夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀

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「あん。殿下そこ舐めないでくださいませ。いやん……あはん、いくぅ」



 わたくしティアラベルローゼ・アプリコットは、夫アンドリュー・アプリコット王太子殿下が近頃、夢中になっている聖なる乙女リリアーヌのせいで、このところ二人の間で喧嘩が絶えない。

 リリアーヌとアンドリューが情事に耽っている最中、わたくしは殺されてしまった。
 しかし、黄泉の国で神様から憐みを受けられ、10日間の期限付きで、この世に舞い戻ることを赦されたのだ。

 事の発端は、王都にある孤児院の慰問をアンドリューと二人で行ったときまでさかのぼる。

 孤児院の慰問は、王太子妃の専任事項のお仕事なのだが、アンドリューはリリアーヌに会いたい一心で付いてきた。

 その道中で、ティアラベルローゼとアンドリューはまたしても言い争いを起こしてしまい、怒ったアンドリューにより、馬車から強引に下ろされ道端に放置されてしまって、事件に遭ったということ。

 ティアラベルローゼとアンドリューは政略結婚だったが、夫婦仲はよく、5歳になる王子ユリウスと3歳になる王女ティファニーがいる。
 リリアーヌが現れるまでは、平穏な幸せが続いていたのだが、最近は、息子のユリウスまでもがリリアーヌに懐いている始末に、心底ミルフィーユは眉を顰める。

「ティアラベルローゼ、リリアーヌをこれ以上苛めないでくれ」
「いつわたくしが苛めたというの?」
「この前、母上のお茶会の時に、リリアーヌのことをマナー知らずだと批難しただろうがっ!」
「ああ、それは事実ですわ。でもマナーがないと批難されたのは王妃陛下ですわよ」

 アンドリューは顔を真っ赤にして、さらに言い募る。

「ティアラベルローゼ、それを見て見ぬフリをしていただろう。なぜリリアーヌの面倒を見てくれなかったのだ?」

 息子のユリウスまでもが夫婦げんかに参戦してきて、
「意地悪ママなんて大嫌いだ。リリアーヌさんがママになってほしい」

 それをアンドリューが怒るわけでもなく、嬉しそうに目を細めているのを見るとどうにもならないぐらい腹立たしい気分になる。

 アンドリューは、リリアーヌから確かにマナーを知らないことを非難されたのは、王妃陛下ではなくティアラベルローゼ妃殿下からだと言われていた。だが、その時は矛盾があることに気づかず、さらにティアラベルローゼを咎めた。

 その挙句が、貧民街での放置となったわけで、アンドリューは、ミルフィーユを伴って、情事に夢中に溺れていた。

 ティアラベルローゼの実家マルーシャ国で、嫁入りの時に共に来たのが女性騎士のエレモア。
 そのエレモアとともに、今世に再び戻る許しを得たが、期限は10日間。

 エレモアには、アプリコット国で恋人がいた。その恋人というのは、アンドリュー付きの騎士団長のロバート。
 ロバートは、ティアラベルローゼとエレモアが置き去りにされたとき、唖然としてアンドリューを見たが、主君に逆らうことができず、二人を見捨てた格好になったことを後悔していた。

 ティアラベルローゼの心残りがあるとすれば、王女のティファニーのことだけ。

 ティファニーを自分の実家の国に連れ帰るつもりでいる。

 なぜなら聖なる乙女と呼ばれているリリアーヌは、決して聖女様ではないことがわかる。

 聖女様なら、男と交わることで聖なる神力が失われてしまうはず。それなのに、公然と自分の夫の浮気相手として、側妃にもならない。
 何がしたいのか、よくわからないところも頭痛のタネのひとつ。結局のところ、宰相にうまく丸め込まれているのだろうと思っている。宰相は権力を笠に着て、アプリコット国を牛耳ろうとしているように見える。

 もっともアンドリューは、浮氣だと思っていないところがまた難なのだが。アンドリューは、アプリコット国のため、仕方なくリリアーヌと付き合っているという言い訳を準備していた。

 聖なる乙女を他の大国に奪われたら、アプリコットのような小国では太刀打ちできないと言い張っている。

 リリアーヌは、宰相バーモンドの縁戚に当たる娘という触れ込みで、王家に近づいてきたが、リリアーヌが聖なる力を持っているというのは、今のところガセネタだと公然の秘密としてある。

 聞くところによると、リリアーヌは平民出身で宰相の領地の孤児という噂がある。

 だがそれを認めない者は、夫と息子だけということを当人たちは気づかないでいる。


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