王女と男爵令嬢

青の雀

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12.謁見

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 久しぶりに帰ったラスベガスの我が家。でも、店の方がずいぶん荒らされていた。入り口の出窓が破られていて、ディスプレイ用の棚の上にはひとつもない。

 もっとも、大事な魔道具はすべて亜空間の中に入れているので、ディスプレイ用の棚の上にあったはずのものは、この家を買ったときについてきたガラクタの中でも秀逸と言えるべき、手の施しようがないものばかり。

 何も置いておかないのも寂しいと思って、捨てるつもりのゴミをわざわざ亜空間から出して飾っていたものだった。

 持って行ってくれて、ありがとう。と言いたいものばかり、でも一度、眼をつけられたら何度も襲われるという鉄則があるため、この店もそろそろ引き払うときが来たのかと考え込む。

 その時、店の入り口に「コンコン」というノック音がする。こんな夜更けに誰だろう。まさか盗賊が!?でも、盗賊なら、そもそもノックすること自体おかしい。

 サイドの出窓のところから外の様子を伺うと、治安部隊の制服が垣間見える。

 念のため、ハロルドに応対してもらうことにして、何かあればすぐに魔法で撃退できるように身構える。

 ハロルドも、家出してきたときの剣を携え、恐る恐る扉に近づく。

「どなたですか?」
「治安部隊第3個師団のバーナードと申します。夜分、恐れ入りますが、この家に盗賊団が侵入し、現場検証と被害状況を確認したいのですが、お時間よろしいでしょうか?」

 緊張したような物言いに、ハロルドはアクエリアスとうなずき合い、扉を開ける。

「王女殿下にあらせられましては、ご機嫌麗しゅう。また当ラスベガスに逗留いただきまして、誠にありがとうございます」

 バーナードは騎士の礼を取り、深々と跪く。

「ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じ上げ奉ります」

 身バレしていたことへのショックより、これはユリウスの仕業だと思った。と同時に、感謝の気持ちも持ち合わせている。

 やっぱり孫を見せに帰ったことはマズかったかな?でも、もし帰らなければ、この家は盗賊に押し込まれ子供たちを人質に取られ、身ぐるみはがされていたのかもしれない。そう思うと、グッドタイミングで里帰りしたのかもしれない。

「大儀である。して、ご用向きは?」

「ははっ。数日前にこの店に盗賊団と思しき一行が押し入り、捕らえたところ。魔道具を根こそぎ持ってきたと申しております。ご確認いただいても構いませんでしょうか」
「盗まれたものは、当店のゴミで廃棄処分にするものばかりである」
「それは重畳でございました。王女様がお創りになられた防犯ライトと撮影機能のお陰で、盗賊団のアジトがわかり一網打尽できました」

 そう言えば3年ほど前に治安部隊から注文を受けて、センサーライトに防犯カメラ機能をサービスでつけたような気がする。

 今回の逮捕劇の裏に、あの時のサービス品が役に立とうとは……。情けは人の為ならず。前世の知識も捨てたものではないと実感する。

「して盗賊団は今、どこに?」
「はっ。我が治安部隊の地下牢に入れております。ご覧になられますか?」

 アクエリアスは、遠慮したいが、ハロルドは騎士の血が騒ぐのか治安部隊に同行することになり、公爵令息?王配?らしいいでたちに着替える。

 里帰りの最中、さんざん見慣れてきたはずの久しぶりのハロルドの雄姿にドキドキする。なんて、かっこいいのかしら。あれがわたくしの旦那様だなんて、超嬉しい。今夜も、たっぷり可愛がってもらおう。どうせなら、あの姿で抱いてほしい。

 ……なんて、治安部隊の人がいる前で、何という破廉恥なことを想像して身もだえしているのだろうか?

