婚約破棄なら金返せ!聖女に家を取られた王族は滅びの道まっしぐらでも誰も助けません

青の雀

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 ドイル男爵は、急いで国境付近までくると、一度だけ行ったことがある王城がそびえ建っていたので、驚く。

 王城へは、爵位を授与されるときに行ったものだった。なぜ、ここに?不思議に思って、中に入ろうとしたら、そこはエヴァンス公爵家の持ち物となっている王城であったのだ。

 ドイルは、借金の形で王城がエヴァンス公爵家のものになったことに合点がいく。それで我が家に王家の人々が転がり込んできたのか?

 エヴァンス公爵に、家の中へ入れてもらい話を聞くことができた。驚いたことに今日、本来ならダニエル王太子殿下と結婚式だったそうで、昨日の卒業パーティで、我が娘のリリアーヌが王太子殿下の浮気相手で、リリアーヌが虐められたと事実無根の訴えを起こしたことが原因で婚約破棄になったらしい。

 「それは、まったく存じ上げぬことで失礼いたしました。我が家は、常日頃から爵位を継承できないから、早くイイ男を見つけろ、とは申しておりましたが、そのお相手がダニエル殿下だとはつゆ知らず、誠に申し訳ございません。」

 「昨日から、王家の方々が男爵家に逗留されていると伺いましたが?それをご存じなかったとは、思いませんでした。」

 「いやはや、まったくもって迷惑をしていたのでございますれば、王家の方々を外へ出したすきに、男爵邸を持って、国外に出るところ、王城を発見しましたので、寄らせていただいた次第でございます。」

 ドイル男爵は、エヴァンス公爵とともに、外に出て、アイテムボックスから男爵邸を取り出して見せた。

 「ほぅ。これは見事な。して、これからいかがなさるおつもりですか?」

 「元冒険者でございますれば、また昔の稼業に戻るつもりでございます。それにしても国王陛下をはじめとする王家の方々が、あそこまで仕事もせずに、ぐうたらだとは思っていませんでしたよ。」

 「そのくせ、文句だけは一人前以上。」

 公爵と男爵は、笑い合う。

 「よければ、我が娘のシルヴィアの護衛として、隣国まで付き合ってもらえないだろうか?リリアーヌ嬢の父君だと聞けば、嫌がるかもしれないけれど、お互い王家にさんざんな目に遭わされた者同士だから、昨日の敵は今日の友だ。」

 「いいのでしょうか?」

 「いいとも!それに隣国でこの王城を出現させたら、戦争になるかもしれない。」

 「ああ、なるほど。我が家なら問題なく出せる。どうぞ、使ってやってくださいませ。王族に使われるぐらいなら、余程いい。」

 シルヴィアは、索敵魔法を使って、次の行き先を決める。

 「はじめまして。シルヴィア嬢、リリアーヌの父でございますが、ご同行のほう、よろしくお願いします。」

 「護衛してくださるのですね。よろしくお願いします。」

 「それにしてもシルヴィア様は、聖女様なのですか?アイテムボックスに索敵魔法まで使えるとは?」

 「いえいえ、ただ昔から魔力が多かったように思いますわ。」

 喋りながら、ドイル男爵と国境を超える。

 国境を超え、ふと振り返ると、何やらレスター国の様子が変である。なんというか空気感が変わったような気がする。でも気にもしない。もう王家からの借財のほとんどは回収できて、王都の公爵邸の使用人、家令と合流できたのだから。領地の公爵邸のみんなは、すでに国境を越えている。

 シルヴィアは思う。昨日の卒業パーティで、冤罪ではあるが婚約破棄してもらって、清々しているのである。

 リリアーヌ嬢のことは、許せないけど、婚約破棄の原因を作ってくれたのだから、それにお父上であるドイル男爵様が男爵邸で住まわせてくださるのなら、こしたことはないと思う。確かに父が言うように、レスター王城を他国で出したら、戦争になりかねない。公爵家だけで相手になれるようなものではないから。王都の公爵邸も持ってきたらよかったと後悔する。

 なんとなく、ぼんやり考えていたら転移魔法が使えそうだったので、ちょっと実験してみることにする。ただ、アイテムボックスの中に入るかどうかがわからない。もしも、入らなかったらそのまま手ぶらで帰ることにしよう。

