結婚式前日に婚約破棄された公爵令嬢は、聖女であることを隠し幸せ探しの旅に出る

青の雀

文字の大きさ
5 / 8

しおりを挟む
 ヴィーヴルの卵のふ化のため1か月近く足止めをされたスカーレットたち

 無事、ふ化した子供は男の子で、名前をリヴァイアサンと名付けられることになったのである。

 それでは、とヴィーヴルに暇乞いをして、さっさと次の集落を目指すことにしたのだが、どうして、そんなに急ぐのかと聞かれ、ウィリス国であったこと、ストラック国での聖女認定の話、ウィリスの追っ手のことなどをかいつまんで話したところ、ヴイーヴルは、我々と行動を共にしてくれると申し出てきたのである。

 いくらなんでも、ドラゴンとともに行動していたら、追っ手も尻尾を巻いて逃げ出すだろう。とは、思ったけれど、まだ幼い子(リヴァイアサン)がいるのに、いいのだろうか?

 行き先はあるのか?と聞かれるも、実際のところは、宛てのない旅である。どこでもいいのよ。聖女であると言うだけで、いろいろ巻き込まれてしまうから、平安に暮らせるところであれば、どこでもいい。と言えば、ヴィーヴルおすすめの国があるから、そこへ行こうと言われたの。ここからこの星の反対側、180度行ったところなら、スカーレットが聖女だということは、誰も知らない。それに、そこまでの遠方なら追っ手もかからないはず。

 でもそこまで、どうやって行くの?という疑問がある。

 なんと!ヴィーヴルが背中に乗せて運んでくれるらしい。スカーレットは一度でも行ったことがあるところは、イメージができるので、転移魔法が使えるが、行ったことがないところには使えない。イメージできないからである。

 最初に、スカーレットだけを乗せて、この惑星の反対側まで、行き、転移魔法を使って戻ってきた後、全員に転移魔法をかけて、再び反対側に飛ぶことになったのだ。

 スカーレットがヴィーヴルの背中に乗ろうとすると、両親と執事のセバスチャンと護衛の騎士何名かが一緒に行くと言ってきかない。

 「大丈夫よ。わたくしは、ヴィーヴルちゃんを信じていますから、女同士なんだもんね。」

 こんなにたくさん乗れるのだろうか?ヴィーヴルちゃんは、

「そうね30名ぐらいなら、乗れるけど、落ちても知らないわよ。」

 落ちる、と聞いて、お母様は転移魔法で行くと言い出す始末。やっぱり落ちるのはイヤか?

 それでもお父様と騎士、執事は付いていくと言っている。お父様は、お母様の側に一緒にいれば?

 だいたいお父様なんて、何の役にも立たない。司祭様と変わらないぐらいだ。

 でも公爵だと言うだけで、付いてきたがる?司祭様なんて、震えて乗ろうともなさらない。

 結局、執事と騎士とイヤだけどお父様も乗ることになり、いざ、出発であるが、ドラゴンでも1日ぐらいたっぷりかかる距離?半日ぐらい?暗くなってから、飛ぶのは危険だから、明日、日の出とともに飛ぶことにしたのである。スカーレットがヴィーヴルに乗って飛んでいる間は、おチビちゃんは、他の公爵家の人、使用人などが、面倒見てくれるみたい。だから、ヴィーヴルも安心して出かけられる。

 翌朝、日の出とともに、いざ出発!

 空の上は、風が強くてしっかり掴まっていないと飛ばされそうになる。スカーレットは風魔法を使って、うまく風の抵抗がなくなるようにする。それでも少しは風が吹いているので、せっかくセットしてもらった髪の毛はぐちゃぐちゃになる。

 6時間ほど、飛んだら、急にお腹がすいてきた。適当な小高い山の上に着陸して、お昼休憩をとる。お弁当は、料理長が腕によりをかけて作ってくれたBLTサンド。

 「これこれ待ってました。」

 ヴィーヴルは、すっかり料理長の料理の虜になっている。だから、同行したいと言った?まさかね。

 昼食後、また飛んでおやつタイムの頃には、反対側の国に着いた。父と執事が率先して、この国の陛下に会いにいき、居住許可を取っている間に、転移魔法でヴィーヴルとともに、いったん転移魔法で、マンターチェスの隣国の集落まで飛び、みんなを連れて、再び反対側の国へ戻ったのである。

 反対側の国は、リオジルブラという国であった。反対側でも気候風土はウィリスとよく似ている。

 父が国王陛下の許可を取ってくれて、今日はリオジルブラの王都で公爵邸を出すことにしたのである。

 そうだ。そろそろ何か稼がないと、公爵家の貯えには、まだまだ余裕はあるが、明日はドレスや宝石類を売って、少しはお金に替えよう。それから、これから何をすべきかみんなで話し合いをしなければ。

 今までは、ウィリスから逃げることばかりを考えていて、ロクすっぽ今後のことを考えていなかった。成り行き任せにしていたのである。

 話し合いの結果、司祭様は、スカーレットが聖女なのだから、聖女の仕事を進めるべきだと言われ、少々むかつく。聖女の仕事をして、これだから。聖女の素性を隠す意味がない。

 司祭様にうまいこと言って、この人だけ、どこかへ追放してやろうか?聖女らしからぬことを思う。

 だいたい、ウチの父以上に役立たずが司祭様である。いったい、この人何のためについて来ているのよ?

