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現世:カフェレストラン

28.ナンパ

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 その日も朝早く起き、店のシャッターを開けていると、明らかに不審な一団が聞き込みをしている様子にビックリしている。すると、その中の一人がアイリーンに近づいてきて

「おい、女。数日前にこのあたりで不審な若い男を見かけなかったか?」

 あ!これ、シンイーのことなんだろうな。と思ったけど、咄嗟に首を横に振り、知らない素振りをしてみせる。

 その男は、不審ではあっても、盗賊には見えない。だから、違うのかも?とも思ったが、ここは下手に関わらない方がいいと判断する。

「もし、よければ店の中を見せてもらってもいいか?」

「お断りします。ウチは飲食店ですからクリンリネスには気を遣っておりますので、外からどんなものを持ち込まりになれるかわかりません」

「ああ。そうであったな。すまない」

 その男の名前は、オスカル・イソフラボンと言い、普段はアムステルダムの近衛騎士で斥候をしている。いつもなら、こんなこと絶対に聞かないのだが、不思議とその女の瞳が澄んでいて、引き込まれるような感覚に思わず、もっと喋っていたいという欲が出てしまったのである。

「もし、何か不審な音や気配、人物を見かけたら、ぜひ知らせてほしい」

 男が泊っている宿屋の名前と住所が走り書きされている物を渡される。聞き込みと称しているが、早い話がナンパ。もし気に入れば、一夜限りのデートのお誘いというところ。まさか、飯屋の女将が、元王子の婚約者だった令嬢と気づかないから、できるようなもので、もし知っていて、婚約者だった令嬢をナンパしたとあっては、この国を敵に回すことになりかねない。

 アイリーンは、その紙をエプロンのポケットの中にしまい込み、箒で玄関先を掃く。

 開店の2時間前になると、デイジーたちが起きてきて、かまどの火を入れる。店内の床を掃除し、新しいテーブルクロスをかける。

 そして開店1時間前になるとサファイアたち、馬も起き始める。

 今日の賄い朝ご飯は、チーズトーストとサラダとスープだ。フライパンに溶き卵2個ととろけるチーズを入れ、適当に焼き、それを焼いたパンにはさむだけの簡単なサンドイッチと。もう一つは、牛ミンチをこれまた溶き卵で固め、それも6枚切りのトーストしたパンにはさみ、それぞれを斜めにカットすると2種類のサンドイッチが楽しめる。お好みでケチャップやマヨネーズを付けて、食べることをオススメします。

 前世でよく作った休日用の朝ごはん、ランチにも代用できるので、便利だった記憶がある。

 ジャー機能が付いた水筒にコーヒーを入れ、外で彼氏や友人と食べるときのお弁当としても活躍する。

 今日から新メンバーが加わったので、いつもの和食の朝ごはんをやめて、洋風の朝ごはんにしてみた。

 新メンバーは、もちろんジェニファーのことで、あれからエストロゲン家に戻り、きちんと暇乞いをしてからウチの店に来てくれたのだ。

 お母様や妹のスザンヌから、ひどい暴言を吐かれたみたいだけど、もう気分はスッキリ、辞められるということが決まったからで、金目のものは、エストロゲン家に置いてきて、小さなカバンに着替えだけを持って、屋敷を出たのだ。

 それで昨日から社宅のエレモアの隣の部屋に引っ越してきてもらって、今日から新メンバーとして心機一転……とりあえず会計係りでもしてもらいましょうか?それとも、ダミーの女将もいいかもしれない。

 今朝みたいにナンパがある時などは、ジェニファーが玄関に出てくれているだけで、迫力があり、若い男がナンパ目的で近づかないだろうと、いわば虫よけ対策として。

 そんな仕事でも、エストロゲン家にいるよりは、マシと言って、ジェニファーは喜んでダミーの女将役を引き受けてくれることになったのだ。
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