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9.廊下にて

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 アラミス様のことがあってから、本当にクリストファー王太子殿下が、アインシュタイン家までの送迎を始めてくださるようになり、ミッシェルもアインシュタイン家も困惑している。

 「ミッシェル。殿下はどうして、ミッシェルの送迎をしてくださるようになったのだ?」

 「さあ、わたくしにもわかりかねます。」

 殿下の慰み者になったからですわ。何てこと、とても言えない。

 「うーん。解せないが、殿下に破アイリス様という立派な婚約者がいらっしゃるからな。心配することもなかろう。」

 そのうちマクシミリアン様までもが、殿下に張り合うように送迎の馬車を出されるようになってからは、アインシュタイン家始まって以来の大騒動になる。

 「マクシミリアン殿は、いまだ婚約者がおられぬ方だから、これは、ひょっとすれば、ひょっとすることになるぞ?」

 父は、ミッシェルがとてつもない家の嫡男から思いを寄せられていると勘違いして、玉の輿だ!と騒いでいるのだ。

 マクシミリアン様も、単なる性欲処理係として、ミッシェルを選ばれているのに過ぎないということを、言っていないからだろうけど、父は知らない。

 今朝は、マクシミリアン様の馬車が早く着いたので、マクシミリアン様の馬車で行くことになったのだ。

 アラミス様の馬車なんて、死んでも乗りたくないけど、マクシミリアン様は、気配りの方なので、いろいろ配慮してくださり、嬉しい。

 乗り降りは必ず、先に扉を開けて、マクシミリアン様がエスコートしてくださる。馬車の中では、対面ではなく、真横に座って、ミッシェルが退屈しないように、いつも楽しいお話をしてくださる。

 学園に着くと、ミッシェルの教室の席まで、手をつないで、連れて行ってくださる。教室に入った途端、女子生徒から黄色い悲鳴が飛んでくるが、ミッシェルの手の甲にキスを落とされ、スマートに自分の教室へと戻っていかれるのだ。

 クラスメイトからは、いつも質問攻めにあうが、返事に窮する。

 この世界には、ない言葉「セフレ」というのが、一番しっくりする関係だもの。

 クリストファー殿下もマクシミリアン様も、コトの前後には愛の言葉を囁いてくださるが、それだけ。だから、セフレでもないのかもしれない。

 でも、馬車の送迎は、どうしても合点がいかない。なぜ?といまだに思ってしまう。

 殿下は、馬車に乗るなり、ミッシェルの肩に頭を預けられるが、マクシミリアン様は、そのようなこと一度もされない。

 性格の違いだけなのかしらね?

 そうこうしている間に午前の授業が終わり、お昼休みになった。お昼休みになると、誰かが迎えに来る。今日は、朝の馬車がマクシミリアン様だったから、たぶん、マクシミリアン様が来られるはず。

 ミッシェルは自分の席で待っていると、案の定、黄色い悲鳴が聞こえて、マクシミリアン様が迎えに来てくださったようだ。

 スックと席を立つと、マクシミリアン様は、朝と同じようにミッシェルの手の高2キスを落とされ、手を差し伸べられ、繋いで教室を出ていく。そして、廊下で王太子殿下とその側近に挟まれ、囲まれながら、食堂に行くのだが、何やら、後方で騒がしい。振り向くと、男爵令嬢のリリアーヌ様が大急ぎで廊下を走っていらっしゃるご様子が見える。

 一応、廊下の端により、リリアーヌ様が通り過ぎられるのを待っていると、目の前ですってんころりんと大げさに転倒し、

 「ひどいですわ。ミッシェル様が私をこかそうと、わざと足を差し出してこられましたわ。」

 「無礼な!勝手に転んだのは、その方ではないか?」

 そう。リリアーヌ様が走ってこられるのが見えた時、とっさに騎士団長の息子のカール・ブルゴーニョ様が先頭に立ち、魔法師団長の息子アルブレヒト・カルデラ様が念のため防御魔法を展開してくださっている。

 ミッシェルは、クリストファー殿下とマクシミリアン様の間に挟まれて、身動き一つできなかったのだ。
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