「「「「「???」」」」」

「行ってくる。子供たちと先に休んでいてくれ」
「はい」

 ちょっとガッカリしてしまったアクエリアスは、先に寝てろって?ガッカリが怒りに代わっていく瞬間だった。

 

-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 ハロルドは、盗賊に遭うだけではなく、今夜中に盗賊どもを一人残らず始末するつもりでいる。

 いくら損害がなかったとはいえ、出窓のガラスが破られたのだ。それに愛する妻と子供が危険な目に遭うかもしれなかったというのに、黙って見過ごせるわけにはいかない。

 貴族の家に嫡男として生まれたからには、常に非情な選択を強いられる。そのあたりはアクエリアスとは違う。

 おそらく、この場にユリウス陛下がいたら同じ判断をされるだろう。

「全員、今日が命日となったな。処分しろ」

「はっ」

 治安部隊のバーナードもその辺のことは重々承知している。

 盗賊団全員は、縄を打たれた姿のまま中庭に引きずり出され、その場で治安部隊からなぶり殺しにされた。

 ハロルドは、革袋を取り出し、バーナードに渡す。

「ご苦労だった。これで一杯飲みなおしてくれ」
「恐れ入ります。ベンジャミン小公爵様」

「さて、奥様のご機嫌取りに帰るとするか……」



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 翌朝、「アリとハルの店」は再び休業の看板を出し、王城へ戻った。

 アクエリアスは、豪華な衣装を着て、ハロルドも昨夜と同じようなスタイルをして、そして子供たちにも目いっぱいおしゃれをさせて、転移魔法でテレポートするのだったが、その前に正装したハロルドの姿にまたアクエリアスが欲情してしまい、コスプレのような形で愛し合うことになった。

 リブラを授乳中だから、大丈夫だとは思うけど……。

 社交界や学園で令嬢がハロルドにハートマークの眼をしていることをよく見かけたけど、今なら気持ちもわからないではない。

 だって、本当にかっこいいのですもの。単なる幼馴染が、一時期疎遠になり下僕のような存在になって、それから頼れる人になり、やがて愛する人になっていったというのに、これ以上ハロルドに何を求めるつもりなのか?

 ハロルドはアクエリアスのことも子供たちのことも何より大切にしてくれる存在、それだけでいいはずなのに、ハロルドを誰にも奪われたくはない。特にヒロインだけには奪われたくない。





 お城に着くと、ユリウスが待ち構えていた。昨日の昼ぶりだということがウソのように感じられる。

 もうなんでも、お見通しなところが余計腹が立つというものだけど、今回ばかりは助かったことも事実なので、仕方がないから1度だけ孫を抱かせてあげる。

 謁見の間ではなく、ユリウスの私室に通された。そう言えば、この部屋に入るのも、ずいぶん久しい。もしかしたら、10年以上入っていないかも?いや、そもそも入ったことがなかったようにも思える。

 この日が来ることをユリウスは、よほど楽しみにしていたということは察しが付く。

 アクエリアスが生まれた時には、会いにも来なかったくせに。孫というものは、それほど特別な存在なのか?

 ヘミングウエイを前面に出すと、陛下は喜んで抱こうとしてきた。すると、突然、大泣きしてしまって。

「陛下!そんなコワイ顔をしているから、ヘミンが泣き出すのです!」
「え……!ほら、怖くないよぉ。べろべろばぁ~」

 仕方なくユリウスの御前までハロルドが抱きかかえ、
「ママのパパだから、怖くないよ」
「パァパ?」
「ヘミンから見たら、じいじだよ」
「じいじ!きゃは」

 ベンジャミン公爵が、よほどヘミングウエイを可愛がってくれていたことがよくわかるほど、ヘミングウエイが顔を輝かせベンジャミン公爵を探そうとしている。

 でも公爵はいない。

 ショボくれるヘミングウエイを抱きかかえたまま、ユリウス陛下に渡すハロルドは渡す際にもう一度、言って聞かせる。

「ママのパパだから、もう一人のじいじだよ」

「じいじ?」

 ユリウスは、待ち焦がれていた一言が聞けて、涙を流して喜んでいる。ただ、まだ疑問符がとれていないことは黙っておくことにする。

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