結婚式前日に婚約破棄された公爵令嬢は、聖女であることを隠し幸せ探しの旅に出る

青の雀

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 リオジルブラでは、密かに聖女様が上陸したのではないか?との噂でもちきりだったのである。道端で売られているスープを一口飲んだだけで、水虫がおさまった、歯痛が治ったなど症例が数多に報告されてきたのである。

 そのスープは、どこにでもあるありきたりのスープであったから、どこの店が売っているのかわからない。

 だけど、たまたまそのスープに行きあたれば、たちまち体の悪いところがなくなってしまう。また、同時に売られている刺繍を施したハンカチやレース編みにも同様の効果が見られる。

 どこがこれを言っている?売主は必ず聖女様に繋がっているはずだと、探すも、なかなか見つからない。

 公爵家の使用人もその噂を聞きつけて、屋敷で喋っている。一つ所で売るのは、止そうか?

 売り子を日替わりにしたら、問題ないのでは?という結論になったのである。同じ人間が売っていたら、顔を覚えられて目立つけど、日替わりで売りまくっていたら、問題ないはず。

 似たような屋台はいっぱいある。他の屋台と同じ値段、同じ味、でもどこか違うとなれば、見分けがつかないはずである。公爵家の使用人ならば、誰が売っても同じ。聞かれても絶対、聖女様のことは口を割らない。

 やがて、噂だけが独り歩きしていく。聖女様は冒険者であり、もうご結婚されていて、旦那さんも冒険者で、旦那さんが留守の間に時たまスープを売られる。など、勝手に言いたい放題されている。だからたまたま、そのスープを買う、もしくは飲めた人は運がいい。まさしく奇跡のスープだと噂に尾ひれがつく。

 リオジルブラ王家は、聖女様に名乗りを上げてもらいたいらしく、王都のいたるところに表札(?)立て札を掲げ、募集しているが、スカーレットは知らない顔をしている。

 誰も名乗りをあげないので、王家はついに賞金を出すことにしたのである。ついで、もしも聖女様が若い娘ならば、王太子との結婚させるとまで。ほらきた、それがイヤなのよ。政略での婚約などコリゴリですわ。

 王太子殿下との婚約に若い女性が飛びついたのである。王宮に、聖女の申し出が殺到したのである。誰も自分が聖女かどうかわからない。スープは作っていないけど、ひょっとしたら聖女素質があるかもしれない、という理由で。

 うまくいけば、大金と王太子妃になれるのなら、こんなうまい話はない。

 聖女の申し出をした女性は一列に並べられ、順番に水晶玉判定を受けることになったのである。

 でも誰一人として、水晶玉は反応しない。

 かわいそうに、自分が聖女かもしれないと名乗りを上げた女性は、全員生きて戻れなかったのである。偽聖女の汚名を着せられ、その場で切り殺されるという無残な罰、末路。

 後ろに並んでいた女性たちは、青ざめ震える。0.000001%の確率で並んでいるものがほとんどだから。

 「すみません。私は聖女でないかもしれないので、これで帰らせていただきたいのですが。」

 1人が言い出すと、我も我もと、全員が帰りたがったが、国家の機密事項に触れたからと言って、誰も帰してもらえない。

 聖女探しに必死なのは、わかるけど、何もそこまでしなくてもいいと思うのだが。

 お城でそんな話になっているとは、つゆ知らず今日も元気にスカーレットたちは、スープ
づくりに精を出す。

 料理長がスープ以外にも何か別なものはどうだろうか?と言い出し、周辺屋台のリサーチを始めることにする。

 この世界では、焼くか煮るしか調理法はないのである。聖女色を出さないのなら、なんでもできるけど?

 変わった料理を出して、聖女のアシがついても困る。周辺屋台となるべく同じようなものを出さないと、厄介ごとに巻き込まれるのはイヤだから。

 今日の売り子の当番は、ヴィーヴル、龍人だから、やけに色っぽい。大丈夫かなぁ?多少心配ではあるが、おチビちゃんと一緒だから、無茶はしないだろう。

 誰かもう一人、一緒に行ってあげてよ。と言ってみたところ、皆忙しいらしく仕方ないから、スカーレットがオブザーバーについていくことにした。龍人と聖女、余計心配?

 やはり聖女と龍人は、雰囲気が違うらしく、スカーレットたちの屋台は、ものの30分で売り切れとなったので、店じまいをしているところ、王家の騎士に見とがめられ、王城へ連行されそうになったので、ヴィーヴルちゃんがスカーレットとリヴァイアサンを守るように前面に出てくれる。

 近衛騎士とヴィーヴルちゃんの睨み合いが続く。ここで転移魔法なんぞ使ったら、すぐ聖女ってバレる?

 ダイヤモンドスクリーンでも発動しようか?
 それとも隠蔽?今さら隠蔽かけても仕方ないだろうけど?

 まぁ、とにかく逃げるが勝ちだ。とりあえず、ダイヤモンドスクリーンを発動させ、隠蔽をかけてから、屋台を異空間に放り込んで、転移魔法で急ぎ公爵邸に戻ったのである。

 とにかく王都から離れよう。顔を見られたから、指名手配されるかもしれない。
 次の行き先を探すため、ヴィーヴルちゃんにまた、飛んでもらうことにしたのだ。

 
 その頃、リオジルブラの王家では、近衛騎士から聖女と思しき2人組の女性を見つけたが、連行しようとしたら、逃げられてしまったとの報告が上がる。

 「バカ者!聖女様を怖がらせてどうする?なぜ、連行しようとした?どこへ帰られるか後をつけたほうが賢明だったのだ。ああ、これで聖女様は、我が国から出て行かれる。もう二度と我が国へは来てくださらないだろう。」
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