま、居続ける。
大道具さんは、今朝から悩んでいたぎっくり腰が治り、照明さんは、水虫がよくなった。他のスタッフや出演者も皆同様で、どこかしらの体調不良が気づけば、知らない間に元通りになり治っているのである。
撮影はクランクアップを迎え、興行収入は歴代過去最高になったのである。
その映画を観さえすれば、簡単な体調不良が、完全な健康体になり、映画館にお客さんが入りきれないぐらいヒットしたのである。
いちえはテレビに舞台にコマーシャルに、と引っ張りだこになる。そして大物俳優からも共演したいというオファーが殺到するのである。
大物俳優と言うのは、たいていお年を召していて、健康不安があるから、現代の聖女様と共演することにより、その不安を一掃したいのである。
いちえは、宝山歌劇団所属の女優であるから、宝山の系列である聖急電車、聖急不動産という系列会社のコマーシャルに出るようになった。
広告代理店も聖急堂が一手に引き受け、田中社長のプロダクションは出る幕がない。
「なぜだ?苺いちえを見つけ出したのは、ほかならぬ俺だぞ?なぜ、俺が儲からない?俺の会社は、それほどまでに力がないのか?」
それは苺いちえがいつまでも宝山を退団しないからです。宝山もドル箱のいちえを手放さない。
結婚したら、話は別になると思うが、異世界で婚約破棄され、処刑されたいちえは、もう結婚する気がない。
そこで田中社長は、所属する若いタレントにいちえに対しハニートラップを仕掛けるように命じるが、どうもうまくいかない。
若いイケメンタレントと写真を撮らせれば、宝山には居づらくなるだろうという狙いがあるが、声すらかけさせてもらえない現状がある。
宝山のガードが堅いからである。と思っているが、実は聖女様には鑑定魔法が使えるので、甘い言葉で誘いをかけてくる男性の真意がわかってしまうのである。
移動も転移魔法で行くので、電車や車での移動はない。だから、他の事務所のタレントさんとの接点が非常に低い。
それを押して、接近してくる人は目立つから、鑑定魔法を発動せずともわかる。
宝山で海外公演があるときも、いちえは聖女魔法の言語理解が備わっているので、どこへ行っても言葉には不自由しない。時折、歌劇団から通訳を頼まれるほどである。
ある海外公演へ出発するとき、テロか何か原因不明で操縦桿が作動しなくなったことがあったのだ。機長も首をひねるばかりで、自動操縦もままならない。
もう、後10分足らずで墜落するという時に、聖女様が呼ばれることになり、何とかしてほしいと言われるものの、いちえも飛行機など操縦した経験がないから、なんともできないでいる。原理がわからないから、直しようがない。
もはや墜落死した人の救護ぐらいしかできない、と思っていると外国人で他の会社のパイロットがたまたま同じ飛行機に乗っていて、
「聖女様の魔法と私のパイロットとしての腕を試してみませんか?」
「え?でも、わたくしは落ちてからの救護はできますが、落ちなければ何もできないと思います。」
「そんなことはないでしょう?浮遊魔法はお出来にはなりませんか?」
そういえば、特殊スキルの中にそんなものがあったような気がする?でも、一度も試したことがない。
「何をすれば、よろしいのですか?」
「とにかく落ちないように高度を保って、それから機体を持ち上げ気味にしてください。」
いちえは、操縦席のバックヤードで、跪き祈りの姿勢を取る。もう、かなり飛行機は揺れていて、立っていられないほどなのだが、己のカラダをシートベルトでつなぎ止め懸命に祈ると、機体は安定を保つようになる。
飛行機は一人のけが人も出さず、無事、着陸したのである。
その外国人のパイロットは、ニッポンでの休暇を終え、母国へ帰るため、乗り合わせていたらしい。
「聖女様、連絡先を交換したいのですが……?実は、ニッポンで休暇を過ごしたのは、うまくいけば聖女様とお会い出来るのではないかと思ってのことです。私のことはウィリーと呼んでください。」
「え?」
そして、そのパイロットの男性は、他の人に聞こえないようにいちえの耳元まで来て、
「私も異世界からの転生者なのです。あの肉体ブティックの店長から、お聞きしました。」
それを聞いてから、急に親しみを感じたいちえは、自分のスマホの番号とメールアドレスを教える。
そして、歌劇団はそのまま公演準備のため、空港からチャーターしたバスに乗り込み移動する。