 父とドイル様に提案してみたら、みんなで行くことになったのであるが、ドイル様が仰るには木のムロにでも出入り口を作ったほうが、すんなりといくらしい。

 隣国の森に入って、どこかにいい木がないか、探す。家令が適当な木を見つけてくれたので、魔法で出入り口の扉を設置する。

 シルヴィアは、一人でも行くつもりであったが、ドイル様が護衛についてくださることになり、もしもみんなで行けたら、みんなも呼ぶということで、木の扉を開けて、王都の公爵邸をイメージしながら転移魔法を使うと行けたみたいだった。

 懐かしい公爵邸といっても、1日ぶりなのだ。中に誰も残っていないことを確認して、アイテムボックスにしまう。アイテムボックスには、無事、入ったみたいで良かった。そして、庭の大木のところへ行き、そこに出入り口を作る事にしたのだ。

 そして、待っているみんなに、「もういいよ。」と呼びかけると、ぞろぞろと出てくる。一応、点呼をして全員が出てきたことを確認すると、今度は、その扉の中で王都の学園をイメージする。あの学園施設もいただいていこう。何かに使えるかもしれない。それに、住む場所がなくなったダニエル達が住むとも限らないから。

 シルヴィアは、レスター国所有の施設を片っ端から、アイテムボックスにしまい込むことにする。代物弁済は、王城だけでは、借金の利息としても足りない。

 レスター国の土地以外の固定資産を根こそぎアイテムボックスに入れ、再び、公爵邸のあった敷地へ戻ると、なぜか、公爵邸のあった場所に男爵邸が出ていて、そこでみんなとお茶の用意をしている。

 「そろそろ帰るよ。」と声をかけると、お茶をいただいてからにしましょう。というので、そこで急遽お茶会になってしまったのである。

 領地の公爵邸も持ってきたら?と言われ、その気になるシルヴィア、急遽、領地へ飛んで、公爵邸だけをアイテムボックスに入れると再び、お茶会の場所へ。

 和やかにお茶をしていると、何やら表が騒がしい。父とドイル様が見に行くと、王家の方々が住む家が消えたといって騒いでいるらしい。

 「てめえらの屋敷でもないくせに、自分の屋敷を自分が使って、何が悪い!野宿でもなんでも、勝手にしろ!」と怒りながら、ドイル様が戻ってこられました。

 ちょっと面倒なことになる前に、そろそろ隣国へ戻ることになったのである。男爵邸を再びドイル様が仕舞われる。

 庭の大木から、再び隣国の森に戻る。
 全員いるかどうか、点呼して、確認が取れたので、再び隣国の王都目指して出発です。

 ほどなく進むと、立派な高い塀が見えてきた。多分、ここが隣国ホワイトブルゾン国の王都であろう。

 ドイル様は、冒険者なので、すんなり入れるが、レスター国の公爵一家が何ようだ?とばかりに尋問を受けることになったのである。

 仕方なく、シルヴィアが前に出て、レスター国の王太子ダニエル殿下との婚約がなくなったことを告げ、しばらくこの街で滞在できないかを聞くことになったのである。父公爵が表に立つよりも、若く美しい娘が表に立った方が相手も穏やかに対応してくれるから、とドイル様が仰ってくださったから、その指示に従ったのである。

 なぜかホワイトブルゾン国では、王都に入る際に水晶玉判定があるそうで、若い女性の入国を厳しく制限しているそうです。

 なぜ?と思ったけど、男を騙す不埒な女が増えてきているそうで、形式的なものだからと言われ、判定を受けることになる。

 公爵邸の使用人で若い女性だけが、皆、全員水晶玉判定を受ける。
 シルヴィアの番が来て、水晶玉に手をかざすと、とたんキラキラと輝きだしたかと思うと、ピッカーンと金色に輝き続けたのである。

 「聖女様だ!」

 「やっぱりシルヴィア嬢は、聖女様だったんだ。」とドイル様が言うから、その場にいた全員が跪く。

 シルヴィア・エヴァンスが聖女であるとの知らせは、ホワイトブルゾン国のみならず、世界各国を駆け巡る。当然、レスター国にも知らせが届き、国王陛下とダニエル殿下は地団太踏んで悔しがる。

 ダニエルがリリアーヌに騙されなければ、今頃は、結婚式が済み、甘い新婚生活をしていたというのに。今や寝る場所にも、着るものにも、食べるものにも困窮しているから、余計、悔しい。

 リリアーヌに当たるも、

 「何よ、一晩泊めてあげたじゃない!一宿一飯の恩義も忘れたの!」

 ののしり合いは続く。
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