幸せアプリ

青の雀

文字の大きさ
5 / 9

5.

しおりを挟む
 イケメン青年と姫乃は名刺交換をして、初めて相手の正体が分かった。

 相手のイケメンは、大手不動産会社の御曹司か!?うーん。ご親戚の方?萬年不動産の萬年良平専務取締役だったのだ。

「ほお!余頃さんとこの芦崎さんというのは君のことだったのか?お噂はかねがね聞いているよ」

 へ?どんな噂?俯きかけた姫乃に

「ウチの会社に来ませんか?お給料は余頃さんとこの5割増しでどうだろう?若いやる気のある社員を募集しているところだったんだ」

 ああ。引き抜き話か。余頃に入社してから、その若さと美貌を武器に、とりあえずは会ってはもらえることをいいことにして、順調に営業成績を伸ばしてきた実績がある。

 これまでも何度か中小の不動産会社からお声をかけてもらったことはあるものの萬年さんのような大手とは初めてのこと。

 今は若年者人口が大幅に減っているので、若い社員はどこの会社でも引っ張りだこになっている。

 でも、この会場に余頃社長と専務が来ている以上、すぐここで「はい」とは返事できない。それが態度に出ていたのか?萬年さんは、すぐ破顔して

「返事はいつでもいいよ。それより本の百均には、よく行くの?あの店で芦崎さんのような若い女性客を見るのが初めてだったので、よく覚えているよ」

「そういえば、確かに女性客は少ないですね。私も私以外の女性客を見たことがありません」

「だろ?しかも宅建コーナーを見ている女性なんて皆無だったからさ。思わずおせっかいをしてしまった」

「いいえ。そのおかげで、こうして合格することができたのですもの。萬年さんのおかげです。ありがとうございました」

 会釈して、その場を離れようとしたら、腕を掴まれる。ビックリして振りほどこうにも解けない。

「ごめん。もう少し、一緒にいてもらえるとありがたいのだが……」

「いいのですか?あんな綺麗な人たちをほったらかしにして」

「綺麗、どこが?あいつらのは造られた美でしかない。あんなものを綺麗とは言わないよ。それにあいつらは俺の金と肩書にしか興味がない」

「はあ……、そうですか。大手さんも大変ですね」

 たぶん整形か過度な化粧のことを言っているのだろうけど、造られた美ね……。女性の努力の結晶とは思わないのか?

 だいたい萬年の専務と一緒にいるところを余頃社長や専務に見られたくないのよ。査定に響くじゃない!引き抜きの話はありがたいと言えば、ありがたいけど、5割増しというのが魅力的よね。どうせなら倍にしてくれたら、即決するのに。

 パーティでは、結局、YACの先生にもまともに挨拶もできないまま萬年さんにお持ち帰りされることになってしまった。

 立食パーティだったけど、ほとんど何も食べないうちに萬年さんに摑まってしまったから、お腹が空いてしまって、会場がお開きとなった時に、萬年さんに誘われた。ラーメンを食べに行くつもりで出たら、プリンスの豪華ディナーだったので驚いてしまった。そこでしこたま飲まされ、気が付いたらシャワーを一緒に浴びる仲になっていたというわけ。

 きっと軽い女だと思われただろうけど、誘ったのは萬年さんなんですからねっ!

 朝になって、朝食をルームサービスで摂っているときに萬年さんは真顔で

「昨日、言った引き抜きの話、やめにするわ」

 やっぱりね。尻軽女は社員にできないってことよね。

「わかりました。もう会わないと約束します」

 すると、急に慌てだした萬年さん

「違う!そういう意味ではない!会社の女性と関係を持たないという意味なんだ。理解してほしい。姫乃とは、ずっと付き合っていきたいと思っている。その……カラダの相性もバッチリだったし、できれば結婚を前提に付き合ってほしいと思っている」

 え!?ワンナイトラブではなかったの?

「恋人になるってこと?」

「うん。そうだな、できれば婚約したい」

 急な展開に頭が追い付かない。

「昨日の女性から逃げるため?」

「それもあるけど、それだけではない。最初から、本の百均で出会ったときから姫乃のことが好きだった。あれからしょっちゅう本の百均へ行ってみたけど、逢えなかった。昨日のパーティで、もしかしたら会えるのではないかと行ってみて、そこで会えたからこれはもう運命だって思ったんだ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

みんながまるくおさまった

しゃーりん
恋愛
カレンは侯爵家の次女でもうすぐ婚約が結ばれるはずだった。 婚約者となるネイドを姉ナタリーに会わせなければ。 姉は侯爵家の跡継ぎで婚約者のアーサーもいる。 それなのに、姉はネイドに一目惚れをしてしまった。そしてネイドも。 もう好きにして。投げやりな気持ちで父が正しい判断をしてくれるのを期待した。 カレン、ナタリー、アーサー、ネイドがみんな満足する結果となったお話です。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

処理中です...