王女と男爵令嬢

青の雀

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6.痣

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 リリアーヌは昔の記憶を頼りに、産婆の家を訪ねることにした。

 産婆と言っても、れっきとした元貴族令夫人であり、旦那さんはすでに他界し、今はもう孫の代に家督を譲っていると聞く。

 その名もシャーロット・ホームズ、なんとなく探偵さんに似ているようで?でもシャーロットの名前はおばあさんにはキツイ。

 まあ、生まれた時からお婆さんの顔ではなかったものの、こうしてみると名前って大事よね。

 あまりにも可愛い名前にしておくと、お婆さんになってから見た目とつり合いが取れない。

 ホームズ家の邸宅で事情を話し、隠居されている離れに案内してもらうことに成功した。

 離れと言っても、さすがに王宮で産婆として活躍するだけあって、市井の1軒家よりも広くて立派な建物だった。

 部屋に通されると、調度品が年代物だろうか華奢な猫足の家具で統一されているところが、また上品でいい。

「え……と、15年前の王妃陛下エレノア様の出産のこと?あんた、あの時、一緒に産気づいた側妃のリリアーヌだったか?あんたも知っているだろうよ。エレノア様の時は、大変な難産でな……」
「いや知らないですし、知っていたとしても覚えておりませんわ」
「アハハ。そらそうだわな、なんせ二人とも初産だったものな」

「それで王女様の身体的特徴など、ございますか?」
「う……。覚えとらん。なんせ15年も前のことだからのぉ」
「そんな……、何でもいいのです。どんな些細なことでも、ほくろとか、痣とか?」
「そういえば、右の太もも内側のところにビックリマークのような痣があったような気もする。だけど、一瞬見えただけで、違ったかもしれん」
「ビックリマークの痣ですか!ありがとうございます。これで娘を安心させられます」
「ん?娘とは、あの時の娘御のことかな?息災でいるかのぉ。また、逢いたいものじゃのぉ」
「今度、連れてきます。娘が学園に入ってから急に自分が真の王女様だなんて、ホラを吹き始めるようになっていたもので、ほとほと困り果てていました」
「うんうん。娘御が王女様になれるはずはない。変な夢から覚ましてやりな」

 この時は、何も考えなかったのだが、フローラルに痣がないことを知っているから、それだけで満足していた。

 でも、後になって、シャーロット様の言っていた本当の意味が分かり、リリアーヌの苦悩はますます深まるばかりになるとは、夢にも思っていなかったこと。

 すぐさま、お城に向かいフローラルの牢に向かうも会えない。全然、反省の色がないと面会も否定されている。

 リリアーヌは、せっかく痣のことをフローラルに伝えたかったのに、これでは何のためにお城に来たのかわからない。仕方なく少しでもフローラルの罪が軽くなるように、とユリウスに謁見して、痣のことを伝えようとするも、ユリウスはアクエリアスがまだ見つからない心労で臥せっている。

 それで結局、誰とも会えずじまいで、痣のことはまだ言っていない。

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