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 セレナーデ王女殿下には、前向きに検討していますとの旨だけを伝え、ひとまずはジークフリートの死を待つことで、一致する。

 解散して、それぞれ帰ろうとしているときに、お婆様から

 「ねぇ、わたくしの今の居室からルクセンブルク家まで、アリエールちゃんのアレですぐ来られるようにしてほしいのだけど。いい?」

 やっぱり!この前の婚約式の時から、なんとなく言い出したそうにしておられたのは、このことだったのか!

 「ほら、年を取るといろいろと面倒なのよ。馬車を仕立てるにしてもね。お天気の日ばかりだとは、限らないでしょ⁉」

 言い訳がましく、お婆様は言い募る。

 ああ、今日という日アリエールまで、呼ばれた理由がようやくわかったような気がした。ジークフリートとの秘密の関係をバラされるためではなかったことをホッとするも、すべてお見通しだったとわかり恥ずかしいような、誰にも相談できないと思っていたことがもっと早くにお婆様に言っておけばよかったと後悔の念が残る。

 「もちろん、かまいませんわ。で、どこへいけばいいでしょうか?あ、その前にこの家での出入り口を決めておかないと……。」

 「この家は、アリエールちゃんのお部屋のクローゼットでいいわよ?何か不都合でもある?」

 「そういうわけでもないけど、アムステルダム家のクローゼットと通じているから、行先間違ったら、とんでもない所へ出てしまう危険性があるけど、いい?」

 「ああ、それも困ったものね。だったら出口に大きく書いてくれないかしら?老眼鏡がなくても読めるぐらいの大きな字で、それなら迷うことなく行けるでしょ?」

 お婆様はウインクしながら、茶目っ気たっぷりで、そうおっしゃる。

 めんどくさいと思ったけど、仕方ないわね。だって、元王女様なのですもの。

 「じゃあ、お婆様の居室までひとっ跳びで、よろしいかしら?」

 小さい時から、何度も行っているお婆様の居室のクローゼットを思い浮かべながら、クローゼットの中で転移魔法を使う。

 「ぅわぁっー!もう着いたの?助かるわ。」

 お婆様は、部屋に入るなり、女官を呼ぶベルを鳴らす。急いできた女官に対し、

 「わたくしの母と孫は、聖女様なのよ。」

 ご機嫌で、お茶をもってくるように言いつける。

 そして、着替えもせずに、ソファに腰掛け、何か思いついたように。

 「そうだわ!わたくしが可愛がっている庭園の温室のところにも雨の日にでも、すぐ行けるように道穴を作ってほしいわ。」

 「はぁ?道穴でございますか?」

 「そうよ、これは道穴よ。まさしく道穴。我ながら良いネーミングですわ。」

 「ちょっと待ってよ。温室なんて、昔からあった?」

 幼いころ、よくお兄様と庭でかくれんぼしたことがあったけど、その時に温室があったという記憶はない。

 「ああ10年ほど前に作ったのよ。母が亡くなる前に、故郷の花を植えたいと言い出して……、それで作ったのが温室なのよ。いったところでないと、転移魔法は使えないのよね?わかったわ。案内するわ。」

 アリエールは気が気でない。王宮の中や庭園内をうろついて、ジークフリートに会いはしないかとヒヤヒヤしながら歩く。何なら、自分にだけ隠ぺい魔法をかけようかとも思ったぐらい。でもそれでは、お婆様が誰もいないのに一人でしゃべっている様子を誰かが見たら、「ついに、ボケたか?」と思われるのではないかと思い、なるべく目立たないようにお婆様の陰に隠れて歩く。

 幸いにも、誰にも会わずに済んだ。どこかで誰かに見られていたら、という気があったので、念のためアリエールは自身にこっそり、変装魔法をかけ、髪の色を茶色にしてみた。

 お婆様はおしゃべりに夢中で気づいていらっしゃらないみたい。

 温室に着き、変装魔法を解いて中へ入ると、見たこともないような色鮮やかな花々やイチゴやベリーといった果物まであった。

 「美味しそう。」

 「そういえば、母もイチゴが大好きだったわ。聖女様というのは、共通点があるのかもしれないわね。」
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