その夜、ホテルの部屋で寛いでいるとスマホが鳴る。
ウィリーからの電話で、これから会えないか?という内容だったが、集団での行動のため、なかなか自由に外出できない。
明日は、お休みだからホテルまで迎えに来てくれたら、会うという約束をして、その日は寝る。
次の日の朝、本当にウィリーはホテルまで迎えに来てくれたのだ。ウィリーとドライブして、ショッピングして、食事して、楽しい一日はあっという間に終わる。
ウィリーは、この国の王子様で、軍隊に入り戦闘機のパイロットをしている。前世でも、やはり王子様だったようで、聖女様や公爵令嬢の立場などは、よく承知してくださっている。
「愛しています。ぜひとも、聖女様と婚約したいのですが……?」
「王子様との婚約は、前世で懲りております。」
たった一日デートしたぐらいでは、結婚など決められない。
歌劇団が公演の間、何度もウィリーはオペラ座へ足を運んでくれた。花束やプレゼントを抱えて、いつもいつも来るから歌劇団も二人の仲を公認してくれたのである。
それから二人の交際は始まる。ウィリーの住む王宮といちえが暮らすニッポンの家を異空間でつなげたのだ。パスポートやビザの問題があるから、本当は違法行為です。良い子の皆さんは真似をしないようにしてくださいね。
やがて二人は愛し合う関係になる。何よりもいちえが大切にしていること、いちえのことを十分理解してくれていることが嬉しい。
二人は時を超え、世界を超え、結ばれ、いちえはニッポンの聖女様から世界の聖女様へと転身する。
その前に、歌劇団を退団しなければならない。ニッポンでの仕事は契約が残っているので、契約をすべてこなしてからでないと結婚できない。
退団公演は、ハマリ役の聖女様になったのは言うまでもないことだが、いちえが退団を発表してから、待ってましたとばかりに、また田中社長が暗躍するが、もう外国へお嫁に行くことが決まっており、これを妨害したり邪魔したりすれば、国際問題になりかねない。
外国の王室の一員になるいちえは、副業でタレント活動など、もってのほかなのである。
退団公演も滞りなく、終わる頃には、すべての契約が終わっている。
晴れて、外国へ渡り(実際は、異空間で行ったのだけど、いちえの両親が飛行機嫌いで、両親にも異空間を通らせて)結婚式が行われる。
ニッポンの人気スターと外国の王族との結婚は、ビッグニュースでニッポンからも大勢のマスコミが来る。
父は、マスコミを前にして、堂々と挨拶をする。あれほど芸能界入りを反対していたというのに、ずいぶん練習したのだろうか?それとも、王族と結婚し、玉の輿に乗ったことが嬉しいのだろうか?
「いちえがついに、かぐや姫となり、私たちの元から旅立つことになりました。どうかあたたかく見守ってやってくださいませ。」
楊貴妃かクレオパトラの再来かと思われる美貌の持ち主で、芸能界入り間違いなしと思われていただけに、頭を抱える芸能関係者も多数いるが、その中で
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大手プロダクション社長の田中は、平然と言ってのける。
そして、退団させてから、自分のプロダクションに入れ、女優、タレントとして活動させることをもくろみ、すでに苺いちえのところにオファーを出しているのだが、どうも苺いちえは感覚がズレていて、話が進まない。
「ウチの事務所に入ってくだされば、契約金として、1億円。毎月、仕事がなくても5000万円のギャラは支払いますよ。だから宝山など、さっさと辞めてしまって、ウチに来てくださいよ。」
前世聖女のビクトリアこと苺いちえは、まだ入院している。
「1億円というのは、金貨で何枚でございますか?」
異世界の学園を首席で卒業したビクトリアは、スカウトマンの言っていることの半分も理解できない。
「さて?金貨と言うのは、スイス金貨のことを指しておられるのですか?ちょっと不勉強でよくわかりませんが、今、金の相場は値上がりしていまして、……。」
そのうち、面会時間が過ぎ、帰らざるを得ない。
次の日も来るが、
「わたくし、オペラ座に出るのでございますか?」
「いやいや、ニッポンには、オペラ座がございませんから、まずは舞台、そして映画、テレビなどの出演、それにコマーシャルなどを考えております。」
こまぁしゃる?はて?なんぞや?
