王女と男爵令嬢

青の雀

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11.ユリウス視点

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 「アリとハルの魔道具展」の話は、3年前から聞いて知っていた。まさかそれが本当にアクエリアスとハロルドの店だとは気づかなかった。

 奇抜な魔道具を取り扱う店として、早くから注目されていた店。だいたい魔道具などというものは、よほどの魔力量が必要で、王宮魔導師団のメンバーか魔塔の主、もしくは王族でなければなれないレベル。

 まさか、アクエリアスに魔力の才能があるとは夢にも思っていなかった。店の特徴を聞けば、人相風体からして、アクエリアスとハロルドの店だという気もしたが、詳しく聞くと平民夫婦だという。

 まったくの別人と思って、目こぼししていたのだ。

 それが、あの日、ベンジャミン家からアクエリアスを王城に連れ帰った馬車の中で、アクエリアスがハロルドのことをしきりに「ハル」と呼んでいたから、もしや?と思い、ラスベガスの治安部隊に連絡してみた。

 「アリとハルの店」は前日から休業していると聞き、その店が潜伏先だということを突き止めたのだ。

 アクエリアスが留守にしている間、不審人物が近づかないように孫のためにも生活基盤を護ってやりたいという親心。

 それで、盗賊団が御用になったのだから良かったというべきか、そもそも入る前に御用にできなかったものかと課題が残る結果となった。

 しかし被害に遭った商品は、どれも何に使うのか不明なものばかり、底の抜けたバケツやかかとが抜け落ちたブーツ、骨だけになったこうもり傘など……他にも二本足になった座った途端に尻もちをつくスツール。割れた鏡など、とても売り物とは思えない数々。

 しかし、これらのガラクタ同然のものでもアクエリアスの手にかかれば、見事なまでの変身を見せてくれるのだろうか?

 もう8年も前になるが、アクエリアスが考え付いた鉄道や下水道、ダムの整備など、この世界の人間では到底思いつかない者ばかり、それを自ら考案し設計し構築し、性交させたアクエリアスは、天才という名を欲しいままにした。

 聞けば、アリとハルの店の魔道具も突拍子もない発案の魔道具ばかりだという。もっと早くに気づくべきだったと後悔する。

 アクエリアスは、なぜか自分が愛されていないとばかり思っている。確かに、アクエリアスがまだ幼いときは、エレノアの死がショックで、その命を奪う原因となった我が子が憎かった。

 いつの間にかいなくなっていた側室にも捨てられた気がしていたからだ。たった一人残されたアクエリアスには、身内と呼べる人間がいなかったことも原因だったとわかっている。

 だから早くに、同い年の王配候補を選んでやったというのに、俺のことを一度も……いや、幼いときは、パパと呼んでくれたこともあったような気がするが、物心ついた時にはすでに「陛下」呼びが普通になっていた。

 正直、ショックだったし寂しかった。それなのに、あのヘミングウエイだったか?アクエリアスの産んだ息子がベンジャミンのことを「じいじ」呼びしていることにははらわたが煮えくり返る思いがした。

 我が子から「父」と呼ばれないのに、孫からも当然のように「じいじ」呼びされないのは、どうしても我慢ができない。

 ベンジャミンの奴もアクエリアスも、ヘミングウエイに俺を近づけようとしないことも癪に障る。

 我が孫ヘミングウエイよ。せめて儂のことも頼むから「じいじ」と呼んでくれ。

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