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姫乃はそれから毎日、会社帰りの3時間宅建試験の勉強に没頭した。10月に試験があるので、それまで少なくとも300時間、勉強すれば通る試験だと言われている。
勤務先に就労証明書を発行してもらい五問免除の講習にも出かけ、合格した。
五問免除というのは、文字通り五問目が免除になるという試験で、これで合格率が5パーセントアップする。不動産会社に勤めていれば、誰でもその講習を受けることができるというもので、それもYACで教えてもらい、講習を受けた。
五問免除のために会社に就労証明を要求したら、宅建試験を受験することがバレたけど、それだけやる気がある社員ということで、ボーナスの査定に影響され、少しばかり査定が上がった。
これも幸せアプリのおかげかもしれない。
とにかく、あのアプリは知らない間に勝手に入っていたものだけど、評価を見ようとAPPやグーグルペイを探しても出てこない不可思議なアプリ。
アプリのおかげで知らず知らずのうちに、いい方向になってきていると実感している。
本の百均から帰って、資格案内のアプリを開こうとしたら、いつの間にか、そのアプリが消えていたことも偶然とは思えない。
必要なアプリが自動的に先回りして入っているような感覚で、必要が無くなれば消えてなくなっている。その後も何度か似たようなアプリが、現れては消えを繰り返しているうちに気づいた。
YACの日曜講座に通うようになったけど、YACでも、お友達ができ、YACの近くで美味しいレストランを探していたら、急にグルメアプリが出現して、行くところが決まれば、そのグルメアプリもいつの間にか消えていた。
まるで意志を持って出現するかのようなアプリに最初こそ戸惑っていたものの、そのうち慣れてきて次はどんなアプリが入っているのか楽しみにさえ思うようになってきた。慣れとは恐ろしい。
宅建試験も無事終わり、師走の風が吹きすさぶ頃、合格通知書が届いた。
世間はクリスマスイルミで華やかだけど、今年は相手がいない。でも、合格できたので、胸を張って、祝賀パーティに行くことにする。
パーティ会場は都内のプリンスホテル。YACの卒業生だけでなく業界関係者も多数出席される。姫乃も知らなかっただけで、ウチの会社からも何人か出席していた。
合格者には、胸にリボンで作られた赤い花を着けさせられるので、よく目立つ。特に男性は黒いスーツ姿が多いので、胸の赤い花はひと際誇らしく見える。
「やあ!芦崎さん、合格おめでとうございます」
声をかけてきたのは、余頃社長とその息子の余頃専務。
「たくさん人がいらっしゃって、驚いています」
軽く挨拶をして、そそくさとその場を離れる。あまり堅苦しいことは苦手で、合格者の中に余頃不動産の社員は姫乃一人だけなので、これを機会に人寄せパンダの扱いをされるのは、まっぴらごめんなのだ。
ウエイターから飲み物を受け取り、カナッペを口に放り込んでいると、後ろから声を掛けられた。
「あっ!あの時の……」
その人は、本の百均で、レジカゴの中から適当に参考書を選んでくれた人だった。どこか有名な不動産会社の人みたいで、その人の周りに人だかりができていた。
まあ、見た目は確かにイケメンだわ。背も高いし、スラリと洗練された身のこなしも一朝一夕で身につくものではないことをよく知っている。
その男性が声をかけた途端、周りにいた令嬢?らしき女性から鋭い視線を浴びせられ、うんざりしてしまう。
「その節はお世話になりました」
他の女たちに聞こえるように、わざと1オクターブ高めの声でご挨拶をする。
「合格されたのですね。おめでとうございます!」
「ええ。あの時、参考書を選んでくださったおかげです」
「いやいや、私は何も……、それより少し時間を頂けませんか?」
「ええ……」
なに?何?どういう意味?取り巻き女の視線がコワイんですけど……。
勤務先に就労証明書を発行してもらい五問免除の講習にも出かけ、合格した。
五問免除というのは、文字通り五問目が免除になるという試験で、これで合格率が5パーセントアップする。不動産会社に勤めていれば、誰でもその講習を受けることができるというもので、それもYACで教えてもらい、講習を受けた。
五問免除のために会社に就労証明を要求したら、宅建試験を受験することがバレたけど、それだけやる気がある社員ということで、ボーナスの査定に影響され、少しばかり査定が上がった。
これも幸せアプリのおかげかもしれない。
とにかく、あのアプリは知らない間に勝手に入っていたものだけど、評価を見ようとAPPやグーグルペイを探しても出てこない不可思議なアプリ。
アプリのおかげで知らず知らずのうちに、いい方向になってきていると実感している。
本の百均から帰って、資格案内のアプリを開こうとしたら、いつの間にか、そのアプリが消えていたことも偶然とは思えない。
必要なアプリが自動的に先回りして入っているような感覚で、必要が無くなれば消えてなくなっている。その後も何度か似たようなアプリが、現れては消えを繰り返しているうちに気づいた。
YACの日曜講座に通うようになったけど、YACでも、お友達ができ、YACの近くで美味しいレストランを探していたら、急にグルメアプリが出現して、行くところが決まれば、そのグルメアプリもいつの間にか消えていた。
まるで意志を持って出現するかのようなアプリに最初こそ戸惑っていたものの、そのうち慣れてきて次はどんなアプリが入っているのか楽しみにさえ思うようになってきた。慣れとは恐ろしい。
宅建試験も無事終わり、師走の風が吹きすさぶ頃、合格通知書が届いた。
世間はクリスマスイルミで華やかだけど、今年は相手がいない。でも、合格できたので、胸を張って、祝賀パーティに行くことにする。
パーティ会場は都内のプリンスホテル。YACの卒業生だけでなく業界関係者も多数出席される。姫乃も知らなかっただけで、ウチの会社からも何人か出席していた。
合格者には、胸にリボンで作られた赤い花を着けさせられるので、よく目立つ。特に男性は黒いスーツ姿が多いので、胸の赤い花はひと際誇らしく見える。
「やあ!芦崎さん、合格おめでとうございます」
声をかけてきたのは、余頃社長とその息子の余頃専務。
「たくさん人がいらっしゃって、驚いています」
軽く挨拶をして、そそくさとその場を離れる。あまり堅苦しいことは苦手で、合格者の中に余頃不動産の社員は姫乃一人だけなので、これを機会に人寄せパンダの扱いをされるのは、まっぴらごめんなのだ。
ウエイターから飲み物を受け取り、カナッペを口に放り込んでいると、後ろから声を掛けられた。
「あっ!あの時の……」
その人は、本の百均で、レジカゴの中から適当に参考書を選んでくれた人だった。どこか有名な不動産会社の人みたいで、その人の周りに人だかりができていた。
まあ、見た目は確かにイケメンだわ。背も高いし、スラリと洗練された身のこなしも一朝一夕で身につくものではないことをよく知っている。
その男性が声をかけた途端、周りにいた令嬢?らしき女性から鋭い視線を浴びせられ、うんざりしてしまう。
「その節はお世話になりました」
他の女たちに聞こえるように、わざと1オクターブ高めの声でご挨拶をする。
「合格されたのですね。おめでとうございます!」
「ええ。あの時、参考書を選んでくださったおかげです」
「いやいや、私は何も……、それより少し時間を頂けませんか?」
「ええ……」
なに?何?どういう意味?取り巻き女の視線がコワイんですけど……。
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