と言った調子で話がかみ合わない。
いくら記憶を失くしているとしても、ひどすぎる。スカウトマンは、そう感じながらも、100万人に一人の逸材であるとも思う。もし田中社長に睨まれでもしたら、もうこの世界では生きていけない。だから、どうあっても、この世間知らずのお嬢様女優を獲得しなければならない。
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「許さん!断じて、芸能界入りなど許さん!だいたい、宝山へ行くことも反対だったのだ。宝山は、歌やダンスの稽古の合間に行儀作法を教えると言うから、入学を許可したのに、いつまで経っても、嫁にも行かず、人前で足をあげて踊るなど、けしからん!」
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そしてさらに、苺いちえの父親の勤務先にまで圧力をかけ、芸能界入りするように勧めたのである。
頑固親父も勤務先社長から言われたら、仕方なく娘の芸能界入りを承諾したのである。
宝山歌劇団夢組トップ娘役の苺いちえは、それでもなおキョトンとしていて、一向に芸能界入りが決まらない。
仕方なく、田中社長は、宝山のグループ系列の西宝グループの映画に主演させることにして、宝山に財団中に芸能界デビューを果たすことになる。
当然、マネジメントは宝山がおさえ、田中社長は出る幕がないが、いずれ退団するときが来たら、その時に再度話し合えば、確実に取れると踏んでいるのだ。
日本人なら、世話になった相手からの依頼は断れない。まして、尽力されてしまったら、なおさらのことである。
その根拠は、尽力したから、と言うものだけで、異世界からやってきたビクトリアにその根拠が通じるかどうかなんて、わからないも同然と言うことに気づいていない。
映画主演の役どころは、タイミングよく「聖女様役」だったので、役作りはいらない。台本を渡される苺いちえ。
学園の文化祭での催し物みたいで楽しい。前世は、病弱で学園祭には参加していなかったのだが、クラスメイトは演劇を行ったと聞いていたのだ。
クランクインになり、最初のシーンは、聖女様に覚醒すると言う所から、始まる。セットの大聖堂と修道院のあいの子みたいなところに入り、祭壇で拝むと突然、祭壇から聖女様を任命され光が聖女様に向けて放たれると言う仕掛け。
祭壇には、照明が据え付けてあり、聖女様を照らすということで、覚醒を表わす。
リハーサルが何度も行われ、うんざりしていると
「本番5秒前!」
いちえは、祭壇の前に跪き、心の中で{女神様、ありがとうございます。}とつぶやいたところ、祭壇上からの照明を照らす前に、いちえのカラダが突如、金色に光り輝きだし、その光は監督やスタッフ、他の出演者にまで届き、薄毛に悩んでいた監督さんの毛を生やした。
そして、どこからともなく大量の花びらが舞い降りて、小道具さんも「?」なぜか、幸せな気分になる。
その場にいた皆は、茫然としながらもカメラは回り続ける。まさに現代の聖女様誕生の瞬間をカメラは捉えたのだ。
いつまでも「カット!」の声がかからないので、いちえは不安に思うが、その姿勢を維持したまま、居続ける。
大道具さんは、今朝から悩んでいたぎっくり腰が治り、照明さんは、水虫がよくなった。他のスタッフや出演者も皆同様で、どこかしらの体調不良が気づけば、知らない間に元通りになり治っているのである。
撮影はクランクアップを迎え、興行収入は歴代過去最高になったのである。
その映画を観さえすれば、簡単な体調不良が、完全な健康体になり、映画館にお客さんが入りきれないぐらいヒットしたのである。
いちえはテレビに舞台にコマーシャルに、と引っ張りだこになる。そして大物俳優からも共演したいというオファーが殺到するのである。
大物俳優と言うのは、たいていお年を召していて、健康不安があるから、現代の聖女様と共演することにより、その不安を一掃したいのである。
いちえは、宝山歌劇団所属の女優であるから、宝山の系列である聖急電車、聖急不動産という系列会社のコマーシャルに出るようになった。
広告代理店も聖急堂が一手に引き受け、田中社長のプロダクションは出る幕がない。
「なぜだ?苺いちえを見つけ出したのは、ほかならぬ俺だぞ?なぜ、俺が儲からない?俺の会社は、それほどまでに力がないのか?」
それは苺いちえがいつまでも宝山を退団しないからです。宝山もドル箱のいちえを手放さない。
