結婚式前日に婚約破棄された公爵令嬢は、聖女であることを隠し幸せ探しの旅に出る

青の雀

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 スカーレットたち一行は、マンターチェスを抜け、さらにまっすぐ進むことにしたのである。

 いったん撒いた追っ手とはいえ、いつまた現れるか知れたものではない。

 できるだけ、遠くに行きたいものである。ダイヤモンドスクリーンの中なら、安全なのだが、魔物や獣も近寄ってこなく、万全である。

 次の国に入れば、宝石やドレスを売ることにして、食料を買いこもう。なんせ、大所帯なので、持ってきた食糧庫が尽きれば、心配の種が増える。

 ウィリス国王が、聖女様以外は、皆殺しにせよとの仰せなら、もう金輪際歳費が入ってこないだろう。

 自分たちで稼ぐ手立てを考えなければならない。お母様なんて、ただ物見遊山で付いてこられただけなのに、お気の毒だわ。

 他の使用人たちも、ほとんどがそうであろう。生活の基盤がしっかりあればこそのレジャーなのだから。

 それが今やウィリスからの逃避行になるとは、思いもしなかったことである。いくら、聖女をよその国に取られたくはないと言っても、同行者を皆殺しにせよ、とはあんまりな言い分である。為政者が少なくとも、口にすべきことではない。

 野を超え山を越え、ようやく最初の集落に到着するも、なぜか、もぬけの殻で?いったい何が起こってるの?

 スカーレットたちは、まだダイヤモンドスクリーンの中に入ったままで異変に気付かずにいる。

 その集落には、ドラゴンが住みついていたのである。ドラゴンは、別に暴れる風でもなく、おとなしく産卵の日を待っていただけなのだが、なぜ?こんな人里で産卵する気になったというのか?

 その集落は、風光明媚で、山があり清き川が流れ、空気が澄んでいる。ああ、誰だって、 こういう場所で出産したいよね?それで集落に住む人たちは、ドラゴンに何かされると勘違いして、恐れおののき、集落を捨て、どこかに逃げて行った模様。

 ドラゴンは、巣作りのため、薪、木の葉を拾い集めていた。
 そこへ、何も知らないスカーレットたちが来てしまったということだった。

 スカーレット一行は、ドラゴンの巣作りに協力してやったのだ。こちらは、単独行動をしてもそれぞれにダイヤモンドスクリーンをかぶっている状態なので、何があろうとも、安全圏の中にいる。

 その余裕が、ドラゴンの巣作りである。

 集落から、廃材を拾ってきて、簡易な小屋というべきか?大きな倉庫のようなものを作ってやった。ドラゴンの身体がおさまり、巣として雨風がしのげるものを、最初、ドラゴンも警戒していたのだが、スカーレットたちが善意で自分のためにやってくれていることがわかり、おとなしく巣ができるのを見守っている。

 ドラゴンの名前は、ヴィーヴルという雌だった。上半身が女性、下半身はドラゴン?エロイ容姿である。ドラゴンオンリーにもなれ、人間の女性そのものにもなれるらしいが、今は、出産なので半身半龍なのだそうです。 

 やがて、巣が完成すると、その中にヴィーヴルは、するすると入っていく。時折苦しそうな表情を浮かべながらいきんでいる。

 わたくしたちは、いつものように公爵邸を二軒出して、その中で生活する。食事の支度にお風呂、掃除と用意をしていくと、突然ドラゴンの咆哮が聞こえてきたので、慌てて外へ出て、巣へ近づくと、
 
 卵が!!!

 「「「「「出産、おめでとうございます!」」」」」

 声をあわせて、お祝いを言うと、ヴィーヴルが

 「ありがとうございます。聖女様のおかげで、無事出産できました。」

 え?喋れるの?
 上半身は、人の姿だもんね。

 「後は、この子がふ化するまで、ここでじっとしなければなりません。」

 とりあえず、料理長がヴィーヴルに暖かいミルクを持ってきてくれ、ヴィーヴルは、それを一気に飲み干すと、お代わりを欲しそうにしたため、さらに、追加でスープやら、パンやらを渡していく。

 あの咆哮は、食べ物持ってこいの合図?まぁ、いいけど。

 袖すり合うも、他生の縁 というからね。

 これから1か月間の間、ヴィーヴルは卵を抱き続けなければならない。ということは、スカーレットたちも必然的に、1か月間ここにいなければならない?ってこと?

 1か月間、この集落で足止めされたら、追っ手に追いつかれるかもしれない。

 スカーレットは、集落全体を覆いつくすような隠蔽魔法をかけることにしたのである。こうしていたら、ここは単なる平原でしか見えないし、もし入ってこようとする者があれば、ダイヤモンドスクリーンで弾き返せるからだ。
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