 聖女だから、玉の輿に乗りたいとか、考えてないっちゅうの!

 最初は生きる道しるべとなっていたのだが、もう今や司祭様は居候として、邪魔な存在だけになってしまったのである。

 「ところで、どうしていつまでも司祭様はわたくし達と行動を共にされているんですか?」

 単刀直入にイヤミを言ってやった。

 「ええ?聖女様が聖女の身分を隠して、旅に出たいとおっしゃったからではありませんか?」

 「ええ、ですが。そのわたくしに聖女としての役割をせよとは?何事でございましょうか?聖女として、わからないようにひっそりとした幸せを掴むために旅に出たのでございますれば、そのわたくしに聖女を名乗れとおっしゃっているのと同じことを強要されているのは、いったいどこのどなた様のことでしょうか?」

 「いやはや、どう説明したらよいものか、困ってしまいましたね。聖女と名乗らなくても、聖女様が作られるレース編みは、聖なる力を持ちます。刺繍もそうです。聖女様が刺繍されたハンカチは、それだけで聖なる護符となるでしょう。聖女様がもしもスープを作られ、それを路上で売っても同じ効果が期待できます。聖女としてのお仕事は、まだまだたくさんあります。何も教会へ行き、そこで治癒魔法をかけるだけが聖女様のお仕事ではございません。」

 「なるほど。そういうことでしたら、わたくしにもできるかもしれませんわね。」

 そうして、ブラームス公爵家の女たちとともに、スカーレットは、刺繍にレース編み、お料理と精を出すのである。スカーレットは、ただ一針、刺しただけで効果が得られるのなら、最後に一針、一目、一味加えるだけでいいのだ。

 大量生産を実現していくことになったのである。

 リオジルブラでの生活基盤が安定してきたころ、若き国王陛下から、魔法鳥が飛んできて、結婚の申し込みをされたのである。ただ、居場所がわからないらしく、魔法鳥に返信してしまうと居場所を知られてしまうから、無視することにしたのである。

 災難は忘れたころにやってくる。
 ちょっと違うか?

 まだ、ウィリス周辺国は、スカーレットのことを諦めないでいるのかと思うと、げんなりするわ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

聖女じゃない私の奇跡

あんど もあ
ファンタジー
田舎の農家に生まれた平民のクレアは、少しだけ聖魔法が使える。あくまでもほんの少し。 だが、その魔法で蝗害を防いだ事から「聖女ではないか」と王都から調査が来ることに。 「私は聖女じゃありません!」と言っても聞いてもらえず…。

「神に見捨てられた無能の職業は追放!」隣国で“優秀な女性”だと溺愛される

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アンナ・ローレンスはグランベル王国第一王子ダニエル・クロムハートに突然の婚約破棄を言い渡された。 その理由はアンナの職業にあった。職業至上主義の世界でアンナは無能と言われる職業を成人の儀で神に与えられた。その日からアンナは転落人生を歩むことになった。公爵家の家族に使用人はアンナに冷たい態度を取り始める。 アンナにはレイチェルという妹がいた。そのレイチェルの職業は神に選ばれた人しかなれない特別な職業と言われる聖女。アンナとレイチェルは才能を比較された。姉のアンナは能力が劣っていると言われて苦しい日常を送る。 そして幼馴染でもある婚約者のダニエルをレイチェルに取られて最終的には公爵家当主の父ジョセフによって公爵家を追放されてしまった。 貴族から平民に落とされたアンナは旅に出て違う国で新しい生活をスタートする。一方アンナが出て行った公爵家では様々な問題が発生する。実はアンナは一人で公爵家のあらゆる仕事をこなしていた。使用人たちはアンナに無能だからとぞんざいに扱って仕事を押し付けていた。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」 婚約者として五年間尽くしたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。 他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました

瀬崎由美
恋愛
「アイラ・ロックウェル、君との婚約は無かったことにしよう」そう婚約者のセドリックから言い放たれたのは、通っていた学園の卒業パーティー。婚約破棄の理由には身に覚えはなかったけれど、世間体を気にした両親からはほとぼりが冷めるまでの聖地巡礼——世界樹の参拝を言い渡され……。仕方なく朝夕の参拝を真面目に行っていたら、落ちてきた世界樹の実に頭を直撃。気を失って目が覚めた時、私は神官達に囲まれ、横たえていた胸の上には実から生まれたという聖獣が乗っかっていた。どうやら私は聖獣に見初められた聖女らしい。 そして、その場に偶然居合わせていた第三王子から求婚される。問題児だという噂の第三王子、パトリック。聖女と婚約すれば神殿からの後ろ盾が得られると明け透けに語る王子に、私は逆に清々しさを覚えた。

処理中です...