結婚したら、話は別になると思うが、異世界で婚約破棄され、処刑されたいちえは、もう結婚する気がない。
そこで田中社長は、所属する若いタレントにいちえに対しハニートラップを仕掛けるように命じるが、どうもうまくいかない。
若いイケメンタレントと写真を撮らせれば、宝山には居づらくなるだろうという狙いがあるが、声すらかけさせてもらえない現状がある。
宝山のガードが堅いからである。と思っているが、実は聖女様には鑑定魔法が使えるので、甘い言葉で誘いをかけてくる男性の真意がわかってしまうのである。
移動も転移魔法で行くので、電車や車での移動はない。だから、他の事務所のタレントさんとの接点が非常に低い。
それを押して、接近してくる人は目立つから、鑑定魔法を発動せずともわかる。
宝山で海外公演があるときも、いちえは聖女魔法の言語理解が備わっているので、どこへ行っても言葉には不自由しない。時折、歌劇団から通訳を頼まれるほどである。
ある海外公演へ出発するとき、テロか何か原因不明で操縦桿が作動しなくなったことがあったのだ。機長も首をひねるばかりで、自動操縦もままならない。
もう、後10分足らずで墜落するという時に、聖女様が呼ばれることになり、何とかしてほしいと言われるものの、いちえも飛行機など操縦した経験がないから、なんともできないでいる。原理がわからないから、直しようがない。
もはや墜落死した人の救護ぐらいしかできない、と思っていると外国人で他の会社のパイロットがたまたま同じ飛行機に乗っていて、
「聖女様の魔法と私のパイロットとしての腕を試してみませんか?」
「え?でも、わたくしは落ちてからの救護はできますが、落ちなければ何もできないと思います。」
「そんなことはないでしょう?浮遊魔法はお出来にはなりませんか?」
そういえば、特殊スキルの中にそんなものがあったような気がする?でも、一度も試したことがない。
「何をすれば、よろしいのですか?」
「とにかく落ちないように高度を保って、それから機体を持ち上げ気味にしてください。」
いちえは、操縦席のバックヤードで、跪き祈りの姿勢を取る。もう、かなり飛行機は揺れていて、立っていられないほどなのだが、己のカラダをシートベルトでつなぎ止め懸命に祈ると、機体は安定を保つようになる。
飛行機は一人のけが人も出さず、無事、着陸したのである。
その外国人のパイロットは、ニッポンでの休暇を終え、母国へ帰るため、乗り合わせていたらしい。
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「え?」
そして、そのパイロットの男性は、他の人に聞こえないようにいちえの耳元まで来て、
「私も異世界からの転生者なのです。あの肉体ブティックの店長から、お聞きしました。」
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「愛しています。ぜひとも、聖女様と婚約したいのですが……?」
「王子様との婚約は、前世で懲りております。」
たった一日デートしたぐらいでは、結婚など決められない。
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その前に、歌劇団を退団しなければならない。ニッポンでの仕事は契約が残っているので、契約をすべてこなしてからでないと結婚できない。
退団公演は、ハマリ役の聖女様になったのは言うまでもないことだが、いちえが退団を発表してから、待ってましたとばかりに、また田中社長が暗躍するが、もう外国へお嫁に行くことが決まっており、これを妨害したり邪魔したりすれば、国際問題になりかねない。
外国の王室の一員になるいちえは、副業でタレント活動など、もってのほかなのである。
退団公演も滞りなく、終わる頃には、すべての契約が終わっている。
晴れて、外国へ渡り(実際は、異空間で行ったのだけど、いちえの両親が飛行機嫌いで、両親にも異空間を通らせて)結婚式が行われる。
ニッポンの人気スターと外国の王族との結婚は、ビッグニュースでニッポンからも大勢のマスコミが来る。
父は、マスコミを前にして、堂々と挨拶をする。あれほど芸能界入りを反対していたというのに、ずいぶん練習したのだろうか?それとも、王族と結婚し、玉の輿に乗ったことが嬉しいのだろうか?
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